自分はE2の重巡棲姫に四苦八苦し、なんとかクリアできたところで終わりました。
睦月型と夕雲型が結構集まって満足です。
うっ、艦娘保有数が……。
提督は今日の書類を一通り済ませると、背もたれに大きくもたれる。堅苦しい椅子は嫌いだ。バネの縮む音と共に背もたれが後ろに倒れる。
ちらりと左目だけで掛け時計を見れば、もう夜中をさしていた。数時間トイレに行っていなかったから、意識すると急に尿意が催してきた。
少し内股気味に立ち上がろうとした時、ドアがノックされた。
「提督、『明日はいい天気でしたね』」
その声は、艦娘……女性特有の細い声ではなく、野太い男の声だった。
提督はここで心の奥底で舌打ちを連撃する。今からというところを邪魔され、提督は不機嫌だ。しかし、合言葉を言われたら、そう無下にもできなかった。
「どうぞ」
入ってきたのはひとりの中年の男だ。歳は詳しくは知らないが、おそらく30を少し過ぎたくらい。中途半端に剃った無精髭が特徴的で、第一印象は遊び人だ。
一応提督より年上である。
「俺もすまないと思っているが、簡潔に報告してくれ。トイレに行きたいんだ」
「おやおや、こんなところで漏らしては『死神』の顔が面潰れですね」
「いいからはやく」
「わかりましたっ……と」
男は上着の内ポケットを弄り、USBメモリを机の上に置いた。
「これが今回手に入れた情報です。艦娘とは何か。深海棲艦とは何か。やはり掴むのは困難ですね。大本営も必死に隠しているのでしょう。もう少し深く調べたいところですが……」
「ダメだ」
「おぉう、固い固い」
やけに男は上機嫌だ。
「なんだ」と言えば、「何も」と返される。
「どうせ艦娘に話しかけられて嬉しかったとかそんなとこだろ」
「提督がそう思うならば」
いまいちつかみどころのない男だ。
尿意もそろそろマズイ。はやく切り上げたい提督は口早に話す。
「薄い紙でも何枚も重ねれば本のように分厚くなる。そういうことだ」
「時間はかかりますけどね」
「そこはツッコむな」
提督はUSBメモリを手に取ると、それを引き出しにしまった。
もう限界だ。素早く提督は立ち上がり、足早にドアへ向かう。
「ご苦労だった江本。また呼ぶ」
その返事が聞こえるよりも先に、提督は渡り廊下へと躍り出た。そして、ロケットの如く駆けるのだった。
◆
未だ答えには至らず。
金剛は布団を被ったまま、目元まで引き上げる。
妹たちはすぐ隣で金剛にくっつくように寝ている。その力が思いの外強く、大人しく引き離すことを諦めた。
首を曲げてカーテンの方を見ると、まだ少し明るくなり始めたところで、おおよその時間がわかる。
今日で6日目だ。
金剛は静かに目を閉じる。
本当の戦場に行ったことがないからわからないが、きっとつらく、痛く、悲しいものなのだろう。
しかし、それでも戦い続ける妹たち……艦娘たちの心を知らなければ答えは出ない気がするのだ。
榛名がもぞもぞと動き、小さく唸る。
起こしてしまったかと慌てるが、榛名はしがみつく腕にさらに力を入れただけだった。
「いたた……」
この3人はとても可愛い妹たちだ。記憶をなくした金剛にとってはまだ出会って一週間も経っていないのに、こんなにも懐いてくれている。
この子たちのためにも離れるわけには……。
ーー同情抜きで真剣に考えて欲しいんだ。
「ーー」
それは提督が言っていた言葉だった。
金剛の……金剛の心で結論を出さなくてはならないのだ。
これは葛藤である。
大井は北上への心を語った。
あれは嘘偽りのない、とても美しいガラスのような本物だった。そして同時に、それが大井の戦う理由でもあった。
あの時、金剛は大井を素直に尊敬した。
では、果たして穏やかな寝顔を晒している妹たちは、どのような理由で戦いに臨んでいるのだろうか。
長門も、陸奥も、暁も、響も、雷も、赤城も、加賀も……他の子達も。そして、提督も。
今日はやることがたくさんありそうだ。
カーテンから射す太陽がいよいよ強くなってくる。朝だ。
正直二度寝に突入するのも悪くないかな、と思ったが、そういうわけにもいかないと妹たちの肩を揺さぶって起こす。
そして、精一杯の元気で最初の一言をかける。
「おはよう私の妹たち!」
姉として。
◆
彼女は異動となった。
別にいい。もう慣れたことだ。10を超えたあたりからもう数えるのはやめた。
彼女は自分が異常だということは重々理解している。受け入れもしている。それは皆が知るような『彼女』とはまるで違うからだ。
今日でこの鎮守府ともお別れ。
これまでと比べれば幾分かマシだったとは言えるが、好奇の視線が突き刺さるのはやはり不快だった。
ある者は彼女を怪物と罵った。
違う、ただ強いだけだ。
ある者は彼女を心のない奴だと責めた。
違う、ただ割り切っているだけだ。
ある者は『死神』と『疫病神』を口悪く非難した。
黙れ。何も知らないくせに。先生と私の努力を何も知らないくせに。
ここの姉たちはまるで彼女に他人行儀だった。ある意味、こちらとしても一番楽な姿勢だった。
友情がなんだ。絆がなんだ。
馬鹿馬鹿しい。
命中する時は命中する。被弾する時は被弾する。
轟沈する時は轟沈する、だ。
なぜ轟沈するか。答えはあまりにも簡単。
弱いからだ。
力を合わせて、なんて虫酸の走る考えはいらない。弱いからそんな綺麗事を言って、個人ではできないことを他人に押しつけているだけでしかない。
彼女ならできる。できるから今の今まで泥臭く生き残ってきた。
無傷で帰ってきたこともあったし、逆に彼女1人だけ生還したこともあった。
荷物は自分で改造した艤装と勉強のための教科書とノート。あと、大事な軍服だ。
迎えが来た。
ここの指揮官への挨拶は軽く済ませてある。彼女は先生……提督以外の提督を提督とは認識しない。あくまで上官。先生が彼女にとっての唯一の提督だ。
黒く、胴が変に長い車のドアが音もなく開き、彼女はそれに乗り込む。
「ここからは距離があるのでおそらく1日くらいかかります。途中で休憩をはさみますが、睡眠をとってもいいですからね」
運転手が後ろも振り向かずに彼女に手短に伝える。ミラー越しに彼女が頷くのを見た運転手は車を発進させる。
どこの鎮守府に異動させられるかは尋ねる気は無かった。
願わくば、先生の鎮守府に異動されたい。これが彼女の些細な願い事だ。
こんなにも時間が与えられているというのに、寝るとは愚かでバカで、沈む奴のすることだ。
彼女は早速教科書とノートを取り出し、当然のように設置されていた机の上に広げた。どの本もボロボロで、そうとう使い込まれているのがわかる。
その中から天気に関するものを手に取り、ノートを開く。
何度も繰り返すことによって、忘れることのない記憶として覚えられる。ペンを手に持ち、器用に一回転させると、すらすらと走らせる。
到着まであと1日。
◆
「ねえ長門」
「む? 金剛か」
「うん」
朝の日差しが眩しく鎮守府の中を照らす。
これから上り始める太陽が大きくあくびをしているようだ。
金剛に声をかけられ、長門は後ろを振り向いた。
今は金剛ひとりだけ。無理を言って単独行動をさせてもらっている。
司令室で何かの文書を整理していた長門がその手を休めた。
「ひとりとは珍しいな」
「ひとりで歩き回りたくて、ね。そっちこそ、陸奥と一緒じゃないんだ」
「お互い様ということだな。で、どうしたんだ? こんなところに来て」
長門が棚からティーカップを二個取り出す。
そして、丁寧に紅茶を淹れて金剛に一杯差し出した。
「あまり上手ではないかもしれんが……よければもらってくれ」
「喜んでもらうよ。ありがとう」
「う、うむ」
金剛はそれを受け取って上品に飲む。
喉を滑らかに通り、茶葉の旨みを存分に引き出しているおかけで、とても美味しく感じられた。
「美味しいよ長門」
「それはよかった。前々から練習していたんだ」
「へぇ……」
「私が紅茶を淹れるのは……変だろうか?」
少し恥ずかしそうに長門が尋ねる。
棚の方を一瞥すると、そこには何枚も付箋が貼り付けてあって、淹れ方についての細かいメモが記されていた。
しかも、棚の裏に貼られているから、開かない限り見られることはない。
これならば美味しいのも頷ける。努力しての結果だから、胸を張って誇ってもいいはずだ。
「長門のイメージはまだ定着してないけど……変なことは絶対にないよ」
「そうか。そう言ってもらえると嬉しいな」
ホロリと微笑んだ長門の笑顔を金剛は見逃さなかった。
「まあこれはお前を真似して始めたことなんだがな」
「私?」
「ああ。よくお前は提督に紅茶を淹れていたからな。提督を休ませるために。だから私も何かできることをしようと思ったんだ。……結局、同じことをするくらいしか思い浮かばなかったが」
そう自嘲した長門が紅茶を啜る。
以前の金剛が紅茶を提督のために淹れていた? どうも信じられないことだ。だがしかし、提督は金剛に対して特別な思い入れがあるようにも感じられたし、長門の言葉も決して嘘ではなさそう。
「あれだけ頑張ってるんだから完成度が高くなるのは当然だよ」
開きっ放しの棚を指でさして金剛は面白そうに笑う。
「なっ! み、見るんじゃない!」
慌てて棚を閉めた長門がまた愉快で、金剛の笑いが止まらない。
「あははは! ……ふぅ、面白かった」
「誰にも話すなよ?」
「はいはいわかってるよ」
最後の一口を飲み干し、金剛はティーカップを机の上に置いた。
金剛がここに来たのはただ長門から紅茶をもらいに来たためではない。
沈黙の空白が流れ、両者に本題に入る前の心の準備とも言える休息が入る。
長門も紅茶を飲み干し、ほぅ、と温かい息を吐いた。
「で、長門」
「うむ」
「いきなりで悪いとは思っているんだけどいいかな?」
「内容によるがな。言ってみるがいい」
長門はとても思いやりのある艦娘だ。それは確かなことだ。
実戦だけでなく、提督の執務なども手伝っているのもよく見ていた。みんなにとって、きっと長門は……頼れるお姉さんのようなポジションなのだと思う。
だからこそ尋ねたい。彼女を知りたい。
「……どうして長門は戦うの?」
「本当にいきなりだな」
「人類のためだとかは抜きにしてね」
「……わかった」
「ごめんね」
「別に構わんよ。記憶を無くしているんだ。私たち艦娘がなぜ戦うのかがよくわからないから、そのような疑問が湧くのだろう?」
「……うん。長門のような大きな子から暁みたいな小さな子まで。私にはそれがどうしても理解できないの」
「そうか」
長門は机に肘をつき、手を重ねてその上に顎を乗せる。
目をつぶり、考えを巡らせる。金剛はその様子を黙って見ていた。
「他にも同じことを誰かに訊いたのか?」
「うん。まだ大井だけだけど」
「なんと言っていたんだ?」
「北上のために戦う、って」
「あいつらしいな」
「まあ……うん」
長門が目を細める。
誠心誠意答えようとしている長門を金剛はただただ待ち続けた。
そして五分ほど後、自分なりの答えを見つけた長門がゆっくりと口を開いた。
「私が戦いに臨むのは……人類だけではなく、艦娘の皆も守るため……だ」
その目は真剣そのものだった。
それに射止められ、金剛は心の中で一瞬たじろいだが、負けじと見つめ返した。
「艦娘として生まれ、こうして私たちは戦っている。しかし、かつての軍艦の魂とやらを引き継いでいても、私たちは人の姿を得て、人の心を有し、そして確かな感情がここに埋まっている」
金剛は黙って長門の言葉に聞き入る。
胸に手を当て、目をつぶり、長門は自分の鼓動を感じる。
「もし私たちが鉄の塊で、建造された言葉通りの軍艦ならば、こんな人間の真似事はできなかったろう。だが実際に私たちはこうして存在している。だからこそ私は『願う』のだ。愛すべき者たちの傷つく姿は見たくない。ビッグセブンなんて肩書きなどどうでもいい。ただ、皆を守りたい。そんな純粋な願いをな」
言い切った長門の表情はとても晴れ晴れとしていた。
長門の『願い』は金剛の胸に熱く打った。
「そう、か」
「ああ」
長門が金剛に新しく紅茶を一杯薦める。金剛はそれを快く受け、長門は立ち上がる。
「答えは人それぞれってことかな……?」
呟くように口から溢れた金剛の言葉。
とぽぽ、という紅茶を注ぐ音にすらかき消されそうだった声量を長門は聞き取った。
「さあな……もしかしたら私と同じことを考えている者もいるかもしれん。素直に言ってしまえば、ありきたりな理由だから」
「そんなことはないよ、長門」
「ーー」
金剛はポットを持つ長門の手の上から自分の手を静かに重ねた。
紅茶の香りがふたりの……ふたりだけの空間に広がる。
金剛の行動に驚いた長門はピクリと身体を震わせてしまい、少しだけ机に溢れてしまった。
「そうやって自分を卑下しないで。長門はすごい人だって……信頼できる人だって皆が言っていたよ。自分の持った『願い』を貫けばいい。じゃないと、ビッグセブンの名が泣く、でしょう?」
「うまいことを言うではないか」
淹れ終えたポットを戻し、失敗した方を自分へ、やり直した方を金剛に渡した。
「ノンノン、私がこっちをもらうよ」
半ば強引に長門のティーカップを奪い取ると、金剛は自分のものと言わんばかりに口をつけた。
「それは溢れたから……!」
「いいのいいの。ほら、ふたりでの共同作業ってやつ?」
「どうしてそんな恥ずかしいことをすらすらと出てくるんだ……」
「そういう長門だってさっきのあれは赤面ものだよ?」
「言うな、言うわないでくれ金剛……! 」
頭を抱えてぶんぶんと横に振りもだえる姿を見ると、もう少しいじってみたいといういたずら心が燻ぶってしまった。
わざとらしくドアの方に素早く振り返り、さも誰かが向こう側で聞き耳を立てているような雰囲気を醸し出した。
「ん……? 誰かがいたような……」
「なに……!?」
金剛の言葉で長門が石像のように固まる。
わざとらしく手をポン、と叩いてかわいい嘘をつく。
「そういえば、ここに来るときに青葉をみたような……もしかしたらさっきの録音されていいネタにされるかもね」
第三者から見れば完全な棒読みだったが、焦っていた長門はそのことを気にも留めなかった。
「まずいぞ……まずいぞ……」
ひとり恥辱の迷宮に入り込んでしまっていて、なかなか帰ってきそうにもなかった。
その様子を見ていると、お腹を抱えて笑いたくなる衝動にかられ、我慢せずにお腹の底から笑った。
……なんて幸せな時間だろうか。
戦う艦娘たちも、こうして恥ずかしがったり、楽しんだり、笑ったりしているのだ。これこそまさに長門の言った人の心、そして感情だ。
紅茶のような甘い時間がずっと続けばいいのだが……現実はそういうわけにはいかない。
せめて、この鎮守府にいる時だけはこうして皆と他愛のない話でもして団欒をとる。まるでひとつの大規模な家族だ。
「……まあ、嘘なんだけどね」
「金剛〜〜!」
ムッとした長門がへそを曲げる。
だがすぐに何か面白いことを思いついたのか、ニヤリと口角を上げた。
「そっちがその気なら、こっちにも考えがあるぞ……」
そう言ってふふふ、と不敵に笑う長門。その様はまさにゲームのラスボスの雰囲気のそれだ。
いったい何をするつもりなのだろうか。
金剛は長門を観察する。
長門は紅茶を楽しそうに飲み干す……が、そのことばかりに気が向いて気管にでも入ったのか、何度も咳をした。
「……」
「今見たのはきっと幻だ」
「でも」
「幻だ」
「……はい」
「ではこちらも反撃といこうか。目と耳が拒絶しても私は強引にでもするぞ……」
「な、なにをするの……⁉︎」
「お前が今のお前だからこそ言えることだな、これは」
嫌な予感だ。
金剛はとてつもなくこの部屋から退散したくなったが、長門の目がそれを許すようには到底思えなかった。
おとなしく諦めることにした。散々笑ったのだ。因果応報。ここは甘んじて受け入れるべきだ。
「これは青葉が仕入れた物だが……」
長門が机の引き出しからひとつのUSBを取り出した。
「いつか何かに使えると思ってやったのだろうな、提督の指示で記録されたものだ」
「中身は……なんなの……?」
恐る恐る金剛は尋ねる。
その指一本よりも小さなUSBが金剛にとっていったいどんな悪夢を孕んでいるのか。想像することもできない。
「この中身はな……お前が提督とスキンシップを図ろうとにゃんにゃんしていたシーンが数日分にもわたって保存されている」
「にゃ、にゃんにゃん?」
「そう、にゃんにゃんだ」
長門はすぐそばに配置されていたPCを立ち上げ、そのにゃんにゃんを収めたUSBを挿し込む。
「さあ、とくと見るがいい!」
長門がやや興奮気味に声を高ぶらせる。
画面に映された映像の数々……!
ーーそれは、今の金剛にとっては十分すぎるほどの黒歴史だった。
長門いないです
あ、でも建造で雪風ゲッチュしました。