なくならないもの   作:mn_ver2

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秋イベ告知されましたね!
自分、今度は難易度を上げて挑もうと思います。
あと、ゆーちゃんがろーちゃんになりました。「はいっ!」って部分が何か胸にこう……グッときました。


提督問答

 金剛は執務室で提督とふたりきりでお茶会を楽しんでいた。

 提督ともっと仲良くなりたかったから。そんな単純で、純枠な理由だ。

 とはいっても、金剛には提督と何をすればいいのか全くわからなかった。言い出しっぺがこれでは埒があかないと思い、妹達にアドバイスをもらったところ、お茶会と口を揃えたのだった。

 

「どうですか? 提督?」

 

「うーん……」

 

 いまいちそうな顔で提督は金剛の淹れた紅茶を飲む。

 正直に言うと、以前より質がガクンと落ちた。仕方ないと言えば仕方ないのだが、この落差が金剛を変えてしまった影響のひとつだと思うとどうもやりきれない気持ちになる。

 

「そ、そうですよね。『私』は紅茶を淹れるのなんて本を見よう見まねの初めてですからね……」

 

 金剛のすぐ側には紅茶の淹れ方の部分のページが開かれている本が置かれている。

 金剛は乾いた笑いをこぼしながら提督に差し出した紅茶を下げようとする。

 

「バッカお前、なんで下げるんだよ」

 

「え?」

 

 提督が金剛の手を遮る。

 

「せっかくお前の淹れた紅茶だ。もったいないし、嬉しいから下げなくていい」

 

 そのまま提督は紅茶をごくりと一気に飲んでしまった。

 

「あ……」

 

「まだまだだと思うのなら、もっと練習すればいい。……そうだ、長門がこそこそやっているのは知っているから、あいつに教えてもらうといい」

 

 言い終えた提督はお菓子に手を伸ばし、もそもそと食べ始める。

 長門のあれはあまり知られていない趣味だったはずだが、提督に知られているのはなんだか可哀想だ。きっとおそらく、そのことをカミングアウトされると羞恥に顔を真っ赤に染めるに間違いない。

 金剛はもそもそとお菓子を食べながら提督の顔をじっと見つめる。

 不細工でもなければイケメンでもない。実に普通な容姿だ。前の金剛はこの人に(過度な)スキンシップを図っていたのか。ふと長門に見せられた動画のことを思い出し、自分のことでもないのに恥ずかしさにぶぅん、と音が聞こえそうなほど素早く顔を背けた。

 

「どうしたんだ。なんだ? 俺の顔が不快だったか? ……あぁ、これは整形に直行だな。俺の貯金は……っと」

 

「いやいやいや! 違いますよ! そんなこと思ってませんから⁉︎」

 

 徐ろに財布を懐から取り出そうとする提督を金剛が慌てて止める。

 しかもよく見ると提督の財布はマジックテープで開け閉めする手のひらサイズのとても小さいものだった。

 

「今、俺の財布がダサいと思ったか?」

 

「……正直に言うと、ハイ。ほんの少しだけ……少しだけ」

 

「いいか、よく聞け金剛」

 

 お菓子の最後の一口を放り込むと、提督は立ち上がった。そしてビリリ、と財布を開いてみせた。

 

「俺には逆に、よくわからん革製の長い財布を持ちたがる理由がわからない。何よりも高い。それに大きさの問題もある。トドメに、財布はそう見せびらかすものじゃない。そんなことに金を費やすのはバカのすることだ!」

 

 語り終えた提督は満足げに座ると、またお菓子を食べ始める。

 

「提督は、その……変なところで捻くれてますね」

 

「安心しろ。自覚はしている」

 

「あ、あははは……」

 

 話がひと段落つき、再び二人はお茶会を始める。とはいってもやはり金剛には初めてで、紅茶を淹れ、お菓子を食べる。そしておしゃべりする。それだけしか妹たちは教えてくれなかった。

 もしかしたらふたりきりで、というのがマズかったのかもしれない。話題がなくなれば沈黙してしまうし、なんとなく話を持ち出しにくい。

 ならいっそ妹たちも呼んでしまえばよかったか、とちょっぴり後悔する。

 しかし静かに紅茶を飲むのもこれはこれでアリかもしれない。言い表すことが難しいが、簡単に言うと、落ち着く、だろうか。

 執務室の匂い。今座っている椅子の感触。雰囲気。すべてが金剛の心を落ち着かせる。

 

「そうだ金剛。最近海の上を走る練習をしているそうじゃないか。どうなんだ? 出来は」

 

「うーん……なんとかひとりで航行できるレベル……です」

 

 思い返し、苦笑する。

 加賀を巻き込んで何度びしょびしょになったことか。加賀には申し訳ない気持ちでいっぱいだが、それと同じくらいに深く感謝している。

 

「そっかそっか」

 

 それだけ短く返すと提督は再び黙りこんでしまった。

 

「提督」

 

「ん?」

 

 提督が顔を上げる。

 ポットからほのかに香る金剛の淹れた紅茶。澄んだ匂いが執務室全体を満たし、ゆったりとした空間を生み出す。

 

「私は出撃できるようになるのでしょうか……?」

 

 提督が身体をピクリと震わせる。

 

「ああ言ったのはいいものの、いつになったら私は皆の役に立てるのかなーって……でもでも! ちゃんと努力はしてるんですよ! この前は陸奥からいろいろ教わりましたから!」

 

 ふんす、と腕を立てる。

 皆、金剛に優しく接してくれている。建物内の知らない場所を潜水艦の子たちが教えてくれたり、資料保管室に「かも」と連呼しながら案内してくれた子もいた。

 そう、皆が皆、優しいのだ。それゆえに金剛の中で彼女たちの力に少しでもなりたいという思いが大きくなるのだ。

 提督は黙ったまま、聞いているのかいないのかわからないような様子だったが、手を伸ばしたかと思うと、お菓子を一つ渡され、「とりあえずこれでも食べておけ」と押し付けられた。

 仕方無しに受け取り、頭にクエスチョンマークを浮かばせながら食べ始める。

 

「うーん、どう……だろうなあ」

 

「……」

 

 意外な回答に金剛の動きが止まったが、まあまあ、と提督に鎮められる。

 

「正直に言うと、お前がそんなにはやく皆に追いつくなんて到底思ってないんだよな。そもそも戦闘のいろはを知らない。弾を撃てない。隊列の組み方を知らない。連携を知らない。……な?」

 

「ぅ……」

 

 痛いところを全て突かれ、呆気なくやられる。やっと航行できるようになったばかりの金剛には遠い先の話のように聞こえてしまう。

 何も知らないのだ。そして、ようやく1を掴み取っただけ。2も3も、まだまだある。これはいっぱい頑張らないと、と金剛は苦笑の裏でさらに苦笑する。

 

「まあ頑張れ。俺じゃなくて、艦娘たちから教わったほうがわかりやすいだろう。俺は海の上を走れないからな」

 

「提督も、脚部艤装だけ付ければできるでは?」

 

「無理無理、そこは人間と艦娘の違いっことよ」

 

 ひらひらと手を振り、提督は金剛の提案を潔く辞退する。

 そもそも人間と艦娘は似ているようでその根底は違うのだ。人間はもとより生物として存在しているが、艦娘は違う。人間の生み出した、非生物である鉄の塊から生物へと昇華した、未だその過程の完全理解ができていない創造物。しかし艦娘には心があり、肉体があり、血が身体の中に流れている。

 

「ううん……わからないです」

 

「俺もわからないさ。でもいつかはわかるだろ」

 

「なんて適当な」

 

「まあまあ」

 

 その時、針時計がちょうど午後四時をさし、古い鐘がゴゥン、ゴゥンと鳴る。

 

「ん、もうこんな時間か。仕事に戻らないと大淀に怒られてしまうな。そろそろ切り上げたいんだが、いいか?」

 

「はい。今日のお茶会、楽しかったです。またいつかお茶会しませんか? 今度は妹たちも一緒に」

 

「……比叡らも一緒でいいのか?」

 

「もちろんですよ! ふたりきりでも十分楽しいですけど、人数が多ければさらに楽しいですからね!」

 

「……そうか。じゃあ今度はそうするといい」

 

「はい!」

 

 屈託のない金剛の笑顔に提督は魅せられ、つい顔を背けてしまう。

 記憶を失ってもその肉体は金剛である。提督の以前の記憶を少なからず刺激し、英語訛りの目立つ彼女とすべてが重なってしまう。変わらぬ笑顔に提督は嬉しさ混じり、哀愁混じり、そして愛おしさ混じり。様々な感情が渦巻いた。

 簡単に片付けを済ませ、とうとう金剛は執務室を出て行ってしまった。夕飯までは時間はたくさんあるから、きっとこの後にでも比叡たちから色々学ぶのだろう。

 全く、勤勉なことだ。

 ふ、と心の中で微笑み、ペンを手に取り、これから執務にかかろうとしたその時。ドアが力強くノックされた。

 

「ん⁉︎」

 

 突然のことに驚き、危うく書類に書こうとしていた文字が滑りそうになった。

 大淀が来るにはまだ早すぎる時間だ。さらにこのノックの仕方、怒っているかそれとも急いでいるかのどちらかしか考えられない。しかし大淀が怒るようなことをした覚えは提督には毛頭ない。ということは……急いでいる、か。

 どうせ卯月らへんがいたずらして収拾がつかなくなっているのだろうと提督はやれやれと入室を促した。

 だが、入ってきたのは大淀ではなかった。

 

「失礼する」

 

 ガングートだ。それに提督が観察したところ、どこか興奮状態に陥っている気もする。

 あくまで平然に。提督はゆっくりとペンを机に置くと、机の上に手を乗せた。

 

「できれば丁寧にノックして欲しかったんだがな。で、どうしたガングート?」

 

 ガングートは無言のままズカズカと机に近づき、手を伸ばせば簡単に手が届くほどの距離にまで迫った。

 

「それはすまなかったな。それよりも貴様にどうしても訊きたいことがあるのだ」

 

「訊きたいこと?」

 

「そうだ」

 

「あの出撃のことか? あれは俺の判断ミスだ。あのような事態を想定でき……」

 

「違う、そうではない」

 

「ならなんだ?」

 

「わかっているだろう?」

 

「……」

 

 事実として。先の出撃においてガングートたちは手痛い目にあった。彼女たちは提督の指揮下で行動する部下たちである。そして何かしら損害が発生すれば、もちろんそれを指示した上司、つまり提督に責任が乗りかかるのだ。

 つまりこれは予想外の事態を予想できなかった提督の裁量ミスとしか言わざるを得ない。

 沈黙が流れ、提督とガングートの視線が交差する。獰猛な獣が如き眼力が提督を容赦無く突き刺す。しかし提督はそれをもろともせずに見つめ返した。

 

「電のことか?」

 

「ああそうだとも。抽象的にはあの援護部隊。具体的にはあいつだ」

 

「それがどうしたんだ」

 

「なぜあの駆逐艦しか送り込んでこなかったのかが納得できない。そもそも駆逐艦ごときが長門も攻めあぐねるあの深海棲艦に無傷で勝利だと? ……ハッ、とんだピノキオだな」

 

 高く鼻で笑う。

 ガングートの電への疑いは深まるばかりだ。電にとってはそんなことなどどうでもいいのだろうが、ガングートは違う。おそらく電のことをただ異質な服装の駆逐艦としか思っていない。その本質を知らずして、なお嫌悪感をありありと表に出す。

 

「電を送ったのは俺の判断だ。事実としてお前たちは電に救われた。それのどこが問題なんだ?」

 

「ああ。確かに私たちはあいつに敵を任せて撤退した。私が訊きたいのはそこしゃない。あいつに『そこまで』の力があるのかという疑いだ」

 

「電の実力を疑っているのか?」

 

「そうだとも。報告書にはああ書いてあるが、嘘なのだろう?」

 

「本当だ」

 

「鼻が伸びるぞ」

 

「伸びないさ」

 

 このままでは話が平行線になるのは明らかだ。

 嘘だと一点張りのガングートは、机を力強く叩きそうな覇気すら漂わせながら提督を問いただす。金剛の淹れた紅茶の残り香が部屋に淡く広がっていたが、すでにそれは消えてしまっていた。

 

「言っておくが、あの子はそこら辺の艦娘とは天地の差ほど実力が極まっているぞ」

 

「馬鹿な。もしそれが本当なら先日の出撃だって、私たちではなくてあいつの単機出撃でいいじゃないか」

 

「それは……無理だ。上からの縛りでな」

 

「なんだそれは。何かやったのか?」

 

「……まあ、やったな。俺も一緒だったけど。探るなよ? 面倒くさいことになるから」

 

「……」

 

 提督の、なんとも言い難い、深淵の闇を視界いっぱいに広げられたような感覚にガングートが訝しそうに表情を変える。

 この男の抱えるナニカはおそらく相当のものなのだろうと大人しく引き下がることを決める。

 

「電は必要最小限のコミュニケーションしか図ろうとしないが、基本的に来る者は拒まない。どうだ、近々電が教鞭を振るうことになるがここはひとつ、受けてみたらどうだ。あいつのことを理解する一歩には十分なりえるだろうよ」

 

「前に一度だけ口を交わしたが、分かり合えることはない」

 

「まあそんなこと言わずに。一度だけで印象を決めつけるのもどうかと思うぞ」

 

「……」

 

「よし、ならこうしよう。提督命令だ。ガングートは電の授業を一週間受けて来い」

 

「……チッ」

 

 ガングートは小さく舌打ちをして踵を返す。そして荒々しく歩くと不満をぶつけるようにドアをバン! と開いてみせた。提督はその様子を表情ひとつ変えることなく見ている。

 ガングートは最後にひらりと頭だけ後ろへ向けた。

 

「実に遺憾だが、命令となれば是非もなし。だが、これだけは覚えておけ。私は、決して、あいつを認めない」

 

 最後の部分だけ強調してとうとうガングートは去っていった。

 

「やっぱり衝突は避けられない、か」

 

 ガングートはそこまで傲慢な艦娘ではない。と、他のいくつもの鎮守府から耳に届いている。もちろん多少は怖いところはあるが、根は優しい奴だと。

 これが『個性』ということか。提督はとんだ問題児を引き入れてしまったと舌を巻く。だが反省はしていない。後悔もしていない。彼女をいかに更生させるか。直接的であろうと、間接的であろうと、ここぞ提督の実力の見せ場に他ならない。

 手駒は打った。あとは電がやってくれる。

 

「チェックメイトだな」

 

 さてさて、それでは再び執務に戻るとするか。

 大きなあくびをひとつ。紅茶の味が忘れられず、思い出しながらペンを踊らせ淡々と処理する。

 今はまだ全てを温存するべきだ。資材。武器。設備。艦娘。この鎮守府には蜘蛛に対抗する力は万全ではない。しかし術は手に入れた。

 順調だ。頗る順調だ。

 耐えろ。我慢しろ。刃を研がせろ。必ずそれらは蜘蛛の喉元に届くことになる。

 熱を滾らせよ。しかして静寂にて。

 きっと電も同じ気持ちだ。運命を共にした過去を持つ電なら、もしかすると提督以上かもしれない。ふつふつと彷彿する血の興奮を抑えるのに精一杯だろう。

 

 ピロリン、と机の上に置いていた携帯がバイブレーションで震える。

 スス、とフリックして耳に当てる。

 

「もしもし。……そうか。よくやったな江本。これでお前への『目』も厳しくなるだろう。しばらく休息を与えるから、どうか『ゆっくり』してくれ」

 

 ◆

 

 艦娘とは何か。

 それは永遠のテーマであり、シャーロック・ホームズも興味深さに我を忘れるはずだ。

 明石は自身の裸体の写真とよくある医学に使われるサンプル写真を見比べながら唸る。

 艦娘と人間の外見ははっきり言うと、同一だ。追求して言うならば、艦娘は必ず女性であり、かつ顔が整っている。

 

 ……では、いったいなぜ『そう』なのか。

 

 艦『娘』と呼ばれているのだ、そういうものと自然に自己理解しているが、果たして男性の艦娘は現れないのか。顔の整っていない艦娘は現れないのか。江本から密かに手伝ってもらい、ほぼ全ての鎮守府の艦娘の情報をざっと眺めたが、そのような例外的な情報はゼロだった。

 提督は裏でこそこそ何かをしているらしく、それを誰かに打ちあけようとは決してしない。ならば私も、と取り組み始めてみたこの疑問。

 敵の正体を知ることは非常に大事だが、まずそれ以前に己のことを理解しなければならない。

 明石とて過去は船。人の造りしモノとして使われ、今はこうして背もたれ椅子に座って器用にペン回しをしている。

 

「ん〜……」

 

 ある仮説を立ててみた。根拠もない、確信もない、突かれると崩れやすい考えかもしれないが、ついさっき、ようやく完成までこじつけた。

 それは、艦娘が女性である理由。

 戦艦に駆逐艦。補給艦や工作艦など、過去の戦争で活躍し、花を散らした、もしくは生き残った船たち。

 船は乗員を守るような存在ではないか? と突拍子もなく思い浮かんだことがそれだ。女性は男性よりも遥かに痛覚に耐性があるという。実際、女性が出産するときの痛みは想像を絶するものらしいし、おそらくそうなのだろう。

 そこから概念的な何かが結びついて、艦娘として顕現する際に女性として型がーーいっそ運命とでも言うかーー定められる。そう結論づけた。

 もちろんぶっ飛んだ超理論であることは明石自身も十分にわかっている。それでも自分を一時的にでも納得させられる何かが欲しかった。それだけかもしれない。正直、当たっているかなんてあまり気にしていない。

 コーヒーをずずずっ、と啜ってベッドで横になる。徹夜明けだから頭が少しズキズキして痛い。今の時間もわからない。もう確認するのも億劫だからいい。どうやらここ最近は暇だから自己管理が曖昧になっているようだ。

 これははやく直さないと、と反省しながら布団に潜り込む。

 

「ふああぁぁ……」

 

 しょぼしょぼとした目を閉じ、秒で眠りへと入る。

 明石の真相追求は、まだまだかかりそうだ。




直後、改修に来た長門に快眠を妨げられた明石は、不満に頬を膨らませながらさっさと改修を済ませた。なぜ怒っているのかわからない長門は、オロオロしながら帰りましたとさ。

ガングート、今作ではちょっと性格悪めに描写していますが、ちゃんと更生させます。どう更生させるかって? それは……ねぇ?
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