助けを求めて来たプレイヤーは中層プレイヤーを名乗り、フィールドダンジョンを仲間と探索していたら〝
二十五層で〝アインクラッド解放隊〟が中層プレイヤーと共にフロアボスに挑んで壊滅したことをキッカケにプレイヤーたちの間で最前線の迷宮区には攻略組以外の侵入を禁止するという暗黙の了解が出来たのだが、フィールドに関してはノータッチだった。理由としては中層プレイヤーたちがアイテムや経験値を独占していると攻略組のことを批判して来たからだ。攻略組に参加している身から言わせて貰えば言いがかりにも程があるのだが、レベルを上げたことで増大した中層プレイヤーたちは自分たちでも攻略が出来ると思い込んでしまって一時期暴動が起きかける程の騒ぎになった。
そしてそれまでは最前線の階層には攻略組だけの立ち入りだったが、迷宮区以外までに緩和した。それで死んだとしても自己責任だと伝えて。人材発掘の為にわざとそうしたという欲がある事は否定しない。
どうも彼らはその類のプレイヤーだったらしく、調子に乗ってフィールドダンジョンを進んでいたらトラップにかかったとか。ここまで来るのならば〝転移結晶〟でも持っているはずだが、そこで湧いたモンスターの中には沈黙のバッドステータスをかけてくるモンスターもいて、ボイスコマンドを発生しなければ使用できない結晶アイテムが使えなくなったそうだ。攻略組ではそういう時の為に状態異常ポーションを持ち歩いているのだが、そのプレイヤーは準備していなかったらしく、誰も対沈黙の備えをしていなかったという。
正直に言って呆れるしかない。彼らは最前線を舐めすぎだ。一歩間違えれば死ぬような危険地帯にピクニック気分でやって来られても怒る気力が起きるはずもない。アイテムや情報の準備不足なんて誰が悪いのか問うまでも無く彼らが悪い。攻略マージンはとっているらしいが、準備不足であっさり死ぬのが最前線だ。
攻略組の暗黙の了解に従えば、彼らは見殺しにするべきだ。しかし〝ジェイレウム〟には幸か不幸かフロアボス攻略に参加していない〝風林火山〟のメンバーが2人程いた。攻略メンバーから外されたとはいえ〝血盟騎士団〟の一軍に入っていた僕とフロアボス攻略に参加していないとはいえ攻略ギルドに入っている彼らがいれば助かるだけなら可能だろう。そもそも彼を見捨ててしまえば助けを求めたのに見殺しにされたと攻略組の風評が悪くなる。偽者の仕業だといえ中層下層プレイヤーからの風評が最悪になっている〝
〝風林火山〟の2人にそのことを伝えると快諾してくれ、他にも〝ナイトオブナイツ〟から5人が手伝ってくれる事になった。
さらにユナも行くと言った。
本音を言えばユナには〝ジェイレウム〟で待っていて欲しかったのだが、ユナの〝
そして僕とユナ、〝風林火山〟の2人、〝ナイトオブナイツ〟の5人、中層プレイヤーの曲刀使いと共に5人ずつ二パーティーに別れて曲刀使いの仲間がいるというフィールドダンジョンに向かった。
その時、曲刀使いがPK集団の一員では無いかと思い先導する彼を背後から観察していた。もっともらしい理由をつけてプレイヤーを圏外に誘い出すというのは典型的なPK手段だ。〝風林火山〟の2人も、〝ナイトオブナイツ〟の5人も、もっと言えばユナもその可能性を疑っていたが、何度も躓きながら必死に走り続ける彼の姿を見てこれが演技だとは到底思えなかった。
時折湧いているモンスターを片手剣で瞬殺しながらフィールドを駆け、件のフィールドダンジョンに侵入する。フィールドダンジョンのデザインは〝ジェイレウム〟と同じく監獄風の遺跡だった。コボルド種やスライム種などがいたが攻略組に末席とはいえ参加している僕らの敵では無く、察知されると同時に急所を突いて一撃で倒して走り抜ける。
その姿を曲刀使いやユナは驚いた見ていた。中層プレイヤーは攻略組のように効率的な戦い方を模索していないから僕らの戦い方が珍しいのは分かる。始めの頃は僕も驚いていたが、すぐに慣れてしまった。
「ここだ!!ここを曲がった先だ!!」
先導していた曲刀使いの言葉を肯定するように曲がり角の先からは人間の叫び声やモンスターの咆哮、それに不規則な金属音が聴こえてくる。曲曲がり角の先にあったのは頑丈そうな鉄格子、そしてその奥には5人のプレイヤーがかなり広い石敷きの空間で亜人型のモンスターであるトーメンター系のモンスターと戦っているのが見える。
「良かった、まだ生きてる!!」
「安心するのはまだだ!!早くここから出さないと!!」
曲刀使いの仲間が生きていることは分かったが絶体絶命の状況である事には変わりない。彼らを隔てている鉄格子を力任せに揺すってみるがビクともしない。殴っても障壁が出ないことから〝破壊不能オブジェクト〟では無いのは分かるが、硬さ的にはほとんど変わらないだろう。
「鉄格子の開閉は!?」
「あそこだ!!」
曲刀使いが指差した先は広間の奥。そこには二メートルを超えるサイズのモンスターが佇んでいた。恐らく、あれがこのダンジョンのボスモンスターだろう。
「あのボスの後ろにそれらしいレバーがある!!だけど近づいたらボスが動き出すから……!!」
「中の奴らがボスに近づかねえと入らないのかよ!?」
「……ユナ、歌の準備!!おい!!聞こえるか!?こっちに来てくれ!!」
咄嗟の僕の指示にユナはリュートを装備し、中の5人は戸惑いながらも徐々にこちらによって来てくれる。モンスターに囲まれ、壁沿いを伝いながらの移動だったので時間はかかったが指示通りに鉄格子の前まで来てくれた。
「ユナ」
「任せて、エーくん」
僕の意図を呼んでくれたのか、ユナはリュートをかき鳴らして歌い始めた。気分を高揚させるような歌声がダンジョンに響き渡る。曲刀使いと中の5人はユナの意図をはかりかねて戸惑っている様子だったが、〝風林火山〟と〝ナイトオブナイツ〟は心当たりがあるのかもしかしてと呟いてユナの歌を聞いていた。
〝ジェイレウム〟で歌った時よりも伸びやかに、艶やかに、清らかに響き渡る歌声。ユナが歌い終えるとその場にいた全員のHPゲージの下に鮮やかな黄色に輝くアイコンが点灯する。
〝
「
僕の声に従い5人はソードスキルを使い、ダメージを食らいながらもモンスターの殲滅に成功する。だが、モンスターがいなくなると何処からか新たなモンスターが現れた。恐らくはボスがいる限り湧き続ける無限湧き仕様なのだろう。それを理解しているのか5人は新しく湧いたモンスターを無視して奥にいるボス目掛けて突進し、4人がボスのタゲをとって気を引いて左側に誘導、残る1人がボスの視界に入らぬようにしながら壁に生えたレバーに飛びつき、ぶら下がるようにして引き下げる。
重々しい音と共に目の前の鉄格子が持ち上がる。全部開くまで待っていられないと、誰もが半分開いた時点で鉄格子を潜って広間に入る。
「退いてくれ!!殿は僕らがする!!」
この判断に異議を唱えるものは誰もいない。ボスの見た目は〝ルースレス・ワーダーチーフ〟と同じワーダーチーフ系のモンスターに見えるが初見である事には変わらない。その上、〝風林火山〟と〝ナイトオブナイツ〟のプレイヤーたちは攻略に参加しないで〝ジェイレウム〟に残っていた。つまり、攻略出来るような実力ではないかもしれないのだ。だから戦うのは下策、彼らを助け出してさっさと逃げる。
ボスと対峙していた5人はパリィでボスの体勢を崩すと一目散に逃げ出した。
「〝
すれ違い、ボスの前に立って僅かににじみ出ていた恐怖をかき消すように叫びながら〝威嚇〟のスキルを発動し、5人に向けられていたヘイトを自分に向けさせる。鉄仮面を被ったボスの固有名詞は〝フィーラル・ワーダーチーフ〟。間違いなく迷宮区で戦った〝ルースレス・ワーダーチーフ〟と同系統のモンスター。
手にした錆だらけの両手斧、鉄仮面から溢れる〝フィーラル・ワーダーチーフ〟の呼吸、殺意に漲らせた眼光、すべてが怖くて堪らない。
だが、身体はまだ動く。手足の感覚はまだ残っている。
下を向くな、歯を食い縛れ。ウェーブさんから言われたように、闘志で恐怖を捻じ伏せろ。
「ガルルラァ!!」
高々と振り上げられた両手斧の一撃を、冷静に下がって躱す。目的が無くなったことで斧は石畳に深々と突き刺さり、〝フィーラル・ワーダーチーフ〟の動きが一瞬だけ止まり、目の前に無防備な姿を晒す。
「ウォォォォォォォ!!!」
その両手斧を踏み台にしながら突進系のソードスキル〝レイジスパイク〟を発動し、片手剣を思いっきり〝フィーラル・ワーダーチーフ〟の眼球に突き刺した。刀身の中程まで深々と突き立てられた事で〝フィーラル・ワーダーチーフ〟の片目を奪う事に成功、眼球に剣を突き刺された痛みで顔を抑えてのたうち回る〝フィーラル・ワーダーチーフ〟。逃げるなら今しかないと判断し、〝フィーラル・ワーダーチーフ〟に背を向けて逃げようとし、
助けた5人と曲刀使いに背後から襲われている〝風林火山〟と〝ナイトオブナイツ〟、そしてユナの姿を見た。
中層プレイヤーも最前線に来ることは出来る。ただし完全な自己責任で。死んだとしても攻略組は一切責任を取りません。当たり前っちゃ当たり前。でも見捨てると風評が良くないので結局は助けたり助けなかったり。
ノーチラスが活躍しすぎ?〝血盟騎士団〟で一軍入りしていたのならこのくらいは普通普通。そもそも万が一に備えて団員の誰もが指揮官になれるように関連してるから、このくらいは出来て当たり前だという攻略組特有の思考。ここの攻略組じゃあ、ブラッキーもその気になればレイドパーティーを指揮出来るんだぜ?