闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ノックがされ、扉が開く。現れたのは〝ナイトオブナイツ〟のギルドメンバーと彼に引き連れられた愛想笑いを浮かべた無手の中年男性、それと刀を下げた無表情の高校生程の黒髪の少女。恐らく中年男性の方がギルドマスターで、少女の方は護衛なのだろう。護衛が無手というのはおかしな話だし、少女の方は腹芸が苦手そうだ。

 

 

「はじめまして、ギルド〝絶対正義(ジャッジメント)〟のマスターのタナカと申します」

 

「……オキタ、です」

 

 

中年男性は愛想笑いを浮かべたまま、少女は無表情なまま自分のプレイヤーネームを告げる。タナカの方はプレイヤーネームにそんな名前をつけるとか一周回って感心する。まだ少女のオキタの方がプレイヤーネームとしては正しい。

 

 

「〝血盟騎士団〟のヒースクリフだ」

 

「〝ナイトオブナイツ〟のディアベル」

 

「〝風林火山〟のクラインだ」

 

「〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟のウェーブ。それでそこの一人ぼっちの真っ黒黒助は〝ソロぼっち〟のキリトだ」

 

「あ、俺カッとなってって理由で人を殺した奴の気持ちがわかる気がする」

 

 

額に青筋を浮かべながら武器を引き抜こうとするキリトをアスナが諌める。真っ黒黒助か?それともソロぼっちが悪かったのか?

 

 

「さて、君たちはどのような用件でここに来たのだね?」

 

「まずは、謝罪を。この度は私のギルドメンバーがご迷惑をお掛けしました」

 

 

そう言ってタナカは深々と頭を下げて、オキタはそれに習うように頭を下げた。少なくとも顔色や声色から嘘を言っているようには見えない。タナカは本気で謝りに来ている。その事をアイコンタクトでヒースクリフとディアベルに伝えると、頷いてくれた。

 

 

「謝罪は分かった、だが私たちは君たちを許さない。君たちのせいで〝ナイトオブナイツ〟から5人の犠牲者が出たことは変わらない事実なのだからな」

 

「それはこちらとしても理解しています。ですが、今回の件は私からの命令ではなく彼らの独断という事を理解していただきたい」

 

 

ここまで嘘はない。そもそも〝絶対正義(ジャッジメント)〟というギルドは攻略に参加するようなギルドでは無いのだ。

 

 

アルゴに頼んで調べてもらったが、〝絶対正義(ジャッジメント)〟の建設理由はアインクラッド内のプレイヤーの治安維持のため。SAOに閉じ込められた事によるストレスで治安が悪化し、無法地帯になる事を恐れて作ったらしい。第一層から主街区で日本の法律に則ったルールを定めて、ゆっくりと広めていった。馴染みのある日本の法律を使ったことが功を称したのか、〝絶対正義(ジャッジメント)〟の存在は受け入れられるどころか歓迎されている様子だとか。

 

 

少なくとも、それにより最下層から二十層までの治安は守られていて、メンバーだけを見るならば現在あるギルドの中でも最多のギルドとなっているらしい。

 

 

「今回フロアボスに向かっていった彼らは正義感の強すぎる者達でした。人手が集まり、治安が守られた事に満足して次は自分たちが攻略するべきだと常日頃から私に訴えていました。ですが、私たちは所詮は中層プレイヤー。攻略に参加しても足手まといになるだけだと判断して参加を認めていなかったのですが……そこを〝アインクラッド解放隊〟に突かれ、自分たちと一緒に攻略に参加しようと唆された様なのです」

 

「だから、自分たちには非が無くて、全ては彼らに責任があると?」

 

 

対応していたヒースクリフでは無く、ディアベルが口を出す。生き残りを救う為にギルドメンバーを犠牲にしたディアベルからしてみれば誰が悪いかなど関係なく、〝アインクラッド解放隊〟と〝絶対正義(ジャッジメント)〟こそが悪なのだ。予め俺とヒースクリフで釘を刺していなかったら今にも斬りかかりそうな目でタナカを睨んでいる。

 

 

「いいえ、寧ろ私の責任です。彼らの暴走を止められなかった、未然に防げなかった私の責任です。犠牲者を出したディアベルさんの怒りは御もっとも。どうか気がすむまで甚振ってください」

 

 

そういってタナカはその場に座り込んだ。目にあるのは覚悟、ここで殺される事を覚悟している。オキタはそれを変わらず無表情で見ている……様には見えて、僅かに口元が歪んでいた。タナカが責任を背負い込もうとしているのを堪えているのだろう。

 

 

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「そうか、謝罪が終わったのなら早く出て行ってくれ。攻略の邪魔だ」

 

「……は?」

 

「今回の事に関しては思うところはある。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。死者を引き合いに出すのはあれだが、犠牲になった彼らもそれを望んでいるはずだ。だから、この続きは二十五層の攻略が終わってからにしてくれ」

 

 

今にも斬りかかりそうな眼光でタナカの事を睨んでいるが、ディアベルは極めて冷静な判断を見せてくれた。そう、俺たちは攻略組なのだ。アインクラッドを攻略する為に集まった組織で、攻略する為に存在している。攻略している最中に自己満足の謝罪などされても邪魔でしか無い。

 

 

「そう、ですか……」

 

「それに、〝絶対正義(ジャッジメント)〟は中層プレイヤーたちの治安維持に役に立っている。トップである貴方がここで居なくなれば、中層プレイヤーが暴徒化してもおかしく無い。貴方を殺すよりも残した方が都合が良いんだ。責任を感じているというのなら、今のまま活動を続けてくれ」

 

 

そう、暴走した連中がどうであれ〝絶対正義(ジャッジメント)〟というギルドはプレイヤーたちの治安維持に一枚噛んでいる。無法地帯として世紀末化しかねなかったアインクラッドに法を敷いて、秩序を守っている。その点を見ればタナカの手腕は見事なものと言える。タナカを殺すメリットとデメリットを考えれば、後者の方が大きくなってしまう。

 

 

まぁ中層プレイヤーが暴徒化して、その矛先が攻略組に向かっても皆殺しにするだけだが。

 

 

「そんな事よりも金策だ。二十五層で得られるアイテムを他の階層に回してみたらどうだ?」

 

「それで利益が得られるのは最初の方だけだ。直ぐに値崩れするのは目に見えている」

 

「全く持って世知辛いねぇ。金がないから攻略も出来やしない」

 

「……お金、いる?」

 

「あぁ、攻略に必要な資材やら人材やら揃えるのにな。あと五千万コルなんだけど……」

 

「あの……よろしかったらこちらから出しましょうか?」

 

 

グリンと、俺たちの顔がタナカに向けられる。その様に怯えたのかタナカは短い悲鳴を上げてオキタに抱きついた。それにオキタは嫌がるかと思えば無表情を僅かに崩し、タナカを自分の後ろに隠した。

 

 

「今、なんて言った?」

 

「聞き間違いでなければ出すと聞こえたのだが……」

 

「ギ、ギルドに貯蓄してある財産を出します!!全額!!七千万コルです!!」

 

「ちゅ、中層ギルドで七千万コル!?どうやって集めたんだよ!!」

 

「……人、多い、だから、集まる」

 

「成る程、人海戦術か」

 

 

ギルド最大手というだけあって〝絶対正義(ジャッジメント)〟に所属しているプレイヤーの数は桁外れに多い。アルゴの調べによれば約千人所属しているとか。それだけいればギルド共有の貯蓄も貯まる量は桁外れだろう。少なくとも攻略組の中で一番メンバーの多い〝ナイトオブナイツ〟よりも。

 

 

「七千万、これで予算に届いたな」

 

「エギル!!ゴーサインだせ!!生産職のプレイヤーたちを過労死させる勢いで扱き使え!!」

 

「すでに鍛治職のプレイヤーたちは動いているぞ。何せ大砲とバリスタをじかに触れるからな」

 

「……え、私何かまずい事しました?」

 

「……発言の、責任は、しっかりね?」

 

 

何はともあれ、これで必要な予算に金額は届いた。

 

 

これより、二十五層フロアボス〝ザ・ファフニール〟の攻略が始まる。

 

 






そもそもの〝絶対正義(ジャッジメント)〟は治安維持を目的とした警察の様なもの。それが上手くいってるからと勘違いしたクソ雑魚ナメクジのせいでこんなことになっただけで、組織のトップは割とマトモ。だけど金ヅルになる。

金が集まったのでフロアボス攻略に向けて始動じゃあ!!

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