〝ホロウ・ストレア〟を看取るついでに休憩をして、気力を回復させてフロアボス攻略に突っ込んで行ったのは良かったがダメージが全くといいレベルで入っていない。見た所、ドッドも入っていないんじゃなかろうか。
「キリト、説明」
「弱点の宝石以外にはダメージが入らないと思った方が良いぞ」
「ざっくばらん過ぎる説明どうもっと」
キリトの説明を受けてダメージが入らなかった理由を把握したところで〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の振り下ろされた手を回避する。そのまま続けてくるであろう追撃を警戒するが、どうにもタゲはキリトが取っている状態らしくて俺の事は無視して〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟はキリトに向かって手を振り下ろしている。
弱点らしい宝石以外にはダメージが入らないのならばこの場で攻撃する意味は無いのでキリトは回避に専念するだろう。だったら大丈夫だと思い、ネームドボスを斬り殺しているストレアの元に向かう。
「よう、元気してるか?」
「ウ、ウェーブ!?もう大丈夫なの!?」
俺に気がついたストレアが返り血とは別に顔を僅かに赤らめながら一歩引いたがそれを気にしている余裕は無い。
「あぁ、気力だけの問題だったから自然回復でどうにかなるしな。んで、本題はこっちだ」
背中に下げていた両手剣を引き抜いてストレアの目の前に突き刺さす。
「それって……」
「両手剣〝インヴァリア〟。スペックは魔剣クラスで要求ステータスはストレアなら足りてるはずだ。確認したらボス特効が付いてる。使えよ」
「で、でも、これって〝ホロウ・ストレア〟の剣じゃ……」
そう、ストレアも気がついたがこの剣は〝ホロウ・ストレア〟が使っていた武器だ。〝ホロウ・ストレア〟が死ぬのと同時にドロップしたアイテムである。
「確かに、ストレアが使うよりも俺が使う方が彼女は喜ぶかもな。だけどこれは間違い無くストレアへの武器だ。ここのところ見てみろよ」
そう言って指差したのは鍔の部分。
そこには〝
「それと、〝酷いことをしてゴメンね。どうか負けないで、この世界で生きて〟だってさ」
「ーーー」
恐らく〝ホロウ・ストレア〟はストレアに仕出かした事を、ストレアの正体がAIであると言う事をバラしたのを悔いていたのだろう。そうでなければ〝インヴァリア〟に字なんて彫らないし、謝罪の言葉なんて残さない。
〝ホロウ・ストレア〟であったAIの気持ちを理解したのかストレアは顔を俯かせ、そして〝インヴァリア〟を手に取り、背後から迫ってきた新たなモンスターを
「ーーーありがとう。貴女の気持ち、受け取ったから……お姉ちゃん、頑張るから……この世界で、頑張って生きるから……!!」
感涙なのか涙を流しながらストレアが宣言したのはこの世界で生きるという決意表明。初めて手にしたはずの〝インヴァリア〟をまるで長年使っていたかのように自在に振り回しながら〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が産み出すネームドボスを含むモンスターたちを豪快に、一撃で葬り去っていく。
その姿があまりにも綺麗で、その決意があまりにも尊くて、一瞬であるが俺はストレアに心を奪われてしまう。
そして背後から感じた殺気で正気に戻る。振り返るとユウキがモンスターを達磨にしながらこちらを睨んでいた。〝アルゲート〟からも殺気を感じるのは恐らくシノンだろう。どうやらヤキモチを妬かせてしまったらしい。
恋する乙女って怖いなぁ。
「ウェーブさん!!」
「休憩は済んだか?だったら殺るぞ。メインは俺とキリトとコタロー、あとは取り巻きの処理を頼む。ティアマトからも注意を晒すなよ?虫みたいに潰されて終いだからな」
「遅れてきて偉そうに……!!」
「超ゴメンね」
「誠意が感じられない!!五十一層のスイーツで許します!!」
「了解」
軽い口喧嘩をして、アスナは向かってくるモンスターの群れに
アスナはさっき、五十一層のスイーツで許すと言った。まだ解放されていない階層の、だ。それはつまり、勝つつもりでいると、まだ闘志は衰えていない事の証明。今のメンバーの中で一番メンタルが脆そうなアスナがこの調子ならば、まだ戦える。
「コタロー、腕と尻尾以外に何か攻撃ある?」
「頭の蛇の目が光ったらタゲを取られているプレイヤーの周囲一帯が爆発します。ちょうどあんな感じで」
手の振り下ろし、尻尾の薙ぎ払いを避けていたキリトだったが、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の頭部の蛇の目が妖しく光り、キリトのいる周囲一帯が爆発した。爆風で吹き飛ばされながらキリトはアイテムポーチからポーションを取り出して飲んでいる。
見た所部位欠損が発生するような攻撃では無い、だが一撃でキリトのステータスでイエロー手前までHPが一気に減らされている。腕と尻尾がどう考えても一撃必殺な事を考えれば低い方だがそれでも回避が困難な攻撃であのダメージは厳しい。
他にも隠し球がありそうだが現状で使ってくるのはその三つくらいだろう。腕を振り下ろして尻尾で薙ぎ払い、時折空間を爆発させている〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟を見て、一つ考えが思い付く。どこからどう考えてもロクでもない物だが、思い付いてしまったのだからやるしかない。
コタローに所持している爆弾の数を訪ね、俺の考えを話すとドン引きされてしまった。
「それやるんですか……というよりもそんなこと出来るんですか?」
「多分出来るだろうし、失敗してもダメージは与えられるから。それにさ……あいつ、頭が高いと思わない?」
「フロアボス相手にそんな反応が出来るウェーブさんの方が頭が高いと思いますけど」
ドン引きしているがコタローも〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟に何か思うところがあったらしく、爆弾の準備を始める。
「そいじゃあキリトに説明は任せた」
「了解しました」
靴を脱ぎ捨てて〝妖刀・村正〟と〝妖刀・不知火〟を握り直し、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が手を振り下ろした瞬間に突貫する。手は拳では無くて広げた状態、幾ら攻撃しても回避される事に焦れたらしい。手が地面に当たる直前に跳んで発生する衝撃波を躱し、手に飛び乗る。
手に俺が乗った状態だというのに〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟のタゲはキリトに向けられたまま、俺のことは眼中に入っていないようでそのまま持ち上げられる。
足場が揺れた事で体勢を維持するのが普通ならば困難になるだろうが爺さんから足場が不安定な状況や激しく揺れる状態でも戦えるように教育されているので問題ない。
そのタネは足にある。爺さん曰く、足場とは踏む物ではなくて
あのジジイ、一体どんな状況で戦う事を考えていたのやら。
やっぱり我が家は一度滅びた方が良いんじゃないかと考えながら〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の腕を伝って肩に登り、額の宝石を無視して頭の上に到着する。人間なら髪の毛が生えているのだが〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は髪では無くて蛇が生えている。しかも視界に一杯に、大蛇レベルのサイズの蛇だ。〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟のタゲは未だにキリトに向けられたままだが、蛇は登ってきた俺を認識して威嚇の奇声をあげている。
それを無視して蛇の根本を斬り捨てる。
頭部という繋がりが無くなった事で地面に向かって落下する蛇を無視して新たな蛇を斬り捨てる。あの厄介な空間爆発がこの蛇によって行われるものならば狩り尽くしてしまえば出来ないのではと考えたのだ。例え使えたとしても範囲が狭まるか威力が低下するくらいはあるだろう。
威嚇を止めて襲い掛かってくる蛇を斬り捨てていると視界が暗くなる。予想していた通りに〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が動いたようだ。とは言ってもタゲはまだキリトのままでHPは全く削れていない。痒いから手を伸ばしたくらいの感覚だろう。それでもこのままでは押し潰されるのは目に見えている。
なので、頭から飛び降りた。
その途中で額にある宝石を斬る。
ダメージを受けて額を押さえながら仰け反る〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟。それを無視して胸部に着地し、胸元の宝石を斬る。額に続き、胸元まで攻撃されて悶える〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は俺にタゲを向けて払い落とそうと手を伸ばしてくる。
それを〝妖刀・村正〟を納めてから〝縮地〟でほぼ落下する様にして地面に向かって駆け出し、一瞬で加速。その状態のまま身体に〝妖刀・不知火〟を根本まで突き立てた。そんな事をすればどうなるのか簡単に想像出来る。
突き立てた〝妖刀・不知火〟が〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の身体を斬り裂く。止まる為に突き刺したのでは無くて斬り裂くために突き刺したので静止をかけるどころか更に加速。最高速度まで加速しても足を止める事なく斬り裂いていく。
そんな事をされれば流石にたまった物ではないのか〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は傷口を押さえようとして手を伸ばしながら前のめりになる。
「ーーー
「ーーー
前のめりになった瞬間、背中から駆け上がっていたキリトとコタローが到着。キリトは威力重視で打撃系統のソードスキルで、コタローはエクストラスキル〝手裏剣術〟の投擲した手裏剣の数を増やすというソードスキルで後頭部を強襲。キリトのソードスキルで発生した
「まずは1ダウンだ」
ストレア、〝インヴァリア〟を入手。〝ホロウ・ストレア〟からのドロップアイテムって事にしておきました。
手裏剣術のソードスキルはオリジナルで。〝疾風怒濤〟は投げてから着弾までの間、空中で投げた手裏剣が増えます。
頭が高いからって巨大なボスの頭を地面に着けようと考えて実現させるキチガイがいるらしい。
あと恋する乙女って怖い。