ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第二話 違えた約束

トウコ先輩とヒュウを連れ立って歩くこと数分。

今、オレは驚愕の事実に気付いてしまった。

 

「そう言えば、何処で図鑑貰えるのか聞いてないや」

 

そう言って後ろを歩く二人に振り返ると、呆れたような視線を投げ掛けられた。

 

「キョウヘイ…」

「おまえ…今何処に向かってるんだよ」

 

溜息を吐く二人。実際、呆れられていた。

 

「ったく。しょうがねぇな」

 

呟きつつライブキャスターをポケットから取り出し、何処かへ連絡するヒュウ。

 

「もしもしヒュウです、はようございます。図鑑持ってきてくれる人と何処で待ち合わせるかって聞いてます?」

 

どうやら母さんに連絡している様子だ。

 

「はい…はい、いやいや。ありがとうございました」

 

人が電話やキャス掛けてる間って何となく気まずいよね。

あと目の前にに本人が居ないと、すんなりお礼言えるんだな。

なんて考えている内に話が終わったようで、ライブキャスターをしまう。

 

「展望公園で待ち合わせだってよ。どうやらお袋さんが伝え忘れちまってたみたいだが」

 

普通聞くよな?そんな風に視線を投げ掛けてくる。面目次第もない。

 

 

 

そんなこんなで展望公園の階段へと辿り着いたが。

何故かトウコ先輩が立ち止まり、ここで待ってるから先行って頂戴。と言ってきたので、ヒュウと一緒に高台へ続く長い階段を登って行く。

先輩は何の為について来たのだろうか。

 

 

頂上に辿り着くと、柵に手を置いて景色を見つめる大きな緑の帽子を被った女性を見付けた。

 

「あの、アララギ研究所のベルさんですか?」

 

ヒュウに視線で催促され、早速話掛けてみる。

すると女性が振り返り、掛けていた眼鏡の位置を直すと微笑んだ。

 

「あなたがキョウヘイくん?聞いてた通りだよ!」

 

一体オレの風貌はどんな風に伝えられて居たのか気になるが、そこはスルーしよう。

 

「…パイナップルだろ」

 

ぼそりと呟くヒュウ。このツンツン頭の事なら放っておいてくれ、切ってもドリアンになるだけなんだから。

というか、人の事を言える髪型じゃないだろヒュウも。

あと、人の考えを読まないでよ幼馴染。

 

「はじめまして、キョウヘイです。カノコタウンからわざわざお越し頂き、ありがとうございます」

 

「いいのいいの、私もこの周辺の野生のポケモンの調査に来たかったから!

 私はベル。アララギ研究所で助手をしています」

 

自己紹介をしつつニコニコと微笑み、右手を差し出してくるベルさんと握手を交わす。

そこで後ろのヒュウに気付いた様である。

 

「あなたがお友達の子かな?きみも聞いてた通りだ!」

 

微妙な顔をするヒュウに、ハリーセン頭だろ。と言ってやると睨み付けてきた。

 

オレも負けじと睨み返す。お互い様だ。

 

そんな様子を見てもベルさんは、二人はとっても仲良しさんなんだね!と微笑みを崩さない。

随分とほんわかした人の様だ。

 

そしてコホンと、年上らしい女性に感じるのは失礼にあたるかもしれないが、可愛らしい咳払いをすると図鑑を取り出し、オレとヒュウに手渡し説明を始めるベルさん。

 

「えっと、ポケモン図鑑はね。あなたたちが出会ったポケモンを記録してくれる…」

 

実際にポケモン図鑑を操作しながら説明に耳を傾けていると、バサバサと鳥が羽ばたくような音が聞こえてきた。

 

気になって視線を上げ、意識を向けると。どうやら柵の下から聴こえてくるらしく、ポケモンか何かが下から上がって来ている様だ。

 

何が飛んで来ているのか気にならないではないが、兎に角今は説明に集中しよう。と、視線を戻そうとした瞬間に、目に入ってしまった。

 

ゆっくりと崖の下から上昇してくるメスのケンホロウ。そして、今朝と同様にその脚に掴まれたトウコ先輩。

 

ベルさんは真剣に説明を続けてくれており、羽音が耳にはいっていないようだ。

 

「は?」

 

呆気に取られたように呟くヒュウ。どうやらヒュウも気付いてしまった様子だ。

 

するとベルさんが。

 

「あれ?今の説明で分からないところがあったかな?」

 

なんて、申し訳なさそうに眉を困らせて聞いてくるもんだからいたたまれない。

 

それに対してヒュウは。いや、えっと。としどろもどろになっている。

 

それはそうだ。あなたの背後でオレたちの師匠が奇行を繰り広げているんです。なんて口が裂けても言えない。

 

トウコ先輩本人の目の前だから、というのもあるが。言っても怪訝な顔をされるだけだろう。

 

その間にトウコ先輩は柵の上に足を掛け、音もなく展望台へと降り立った。

 

トウコ先輩に視線で疑問を投げ掛けてみるも、口に人差し指を立て、静かに。というジェスチャーが返ってくるもんだから、もう訳が分からない。

 

そして忍び足でベルさんの背後に近付くと。

 

「だ~れだ?」

 

「ひゃああ~!!」

 

掴んだ、顔ではなく胸を。鷲掴みである。

こういう時は目を隠すもんじゃないのだろうか。

 

「えっ?えっ?その声はトウコちゃん!?なんで此所に居るの!?」

 

ベルさん大混乱である。

 

「久しぶりに会ったと思ったら、ベル…あんたまた大きくなったんじゃないの?」

 

「そんなことないよー!ひゃん!」

 

このやろーと揉み続ける先輩、否定しつつ身を捩るベルさん。手を動かすとその通りに形を変える胸。

 

見ているのは失礼だろうが、トウコさんを止める術はオレにはない。

 

苦肉の策で首を捻って、せめて視界に入れないようにしようと左を向くと。

真っ赤な顔で凝視するヒュウが視界に入った、入ってしまった。

そしてオレの白けた視線に気付いたのか、目が合うと慌てて左側に顔を向ける。

 

お前、ムッツリだったんだな…彼女なんていらねーよ、俺はポケモンバトル一筋だ!と宣言していたヒュウくんもやっぱり男の子ですね。

 

かく言うオレも興味が無いわけではないが、知り合いと知り合ったばかりの人の恥態を見たいなどとは思っておらず。

 

時折耳に入ってくる艶っぽい声からも逃れる為に手で耳を塞ぎ、上を向いて空を見詰めた。

 

今朝オレは確かに思っていた。図鑑を受け取るだけで迷惑など掛けようが無い、と。

 

しかし蓋を開けてみればどうだろう、これが迷惑以外の何であろうかと言うのだ。

 

オレが直接被害を与えた訳ではないが、ベルさんの名を口に滑らせたのはオレで。

と言うことは原因はオレ自身という事だと言えなくはない。

 

ごめんなさいベルさん。そして母さん…オレ、約束守れなかったよ。

 

見上げる空は何処までも青く、トウコ先輩のケンホロウだけが優雅に、円を画くように大空を舞っていた。

 

 

 

 

 

 

意外な事に、現実逃避する事十秒足らずで事態は終息した。

 

ベルさんの腰のモンスターボールから飛び出たジャローダがトウコ先輩に巻き付き、動きを止めたのである。

 

「おー、ジャローダ久しぶり」

 

トウコ先輩は悪びれた様子もなくその体をを撫でると、ジャローダは気持ち良さそうに目を細めて体を弛め、意外な程あっさりと拘束を解いた。

初めからじゃれつく目的で出て来たのではないか。と思わないでも無かったが、真相はジャローダのみぞ知る。

 

どちらにしても救世主であることに変わりはないのだ。

 

トウコ先輩の魔の手から逃れたベルさんは、乱れた服と呼吸を調え、先輩に顔を向け。

 

「もう、トウコちゃん!いきなり何するの!?」

 

「いやーごめんごめん。久しぶりに会ったからテンション上がっちゃってさー」

 

怒った…ようであるがまるで迫力がない。

 

トウコ先輩もケラケラと笑って相変わらず反省の色が見えない。

 

それを見て頬を膨らませたベルさんは両手でぽかぽかとトウコ先輩を叩くが、先輩は笑いながらそれを受け入れている。

…どうやら効果がないようだ。

 

暫くそんな様子を見ていると、突如ベルさんが何かに気付いた様に硬直する。

 

「ご、ごめんなさい説明の途中で…お友達に邪魔されちゃって」

 

邪魔とは侵害な。などと憤慨するトウコ先輩。いや、あなたは確実に妨害行為を行っていたでしょうに。

 

「いえ、こちらこそ止められなくてすみません」

 

謝罪を返すと、ベルさんは顔の前で両手を振り。気にしないで、こっちが悪いんだから。と言ってくれる。

 

赤面しているのは、先程の状況を今さら理解してしまったからだろうか。

 

何にせよ、気を取り直したように可愛らしい咳払いをすると、図鑑の説明を再開してくれた。

 

…ヒュウはいつまで顔を赤らめているのさ。

 

 

 

 

「へぇ!キョウヘイくんとヒュウくんはトウコちゃんの生徒さんだったんだね!」

 

「生徒じゃなくて弟子だってば、弟子!」

 

図鑑の説明が終わり。公園のベンチに座ってオレたちとトウコ先輩の関係を伝えると、ベルさんは最初に会った時のようなニコニコ笑顔に戻っていた。

先程の事は既に気にしていない様子。実に寛容な人である。

 

「えー、だってポケモンバトルを教えたげてるんでしょ?どう違うの?」

 

「気構えというか心構えというか…何かしらが違うの!」

 

ポケモンバトルを指導してくれている時の先輩の説明は的確で分かり易いが、それ以外の説明に関しては感覚的過ぎてわかりにくい。

 

トウコ先輩は、教員資格を取得するまでは先生を自称しないし、呼ばせるつもりも無いらしい。

 

直接聴いた事は無いが何となく察せられる。

他の人にどう言われようと、トウコ先輩にとっては譲れない一線なのだろう。例えそれが親しい友人であっても。

 

「全然わかんないよ」

 

「ベルには難しいかもね」

 

「えー、なにそれ!」

 

ベルさんと話しているトウコ先輩は、オレたちと話している時以上に砕けた物言いだ。

 

「それではオレたちはそろそろ出ますね。ヒュウ、行こう」

 

「おう」

 

久しぶりに会った友人同士積もる話もあるだろうし。何より図鑑を貰って旅に出たい衝動が強くなったオレはヒュウを連れてベンチから立ち上がる。

 

「ベルさん、図鑑の説明。ありがとうございました」

 

「いえいえ。気を付けて行ってきてね!」

 

「お土産よろしくー」

 

最後にもう一度ヒュウと共に頭を下げて階段へと向かう。

 

そして階段まで辿り着くと振り向き。

 

「先生、行ってきます!」

 

大声で伝えると、小言を貰わない内に階段を駆け降りる。

 

トウコ先輩がどう考えているのかは知らないが、先輩はオレにとっては最高の先生である事は間違いないのだ。

 

後ろからトウコ先輩の声が聞こえてきた気がしたが。振り返らずにヒュウと共に階段を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったね。なんだか、あの日の1番道路を思い出しちゃったな」

 

「あのバカ弟子め…帰ってきたら覚えておきなさい」

 

キョウヘイとヒュウが去って行った階段を見詰める二人。

 

トウコは溜息混じりに悪態を吐いてはいるが、その頬は少し弛んでおり。幼馴染のベルからすると嬉しさを隠しきれていない。

 

「ふふふ、やっぱり二人はトウコちゃんの生徒さんだよ」

 

笑顔でそう言うベルをトウコは睨み付けて。

 

「ベル…アタシを弄ろうなんて良い度胸じゃない?」

 

「えぇ!別にそんなつもりじゃ…あれ?その手は何?ちょっとやめてやめて…」

 

その後、再び惨劇が繰り返されたが。見兼ねたトウコのエンブオーが主人を引き離すまで続いたらしい。

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