自分はしました。E7を丁で。ハイ。
でもE7掘りは無事終了。グラ子が二人も来てムフフ。
ところでE3で秋月がドロップしないのですが、どういうことでしょう?
車の割れた窓から流れ込む風が身が凍えるほど冷たく感じる。それはただの冷たい風か。もしくは殺気の孕んだ風か。
長門は泣き叫びながら、ミラーから見える、まるで冥府からの使者のようなドス黒い複数の車に恐怖した。
陸奥はとうの昔に放心状態。大淀は夢の世界。電は適確に江本に指示している。
「左から二台、大型トラックです」
「いけそうか!」
「余裕です」
「了解ッ! と!!」
ぐるっ! とハンドルを回し、明らかに対向車線に乱入する。
そして瞬く間に目の前にトラック2台が肉迫する。長門は大きく眼を見開き、今度こそ間違いなくここで死ぬと悟った。海の上で死ぬのならまだしも、陸で死ぬとはなんと無様なことか。
しかし、江本は器用に車体を制御し、右側を浮かせ、二台が避けようとして生まれた隙間にギリギリ入り込んだ。タイヤをトラックに接し、ルーフをガリガリと削りながら1秒にも満たない刹那を耐え切ってみせた。
車体が地面に平行になった瞬間、大淀の方の窓ガラスが勢いよく割れた。
「本当に逃げきれるのだろうな⁉︎」
「大丈夫だぜ、ビッグセブン様。なかなかのスリルだろう? 折角だから楽しめって。よっと!」
サイドミラーから、銃を構えた男の顔が見えた瞬間、ハンドルを切り、射線を逃れる。
長門は深く、深く。とても深く後悔した。
こんなことになるのなら、らしからぬ真似だが、仮病を使ってでも今日は来るべきではなかった、と。
◆
「大丈夫かい? 迷子にならないように俺の手を握るか?」
「賛成です。そのまま一緒に警察署に行きますか?」
「……やっぱやめとこうか」
「無難です」
江本のお誘いをトゲトゲしく断り、電は大淀の横についた。
イルカのショーも終わったところで、人ごみの中彼女たちは昼食をとるために移動している。
「ねえ? あのショーは1日に複数するのよね? 次は何時からかしら」
興奮を隠さず目を輝かせて問う陸奥に、やれやれと長門がパンフレットを開く。しかし、その表情はとても楽しそうで、艤装を装備すればその迫力に恐れおののくビッグセブンだなんてとても思えない。
「あそこにするか」
江本が指差したのはオムライス屋。可愛らしいパンダやイルカなどをケチャップで描いてくれるそうだ。
皆、文句なしの一致で店に入り、江本がメニュー表を開いた。
「お、意外にメニューはしっかりしているんだな」
動物園の中にある店だから、せいぜい四種類ほどしかないだろうと侮っていたが、どうやらそんなことはなかった。
明太子クリームやらなんやらで、むしろその手の凝り具合に舌を巻くほどだ。
「全員決まったか?」
江本の手元を覗きこんでいた彼女たちは首を縦に振った。
思いの外、料金は高く、特に長門と陸奥は戦艦なだけに、食べる量も多い。仕方ないといえば仕方ないのだが、出費がかさみ、財布が少し寂しくなる。
あれやこれやとフランクフルトやら動物のキーホルダーやら鎮守府の皆へのお土産やら。何かにこぎつけて江本の財布の紐を緩めようとする。無意識か? 無意識なのか?
「……ふぅ、楽しいな」
長門がすぅ、と眼を細め、呟いた。
「なかなかこういう機会は訪れないから、どうもはしゃいでしまう」
会計を済ませた江本が長門たちの元へ戻ってきて、バニラ味のソフトクリームを二本渡した。
「俺の手は2つしかないからな」
「ありがたい」
「こういう時はな、全力で遊ぶべきだ。俺も、お前たちも色々と堅苦しい生活を送っているんだからな。バチは当たらないさ」
長門は受け取ったソフトクリームの一本を大淀に渡し、残り一本を陸奥と分けあう。どうかと江本に進めてみるも、いや、いい。と断られる。
「私服を着ることすら滅多にありませんでしたからね。鎮守府内でも正装と言いますか……制服と言いますか……が板についてましたので、なんだか新鮮な感じです」
「そうだぞ大淀くん。君たちのその可愛さは俺にとっては眼福なのだよ。両手に、いや、全方位に花畑。これは昇天しても悔いは無い」
「そ、そんな。大げさですよ」
煽てられた大淀は必死にかぶりを振るが、それはかえって江本の心をときめかせるばかり。
うさぎエリアでは、口をもぐもぐもそもそと一心不乱に動かす様に、初心に戻ったような無垢な表情で興奮していた大淀にはもはや言い逃れはできない。
「よし、そろそろ帰ろう。閉園時間に帰ったら渋滞で心をガリガリと削られるからな。お前たちも早く帰りたいだろう」
江本が腕時計を見るや否や突然言い出した。電もそれに賛成のようで、深く頷いている。
「私たちには役割がある。息抜きも確かに必要だが、抜きすぎはいけない。私も明日から講義をしなければならないからな」
「講義? ああ、そうだったな」
「どうだ長門? 参加してみるか? 誰でも歓迎なのだが」
「うむ……。明日の予定次第だな」
長門が残念そうに言う。
そもそも講義をするのは重巡の子たちがしている。特に足柄の講義は評判がいいらしいのだが、毎回恋愛ネタを聞かされて、もしかして同情されているだけかもしれない。
ともあれ姉妹艦の気前よくやっている。
口惜しそうな陸奥を長門がやや強引気味に引っ張る。鎮静剤としてイルカのぬいぐるみを江本の財布から買ったのだが、まだ少し涙目になっている。
周囲の人の目線に、大淀は恥ずかしながら長門を手伝う。
「……ふん」
チラリと後ろを振り返った電が小さく鼻で笑う。
「言わなくていい。たった今、提督が俺にしてほしいことを理解した」
と江本。
「それは良かったです。頑張ってくださいね?」
「言われなくとも。それが提督の思し召しというのならば」
◆
「寝ることをオススメするとはこういうことだったかッ!!」
「ああそうだ長門! おかげさまで大淀くんは今頃余韻に浸っているだろうな!」
少しひらけた道路に出たかと思えば突然カーチェイスが始まり、まったく状況が飲み込めない長門が声を荒げた。
割れた大淀側の窓からさらに風が吹き込み、長門はぶるりと身を震わせる。
「そもそもあいつらはなんなんだ⁉︎」
「さあな。確かに分かることはひとつ。俺たちを知っているということだろうな。……おっと、頭を上げるなよ? 被弾したら死ぬかもだぞ?」
「人間の銃など艦娘の私には効かぬわ」
「言っただろ? 敵は俺たちを知っているんだ。なら対艦娘用の銃を持っていることを想定しろ」
瞬間、左のサイドミラーが爆ぜる。
「そんな……!」
「この先は完全に赤信号です。突っ込みますか?」
目の前では車が二台止まっている。だが、その右車線は空いている。
「もちろんだとも」
ニヤリと笑ってみせ、江本は江本は大きくハンドルを右にきった。そしてすぐ左へ。
「も、もっと優しく運転できないのか⁉︎」
「なんだって? もっと荒々しく? よし、任せろ!」
「違うーーッ!!」
長門の悲痛の叫びも虚しく、車体を大きく揺らしながら車線変更すると、そのまま交差点へと飛び出した。
言うまでもなく、突然のことながら割り込んできた江本の車に驚き、複数のクラクションが夕日の霞む空をスパイスに遠く反響する。
左から肉薄する三台の車を、ブレーキの絶妙な踏み具合で回避する。すれ違う瞬間、その機動力に口をポカンと開ける運転手たちに、長門は心の中で謝った。
なんとか通り抜け、一気にアクセルペダルを踏んで速度を100km/hまで上げる。
背後でクラッシュ音。遅れて爆発。
「一台排除。残り二台です」
「よし、電。俺の腰に銃があるから使うんだ」
そう言いながら江本は腰を助手席の電に寄せる。
「五発装填している。反動が強めだから、肩を持っていかれないようになッ!」
「わかりました。しかし、今の状態だと撃てません」
「無茶な注文するなぁ⁉︎」
「それでもやるのでしょう?」
安全装置を解除する。
江本は無言だ。しかし、口角をわずかに上げる。
車と車の間を縫い進む弾丸のように一切速度を下げることなく突き進む。
「お、おい! 何か大きいのを持っているぞ⁉︎」
チラリとバックミラーから見えた、敵の助手席から覗く、遠くてもよく視認できる黒い筒状のものに、長門は叫んで江本に伝えた。
そしてその数秒後、正体を理解した長門は眼を大きく見開いた。
「ーーRPGッ⁉︎」
「ロケランなら逆に好都合だ」
「気がおかしくなったのか⁉︎」
江本の発言に、長門は自分の声が裏返っていることも気づかないほどヒステリック気味に叫んだ。
「電。俺がタイミングをつくる。それに合わせるんだ。いいね?」
「わかりました」
歩道に乗り上げ、花壇に植えられていた花々を散らし、白い花びらが舞う。
「まっすぐだと奴らの攻撃がッーー」
「……黙れ。今お前が一番邪魔であることを知れ」
一片の温情も感じられない、冷徹な電の言葉に、長門は押し黙った。
なおも江本は銃弾の雨をくぐり抜け、電は発射のタイミングを見計らっている。
「何を見て何を感じるのかはお前の自由だ。だが、私たちの邪魔は許さない。これ以上騒ぎ立てるのなら蹴り落とすぞ」
銃口を長門に向ける。
車の外からも、中からも、殺意。
押しつぶされたカエルのように長門は縮こまった。考えてみれば電の言う通りだ。自分だけ馬鹿みたいに騒ぎ、ふたりに迷惑をかけている。
「……すまない、気を……つける」
「それでいい。だが、気づいたことは必ず伝えろ」
「わかった。全力でかかる」
再び電は銃口の向きを変える。
「完全に標準されました」
「了解。一瞬だけ隙をつくるから、そこで確実に潰すんだ」
そも、こうなったのはなぜか。
江本が大きくハンドルをきり、ボシュッ! という発射音が聞こえるまでの刹那、長門はそんなことを静かに考えた。
普段から艦娘も鎮守府の外へと足を運ぶことはある。確かに申請やらしなければならないが。
だいたいはちょっと私服を買いに行くとか、ちょっとゲームソフト買いに行くとか、それぞれだ。それにこれまで一度も大きな問題が起こっことはない。せいぜい大雨に見舞われて帰ることができず、提督に迎えに来てもらった程度だ。
ところが今日はどうだ。これは果たしてこの男のせいなのか?
ーー瞬間、爆音。
◆
黒禎……の護衛の男。あいつは要注意人物だ。ごそごそして落ち着かないやつと思わせたかったのかは知らないが、手に銃を持っていたのは明らかだった。あの時の姿勢が詳しく語ってくれている。
このことを伝えたら霧島とサラは怖がるだろうから黙殺する。
提督は溜息を吐き、執務室に入る。椅子に座り、机の引き出しからノートパソコンを取り出し、ズボンのポケットからUSBを取り出し、差し込む。
電源ボタンを押しすとブゥン、という起動音が鳴り始め、20秒ほどで起動した。
面倒な起動シーケンスに欠伸をしながら待ち、終了を確認した後、USBから読み込んだ情報をクリック。それは動画のようだ。ウィンドウが開き、日付が表示される。
「9年前か」
映されたのはどこかの大広場。
ご立派に壇を用意されていて、そこに白衣を着た一人の男が立っている。後ろには大スクリーン。男のPCのホーム画面をキャプチャしていた。
どうやら集会のようだ。それも結構重要な。その証拠に、お偉いさんが多数いるのを確認した。
ガヤガヤと自分主流で話していたお偉いさんたちだったが、男が静かに手を挙げると、皆が談笑を止め、男に視線を向けた。
『本日はお集まりいただきありがとうございます』
なかなか律儀な男だ。丁寧にお辞儀をして、ではともったいぶった話題もなしにいきなり本題に突入するようだ。
『……かつて、被弾することを前提とした軍艦が存在しました。それらを用い、戦争が繰り広げられました。しかし、近年は被弾しないことを前提とした軍艦が脚光を浴び、イージス艦という高性能の軍艦が人気を総取りしています』
スクリーンには、モノクロの昔の軍艦の写真と、イージス艦が映される。
うんうんと首肯する人たちに、男はまあまあと宥める。
ーーそして、スクリーンに映された軍艦2隻に大きくバツ印がつけられた。
動揺し、憤慨して野次を投げる者もいたが、男はそれを無視して続けた。
『しかし、それらに終止符が打たれる時が来ました。もはやイージス艦などただの鉄屑。時代は……文明は進化し、新たなステージへと進むのです』
男は大きく手を広げ、そう言ったのだった。
長門さんが完全に弱腰。
ふと思ったんだけど、浜波と、初雪と望月の絡みが面白そうな気がする。