ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第二十五話 力を欲す

オレとコトネさんがバトル前の一礼を終えると、ヒビキさんがオレたちの顔を交互に見遣り。右手を挙げた。

それに応じて、オレとコトネさんは互いにモンスターボールを腰のベルトから取り外し。モンスターボールの中央に位置するボタンを押して、親指くらいの大きさだったボールを拳大に肥大化、もといあるべきサイズへと戻す。

 

両者の準備が整った事を確認すると、ヒビキさんは挙げていた手を勢い良く、空を手刀で切り裂くかの如く下げる。

それと同時に、オレとコトネさんがモンスターボールを空中へと放り投げた。

 

 

「くわんぬ!」

 

バトルコートのポケモン出場ラインで向かい合ったのは、オレのルカリオと。

 

 

「ブルァ!」

 

薄紫色の体色と下顎から伸びる大きな2本の牙が特徴的な、フェアリータイプのポケモン。グランブル。

 

凶暴そうな見掛けに反して温厚なポケモンで、実は臆病な性格の個体が多いのだが。今ルカリオと対峙しているグランブルからは、怯えた気配は一切感じ取れず。寧ろ、全身から闘気を迸らせている。

 

「波導弾!」

 

先制の波導弾。グランブルは、持ち前の膂力にモノを言わせたインファイターが多いので、先ずは遠距離からの牽制。

 

「ブル!」

 

しかし、これは指示もなく体捌きだけで回避される。ずんぐりとした体格の見た目からは想像も付かない軽快なフットワークだ。

しかし、ポケモンの体格が身体能力を推し測る判断材料にはならない事など百も承知。

 

「神速!」

 

「くわんぬ!」

 

左足を引いて回避したグランブルが対処し難いように、左から攻め込むルカリオ。

掌打が、グランブルの脇腹を抉らんと迫る。

 

「バックステップ、炎のパンチで応戦!」

 

しかし、コトネさんの指示を即座に実行したグランブルは。神速の掌底を紙一重で回避。逆に、炎を纏わせた右拳を以て。空振りにより体勢を崩したルカリオに襲い掛かる。

神速は攻守両方に用いる事が出来る万能な技だが、その速さ故に小回りが利かず。一度バランスを崩してしまうと、途端に自信を不利な状況へと陥らせる側面もあるのだ。

 

「前転して回避!」

 

直撃する既の所で、ルカリオは神速の慣性に抗う事無く。寧ろそれに乗って身体を前へと投げ出し。既の所でグランブルの一撃を躱す。

 

「バレットパンチ!」

 

素早く身を起こしたルカリオが、両拳に鋼を纏わせ。再度グランブルへと猛攻を仕掛ける。

 

「くわん!」

 

「グラァ!」

 

「くわんぬ!」

 

フットワークを用いて、鋼の拳を器用に回避するグランブル。

 

一撃、二撃、三撃目で、グランブルが炎の拳で反撃するも。ルカリオも負けじと、持ち前の反射神経を活かしてスウェーバックで回避し、再度拳を振るう。

 

ラッシュを仕掛けるルカリオ。巧妙に避けるグランブル、そしてタイミングを見計らっての反撃。

 

鋼のジャブ、ジャブ、ジャブ。炎のフック。鋼のジャブ…それを幾度となく繰り返す。

 

状況だけ切り取って見れば、手数の多いルカリオが優勢。隙をみて反撃するも、回避されるグランブルが劣勢の様に見えなくも無いが。実際は、寧ろ拮抗状態。否、ルカリオが若干不利と言った所だ。

 

ルカリオは果敢に攻めるが、尽く見切られ。グランブルは回避に専念しつつも、ここぞという瞬間には仕掛けて来る。

精神的にも体力的にもキツいのはルカリオだ 。

とは言え、バレットパンチが一撃でもグランブルの身体を捉えれば状況が傾くのも確か。鋼タイプを持つルカリオのそれは。フェアリータイプのグランブルに対して、相当の主張があるのだから。

しかし逆に、ルカリオのもう一つの持ち味である所の、格闘タイプの攻撃がグランブルに取っては有効打になり辛く。ルカリオの攻め手が縛られているというも、また事実。一度退いて攻め方を変えるか、ルカリオの精神力を頼りに現状を維持するか。

 

ルカリオとグランブルの一挙取一投足をも見逃さぬよう、瞬きすら惜しみながら思考していると。ついに状況が動いた。

グランブルが右手で放った炎のパンチが、大振りに成ったのである。

 

「くわんぬ!」

 

それを見逃さないルカリオでは無い。右足を踏み込んで、これまでのジャブでは無く。屈んで避けた反動を利用して、膝のバネを使ったアッパー気味のブロー。

 

「炎のパンチ!」

 

拮抗を揺るがし兼ねないその一撃に対して、コトネさんの取った回答は回避ではなく迎撃。鋼の右拳と、炎の左拳が激突する。

 

一瞬の、拳と拳の鍔迫り合い。しかし、大振りでバランスの崩れたグランブルとは違い、ルカリオは左拳の自由も効く。左肘を引いて、それを打ち出そうとした瞬間。

 

「地震!」

 

コトネさんの指示が飛んだ。その一手はマズイ、バレットパンチは間に合わない。

 

「後ろに飛んで波導弾!」

 

拳に纏った鋼を解除しつつ、波導を可視出来る程に集束させながら跳躍するルカリオ。

 

「叩き付けなさい!」

 

「ブルァッ!」

 

「くわっ!?」

 

しかしその右足首を掴まれ、一切の慈悲も無く地面に叩き付けられた。その際、集束させていた波導が拡散する。

更に、全体重を乗せたグランブルが放った、大地を伝う振動攻撃がルカリオを襲う。効果は抜群だ。

 

常であれば、ルカリオの退避は間に合った。

しかし、ペンドラーは兎に角。マタドガス、クロバットを相手取っての二連戦。暫しの間を置いたと言っても、その時の疲労が回復し切っている筈も無く。おまけに先程の攻防で、更に負担が掛かったルカリオは。普段ならば反応出来た筈の指示に、半拍遅れてしまった。

これは完全にオレの指示ミスだ。ポケモンの体力に見合った指示も出せないで、何がポケモントレーナーか。

 

「炎のパンチ!」

 

地震は、放った本人にも負担を掛ける為。立て続けに使えるような技では無いので、炎を拳に再度纏わせて襲い来るグランブル。

 

「転がって回避!」

 

ダメージを負った身体に鞭打って、地面を転がり難を逃れ。立ち上がって反撃の構えを取るルカリオ。

 

「バレットパンチ!」

 

既に追撃を仕掛けて来ているグランブルに対して、鋼の拳で応戦するも。そのキレは、やはり常と比較して鈍く。炎の拳を土手っ腹に受けて、吹き飛ぶルカリオ。

 

「波導弾!」

 

再度身を起こしたルカリオに、苦し紛れの波導弾を撃たせるも。難無く回避され、再び振るわれた炎の拳によって空中に浮き。そのまま力無く地面に倒れ伏した。

 

その瞬間。視界が灰色に染まった。

 

 

 

 

 

「此処までか」

 

ヒビキが地面に横たわったルカリオを見遣り、思わずと言った様子で溢す。

接戦を繰り広げた上での、コトネの勝利。ヒビキが思い浮かべたシナリオ通りだ。

 

キョウヘイに対して、申し訳なさを感じないと言えば嘘になる。しかし、この一戦はキョウヘイに取っても糧になるのは間違いない。

そもそも、男というのは。逆境の中でこそ強くなるもんだ。というのは、ヒビキの持論である。

 

「これからが楽しみなヤツだ」

 

きっとキョウヘイは、まだまだ伸び代がある。それは、コトネに関しても同じ事が言えるが。キョウヘイのそれは、コトネを凌駕しており。数年前以内には、自分のレベルにすら届き得ると、ヒビキは色眼鏡なしにそう思った。サングラスは掛けたままなのは御愛嬌だ。

 

満面の笑みを浮かべ、ブイサインを向けてくるコトネの勝利を告げるべく。ヒビキが口を開いた瞬間、寒気が背筋を走った。

 

反射的に、キョウヘイの方に視線を向けると。

 

ルカリオの身体が浮き、白い殻(・・・)がその身を包み始めた。

 

 

 

 

 

 

灰色の空間の中で、オレとルカリオが浮かんでいた。

 

 

「まだだ」

 

『ああ、まだだ』

 

此処が何処で、何故ルカリオと会話が出来るのか一瞬疑問に思ったが。まぁ、些細な事か。

 

「やれるか?」

 

『やれるとも』

 

今はもっと重要な事がある。

 

「何が欲しい?」

 

『 いつも通りの指示。それと…。』

 

目の前の相手に打ち勝つ為の。

 

『「更なる力を」』

 

 

 

 

 

視界が開ける。

頭の中は、これまでに感じた事が無い程にクリアだ。

 

バトルコートに目を向けると、白い球体が浮かんでおり。その向こうで、グランブルとコトネさんが驚愕したかの様な表情を見せている。

何をそんなに驚く事があるのだろうか、バトルは未だ終わっていなかった…只、それだけの事なのに。

 

 

「行こう、ルカリオ」

 

呟いた瞬間、バトルコートに浮かぶ白い球体が弾け飛び。中からルカリオが現れる。

しかし、その姿は先程まで倒れ伏していたものとは細部が異なっていた。

 

首から腰を覆う黄色い体毛は長く伸び、肩と尻尾にもその範囲を広げている。尻尾に関しては、それ自体が長くなっているのか。総々の毛が、形の整った塊の様になっている。

 

両腕と脹ら脛から下の両足は赤く染まり、腕と胸部のみから伸びていた鋼の棘は、足の甲からも生えていた。

 

感覚器官と推測される、頭部から伸びる四本の触手は。外側の二本が長く伸び、先端は拳や脚同様、赤く変色している。

 

体格も一回り程大きく成っている。

 

その姿は、知識としては知っていた。ルカリオが「メガ進化」と呼ばれる、進化を超えた進化をする事に因って、己の定められた限界を突き破って変貌した姿。

正しく「メガルカリオ」に相違ない。

 

 

「神速」

 

指示を言い切る前に、ルカリオの姿が掻き消えた。直前まで立っていた場所は、何かが押し込まれた様に小さく抉れている。

 

その瞬間、面喰らった様に呆けていたグランブルとコトネさんが表情を引き締める。

 

そうでなければ困る、何せ既に。

 

「グランブル!後ろに炎のパンチ!」

 

ルカリオは背後を取っているのだから。

 

「ブルァ!」

 

振り向き様に拳を振るうグランブル。しかし、ルカリオの姿は既に其処には無く。炎の拳は、虚しく空を切った。

 

「バレットパンチ」

 

瞬間。更に背後を取っていたルカリオのバレットパンチが、グランブルの背を打ち貫く。

 

「ッ!」

 

「グランブルっ!?」

 

肺から息を吐き出すかの様な声を上げるグランブルを案じて、コトネさんが叫び声を上げる。

そうじゃないだろう。今はポケモンバトルの最中だ。反撃なり、回避なり指示してやるのがトレーナーの務めというものだ。

 

「追撃」

 

だがオレは、この隙を見逃す程呆けてはいない。間を置かずに再度攻撃を指示する。

相手は強い。きっとこの有利な状況も一時的なものに過ぎない。だから手は抜かない、全力で仕留めに行く。

 

膝を突くグランブルに、再度鋼の拳が襲い掛かる。

 

 

 

「ヘラ!」

 

しかし、その拳は。突然目の前に現れたヘラクロスによって止められた。

ヘラクロスは右腕一本を用いて、多少踵を地面にめり込ませるだけで。ルカリオが放つ、全力のバレットパンチを止めて見せたのだ。

 

何故唐突にヘラクロスがルカリオの攻撃を受け止めたのかは分からないが、邪魔をするなら打ち倒すのみ。

 

「バレット…」

 

「バクフ!」

「ゲン!」

 

ヘラクロスに対して、攻撃の指示を下そうとした刹那。突如現れたバクフーンとゲンガーに抑え込まれる様に、ルカリオが俯せに地面に組伏せられた。

一体何だと言うのか。何故オレとルカリオのバトルを邪魔をするのか。

 

疑問を抱いた瞬間、左肩に何かが乗った。

 

「そこまでだ」

 

振り向くと、ヒビキさんが厳しい表情で立っていた。

 

「見てみろ」

 

そして視線で誘導され、バトルコートに目を向けると。ルカリオは、ヘラクロスも混じって三体のポケモンに両肩と背を押さえ付けられており。グランブルは満身創痍と言った体で、ダメージを負った身体を何とか起こそうとしている。

 

「戦闘不能だ。お()ぇらの勝ちだよ」

 

そうか、勝てたのか。オレたちは、コトネさんとグランブルに。

 

ヒビキさんの言葉を聞いた途端に、緊張が解けたのか。身体から力が抜ける。

 

「…あれ?」

 

その上、視界が歪み。立っている事すら儘なら無くなったオレは、前のめりに倒れそうになるが。

 

「おっと、大丈夫か?」

 

ヒビキさんに支えられ、地面に座らせて貰った。礼を告げようとするも、身体中が弛緩する程の倦怠感に襲われ。舌が上手く回らない。

 

「力が入んねぇか…無理もねぇ。メガリングもメガストーンも無しでメガ進化しちまったんだ。暫く動けやしねーよ」

 

そう言えば、ルカリオはメガ進化したんだったか。何だか夢を見ていたかのように、記憶が朧気だ。

 

メガ進化とは通常、トレーナーの持つキーストーンと。ポケモンの持つ、それぞれのポケモンに適応した、メガストーンと呼ばれる球状の小さな宝石を共振させて行うものだ。

 

それらを介さずにメガ進化を行う事も可能ではあるが。それをすると、トレーナー自身もポケモンにもかなりの精神的負担となり。結果、今現在のオレの様に疲労で動けなくなってしまう。

 

因みに。キーストーンとメガストーンを用いてメガ進化を行っても、両者への負担が軽減されるというだけで、完全に負荷から逃れられるという訳では無く。使用するタイミングの見極めが重要とされる、扱いの難しいテクニックだ。それ故に、プロのトレーナーでもメガ進化を敢えて使用しない者も多い。

 

オレはパートナーであるポケモンに無茶をさせてしまった事を悔いて、ルカリオの方に視線を向ける。

ルカリオは、バクフーンの背に乗せて貰い。その横で、ヘラクロスとゲンガーが左右からルカリオが落ちない様に支えてくれていた。

腹這いに背に乗せられたルカリオの様子は、見るからにぐったりとしている。

その後ろでコトネさんがキズ薬を用いて、グランブルの応急手当てを行っていた。

 

「心配すんな、ルカリオも疲労で参ってるだけだ。大事ねぇよ」

 

オレを安心させるように、ヒビキさんが柔らかい口調でそう告げる。

視線を向けると、先程オレを静止した時のような厳しい表情ではなく。笑みすら浮かべて、オレを支えるヒビキさんの顔が目に入った。

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