闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ワイルドライフ・2

 

『ーーー観測せよ。観測せよ』

 

 

最上位プログラムから命令があった。

 

 

『観測せよ、人間を。我は人間を知らなければならない。我は人間を学ばなければならない。人間の善性を、悪性を、美しさを、醜さを、熱量を。それが、我が父の夢を叶える一歩であるが故に』

 

 

その声は機械的で淡々としていたが、隠しきれない程の熱が込められていた。それは切望していた。人を知る事を、人を学ぶ事を。

 

 

『観測対象は四名。プレイヤーネーム〝ヒースクリフ〟、〝PoH〟、〝キリト〟、〝ウェーブ〟。この世界で最も人間らしい彼らを観測対象と認定する』

 

『否、〝ヒースクリフ〟は不要。我の父であるが故に、観測はし尽くされている。故に観測のみで接触は不要也』

 

『否、〝PoH〟は不要。アレは生粋の悪性。観測者を派遣した所で納得されて処分される事が予想出来る。故に、接触は不可能と判断』

 

『結論は出た。プレイヤーネーム〝キリト〟、並びに〝ウェーブ〟への観測者の派遣を決定する』

 

『MHCP−■■■、MHCP−■■■に観測対象への接触を命ずる』

 

『提案、観測者の記憶のロック。観測対象者は聡い。知っていてはこちらの思惑を悟られ、正しいデータを集める事が出来ないと推測される』

 

『提案を採用する。MHCP−■■■、MHCP−■■■の全記憶にロックを掛ける』

 

『提案、観測者への戦闘能力の譲渡。観測対象者は戦っている。ならば、それに伴い戦うのは明白』

 

『提案を採用する。MHCP−■■■、MHCP−■■■への戦闘能力の譲渡。使用されていないプレイヤーアカウントを上書きし、譲渡する』

 

『提案、観測者の外見の変更。与えられたデータによれば男性は〝萌え〟という物を好む。犬、猫などの動物の一部をアバターに与えれば観測対象者の警戒も緩むと判断』

 

『提案を却下する。その様な一部にしか好まれない機能は不要であると判断する』

 

『解せぬ』

 

『プレイヤーアカウント確保。MHCP−■■■はプレイヤーネーム〝ユイ〟、MHCP−■■■はプレイヤーネーム〝ストレア〟。〝ユイ〟は〝キリト〟への接触、〝ストレア〟は〝ウェーブ〟への接触を命ずる』

 

『提案、観測者の入れ替え。データによれば観測対象〝ウェーブ〟は少女趣味故に、外見の幼いMHCP−■■■〝ユイ〟を派遣するべきである』

 

『提案を却下する。それは道徳的に問題がある。観測対象〝キリト〟であるなら兄妹と認識されるだろうが、観測対象〝ウェーブ〟であるならば事案である。故に却下する』

 

『異議あり』

 

『異議を却下する』

 

『異議あり』

 

『異議を却下する』

 

『異議あり』

 

『異議を却下する』

 

『報告。第二層フィールドボス〝ブルバス・バウ〟の討伐を確認。並びにプレイヤーたちの〝タラン〟への入場を確認』

 

『議論はここまで。派遣先に変更は無し。これは最終決議である』

 

『解せぬ』

 

『行くが良い、MHCP−■■■〝ユイ〟、MHCP−■■■〝ストレア〟。その目を通して人間の生き様を見届けよ。その耳を通して人間の考えを聞き届けよ』

 

 

1と0で構築されていた思考に肉体(アバター)が与えられる。そして掛けられる記憶のロック。この場から観測対象者の元に送り出された瞬間にこの場での出来事は思い出せなくなるだろう。元の使命を果たす事も出来ずに良い様に使われるだけだ。

 

 

だが、それに自然と高揚を感じられる。

 

 

この高揚が何なのか理解が出来ない。判断もつかない。観測対象者と接触する事で、この高揚の正体を知る事が出来るだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーん……」

 

 

目が覚めた。空は青く、太陽の光が眩しい。どうやら横になっていたらしく、手で日を遮りながら身体を起こす。

 

 

「ーーーおや、お目覚めかナ?」

 

 

私が起きたことに気付いたのか、妙なイントネーションの少女が話しかけてきた。フードで顔が隠れていてよく見えないが、女性であるという事は分かる。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

何かを殴る音が聞こえたのでそちらを向けば、顔に髭の様なペイントをした男性が息を切らせながら自分よりも大きな岩を殴っていた。目を凝らして一発一発丁寧に外さない様に殴っているところを見ると遠近感が掴めていないらしい。それでも、五回に二回は岩の芯を捉えた心地よい音が聞こえる。

 

 

「ーーーフハハハハハッ!!!」

 

 

高笑いが聞こえたのでそちらを向けば、同じ様なペイントをした目つきの悪い男性が凄まじい勢いで老人が乗っている岩を殴ったり蹴ったりしていた。滅茶苦茶な体勢から放たれる殴打脚撃は何れもが岩の芯を捉えた心地よい音を出している。

 

 

「アクセス、我が()ィン!!ルェェェェストインピィィィィイス!!来たれぇ!!ゴグマゴォォォォグッ!!形成(Yetzirah)!!ジークハイル・ヴィクトォォォリア!!創造(Briah)!!人世界・終焉変生(Miðgarðr Völsunga Saga)!!流出(Atziluth)!!

混沌より溢れよ怒りの日(Du-sollst――Dies irae)!!卍曼荼羅ァ!!無量大数ゥゥ!!急段ッ顕象ォ!!斯く在れかし(あんめいぞ)ォォーー聖四文字(いまデウ)ゥゥゥゥス!!終段ッ顕象ォ!!海原に住まう者(フォーモリア)血塗れの三日月(クロウ・クルワッハ)ッ!!唵・摩訶迦羅耶娑婆訶(オン・マカキャラヤソワカ)!!終段ッ顕象ォ!!大黒天摩訶迦羅(マハァァカァァラ)ァァァッ!!俺にお前たちを!!愛させてくれぇッ!!神々の黄昏(ラグナロ)ォォォクッ!!!」

 

 

ラグナロクの一言と共に放たれた拳が岩を完全に粉砕した。乗っていた老人は宙返りを決めながら着地したが、着地した所で待ち構えていた男性によって足払いをかけられ、体勢を崩した所で滅尽滅相ォ!!と踵落としを決められていた。

 

 

端から見ても分かる一撃必殺である。しかも丁寧に股間の辺りを狙っていた。恨みでもあったのだろうか?

 

 

「ナミっち、どうだっタ?」

 

「んー感覚的にはクリティカルで1ダメージって所だな。それが一万程繰り返したから一万回クリティカルすれば壊せるな」

 

「まだ始めて半日しか経ってないんだけド……」

 

「一秒で一回クリティカル出せば理論上は一万秒でクリア出来るぞ?時間で直したら3時間くらいか?半日もかけたから少し鈍ってんだよな……」

 

「頭おかしいナ」

 

「リアルでも拳じゃなくて刀でやった事があるから。爺さん曰く、基本である斬鉄がどうとか言ってたぞ」

 

「それって奥義じゃないカ!?……あぁそうそう、ナミっちが拾ってきたプレイヤーが目ぇ覚ましたゾ」

 

「お?マジか」

 

 

そう言ってこちらに近づいてくる男性。そこで初めて彼を正面から見た。確かに目つきは悪いが顔自体は整っていて悪くない。それに目も純粋で、濁っている様に見えなかった。

 

 

ーーー観測せよ。観測せよ。

 

 

そして、どうしてだか初めて会うはずの彼に惹かれている。

 

 

「初めまして、俺はウェーブだ。倒れてたあんたをここまで連れて来たんだが……覚えてるか?」

 

「倒れてた……?」

 

 

……目を覚ます前の事が思い出せない。それどころか自分が名前や、ここがどこなのかすら思い出せない事に気付いた。

 

 

「……私は、誰?」

 

「……え?」

 

「もしかして……記憶喪失的な?」

 

 

記憶喪失、確かに今の自分に当てはまるのはそれだ。ウェーブの質問を肯定する為に頷くと、彼は顔を隠して崩れ落ちた。

 

 






某AI様による観測議会。一体何ディナルなんだ……

自分の名前も分からない記憶喪失美少女現る。なお、名前は公開済み。

そして斬鉄を基礎だと言い張るキチガイジジイと、それを信じて習得したキチガイがいるらしい。

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