ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第九話 誤ちの選択

「遂に始まるね」

 

バトルコートに向かい合うチェレンとキョウヘイを見て、ベルが呟くように言った。

 

「そーね」

 

それを聞いたトウコは素っ気なく返すが、視線はバトルコートを見据えていた。

まだバトルが始まっていないというのに。いや、始まっていないからこそ、これから始まるバトルを一瞬たりとも見逃すまいとしているのだろう。

 

二人はコート中央で握手を交わし、トレーナーラインに着くと。備え付けられたスピーカーから録音された音声が流れ出す。

公式審判員を常に常駐させているジムは少ないので、そうでないジムではこうしてルールの説明を行うのだ。

 

スピーカーから流れる音声が止むと、チェレンとキョウヘイは互いに一礼し、腰のベルトからモンスターボールを外し、構えた。

 

この戦いが初のジム戦であるキョウヘイは勿論の事。同じくジムリーダーとして挑戦者を迎えるのが今日で初めてのチェレンからも緊張しているのが空気を伝って、ベルにまで届くような錯覚を覚えた。

 

キョウヘイサイドの入り口付近で次の対戦を待つヒュウも、その空気を感じ取っているようだ。

 

そして遂に、二人が動き。同時に二つのボールが空中を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、どっちから挑戦してくれるのかな?」

 

チェレンさんは両手を広げてオレとヒュウをバトルコートが広がる空間に迎え入れると。順に目を合わせながらそう聞いてきた。

 

そう言えば、地元にジムが出来ると聞いて。嬉しさのあまりに挑戦する順番を決めるのをすっかり忘れていた。

 

「すみません、決めてなかったです」

 

「いいよ。ゆっくり決めて。僕は先にコートで待ってるから」

 

一先ずチェレンさんに順番を決めていなかった事を白状し、謝ると。チェレンさんはにこやかに笑って応じて、バトルコートの方へ歩いて行った。

 

オレとヒュウの間では、こういう時は後腐れなしのポケモンバトルで決めるのだが。お互いジム戦を控えた状況でそれをするのは、どう考えても愚策。

手持ちのポケモンたちの消耗はなるべく控えたい。

 

だとするとここは、これ一択か。

 

「よし、じゃんけんで決めよう」

 

最初はぐーな。と言いつつ構えると。

 

「お前が先でいいぜ、さっきのサイコソーダの礼だ」

 

ヒュウはそっぽを向きつつ言い放った。

 

「え、いいの?」

 

オレたちの生まれ育った町での、最初のジム戦を譲ってくれると言うヒュウ。

いつもの流れだと、ここはお互い譲らない場面だと考えたのだが。相変わらず、素直じゃないが律儀なヤツだ。

そんな風に驚いた顔をでヒュウを見ていると。ただし。と頭に据えて目を合わせた。

 

「無様なバトル見せたら承知しねーぞ」

 

そう言われて、一瞬きょとんとするが。

 

「言われなくても」

 

オレはヒュウなりの激励に、ニヤリと笑って応えた。

 

そして互いに拳お軽くぶつけ合うと、コートに足を向ける。

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「キョウヘイ君が一番手か」

 

バトルコート中央へ辿り着いた俺を、笑顔で迎えるチェレンさん。

 

「お互い、悔いの残らないよう。ベストを尽くそう」

 

そう言って差し出してくれる右手。それに応じて握り返す。

 

「トレーナーラインに着いたらルール説明用の音声ガイドを流すから、それに従ってバトルを行います」

 

お互い手を放すと。笑顔を引っ込めて、真剣な面持ちでそう告げるチェレンさん。オレもそれに釣られて気が引き締まり、ゆっくりと頷く。

 

そしてお互いに背を向け、トレーナーラインに向かう。

 

その途中、ヒュウと目が合った。どうやら観客席ではなく、オレの背後から試合を見るつもりらしい。

 

情けない様は見せられないな。まあ、元よりそのつもりは無く。ポケモンたちと全力で勝負に望むだけだ。

 

 

 

トレーナーラインに辿り着くと、反対側に着いたチェレンさんが、ポケットから何かのリモコンを取り出し、操作し始めた。

 

『ただいまより、イッシュポケモン協会公認の、公式ジム戦を開始します』

 

すると、部屋の四隅に備えられたスピーカーから女性のものと思われる音声が流れ出した。

 

さっきチェレンさんが言っていた、ルール説明の音声ガイドというやつだろう。

 

『チャレンジャーのジムバッヂは0、旅歴1年目の為。ジムリーダーの使用ポケモンは1体。チャレンジャーの使用ポケモンは、最大6体とします』

 

ジムリーダーへの挑戦は、旅した年数と、所持するその年度毎のバッヂの数によって難易度が変わり。旅歴4年目からは、バッヂの所持数に関わらず6VS6の手持ち全てを用いたフルバトルとなる。

その為、4年目でトーナメント出場自体が困難となり、旅を諦めるトレーナーも多いと聞く。

 

『チャレンジャーのポケモン交代は認められますが、公式ルールに則って、可能な限り戻したポケモンの1m以内に同じ方向で解放すること』

 

つまり、交代してピンチを乗り越えても。次のポケモンは不利な状況からバトルがスタートとなる。

 

更に、ポケモンを引っ込めれば、相手はその分万全の体勢を整えられる為、状況次第では繰り出した瞬間にノックアウトという可能性も考えられる。

 

ポケモン交代は、基本的にした方が不利なのだ。

 

『その他のルールに於いては、公式バトルルールに則って行われます』

 

公式ルール通りと言うことは、チャレンジャーは交代可能ではあるが。ポケモンを出してから1分間、交代してから2分間、相手のポケモンが戦闘不能となってからは3分間、交代が不許可というわけだ。

最後の1つは、今回はチェレンさんの使用ポケモンが1体だけのため、気にする必要はないが。前の2つは、破れば戻したポケモンは失格扱いとなり、そのバトルでの使用を禁じられる。

 

俗に言う「交代に関する123ルール」というやつだ。スクールでは初等部に習う基本的な事だが、最も重要なルールの一つでもある。

 

時にはバトルに集中し過ぎて、公式大会でもこのルールに抵触する事があるのは、プロの大会を観戦しに行った時や、地方トーナメントのテレビ中継で何度か目にした事がある。

 

流石にプロの大会では稀だが、アマチュア同士で行われる地方トーナメント予選なんかでは、焦りからか頻繁に目にする。

 

トレーナーはバトル中以外でも時間感覚には敏感に。というのは、オレの通っていたヒオウギスクールで教鞭を取っていたバトル座学担当教師の口癖だ。

これは、遅刻者が出たときなどに出る説教だったが。つまりは、常日頃から時間に対して正確な感覚を持っていれば。バトル中の交代も時計に頼らず正確に行える。という事だろう…とオレは捉えている。

 

一応大きな公式戦では、巨大なスクリーン画面に交代禁止のカウントダウン表示が出るのだが。

一瞬たりとも目を離せないバトル中に、そこに視線を向けるのは自殺行為だ。余程悠長な相手でなければ、その隙を突かれて状況は悪くなる。

 

ジム戦でもこのスクリーンは用意されているが、勿論はなから頼る気はない。

時間を正確に己の中で刻むのも、トレーナーの仕事の内だ。というのはトウコ先輩受け売りで。交代の特訓中に失敗して、よくヒュウと共に罰ゲームの町内一周をしたものだ。

 

『ジム戦は、ジムリーダーの宣言を以てこれを開始とし。同じく、ジムリーダーの宣言を以てこれを終了とします。戦闘不能は両者の合意に基づいて判定しますが、危険と見た場合はジムリーダーの判断を優先とします。

ここまでの規約に違反した場合は、即刻失格と見なされますのでご注意ください。チャレンジャーのご健闘をお祈りします』

 

そこでチェレンさんがリモコンを再び弄り、ポケットに仕舞った。

どうやら、これでルール説明は終了という事だろう。

 

そこでお互い、無言で一礼する。これは公式戦だろうがそうで無かろうが行われる。トレーナー同士が互いに尊重し合う為の挨拶だ。

そこに打ち合わせは要らない。

 

チェレンさんが深く息を吸って、モンスターボールをベルトから取り外す。

 

それを見て、オレも同じようにボールを外し、構えた。

 

 

「それでは!ヒオウギシティジムリーダーチェレン対!チャレンジャーキョウヘイのジム戦を始める!」

 

チェレンさんの宣言が、静寂した空間に響く。

 

「お願いします!」

 

それに負けじと、オレも声を張り上げた。

 

そしてチェレンさんはもう一度息を吸うと。

 

「それでは…始め!!」

 

高らかに開始の宣言を放った。

 

 

同時に二人のトレーナーが放った事で、空中に舞い上がる二つのモンスターボール。

それが中央から二つに割れ、光を放つとそのままトレーナーの手元へと戻った。

 

放たれた2つの光は一瞬にして形を作り。お互いの出場ラインに現れたのは。

 

「ミジュマ!」

 

オレのミジュマルと。

 

「チラー!」

 

チェレンさんのチラチーノだ。

 

 

チラチーノ。ノーマルタイプのポケモンで、自身の分泌する特殊な油で体毛をコーティングし、力業を受け流す。相手にすると中々に厄介なポケモンだ。

 

しかしミジュマルが得意とするのはシェルブレードによる斬撃。相性は悪くない。

ここは先手必勝。

 

「ミジュマル!接近してシェルブレード!」

 

「ミージュマ!」

 

ミジュマルは普段お調子者だが、バトルになれば別人のように意識が切り替わる。

 

気合い一閃、右手に握るホタチから水の刃を形成すると全速力で駆け出し。挨拶代わりの一太刀をチラチーノに浴びせようと前傾姿勢で突撃する。

 

「チラチーノ、ロックブラストで迎撃!」

 

だが、流石にそう易々と接近は許してくれない。チラチーノは空中に岩を生み出し、次々と撃ち出す。

しかし直線軌道を飛んで来る岩であれば。

 

「お前ならやれる!叩き斬れ!」

 

そう指示を飛ばすと、臆することなく突き進み。襲い来るロックブラストを器用に二つに裂きながらチラチーノへの距離を縮めるミジュマル。

 

「足下を狙え!チラチーノ!」

 

流石はジムリーダー。速度を落とさないミジュマルに驚く事無く、次の手を打ってくる。

 

足下に飛んで来る岩を切り裂くのは今の状態では無理だ。だがここまで距離を詰め、空中の直線上に障害がなければ寧ろこっちのもの。

 

「アクアジェットで直進!そのままシェルブレード!」

 

「ッ!チラチーノ!屈んで回避!」

 

足下を目掛けて岩を打ち出したチラチーノは無防備。その正面をアクアジェットで加速した慣性をそのままに、水の刃を構えて突貫するミジュマル。

その刃がチラチーノを捉える。が、浅い。

チェレンさんの指示が飛んで、瞬時に回避行動を取られたのが原因だ。

 

しかし、もう数瞬早く振り切れれば、大きなダメージを与えられただろうに。それが分かっているのか、チラチーノと擦れ違って反対側で姿勢を捻ったミジュマルの表情は苦々し気だ。

 

並のトレーナーなら、咄嗟に回避ではなく迎撃を指示して、技ごと斬れただろうに。

冷静に状況を把握し、指示をしたチェレンさんも。その指示を戸惑う事無く遂行するチラチーノも強敵だ。信頼関係の強さが窺える。

 

「チラチーノ!タネマシンガン!」

 

ミジュマルの着地を狙の隙を逃すまいと、今度はロックブラストより一発一発の打ち出しが早く、弾速で勝るタネマシンガン。

その大きさから、威力はロックブラストに軍配が上がるが、草タイプの技はミジュマルに取っては苦手とするところ。

 

ジムリーダーはチャレンジャーとバトルし。助言を与えたり、時には厳しく注意したりと、その成長を手助けする人が大半であると聞く。はじめから全力でチャレンジャーの心を叩き折ろうとする人も居るらしいが、チェレンさんは多分前者だろう。

つまり、今迄のは様子見だったと言うことか。

 

「ミジュマル!水鉄砲で迎撃!」

 

水圧で迫る種弾を押し返す。が、数発撃ち漏らして被弾する。このままではじり貧か。

 

ならば一か八かだ。

 

「ハイドロポンプ!!」

 

水鉄砲を放ち続けるミジュマルにも届くよう、一層声を張り上げて指示を出す。

 

ここ最近使えるようになった大技だ。

 

どうやらきちんと聞き届けたらしいミジュマルは、水鉄砲の5倍はある太さの激流を放った。

それはタネマシンガンを呑み込み、そのままチラチーノへと直撃する。

堪らず吹き飛ぶチラチーノ。ここで再び勝機を手繰り寄せるべく、更に叫ぶ。

 

「相手が体勢を崩した!シェルブレードで切り込め!!」

 

進化していないミジュマルに取っては、ハイドロポンプを長時間続ければ逆に消耗が激しい。

確実に仕留めるなら、視界を塞ぐ上に取り回しの効かないハイドロポンプよりも。錬度で勝るシェルブレード。

 

一瞬で肉薄したミジュマルのシェルブレードがチラチーノを捉える。かに思えたが。

 

「回避!」

 

寸でのところでチラチーノが避けた。舞ったのは白く美しい毛先のみ。

 

「追撃!」

 

ミジュマルに檄を飛ばすように指示するが。これも避けられた。

斬りかかる、避ける、斬りかかる、避ける。目まぐるしく位置が入れ替わる2体。

 

「スイープビンタ!」

 

チラチーノの張り手が、ミジュマルを捉えた。接近戦では分があると踏んでいたが、誤りだったか。一瞬そんな考えが頭にチラついた。

いや、違う。この数合で既に太刀筋に目が慣れたのか。だとすれば、なんという瞬発力。

 

このまま続けるにせよ、交代するにせよ。一度距離を取らなければマズイ。

 

「跳ねてハイドロポンプ!」

 

この距離であれば外す事はない。見事攻勢に出ていたチラチーノに直撃し、ミジュマルは自身のハイドロポンプの水圧で丁度オレの近くまで飛んで来た。

 

「ミジュ…ミジュマ!」

 

ミジュマルはかなりのダメージを負いながらも、右手にホタチを握り締め。闘志を燃やしている。

 

 

 

だけど、もう…ここまでだろう。

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