闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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創世の女神・20

 

 

最高速度で半ば落下していたので地面を弾みながら衝撃を分散し、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟を見る。

 

 

ついさっきまで高い所から俺たちを見下していた〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟だが今では地面に顔を着けている。その姿に気分を良くしてアイテムポーチからタバコを取り出して火を点ける。HPは幾らか削れたとは言えまだ8本半も残っていて、その上学習されただろうから同じ手段は通じないだろう。それでも気分が良くなるのは抑えられない。

 

 

「ハッハッハ!!ザマァ!!ねぇどんな気持ちどんな気持ち?さっきまで散々見下してたのに強制的に頭下げさせられてどんな気持ち?ちょっと教えてよ!!」

 

「鬼畜過ぎやしませんかね!?」

 

「諦めろコタロー、普段よりもぶっ飛んでいる気がするけどあれがウェーブだ」

 

「今ね、なんか良い感じで脳内麻薬がドバドバしてるから。割と感情のままに動くから。言動なんかも考えずにするから」

 

「お家帰りたい……」

 

「俺、攻略終わったらユイに慰めて貰うんだ……」

 

 

コタローが顔を隠して膝から崩れ落ち、キリトが達観した様な遠い目をしている。それを見て可笑しくて笑いが堪えられない。多分落ち着いたら今の自分は黒歴史扱いになる気がするけど気分が良いので構わない事にする。

 

 

〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が手を着いて身体を起こした。頭の蛇は俺たちにより斬り落とされたり爆発されたりしたせいでほとんど無くなり、鳩尾から腹にかけて真っ直ぐな切り傷が出来ている。

 

 

それでもその目からは闘志が失われていない。怒りと殺意を漲らせて俺たちをーーー正確には俺を睨んでいる。

 

 

振り上げられる手を見てまた振り下ろしが来るかと身構えたが、その予想に反してその手は()()()()()()()()()()()

 

 

「ーーーッ!!!」

 

「何やってんだ?」

 

「なんかやな予感がするんですけど」

 

「奇遇だな。俺もだよ」

 

 

砕け散る胸元の宝石、一気に5本になるまで大きく削られるHPゲージ。どこからどう見ても〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟がしたのは自傷行為でしかない。理解不能な行動に首を傾げながら、俺の直感はキリトとコタローに同意する様に警報を鳴らしている。

 

 

そして変化が起こる。自傷行為により息絶え絶えになりながら地面に手を着いた〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の身体がミチミチという嫌な音を立てながら()()()()()。肉体が軋みをあげながら変態し、人に近かった骨格が人外のそれに変貌する。

 

 

そうして変化が終わった時、それまでの〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の面影はほとんど無くなっていた。山を越える程に巨大だった全長は100メートル程度まで縮小され、下半身は以前と同じ蛇のまま、所々程度にあったはずの鱗は範囲を全身まで広げ、顔も完全に人から爬虫類……龍種の物に変わっている。

 

 

どこからどう見ても第二形態に突入していた。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!?」

 

「巫山戯るなぁ!!」

 

「なんで自分から第二形態になってやがるんだぁぁぁぁ!?」

 

 

いつも敬語を外さない筈のコタローまでもが砕けた言葉で叫んでいるがこれは仕方がないと思う。だって本来ならば俺たちがHPを削ってなる筈だった第二形態への変身を自傷行為という行為で自分からやってのけたのだから。

 

 

達成感も何もありはしない。HPが減ってくれたのは嬉しいがどこから虚しさを感じる。

 

 

まだ終わらない。〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が自分から砕いた宝石、一定以上のサイズの破片が独りでに浮かび上がり、どろりとした液体を溢す。そしてその液体は2メートル程の人型になり、宝石の破片を頭の位置に納める。

 

 

俺が闇堕ちしていた頃に倒したダンジョンボスの〝ティアマト・ガーディアン〟、それに酷似したモンスター〝リトル・ティアマト・ガーディアン〟が大量生産された。

 

 

「面倒臭え!!マジで面倒臭え!!」

 

「何だよアレ!?」

 

「かやひこぉ!!」

 

 

過去に倒した事があるからあのリトル版の面倒臭さは理解している。コタローは未だに砕けた口調のままだし、キリトに至っては空を見上げて中指を立てながら叫んでいる。茅場は管理者権限を持っていないので正確にはカーディナルの仕業なのだがそれを知っているのは俺たちだけ。他のプレイヤーからすれば茅場もカーディナルも同じ様なものだろう。

 

 

ともあれ〝リトル・ティアマト・ガーディアン〟が目測で200程、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟を守る様にしているがそれ以外は対象外の様で、先に〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が生み出していたモンスターに()()()()()()()()()()()

 

 

アスナたちは〝リトル・ティアマト・ガーディアン〟が現れた瞬間から引いているので無事だが、モンスターは突然現れた〝リトル・ティアマト・ガーディアン〟に群がられて惨殺されていた。攻撃方法は〝ティアマト・ガーディアン〟と変わらない様で身体になっている液体を刃物や鈍器や針にしている。

 

 

そして〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が動き出す。力を貯めるように身を低くし、タゲを取っている俺に目掛けて跳躍した。

 

 

散開ーーー!!!(〝歩法:縮地〟)

 

 

このままでは押し潰される事が目に見えているので散開を指示してバラバラの方向に逃げ出す。キリトとコタローは敏捷任せに、俺は縮地を使って形振り構わずに。跳躍から数秒後に着地、それと同時に衝撃波と局地的な地震が発生した。

 

 

行動不能(スタン)状態になることを嫌って衝撃波と揺れを跳んで躱し、キリトとコタローを探す。すると〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の左右で行動不能(スタン)になりながらも生きている二人の姿を確認する事が出来た。

 

 

「GAーーー!!!」

 

 

〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が吼えた。さっきまでとは違う、獣を思わせる声で。すると〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の周囲の地面が隆起し、()()()()()()()()()()()()。そして一定の高さまで浮かび上がると〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟を守る様にゆっくりと旋回を始める。

 

 

もうここまで来ると今までとはジャンルが違い過ぎて笑いが溢れる。

 

 

「ウェーブ!!大丈夫!?」

 

「大丈夫大丈夫、ティアマトがハッチャケ過ぎてドン引きしてただけだから。それに負けないくらいにハッチャケれば良いんだろう……!!」

 

「斜め45°からドーン!!」

 

「ヘプシッ!?」

 

 

色んな事が立て続けに起き過ぎて振り切れていた頭をユウキに叩かれる。ダメージは発生しないが痛みは感じる程度の強さで。痛いことは痛かったが、その痛みのお陰で少し冷静になる事が出来た。

 

 

「あ〜……サンキュ、なんか落ち着いてきた」

 

「もう、ちゃんとしてよね」

 

「うん、ちょっとさっきまでの事が黒歴史になりそうで死にたくなってきたけど大丈夫だから」

 

「それって大丈夫なのかなぁ?」

 

 

その場で二、三度深呼吸を繰り返し、頭に登っていた血を引かせる。〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の第二形態突入と〝リトル・ティアマト・ガーディアン〟の発生でパニクっていたが良く良く考えれば悪い事ばかりではない。

 

 

〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が縮小して龍種に近くなった事で弱点の頭の位置は地面に近くなっている。あれならば落下死する心配も無くなるし、何より自分からHPを半分にまで減らしてくれたのだ。それに〝リトル・ティアマト・ガーディアン〟は確かに厄介だがそれまでで生み出したモンスターを駆逐してくれていると考えれば害だけでは無くて益ももたらしてくれている。

 

 

意識は出来ている、視界は広い。五体はいつも通りで気力はいつも以上。首、肩と順番に回して無意識に強張らせていた身体を解す。

 

 

「ーーー良し、倒すか」

 

「あ、ところでさっきストレアに見惚れてた時の事なんだけど」

 

「ボス戦終わってからで良いですか?」

 

「今夜は寝かさないぞ」

 

 

ハートマークが付きそうな程に愛らしい仕草と一緒にユウキがとんでもない事を言ってくれた。どうしてだろうか震えが止まらない。普通、女の子から言う様なセリフじゃないとかいう突っ込みが出来ない程に。多分、ユウキからその事をシノンに伝えられて、シノンからも同じ事を言われそうな気がする。

 

 

平時と同じやり取りに締まらないなぁと思いつつ、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の周囲を旋回する岩に向かって跳んだ。

 

 

 






フロアボス第二形態にセルフ突入とかいうクソ巫山戯た仕様。どうやろAIが自己判断でHPを減らして突入した様です。ファッキューカーディナル。

〝リトル・ティアマト・ガーディアン〟は名前の通りに以前闇堕ちしていたウェーブが倒した〝ティアマト・ガーディアン〟の小型版。ただし完全な人型で、足があるので普通に走り回る。
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