「あ〜疲れた〜」
〝風魔忍軍〟に廃砦の調査を任せ、ヒースクリフに結果が分かるまで休むように言われたので〝ボーデン〟で借りている宿屋に戻る。ベッドの上には眠っているユウキとストレアの姿。シノンとシュピーゲルはレベリングに出掛けているらしく、夕方になるまでは戻らないと言っていた。
「酒酒っと」
ソファーに腰を下ろし、アイテムボックスから一番度数の高い酒を取り出してそのまま飲む。琥珀色の液体が喉を焼いて胃に落ち、身体を熱くするのが堪らない。
「ふぁ〜……ん〜?帰ったの?」
一瓶丸々一気飲みして2本目のコルクを開けたところでストレアが目を覚ました。キャミソールに下着姿といういつもの寝間着の格好で、普段だったら眼福だと思うが疲れ切っていてそれを気にする余裕は無い。
「起こしたか?」
「普通に起きただけよ〜そう言えば会議はどうなったの?」
「結論だけ言ったら圏内設定が解除された上でフロアボスがフィールドに出てる」
「……冗談?」
「マジマジ。〝ブランデンブルグ〟はフロアボスに壊滅されられたし、解除されていると知らずにプレイヤーを殴ったせいで俺のカーソルがオレンジになってるし」
「起きたらとんでも無い事になってるわね……」
頭が痛くなったのか顔を覆うようにして頭を抑えるストレアを見て、ユウキを起こさないように声に出さずに笑う。疲れているせいで説明が雑になったが現状が宜しくない事だけは理解してくれたようだ。
「それで、フロアボスに勝てるの?」
「勝つさ。情報も揃って実物も見て、どうにか出来る手段も見つかりそうだ。勝つし勝たせるさ」
俺が考えていた通りの物があれば二十五層攻略は楽になる。逆になければ攻略は絶望的なまでの高難易度になるが、俺がどうにかして〝ザ,ファフニール〟を落としてヒースクリフが攻撃を防いでキリトがダメージディーラーになれば倒せるだろう。
まぁそうなった場合には多少なりとも犠牲者が出る事を覚悟しなければならない。
「……」
「どうしたよ?」
犠牲者が出る事を考えた途端にストレアが俺の事を見つめ、ベッドから降りてそのままの姿で俺の隣に座った。
「よいしょ」
「わふん」
そして肩を掴んで俺の事を自分の方に倒す。そうする事で俺の頭がストレアの太ももに乗る事になり、必然的に膝枕の体勢になる。ストレアの太ももの肉付きと肌の感触が素晴らしい。酒が溢れそうになったことは見逃してやろう。
「なんで膝枕?」
「なんで?……なんでだろ?」
「おい……おい……!!」
ストレアの空気を読まない言動には慣れたつもりだったがこれは予想外だった。まさか自分から膝枕しておいて、その理由を自分で把握してないとか……膝枕が素晴らしくなかったら文句の一つでも言ってたな。
「でも、勝たせるって言った時のウェーブってどこか辛そうに見えたのよ。だからなのかな?」
「……」
ストレアは空気を読まないし、読もうとしない。その場をかき乱すような発言は日常茶飯事で、彼女はそれを直そうとしない。だが、だからと言って馬鹿じゃない。人の感情には機敏だったりする。ユウキとシノンを相手に良く巨乳ネタで煽る事はあるが。
「……俺はさ、人を殺す事は何とも思ってないんだよ」
「うん」
だって、そういう風に教育されたから。された当初は爺さんと母さんの正気を疑ったが、よくよく考えてみたら戦争が来る事を信じている爺さんと格上を蹂躙する事が趣味だと言い張る母さんなので正気を疑う方が間違いだと思い直した。
「死にたくはないけど、死んだら死んだでそれで良いやって考えてる」
「うん」
だって、それが俺だから。生きているから、
結論、俺はろくでなし。他者を殺しても、自分が死んでも特に思う事もなくいつも通りに過ごせるキチガイ。
だが、そんな俺でも、
「
自分を信じてくれた奴を死なせる事は辛い。自分から手にかけたのでは無く、自分を信じてくれてその結果死なせてしまう事が辛いのだ。死なせてしまって済まないと謝っても、お前たちの死を無駄にしないと誓っても、それは所詮自己満足に過ぎない。自分が許されたいからと死者を引き合いに出して自己の正当化を図る行為でしかない。
それが嫌なのだ。それが辛いのだ。
矛盾している、そんな事は言われずとも自覚している。その矛盾が、俺の心に重くのしかかる。
「……死なせたくないって、そんなに難しく考える事なのかな?」
「クッソシリアスな場面なのに何言いやがるんだこのおっぱいオバケ」
「あーそれセクハラだよ!!セクハラ!!」
俺が悩んでいる事なのに難しく考える事なのかと言われて思わずユウキとシノンがストレアに向かって口にする罵倒をしてしまう。セクハラと言って怒っていますという動作をストレアが頬を膨らませながらするのだが、動作の度に揺れる胸に目が行ってしまう。
……ユウキ、シノン、お前たちが巨乳ネタで煽られた時によく口にする罵倒だけど、やっぱストレアの胸は凄いわ。
「んで、何を考えて俺の悩みが難しくないと言ってくれたんだ?納得出来なかったらその胸を揉みしだく」
「だって、ウェーブって他の人を死なせたくないって悩んでるんでしょ?
「ーーー」
ストレアが言ったことは所詮は理想論でしかない。〝ザ・ファフニール〟の危険性は〝アインクラッド解放隊〟と〝
だというのに、ストレアの理想論は俺の胸にストンと落ちた。実現はほぼ不可能な綺麗事に過ぎないはずなのに、そうすれば良いと納得してしまっている。
誰も死なせない。それだけで、俺が誰かを死なせる事は無くなる。
「ク……クククッ」
「何が可笑しいの?」
「あぁ、ゴメンゴメン。ストレアの言ったのが綺麗事に過ぎないと分かっているのにそうすれば良いと納得してる自分が可笑しくてな……なんだ、それで良かったんじゃないか」
矛盾の重みが心から消えた。俺は言った、力のある者が語る綺麗事は理想で、力の無い者が語る綺麗事は戯言だと。だから、ストレアの語った綺麗事を理想にすれば良い、それだけの話だ。
「はぁ……ありがと、楽になったわ」
「……どういたしまして?」
「なんで疑問系なんだよ……まぁ良いや。寝る」
「ん、お休みなさい」
アルコールが入った事と、ストレアから思わぬ答えを貰って気が緩んだ事で我慢していた眠気が一気に襲ってくる。だから俺は、ストレアの太ももに頭を乗せたまま、眠気に逆らわずに眠る事にした。
ウェーブのメンタルケア回。殺す事に関しては特に何も思うところは無いキチガイだが、自分を信じて付いてきてくれた誰かを死なせる事は辛い。殺す事と死なせる事は別物なのだ。
それを聞いてアッサリと答えを出すストレアというヒロインの鑑。これはPoHニキと並んで二大ヒロインの予感?
そして帰って来たシノノン、目を覚ましたユウキチが膝枕されているウェーブを見て発狂し、それを見たシュピーゲルが顔を覆うのは別の話。