ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第二十二話 圧倒

「クロバット戦闘不能!」

 

ルカリオとクロバットの戦いは、ルカリオの勝ちで幕を閉じた。

 

「ヒオウギシティのキョウヘイの勝ち!…終わりだフミカ!ボール取り出してんじゃねぇ!!」

 

クックさんが終了の宣言を告げ。クロバットをモンスターボールに戻しつつ、次のポケモンを繰り出そうとボールを取り出したホミカさんを窘める。

 

「わかってるよ」

 

小さく舌打ちしつつも、渋々と言った様子でそれを受け入れモンスターボールを仕舞うホミカさん。

オレとしては続けて貰っても一向に構わないのだが、次の挑戦者が居ると言っていたし無理だろう。

 

ペンドラーに勝った時には消化不良を起こしたような顔をしていたルカリオも、マタドガスとクロバットを連続で相手取って、さぞ満足したらしく。晴れ晴れとした顔をして此方に戻ってきた。

 

「名演技だったよ、ルカリオ」

 

「くわん」

 

「当然だ」とでも言いた気なルカリオと拳をぶつけ合い、モンスターボールへと戻し。ホミカさんと対戦後の礼を交わし合う。

 

オレが頭を上げると、後ろから拍手の音が聞こえて来た。

 

 

 

「いやぁ、お互い勝つっていう気迫の見えたいいバトルだった。なぁ?」

 

「…そうですね」

 

 

後ろを振り返ると、黒いレンズのサングラスを掛けた上機嫌な長身の男性と。相槌を打ちつつも口を尖らせて不機嫌そうな様子を見せる、同年代であろう少女が佇んでいた。

どちらか、はたまた両者共に次の挑戦者だろうか。男性はホミカさんのバンド仲間だと言われても違和感ないが。

 

「待たせて悪いね、今準備するから待ってて」

 

ホミカさんは後ろの二人にそう言って詫びるが、実際に動いてバトルコートの整備を始めたのはクックさんである。

ベトベトンをボールから繰り出し、自身もローラーを引き摺ってポケモンたちが踏み荒らしたコートを均している。

 

オレも手伝おうかと声を掛けたが、やんわりと断られてしまい。次の挑戦者とホミカさんの試合を見学しようと観客席に向かうが。

 

 

「よぉ少年。きみとルカリオ、中々強いな」

 

 

サングラスの男性に声を掛けられ、足を止める。

 

「…ありがとうございます」

 

突然声を掛けられものだから、一瞬身構えてしまったが。賞賛の言葉を貰ったので、頭を軽く下げて礼を言う。

 

「先輩不審がられてますよぉ?」

 

「やかましいわ」

 

先輩と呼ばれた男性が、少女の頭を軽く叩いた。帽子を被った少女はぶーぶー文句を言っているが、男性はまるで取り合っていない。大分気安い間柄のようだ。

 

少女はサングラスの男性の事を「先輩」と呼んでいたし、オレとトウコ先輩のような関係かと考えた。

もしオレがトウコ先輩を不審者扱いしようものなら、笑顔のヘッドロックが炸裂するだろうし…こっちの方がヘヴィだな。

 

「連れのジム戦まで時間が要るようだし、ちょっと話さねぇか?」

 

男性はそう言って観客席を指差す。すると少女が。

 

「えー!?私に構ってくださいよぅ!」

 

と、すがり付くように男性の腕に己の腕を絡めるが。

 

「お前はジム戦挑ませて貰う立場なんだから、その辺で神妙に待機しておけや」

 

にべもなく追い払う。しかもデコピンのおまけ付きだ。

 

「あうっ!そんなぁ~!」

 

少女は衝撃が襲った額を押さえると、目の端に涙を浮かべて嘆くが。

 

「んじゃ見易いし、そこの席で良いか」

 

男性は見向きもせずに観客席へとオレを促す。

それを見た少女はがっくりと肩を落とし、渋々といった様子でバトルコート脇に行くと、しゃがみ込んで指で地面をなぞり始めた。「私、いじけてます」と全身で物語っている。

 

「いや、あの子放っておいていいんですか?」

 

流石に気の毒に思って男性に問うが、当の男性は気にした素振りもなく手をヒラヒラと振って。

 

「あーいいのいいの。ただのポーズだから、アレ」

 

「はぁ」

 

そんな事をいいつつ観客席にどかりと腰を降ろし、隣の椅子を叩いてオレを誘導する。

オレは思わず生返事をしつつ、男性の隣に腰を降ろした。

 

「さっきも言ったが、お前さんかなり腕が立つな」

 

笑みを浮かべながら長い脚を組みつつ、そう切り出す男性。

 

「いやぁ。あれはルカリオのお陰で場が傾いたという要素が大きいので」

 

ルカリオと並べて讃えて貰えるなら素直に受け取れるが、パートナーの即興演技に乗っかっただけのオレが単体で誉められるのはむず痒い。

 

「その状況に持っていったのはトレーナーである少年だろ?相手のミスを溢さず拾ったんだ、謙遜する事ぁねーよ」

 

ニヤリと笑ってオレを見る男性。ベルトから六つ連なったモンスターボールが覗いていた事から分かってはいたが、この男性もポケモントレーナーのようだ。しかもかなりの観察眼を持っている。

 

 

ルカリオとクロバットのバトルの中で、ホミカさんは何度か判断を誤っていた。

 

まず一つ目は。波導弾とエアスラッシュがぶつかり合った際にクロバットの注意が逸れ、ルカリオが下を取ろうと動いた際に。それの阻止ではなく、強襲を選択した事。

 

二つ目は。ルカリオの波導弾もどきを見抜けなかった事だが、あの迫真の演技を見破るのは至難の技だろう。

 

そして最大の過ちは、咄嗟に技を解除して回避を選択してしまった事。そのままアクロバットを断行していれば、再起の目はあっただろうが。おそらく1戦目でペンドラーが即撃破された事で、無意識に警戒し過ぎていたのだろう。心に根付いた暗雲はトレーナーの心を覆い、一瞬の判断力を鈍らせる。

 

 

「ジムリーダーの嬢ちゃんは臆病過ぎたな。俺らはルカリオとクロバットのバトルしか見ていないが、それ以前に何かしらやらかしたんだろ?」

 

クロバットとのバトルのみを見て、それ以前のバトルの流れまで看破して見せた男性に驚き。思わず顔を見返すと。

 

「おでれーた、ってカオだな。まぁ年季が違うからよ」

 

笑みを深くしてケラケラと笑い、腰のモンスターボールを撫でるように触れる男性。

サングラスで目元は隠れているが、少年のような笑みだ。そう漠然と感じた。

 

「そうだ。まだ開始まで時間があるみてぇだし、ちょっとやるか?」

 

そう言ってモンスターボールを一つベルトから取り外し、指で弄びながら提案する男性。

無論、ポケモンバトルの誘いだろう。

 

「いいですね」

 

オレはその提案に一も二もなく食い付いた。ポケモンバトルに於いてのこの人の観察眼は間違いなく本物。ならば、その実力も相応のものだろうと考えたからだ。

 

ジム戦も興味あるが。バトルか観戦かで言えば、バトルを取るのがポケモントレーナーってもんである。

 

オレが即答すると男性は。

 

「いいねぇ、その目。やる気満々って感じだ」

 

カラカラと笑いながら腰を上げる男性に倣って、オレも椅子から立ち上がり。揃って出入り具に向かうと。

 

「え。ちょっと先輩、何処行くんですか!?」

 

それに気付いたらしい少女が、驚いた様子で立ち上がり、慌てふためく。

 

「おー、ちょっとそこまでな。すぐ戻るわ」

 

「え、ちょっとって…」

 

男性は振り向く事なく、そう言って応えると少女は唖然とした表情を浮かべる。

 

連れ合いの先輩が自分を放って出口に向かった事で焦る後輩を置き去りにして、ライブステージのある部屋へと続く扉を開け、出て行った。

オレもそれに続いて、バトルコートのある空間から出る。

 

扉を閉めると、向こうから「せんぱいのばかー!」という叫びが聞こえてくる。なんだか悪いことをしてしまった気分だ。

 

 

「置いてきてしまって良かったんですか?」

 

受付の人にポケモン図鑑を渡し、ジム戦勝利の手続きをして貰うと。先に進んで地上への階段を上がる男性に追い付き、そう尋ねるが。

 

「まぁ、大丈夫だろ。このランクのジムで、オレが言ってやる事は何もねーだろうし」

 

随分と後輩の強さに自身があるようだ。

 

タチワキジムのランクはCランク。これは、ヒオウギジム同様バッジを所持していなくても挑めるランクだが。ジムリーダーはそんじょそこらのトレーナーとは訳が違う。

それを簡単に倒せると言うのだから、相当なものなのだろう。

 

罪悪感と少女への興味…無論ポケモンバトルの腕という意味で。に思考が逸れていると。

ジムのある路地裏から表通りに出たところにある公園に用意されたバトルコートへと辿り着いた。

 

「よっしゃ、んじゃ始めるか」

 

男性がストレッチをするように、手の間接を伸ばしながら言った。

 

「ルールはどうします?」

 

野試合では無用なトラブルを避けるために、開始前のルールの擦り合わせが鉄則である。

 

「基本的には公式準拠。オレは1体で、そっちは全部出してきて良いぞ」

 

「…分かりました」

 

なるほど、この人はオレのポケモン全員を相手取って。後輩に約束した通り、すぐに戻るつもりらしい。

ただの自信家なのか、そうじゃ無いのかはバトルすれば分かる事だ。

 

大きく出た男性は特に気負った様子もなく、それどころか鼻歌すら歌いながらトレーナーレーンへと向かう。オレも背を向けて両者がトレーナーレーンに辿り着き、互いに一礼。

 

そしてモンスターボールを構えた瞬間、前方から肌を刺すような圧迫感が押し寄せて来た。

発生源はサングラスの男性。その表情は笑顔ではあるが、放つプレッシャーが半端ではない。

そして軽く上げた右手の指先を数回曲げて、オレにポケモンを先に出すように指示してきた。

 

ポケモンの解放前のこのような行為は、実力が上であるトレーナーが格下のトレーナーにハンデを与えるために時折見掛けられる。が、主にプロトレーナーが場を盛り上げるパフォーマンスでやる程度であり、野試合でこれをやるトレーナーはそうそう居ない。

どうやら完全に下に見られている様子だが、先程も考えた通り。バトルすれば全てがハッキリする。

尚、これで相性の良いポケモンを出すと大顰蹙である

 

オレは無意識にモンスターボールを握る力が強くなるのを感じ、プレッシャーを振り払うようにボールを放った。

 

「頼んだ、フタチマル!」

 

「フタッチ!!」

 

此方が出したのはフタチマル。

 

ワンテンポ遅れて投げた男性のモンスターボールから飛び出したのは。

 

「バァク!」

 

バクフーン。興奮状態に陥ると首筋に存在する炎穴から吹き出る紅蓮の炎が特徴のポケモンだが、バトルに臨むというのにも関わらず。相対するバクフーンは未だ炎を噴出していない。

 

因みに、ジョウト地方に生息する希少なポケモンで。オレのフタチマルのように、スクールで優秀な成績を修めたトレーナーだけが手にする事ができるポケモンだ。

四足移動が基本だが、二足でも機敏に動ける器用なポケモンでもある。

 

「ハイドロポンプ!」

 

先ずは牽制の意味も込めたハイドロポンプ。

高圧で噴射される水の槍が、バクフーンを捉えんと襲い掛かるが。

 

「バク!」

 

指示もなく、しかも軽々と回避された。

 

「接近してシェルブレード!」

 

遠距離が駄目なら近距離で。安直な考えだが、今のバクフーンの流れるような回避動作を見る限り。闇雲にハイドロポンプを射たせても、射撃を得意としないフタチマルの体力と精神力が削れるだけだ。ならば得意の近接格闘に持ち込む他無い。

 

指示を受けて瞬時にホタチを抜刀し、両の手に水の刃を携えてバクフーンへと突撃するフタチマル。

対してバクフーンは、男性からの指示もなく棒立ちしている。が、炎穴からは先程までは見られなかった火の粉が吹き出ている。おそらく、フタチマルのハイドロポンプを見て闘争本能が刺激され、無意識に出ているのだろう。

 

「フタッチ!」

 

フタチマルが接触する直前で左足を踏み込み、左の太刀で斬りかかると見せ掛けて。右の太刀で喉元目掛けて突きを繰り出すが、バクフーンは右足を軸にして斜に構えて避ける。しかし、今度が死角から右の太刀よりも更に速く鋭い左の太刀が迫る。初見でこの連撃を完全に躱された事は、一度もない。

 

だが、首筋を捉える筈のその一刀は、バクフーンの体を傷付ける事なく突然停止する。

目を凝らすと、バクフーンがフタチマルの左手を自身の右手で押さえているのが確認出来た。フタチマルの太刀筋を、見もせずに止めるとは恐ろしい反応だ。普通の相手であれば、あそこまで踏み込めていれば次の手を予め分かっていても止めることは出来ない。

 

「ハイドロポンプ!」

 

フタチマルは攻撃を止められた際に、左腕を掴まれただけでなく。股下に足を入れられ、体勢を崩されている為、右手のシェルブレードさえも満足に振れない状況に陥っていた。これでは白兵戦の継続は不可能だ。

だが、ハイドロポンプであれば。あの距離ならば回避される事はないし、相手が引いてくれればそれも良しと見込んでの指示だ。

 

「フレアドライブ!」

 

しかし、フタチマルが激流を口から放出する前に。バクフーンが一瞬で炎穴より噴出した炎に包まれ、肩から体当たりしてフタチマルを吹き飛ばした。

助走もなく、重心の移動だけで大技であるフレアドライブを放って見せたのだ。その練度の高さたるや、語る必要もなし。

 

「…ッ!」

 

フタチマルは、空中で器用にも地面へとシェルブレードを突き立てて勢いを殺し着地するも、見るからに大ダメージを負っている。

 

「追撃!」

 

「シェルブレードで防げ!」

 

体勢を立て直す暇もなく。再度、紅蓮の炎塊と成ったバクフーンが突撃を仕掛けてくる。

避けるのは間に合わない、ハイドロポンプも同様。ならばせめて、少しでも衝撃を和らげるしかない。

 

フタチマルは二刀のシェルブレードを交差させ、フレアドライブを受けようとする。

が、フレアドライブを纏ったバクフーンが、シェルブレードに触れた瞬間。水の刃は、初めから其処に存在しなかったかの如く。蒸発し、消滅した。

 

「フタチマルっ!」

 

声もなく再度空中を舞う。否、直線に飛ぶフタチマル。

初撃と違い。今受けたフレアドライブは、助走を付けた全力の一撃。

 

オレのフタチマルを案じる声だけが、夕焼けに染まりつつある公園に響いた。

 

 

バトルコート外縁の壁に激突し、滑り落ちる事でようやく止まったフタチマルは。余りにもレベルが違うポケモンの一撃を受けて尚、立ち上がり。そして。

 

「ッタチィ…!」

 

満身創痍の体で、直撃を受けながらも手放す事の無かった両手のホタチからシェルブレードを形成し。直後、前のめりに倒れた。

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