「shit……」
宴会から一夜が明けて、ついに第一層攻略が開始された。天気は晴天で穏やかな気候な為過ごしやすいが……それとは反対に俺の心中は曇りまくっていた。
「どうしたの?」
「いつもみたいにちゃんとしなさいよ」
「うっせぇ!!俺の社会的地位が死んだんだぞ!!落ち込むくらい許してくれよぉ!!」
心配して話しかけてくれたユウキとシノンに怒鳴ることしかできない。昨日の宴会の時にユウキとシノンとアルゴに絡まれている姿を見られていたらしく、今日の朝一番で攻略メンバーからニヤニヤしながらロリコン呼ばわりされたのだ。その時にフリーズした俺を誰も責めないで欲しい。
「ウェーブがロリコン呼ばわりされれば……」
「近づく女は少なくなるはず……!!」
「強かねぇお前ら!!」
計画通りみたいな顔をしてほくそ笑んでいる2人が初めて怖いと思った。
「よぉロリコン。調子はどうだ?」
「うっせぇよ女顔。アルゴに頼んで掘られ専門の噂でも立ててやろうか?」
「おまっ、それやったらダメなやつだろうが!!」
「お前がロリコン呼ばわりしてきたのが悪いんですぅこのホーモホーモ!!」
「ぶち殺すぞ!!」
第一声にロリコン呼ばわりしてきたキリトをガチホモに仕立てようとしたら怒気を放ちながら武器に手をかけたのでかかって来いやと荒ぶる鷹のポーズを取った瞬間、俺とキリトの間に閃光が走った。閃光の正体は武器を抜いたアスナだった。
そして俺たちを見て一言。
「黙らないと……削ぎ落とすわよ?」
「「イエスマム!!」」
アスナの目は無機物の様に冷めていて、本気でやりかねない迫力があった。
「まったく……良い年した大人がはしゃいで恥ずかしくないんですか?」
「まったくだ。同じ大人として恥ずかしい」
「黙れよ間違いなくこの中で一番はしゃいでる大人」
しれっとヒースクリフが入ってきたが俺は忘れない、昨日の夜に酒を求めてエールの樽に頭から突っ込んだお前の奇行の事を。
ともあれ迷宮区まで近付いている事は確かなので意識を切り替えて平常心に戻す。
「迷宮が見えてきたぞ!!」
とその時、先行していたレイドの誰かが声を上げて迷宮区が見えた事を教えてくれた。迷宮区前で一旦休憩をとり、そこから俺たちの仕事が始まる。
48人という集団で移動しているがその道中でも当然の様にモンスターに出会う。その時に全員が戦うのでは無く、範囲を決めて一部のパーティーが戦う様にディアベルから指示を出されていた。A〜E班が〝トールバーナ〟からここまでを担当し、迷宮区内はF〜H班が担当する事になっている。ちなみに俺たちはH班だ。
そしてここまでの道中の戦いを見てきたが、自分たちの優位である人数を生かした上で確実に殺していた。モンスター一匹に対して最低でも2人で向かって行って二対一の状況で挑み、焦らず深追いはせず、削る様に倒していた。
遅いと思うかもしれないが安全性と確実性を選ぶなら間違いない戦法だった。やっぱり人海戦術は最強である。
「ちょっと良いか?」
迷宮区を目前にして湧いてきたコボルド三匹を10人で囲んでリンチしている姿を見て頷いていると筋肉質の黒人が話しかけてきた。確か彼は昨日ヒースクリフと飲み比べをしていた人だったはずだ。
「俺はエギル、G班の班長だ」
「丁寧にどうも。俺はウェーブ、H班の班長だ」
「俺たちの担当の迷宮区内のモンスターについて休憩の間に少し話しておきたいんだが」
「モンスターの相手は俺たちがメインでするから討ち漏らしを頼んで良いか?」
「何?タンクとかアタッカーとか決めなくて良いのか?」
「いやね、ディアベルから直々に遊撃を命じられたと言っても俺たちの実力を疑っている奴とかいると思うんだよね」
具体的にはキバオウとか。他にも何人かが俺たちが本当に強いのか訝しんでいるらしく疑う様な目で見ている。
「こちらとしては助かるんだが……本当に大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。危なくなったら助け求めるから」
とは言っても現在のところで不安要素はアスナ1人だけだが。
ユウキとシノンとヒースクリフは疑いようが無く、キリトはβテスターなのか明らかにこの世界に適応した動きと中々の反応速度を見せてくれている。だからアルゴのお墨付きとはいえ、実際に戦ったところを見ていないアスナだけが不安なのだ。昨日見かけた時に感じた焦燥なんかは無くなっているが、それが吉と出るか凶と出るかは分からない。
まぁダメだとしてもカバー出来る面子は揃っているので、休憩の号令に従ってアイテムポーチからタバコを出して一服する事にした。
「ーーーアスナ、スイッチ!!」
「ーーーハァッ!!」
キリトが
なるほど、アルゴが注目するだけの事はある。道中でも見かけたがアスナはスピードが素晴らしい。本人の話によればリアルでは武芸を嗜んでおらず、VRMMOもこれが初めてというのだから恐ろしい話だ。この調子で成長してくれれば間違いなく最前線で戦えるだけのプレイヤーになるだろう。
「ヒャッハー!!首置いてけぇ!!」
「やっぱり一撃必殺が楽よね」
「気持ちは分かるが怖すぎないかね君たち」
ヒースクリフが片手斧、長槍、両手剣を持ったコボルド三匹の攻撃を左手に掲げた盾で丁寧に弾き、それによって出来た僅かな硬直の間にユウキとシノンがコボルドの首を斬りとばす。ヒースクリフの守りは硬く、HPこそガードをしたせいで減っているが直撃は一発も貰っていない。そしてヒースクリフの守りがあるからこそ、ユウキとシノンは安心して攻撃に意識を集中させることが出来ている。
「よっと」
腰に下げた〝アニールブレード〟では無く背負っていた〝アイアンランス〟をバトンの様に回して
「……本当に強かったんだな」
迷宮区内ということで武器である両手斧を抜いていたエギルが驚きと呆れが混じった様な声でそう言った。もう迷宮区内に入って三時間経つが、レイドパーティー本隊はもちろんエギルたちのところにも一匹たりとも通していないのだから呆れても仕方ないだろう。
俺たちの実力を見せることが出来たお陰で疑う様な視線は減ったが……キバオウだけは俺の事を憎しみが篭った目で睨んでいる。恐らくは嫉妬から来るものだろうが……正直に言わせて貰えば落胆するしかない。
嫉妬するのは構わない。だが嫉妬しているだけなのか?追い抜いてやろうとは思わないのか?
嫉妬するだけで何もしない、自分から動き出そうとしないキバオウに見切りをつけながら、逃げようとしていた
「お疲れ〜」
「お疲れ!!」
「お疲れ様」
「ウェーブ君、彼女たちの殺意高過ぎないか?」
「そりゃあ殺せる時に殺せと教えたのだから殺意高くて当たり前でしょ?」
「間違っていないのだが……」
困惑しているヒースクリフを放って置いて投げた〝アイアンランス〟を回収して切れ味と耐久度を確認。どちらも幾らか落ちていたがまだまだ使えるレベル。そもそも〝アイアンランス〟はサブ武器でメインは〝アニールブレード〟なのだから壊れても問題無かったりするのだが。
「みんな、ボス部屋の前に到着したぞ!!」
偵察に先行していたキリトがボス部屋に到着した事を伝える。石造りの巨大な扉は二週間前に偵察に来た時と変わらずにあった。〝アイアンランス〟を背負い、〝アニールブレード〟を引き抜く。
「みんな、ようやくボス部屋まで辿り着いた」
扉の前に立つのはディアベル。演説なんて必要がないくらいに一部を除いた全員の士気は高い。この状況で長い話は逆に士気を下げかねない。恐らく余計な事は言わずに一言で終わるはずだ。
「俺から言いたいのは一言だけだ……勝つぞ!!」
「「「「オォォォォォォォ!!!」」」」
各々の武器を掲げながら叫んだ。誰もが敗北のイメージなど持っていない。勝利のイメージだけを持ち、それを実現させると誓っている。
それを聞いて満足げに頷いたディアベルが扉に手を当てて力を込めた。
ゆっくりと開かれる扉、最初に視界に入ったのはーーー回転しながら近づいて来る巨大な斧だった。
ウェーブ、ロリコンだと公にされる。なおこれはユウキチとシノノンからすれば計画通りらしい。
恋する乙女って怖いね!!