闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ディーヴァアンドナイト・2

 

 

シノンが歌声が聞こえると言って、確かめる為に外に出てみると微かにだが歌声が聞こえた。いつもならば意識しなくても分かるような事なのに気が付かないとは相当に疲れているらしい。休む事を考えなければと思いながら強請られたのでシノンと手を繋ぎながら声の元へと向かっていく。

 

 

手を繋ぐならばセーフ、腕を絡ませるのはアウト、絡ませたらアインクラッド警察が出動する。

 

 

四十層の主街区〝ジェイレウム〟はかつては巨大な監獄だったという設定らしく、四方を高い壁に囲まれた上に所々に牢屋を思わせる鉄格子が見える。最初は薄暗くて不気味だったが、慣れればこれはこれで風情があると感じられる。まぁ攻略組のメンバーは寝られたらそれでいいという思考の者が殆どで大して気にしていなかったが。

 

 

そして歌声に誘われて辿り着いたのは転移広場。午後6時頃でいつもならば人はそんなに多くないはずだったが、今日に限っては違っていた。広場の片隅に人集りが出来ていたのだ。歌声はそこから聞こえてくる。

 

 

段差で高台になっている転移門の近くから人集りを見下ろす。そこにいたのは1人の薄茶色の短髪をしたプレイヤーの少女と楽団らしき3人のNPC。NPCたちはバイオリンとチェロとオーボエに良く似た楽器を奏でていて、少女は胸に両手を当ててNPCたちの音色に合わせて歌っていた。

 

 

それは今となっては懐かしく感じられる程に聞いていなかった現代の歌。歌詞は日本語で、内容は夕暮れの憧憬と家路を辿る人々の気持ちを歌っているが、音程やメロディは確かに現代で歌われている歌の物だった。

 

 

〝ジェイレウム〟はいつもならばこの時間帯は人は殆ど出歩いていない。いてもフィールドから帰ってきて宿屋か別の階層にある拠点に帰るために転移門に向かう者くらいだ。だが、今日に限っては、もっと言えばこの時間に限っては、誰もがこの歌を聞くために足を止めていた。

 

 

最初に歌っていた歌は終わり、二曲目に入っている。美しくも寂しげで、郷愁にも似た気持ちを掻き立てる歌声に、何十人ものプレイヤーたちが、〝ジェイレウム〟で生活しているNPCたちが聞き入っていた。

 

 

そして2分ほど歌い続けて、歌が終わったのか歌っていたプレイヤーがお辞儀をする。それから数秒後に割れんばかりの喝采が起こった。誰もが少女の歌を素晴らしいと絶賛し、もっと聞きたいとアンコールを求める。だが少女はこれ以上歌うつもりは無いのか謝罪をするように手を合わせると、近くにいた〝血盟騎士団〟の鎧に身を包んだ少年の手を引いてそそくさと広場から立ち去っていった。それを残念に思っていたが強引に頼む程では無かったのか、人集りは少女が居なくなると自然に解けていった。

 

 

「……久しぶりにリアルの歌を聞いたわね」

 

「NPCも偶に歌ってる時あるけど、あれは殆ど語りだったからな。あれはあれで悪くないけどリアルで生きてた俺たちからしたらさっきの方が馴染み深い」

 

「確かにそうね……あれ?」

 

「どうした?」

 

「HPのゲージの下にアイコンが現れているのだけど……」

 

 

シノンにそう言われて自分のHPを確認してみると確かにゲージの下に〝防御力アップ〟と〝耐毒性アップ〟と〝スタン耐性アップ〟のバフを表すアイコンが現れていた。

 

 

「さっきの歌を聞いたからかしら?」

 

「歌……バフ……もしかしてあれが〝ウタちゃん〟か?」

 

「〝ウタちゃん〟?さっきのプレイヤーの名前?」

 

「いや、さっきのプレイヤーの愛称らしい。〝歌エンチャンター〟ってのを略して〝ウタちゃん〟、さっきのプレイヤーの追っ掛けから聞いたってアルゴは言ってた。なんでも彼女の歌う歌を最初から最後まで全部聞くと曲によって違うバフが貰えるんだと」

 

「そんなのがあるのね……ユニークスキルかしら?」

 

「いや、確か〝吟唱(チャント)〟っていうエクストラスキルだって話だ。アルゴは条件は全部調べてあるって言ってたけど」

 

 

アルゴによって条件が調べられているので習得しようと思えばそんなに難しい話ではない。だが大勢の前で歌を歌わなければならないので、余程自分の歌に自信が無い限りは進んで取らない。それにバフは魅力的だが、一曲丸々を聞いていなければならない。その上フィールドで不要に歌えばモンスターに気が付かれるとメリットよりもデメリットが目立つので攻略組では誰も取ろうとしないスキルだった。

 

 

だが、()()()()()()()()()()()()()。純粋に彼女の歌唱力は素晴らしく、また聞きたいと思っている。とっさに〝記録結晶〟で彼女の歌を記録したので聞こうと思えばいつでも聞けるが、生で聞けるのなら生で聞きたい。

 

 

「あぁクソ、気分が良いなぁ。こんな時には飲むしかないじゃないか」

 

 

アイテムボックスからワインのボトルを取り出してコルクを引き抜く。

 

 

「ねぇ、私も飲みたいわ」

 

「シノンが飲んだら100%痴態を晒すんだよな……」

 

 

シノンが飲みたいと強請るが、そうなったらここに残っているプレイヤーたちにシノンの痴態が晒される事になる。その上高確率で俺の社会的地位が粉々にされるだろう。攻略組の面子ならいつもの事かと流してくれる様になったが、ここには主街区を観に来ただけの中層プレイヤーもいる。

 

 

そんな彼らにシノンの痴態が見られたらどうなる?100%超えて俺の社会的地位が死ぬ。最近では偽の〝ラフィンコフィン〟のせいで中層以下での俺たちの風評が下がっているのに、そこに追い打ちをかけてしまう。

 

 

どうしようかと悩んだ結果、俺が出した結論はアルコールの度数が限りなく低いカクテルを作るという物だった。アイテムボックスから蒸留酒とリンゴの果汁とコップを取り出し、蒸留酒とリンゴの果汁を大体一対二十くらいの割合で混ぜる。出来上がったカクテルは殆どジュースの様な物だから飲みすぎなければ大丈夫だろう。ユウキとシノンが痴態を晒すのは大体度数が高いアルコールを一気飲みした時だから。

 

 

「ほい、これ飲んでな」

 

「……殆どジュースじゃない。そっちの蒸留酒寄越しなさい」

 

「ダメです。これを飲んだ場合にはシノンが痴態を晒して俺の社会的地位が粉々になるという事態が予想されるので」

 

「ウェーブの社会的地位なんてもう粉々だと思うのだけど……まぁ良いわ」

 

「俺の社会的地位を粉々にしてくれたのに何を言ってるんだか……」

 

 

気苦労が絶えないなぁと内心でボヤきながらボトルに口をつけてワインを一口。シノンもコップを両手で持ちながらリンゴのカクテルを飲んでいた。アルコールが入った事で思考が少し鈍り、気分が高揚する。

 

 

本当ならこの後は偽の〝ラフィンコフィン〟を狩りに出ようかと思っていたのだが、〝ウタちゃん〟がくれたこの余韻を汚したくないから明日にする事にした。

 

 

 





〝ウタちゃん〟なるプレイヤー、そして〝ウタちゃん〟に手を引かれる〝血盟騎士団〟の少年。ここまでくればわかる方にはわかるんじゃないかな?

ウェーブ、地味にユウキチとシノノンが自分の社会的地位を殺しに掛かっていたことを知っている。それでも怒らない辺り、このヤンホモに狙われているキチガイロリコンは器が大きいと思う。

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