なくならないもの   作:mn_ver2

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なんとか夏イベ完遂しました。
現在掘りをしているのですが、PolaとZaraがなかなかドロップしません。燃料が尽きかけで、カツカツの状態です。
あと照月掘れました^ ^


掃討戦

 翌日の昼方、提督の号令により長門らは出撃した。

 鎮守府との通信のために、無線機を長門に持たせてある。

 

「見て見て、トビウオが飛んでるよ!」

 

 島風が指差す方向を見れば、確かにたくさんのトビウオが生き生きとジャンプしていた。

 見渡す限り青い海。明るい太陽の光がトビウオの鱗に反射し、キラキラと輝く。それはとても綺麗で、鳥海はその光景に見惚れていた。

 

「綺麗ですね……」

 

「でしょ? 飛べるし、速いし、いいね! でも私の方が速いもんね!」

 

 島風がトビウオの群れを追い越すと、そのまま遠くまで離れていく。

 ここまでで、まだ島風たちは一度も会敵していない。そもそもここの海域では深海棲艦はあまり目撃されないのだ。

 

「島風、あまり私たちから離れるな。浮かれるのは良くないぞ」

 

 長門の一喝で島風がしょぼしょぼと戻ってくる。

 何かあってからでは困るのだ。無駄口を叩くな、までは言わないが、ほどほどにしなければならない。いくら敵が見当たらないといっても、突然奇襲を仕掛けられる可能性もあるからだ。

 

「チッ、これだから……」

 

 ガングートが小さく舌打ちする。

 提督も提督だ。なぜこんなちんぴな海域に戦艦を送り込むのだろうか。砲弾の嵐吹く戦場こそが戦艦の華だ。それ以外は軽巡やらその辺に全担すればいい。

 だがしかし、まだ長門がいるだけ気が楽か。新人の武蔵もいるし、教育のいう面では提督の判断も悪くはない。

 すると尚更、ある疑問が浮かび上がるのだ。それはなぜガングートが出撃するのか、だ。どう考えてもガングートの出撃は不必要。長門がいるから武蔵への教育は彼女ひとりで事足りるはずだ。

 ではなんだ? まさかガングートも『教育ついでに』出撃しているのか?

 もしそうだとするならば……腹が煮えたぎる。あの駆逐艦だけではなく、提督ですらもガングートを蔑むのか。だが落ち着け。勝手な思い込みはいけない。あの駆逐艦のことは確信しているが、提督についてはそうでない。

 深く帽子を被りなおし、長門に微かに嫉妬の篭った視線を向ける。

 

「長門、もし敵が見つからなかったらどうするのだ? 夜になっても探すのか?」

 

 武蔵が長門の横までやって来て、並走しながら尋ねた。

 火力は十分。だが経験は皆無。そんなビギナー武蔵には右も左もわからないのも当然であり、また当然の質問でもあった。

 

「もちろん探す……が、夜となるとさすがに発見が難しくなるからな……。一度提督に連絡し、判断を仰ぐつもりだ」

 

「そうか。わかった。それとひとつ、なぜ索敵をしないのだ? いつ会敵するのかわからんのだろう?」

 

 武蔵はだだっ広い海を見渡す。

 遥か彼方に複数島の影が見える程度でそれら以外に何も見当たらない。

 現時点で水偵を発艦できるのは摩耶と鳥海だけである。しかしふたりとも何もせずにただ追随するだけなので、武蔵には不思議でならなかった。

 

「それは目的の深海棲艦の行動半径から考えた結果だ。目撃された日からの最大移動距離を予測し、その範囲を定める。まあつまりは今私たちはその範囲に至っていないということだ」

 

「なるほど……」

 

「だが過剰な心配は時に功を奏すことだってある。しすぎは問題だが、多少は大丈夫だろう。どうだ、ついでに発艦してもらおうか?」

 

 長門が後ろを振り向き、おしゃべりをしていた摩耶と鳥海に声をかけた。

 

「武蔵が心配しているから、水偵を何機か発艦してくれないか?」

 

 発艦については何も問題はない。

 ただ腕に装着した艤装にセットし、あとは妖精さんの発進を待てばいいのだから。

 鳥海は妖精さんに確認を取ると、セットする準備をしながら言葉を返した。

 

「了解しました。具体的に何機ほど発艦させましょうか……?」

 

 多ければ多いほど索敵の精度は高まる。逆に少ないほど精度は下がってしまう。だからそのイロハは当事者に依存し、周りから期待される。これは先手を打てるか後手になるかの、ある意味とても重要な役割なのだ。

 それゆえに鳥海は簡単に言われてしまうと悩んでしまう。

 

「アタシと鳥海で一機ずつで! それでいいだろ? 長門?」

 

 全機発艦でもいいかもしれない……と考えていた鳥海だったが、摩耶が即答し、さっさと発艦態勢をとってしまった。

 それはさすがに少ないのでは? と意見しようとしたが、緊急時のことを考慮すると摩耶の判断が一番妥当なので、おとなしく摩耶の言う通りにすることにした。

 こうやって摩耶は先走りたがりなところがあるが、それが鳥海の判断力の鈍さを補うことが多々ある。鳥海は摩耶のブレーキ。

 ふたりは一心同体。バランスのとれた姉妹である。

 

「その辺は任せることにするさ」

 

「任せておけ! な、鳥海!」

 

「そうね」

 

 摩耶と鳥海が水偵を腕の艤装にセットする。妖精さんと確認を取り、エンジンをかけ、それぞれまっすぐ空へと飛び立った。

 やがて低いプロペラ音が遠ざかり、再び海は静かになる。

 トビウオたちともすでに別れ、島風は黙って航行を続けている。ガングートも黙り、長門も黙り、武蔵も黙り、摩耶も、鳥海も黙る。

 索敵は神経をすり減らす行動だ。『発見した』と『発見しなかった』はとてつもない差なのだ。それによって勝敗が決すると言っても過言ではない。

 鳥海は精神を研ぎ澄まし、水偵が見ている景色を認識する。

 何もない海。摩耶の水偵とはすでに距離は離れ、互いに視覚することのできないほどだ。

 上下左右素早く、そして正確に見回す。

 

 ……そして視界に入る、黒い影。

 

「ーーいました! 二時の方向、敵の数は八。戦艦二、空母一、重巡三に軽巡二ですッ!」

 

 鳥海が叫ぶ。

 その瞬間、長門は主砲の向きを変え、目を凝らした。

 

「よくやった鳥海! 武蔵もいい勘をしているな! 敵の状況を報告してくれ!」

 

 鳥海は再び水偵に意識を注ぎ、敵の様子を観察した。

 敵の旗艦はおそらく空母。

 そして敵艦隊はとても速いスピードで海を走っている。どうしてかそれが、鳥海には焦っているようにも感じられた。

 

「空母が旗艦と思われます。敵はこちらに気づいた様子はなく、最大戦速で航行している模様です……」

 

「歯切れが悪いな、ちゃんと報告してくれないとわからないぞ」

 

 まだ肉眼で確認できていない長門が鋭く指摘する。

 鳥海だってそれは分かっていた。戦場において、曖昧な情報が致命的なミスを犯す材料となることだってあるのだ。

 

 でも……それでも……これは……。

 

 鳥海はその姿に、心臓を握られるような圧迫を感じた。息の根が止まり、黄泉の世界へと突き落とされる錯覚さえした。生理的な嫌悪もした。

 きっとこれは恐怖だ。酸素を求めながらも、喉にこみ上げる、純粋な恐怖に深く咳き込み、ぐちゃぐちゃになった思考のまま呼吸をしようとし、肺が暴れる。

 胸が苦しくなり、さらに酸素の減った肺が、マグマのように灼ける。

 

「ゴホッ……ッ! ぅぅう゛っ、ッッっッ……!」

 

「お、おい大丈夫かよ鳥海⁉︎ 今結構やべぇ咳したぞ⁉︎」

 

 摩耶が鳥海の側に寄り、艤装が邪魔で背中に手が触れられないから代わりに肩を優しくさする。

 敵前だというのに、情けない姿を晒してしまい、唇を噛み締めながらなんとか息を整えた。

 

「っ、はぁ……はぁ……。ごめんなさい。少し、動揺してしまいました」

 

「それほどのことがあったということだな。鳥海、落ち着いて報告するんだ」

 

 依然長門はこちらに顔も向けずに話しているが、その声色からとても心配しているのだと分かってしまう。そんな見えない優しさに感謝しながら、鳥海はゆっくりと口を開いた。

 

「敵旗艦、空母ですが……オーラを纏っています。それも、私たちの知るような赤や黄色ではなく、真っ黒です。闇をも飲み込むような……漆黒です」

 

 ◆

 

 提督は常に出撃している艦娘たちに対し何かしら対応するため、一切の煩悩を排除し、殺意すら帯びるような覇気で椅子に座る。

 物音すら罪人だ。提督の集中を欠く全てが罪人だ。

 いつもは賑やかなこの鎮守府も、今日は驚くほど静かだ。それがこの鎮守府のルールであり、艦娘たちの、提督への配慮だ。

 大淀はもうこの空気には慣れた。他の鎮守府ではどうかは知らないが、一番妥当なものだと思っている。もしかすると他にさらにいい方法があるかもしれないが、これが提督のやり方だ。異論はない。

 しかし、そんな大淀が珍しくそわそわしている。

 普段ならば提督と大淀、そして長門か陸奥が執務室にいるのだが、今日は違った。長門は出撃しているため、陸奥がいるのだが、それだけではない。

 陸奥もそのことは理解しているが、平常心を保ち、ソファーに座って静かに目を閉じている。

 提督の隣で同じく黙って立っている艦娘。その子が大淀にはどうしても気になって仕方がなかった。

 机の上の大きな黒光りした無線機の金属板の反射で提督の隣に立つ艦娘……電を観察する。

 不動。とにかく不動。石像のように固まり、一定のリズムで呼吸で膨らむ薄い胸部が逆に妙な違和感を生む程だった。

 長い間、直立不動の姿勢を保つことはとても難しい。足が痺れたり、頭が重くなったり、ついつい指を弄ったりするのがだいたいだ。しかし電にはそれがない。まるで等身大の人形のようだ。

 大淀は一旦観察をやめて無線機に向き直る。大淀の仕事は現在出撃中の長門たちからの無線を受け止めることだ。

 とはいっても、いつもは『作戦完了。これより帰投する』の旨の連絡だ。

 ちょうど無線機に反応があったのを確認した大淀は今回はどんな感じで送ってきたのかをなんとなく想像しながら受けた。

 しかし、それは大きく裏切られ、書き写していた紙に震えた字が並べられることになった。

 

「……どうだ?」

 

 提督は顔をこちらに向けて静かに問いかける。

 

「『我、黒のオーラを纏う未知の空母深海棲艦と遭遇せり。是と苦戦中。蜘蛛の姿は確認せず。援護もしくは撤退の許可を求む』です……」

 

 陸奥がゆっくりと目を開ける。

 ここで撤退は推奨しない。

 長門たちが向かった海域はどちらかというとこの鎮守府に近い海域だ。野放しにするのは得策ではないし、あの長門が支援要請の無線を送ってきたのだ。よほどの相手なのは間違いないだろう。

 であれば自然と結論は支援派遣となる。有力なのは、赤城、加賀、川内、利根、筑摩、羽黒、足柄、黒潮、吹雪、浜風、不知火、深雪、夕雲あたりか。

 そう目星をつけた陸奥は無言で提督の表情をうかがう。

 何度か陸奥もそこへ行ったことがあるからわかるが、およそ1時間半ほどで着く。しかし支援となれば話は別だ。ここから目的地までは速さが勝負となる。そうなると低速艦の陸奥は暗黙の了解で除外となってしまうのだ。

 提督は何かを考えているようで深く頭を落としながら考えて、長い時間をかけてようやく頭を上げた。

 

「……電」

 

「11分。誤差は1分です、先生」

 

 いったい何を話しているのか、この時点では大淀と陸奥には何も分からなかった。

 11分とは何か。ふと時計を見てもその時間ではない。

 いやまさか……と陸奥は静かに悟る。

 そんなことは不可能だ。あまりに速すぎる。駆逐艦単騎で全速力で向かうとしても、とてもそれだけの時間ではあまりにも足りない。倍にしても足りない。三倍してもまだ足りない。

 意見具申をしてようと口を開きかけたが、電も、提督も冗談ではなく本気だったのが感じ取れ、おとなしく事の成り行きを見守ることにした。

 再び提督は目をつぶり、腕を組み、顔を上に向けて眉をひそめる。

 

「大淀」

 

「はい」

 

 返事と同時に無線機に向き直り、打つ準備を始める。

 

「長門に打電。援護を送る。10分耐えろ」

 

 ◆

 

 大きな水飛沫が上がる。

 海水を全身にかぶった摩耶は大きく舌打ちしながら狙いを定めた。

 

「当たれぇッ!」

 

 撃つ。

 だがそれは未来視したかのような精度で華麗に避けられた。

 

「クソッ! なんで当たんねぇんだよ!!」

 

 イライラが募り、ついに摩耶が爆発する。

 しかし、イライラしているのは摩耶だけでない。皆も同じだ。

 

『そこにいるのに、いない』

 

 そんな矛盾が起こっているようだった。

 黒い空母深海棲艦以外は撃沈してみせた。多少の連携のミスはあったが、なんとか安定を保つことができていた。

 だが今はもう、そんなものはとうに崩れていた。

 

「当たらないよ〜!」

 

 島風が弱音を吐く。

 駆逐艦の専売特許はその速度だ。その頂点に誇る島風ですらこの様である。

 空母と駆逐艦の速さを比べるのは愚かであり、初めから分かっていることである。

 敵空母は明らかに島風より遅い。なれば一発や二発命中するはずなのだ。必ず。

 しかし、島風たちには砲弾を撃たせる暇を与えられなかった。

 空母は本来艦載機を発艦、それらによる攻撃を主にしている。

 現状、6対1。しかし戦況は拮抗、もしくは劣勢になっている。原因は艦載機の正確無慈悲な攻撃。砲撃しようとすれば必ず邪魔が入り、接近しようものなら激しい攻撃に蹂躙される。

 

 もはやあの敵空母は、完全無欠の要塞である。

 

 表情を変えず、無言で未知の奇怪な艦載機を無数に発艦している。

 艦載機の色は赤く、片方だけ異常に巨大な目玉、口はなく、形状は気持ち悪いほどの正十二面体。発射口が後部にあるのと前部にある二種類がある。

 言い尽くせないほどおぞましい姿。それらが空を覆い尽くし、空を赤く染め上げる。

 ガングートはその気持ち悪さに唇を噛み締めながら対空射撃を行う。艦載機は無数にあるからきちんと狙わなくてもそれなりには命中する、と考えながら空に向けて乱射したが、驚くべき機動力で回避され、全く命中させることができなかった。

 

「なんなんだこれは……」

 

 絶望。

 逃げ場ももうあと数分もすれば埋められてしまうだろう。

 ガングートは迫りくる猛攻を必死に避けながら呆然とするしかなかった。

 

「耐えてくれ! あと少しで援護が来る! それまでどうか耐えてくれ!!」

 

 長門が声を張り上げる。

 無線機を降ろした長門が武蔵に空母を任せ、対空射撃に徹する。だがしかし、思うように撃墜することができず、長門もこれまでにない苦戦を強いられている。

 今回は武蔵の実践を兼ねての出撃だ。まさかこんな強敵はまるで想定外だった。

 これはもう特異個体に迫るほどの強さ。本隊による撃滅が当然であるほどだ。初出撃で、これほどの激戦に巻き込まれた武蔵は満更でない。

 

「ッ」

 

 経験の無さが浮き彫りになる。

 ちゃちな砲撃など敵は視界に入れることなく最小限の回避運動だけで済まされてしまう。

 さらにやけくそになった武蔵が連撃を放とうとすると、今度は意識の外側にいた艦載機からの攻撃をまともに受けてしまった。

 

「ぐっ、あッ!」

 

「武蔵ッ!」

 

 摩耶が叫ぶ。

 一刻も早く手助けしなければ。だが敵の攻撃が摩耶たちの動きを封じ込め、武蔵を孤立させようと意図しているのは明らかだった。

 

 10分。

 たったそれだけ待てば援護が来るのだ。

 異常な速さだが、それにとやかく言う余裕はない。

 長門は恐ろしいまでの集中力で艦載機の爆撃の嵐を掻い潜りながら最後、横に身体を大きく投げ出し空母へと連撃を放った。

 まさか撃ってくるとはよにも思わなかったろう、敵の意表をつくことに成功するが、ありえない反応速度で上半身を逸らし、砲弾は腕を浅く抉るだけだった。

 

「なんだと……!」

 

 海面に横腹が接触し、服が海水を含んで重くなったことなど感じられないほどの驚愕に、長門は絶句した。

 

「私がいくッ!」

 

 その隣を駆け抜けたのはガングート。その後ろを鳥海と摩耶が援護する。

 

「邪魔だ! 私一人で十分だ!」

 

 ガングートの叫びが艦載機の不気味な駆動音にかき消され、さらに激しい爆撃が耳を劈く。摩耶お得意の対空射撃の効果も今ひとつで、一方的に攻められている。

 

「お、ぉぉぉぉおおおーー……!!」

 

 ガングートが吠える。

 攻撃を当てられても、狂戦士の如く爆煙の中から鬼の形相で敵へと肉迫する。

 ついに敵はガングートを己に害を為す存在だと認知する。

 艦載機をさらに発艦。

 爆発。炸裂。爆砕。爆裂。破裂。

 この世の終わりにすら思えるような破壊音が海の静寂を打ち砕く。

 近くにいた島風はその爆風に紙切れのように軽々と吹き飛ばされ、深い傷を負った。

 

「ーーまだ、だああぁぁっっッ!!」

 

 黒煙を薙ぎ払い、中からガングートが再び飛び出す。

 艤装は破壊され、砲撃すらままならない。頭から血を流し、満身創痍だ。大破とも言えるガングートをそこまで突き動かすものはいったい何か。

 ガングートの視界が霞む。向かう目印は、深淵の黒。ただそれのみ。

 

 こいつに一撃をくらわせる! 必ず!

 砲撃できないのなら拳で!

 

 ギュッ、と拳を強く握りしめる。

 しかし、敵はまるで焦らず、逆に煽るように不敵に口角を上げてみせた。

 そんなこと、知るか。どうでもいい。

 腕を振り上げる。狙いは顔。その気持ちの悪い顔をグシャグシャにしてやる気概で。

 距離が五メートルをきる。

 あともう少しで『そこにいるのに、いない』敵に触れることができる。

 

 ーーそしてガングートは、ふと敵の後ろに、巨大な影がいるのを視界がうっすらと捉えた。

 

 極限まで瞳孔が開き、さっきまでの視界の悪さが嘘のように一気にクリアになる。

 まず認識したのは大きな目玉。それにガングート自身の姿がくっきりと映されている。内臓を含め、まるで全てを隅々まで見られるような、初めて感じる生々しい感覚。

 黒い巨体。

 四本の巨腕。

 それら全てにビッシリと砲門が並べられていて、どれひとつ欠けることなくガングートへと向けられていた。

 

「……ぁ」

 

 死んだ、と思った。

 さっきの敵のあれはガングートに対する嘲笑か。

 よく頑張ったな、だがさよならだ、と。

 これほどの敵、いったい誰が倒せるのだろうか。いや、例え連合艦隊で圧倒的火力で倒そうとしても、艦載機の攻撃で分断され、個々撃破されることになるのは明らかだ。

 そもそもこいつは何者だ。なぜこんなにも強い?

 ガングートはゆっくりと進みゆく世界で思いを紡ぐ。

 きっと駆逐艦やら軽巡やらではこいつは倒せない。それこそ戦艦12人で火力重視の編成で早期決着に臨むべきだ。

 しかしその12人の中にガングートはおそらく含まれない。なぜならここで沈むから。

 

 ーーだがそれでも、この拳をあの気に食わない顔にめり込ませるまでは、沈めないッ!!

 

 力の弱まっていた拳に再び力を込める。

 すでに沈むことは確定。

 あとは一発殴って沈むか、殴れずに沈むかのどちらかだ。

 竦んだ身体に喝を入れ、腰を少し落として腕を曲げる。

 ここでようやく敵の表情が明らかに変わる。驚愕だ。身を引き、ガングートの拳から逃げようとする。

 

「逃がすかかああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 背後の巨体の砲門が熱を帯びる。

 砲弾が撃ち出されるまで、あとおよそ0.6秒といったところ。

 それだけあれば十分だ。

 世界の遅延が解放される。

 ついにガングートの拳が左頬を捉える。渾身のそれは敵を吹き飛ばし、ガングートは嬉しそうに乾いた笑みをこぼした。

 しかし、背後の怪物は依然としている。万策尽きた。やりたいことはやった。静かに瞼を伏せ、来る死への切符が切られるのを待った。

 

「ーーその心意気、嫌いではないぞ。だが諦めるのは感心しないな」

 

 死を受け入れた矢先、ガングートの耳元で誰かの囁き声がはっきりと聞こえた。

 服を掴まれたかと思うと、グイッ、と力強く引っ張られ、後ろへと大きく投げ飛ばされる。

 

「⁉︎」

 

 刹那、無数の爆音が海を叩き、ガングートの元いた位置に大きく水柱が屹立する。

 まさかの乱入者にガングートは口の中に大量に入った海水を吐き出しながらその姿を目に焼き付けようとした。

 

「九分か……まだまだだな」

 

 元は軍服だった、ボロボロの外套。

 小さな背中に、外套がふわりと舞い上がれば、ギラリと黒光りする異形の艤装が姿を覗かせる。

 爆煙が突風に流され、全身が露わになる。

 長門が、摩耶が、鳥海が、武蔵が、島風が、そしてガングートが目を見張る。

 

「長門の要請により、駆逐艦電、ここに参上した。……ほう、これはなかなか面白そうな敵ではないか。殺し甲斐があって実にいい。お前たちは今日の夕食の話でもしながら帰ることだな。……こいつは、私の獲物だ」

 

 援護に来たのはたったひとり。それも着任して間もない暁型の末っ子。

 空母と化け物を前に、悠然と腕を組み、目を細め、余裕げに嗤ってみせた。




チート敵vs電ー壊ー

もっと文章力上げたいね。
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