「ごっそうさん。相変わらずエギルの飯は美味いなぁ。シノンには負けるけど」
「さらりと惚気てんじゃねぇぞロリコン野郎」
「〝血盟騎士団〟で出されている料理よりも美味しかったです」
「リアルでお店を出してるって聞いたけど……女としてのプライドがぁ……」
エギルの飯を食い終えて俺と幾分落ち着いたノーチラスが感想を言うがユナは逆に落ち込んでいる。やっぱり女として男の方が料理が上手だとプライドが傷つくのだろう。
俺としては俺の好みを知り尽くして合わせてくれるシノンの料理の方が美味い。ストレアが作ってくれた時もあるけど中々だった。アルゴも悪くない。ただしユウキ、テメェはダメだ。味付け無しで焼いただけの炭化した肉を出しても料理じゃねぇから。食うには食ったがしばらく口の中が苦々しかった。
「さて、飯を食ったところで本題に入ろう。ノーチラス、お前は自分がどういう状況なのか理解しているな?」
「……えぇ、迷宮区を攻略している時に〝ルースレス・ワーダーチーフ〟を見て、動けなくなりました。頭では動かないといけないと分かっているのにどうしても身体が動かなくて……」
「エーくん……」
その時のことを思い出しているのかノーチラスは悔しそうな、苦しそうな表情になり、それを見たユナが心配そうな顔付きになる。自分に起きたことを理解しているのならそれで良し。もっとも攻略組に参加している以上、自己の把握は最低限の事なので然程心配していない。中層プレイヤーだと自分を過大評価して、出来ないことをやろうとしてあっさり死ぬからな。
「ヒースクリフとアスナはその症状に対して軽度のFNCじゃないかと考えた。専門的な用語が多いから噛み砕いて言うと、理性よりも本能が……戦わなきゃって考えよりも死にたくないって恐怖の方が強かった、その結果動けなくなったって予想している」
「FNC……」
FNCの疑いを告げるとノーチラスは絶望したような表情になる。SAOのようなVRMMOでは症状にもよるがFNCは致命的と言える。ネズハもFNCで両眼視機能不全を発症し、今では〝チャクラム〟を使うことで戦線には立てているが、近接武器を使っての戦闘は出来ないでいる。
そしてノーチラスのFNCは、ネズハ以上に致命的な症状だった。
理性よりも本能が優っているなどリアルでは普通だ。しかしVRMMOではそうだとモンスターと戦う時に動けなくなる可能性がある。だから〝ナーヴギア〟には本能よりも理性を優先させるようにプログラムしてあると茅場は言っていた。
だと言うのにノーチラスは理性よりも本能が優先されてしまう。それは今後も今回の攻略のように恐怖で動けなくなることを表していた。
「そんな……そんなのって……!!」
「エーくん……!!」
「まぁ、ぶっちゃけた話
「「……え!?」」
悲痛そうな顔になるノーチラスに釣られて悲しそうにしていたユナにどうにかなることを告げると2人ともあっけなく取られたような顔になった。
「理性よりも本能が優先されるから動けなくなるんだろ?だったら理性の方を本能よりも強くしてやればいいってだけの話じゃん?」
「いや、えっ…えぇ……?」
「エーくんどうしよう、私この人が何言ってるのか分からないよ」
「いや、言いたいことは分かりますけど、それって出来るんですか?」
「分かるの!?」
「攻略組じゃあ普通普通」
「攻略組って怖い」
攻略組のことをどう認識したのか分からないが怯え始めたユナを見て思わず苦笑してしまう。だって、その姿はリアルでホラー特集を見たユウキの姿を連想させたから。俺が笑ったのが気に入らなかったのかふくれっ面になるユナだが、その姿も俺にいじられて不機嫌になるシノンの姿を連想させる。
「実際のところ、ノーチラスのような症状はリアルじゃ当たり前だ。誰だってこのままじゃ死ぬような状況下だとはいえ、死ぬかもしれない選択肢を取らなきゃ死ぬって言われても怯えるだろう?ノーチラスはそれが出ただけだ。俺ならどうにか出来るかもしれない、どうにも出来ないかもしれない……どっちを選ぶのかは任せるぜ?」
テーブルの上に乗せられていた灰皿を寄せてタバコに火を着ける。リアルでやってきた経験から、俺にはノーチラスの症状をどうにか出来る可能性がある。だが、最終的に選ぶのはノーチラスだ。
死の恐怖を克服して戦うことを選ぶか、死の恐怖から逃げて戦うことを辞めるのを選ぶか、全てはノーチラス次第だ。
どちらを選んだにしても、俺はノーチラスの意思を尊重する。死の恐怖とは人間にとって絶対的な恐怖だ。何せ、死んだらそれまでなのだから。死んでしまえばそれ以上など絶対無い。それに怯える事は恥では無い。ノーチラスがそれを選んだとしても、俺は彼を責めるような事は絶対にしない。
そして、目を閉じて数分間沈黙したノーチラスが瞼を開ける。
「ーーーお願いします。僕を、戦えるようにして下さい」
数分間の沈黙から出てきた答えは懇願。つまり死の恐怖を克服して戦うことだった。
「一応聞いておく、なんでそれを選んだ?」
「……約束したんですよ、ユナに。僕が守るって、必ず現実世界に戻すって。だから、僕は戦います。ユナを守る為に、現実世界に戻す為に」
「いずれどこかの誰かがゲームをクリアする。それなのに?」
「
ノーチラスの目には強い意志が感じられた。絶対に彼女を守ると、現実世界に戻すと、その約束を果たす為に恐怖を克服しようとしている彼の姿は眩しく見えて、
「……あぁ、分かったよ。やるからには全力でやる。泣き言言っても尻蹴り上げてでもお前を戦えるようにしてやるから覚悟しておけよ?」
「ッ!!ハイ!!」
俺の言葉に威勢の良い返事をしてくれたノーチラス。だが、その隣に座るユナはというと、
「……ッ!!」
顔を真っ赤にしていた。耳どころか首まで赤くなっていて、相当恥ずかしいのだと分かる。だってさっきの発言ってほとんど告白みたいなものだからな。その相手が隣に座って、しかもあんなに堂々と言われたらそりゃあ恥ずかしくもなる。
「……ッ!!」
ノーチラスもそれに気が付いたのか、手で顔を覆い隠している。耳はユナと同じくらいに赤い。そんな2人の姿が微笑ましくて、笑いが溢れてしまうのは仕方のない事だ。
「良いねぇ良いねぇ、命短し恋せよってね。初々しくて実に微笑ましい!!」
「か、揶揄わないでください!!」
「ハッハッハ!!んじゃ、明日から理性強化のトレーニング始めるから装備とかの用意しておけよ?俺はこれからレべリングに出てくるから」
「ウェーブのレべリング……行ってみたい……!!」
「止めとけって。俺のレべリングって言ったらネームドボスを延々とハンティングするだけの作業だから」
「えぇ……攻略組のレべリングってそれが普通なの……?」
「違うから!!〝血盟騎士団〟じゃそんなレべリングしないから!!」
攻略組への認識を改めた事で事攻略組に怯え出すユナと、その認識は間違っていると教えているノーチラスの姿を見て、そのやりとりが可笑しくて俺は隠す事なく笑った。
理性よりも本能が優先される?それなら理性を強化すれば良いじゃないのとかいうキチガイ理論。ノーチラスはそれに乗っかったようです。
ノーチラスとユナのやりとりにニマニマして欲しいな……劇場版だとあれだったから。
そしてウェーブのレべリングに付き合わされた四十層のネームドボスたち。被害者は十数匹に達するようです。