夢を見ている。VRMMOであるSAOで夢なんて見られないと思っていたが脳は活動しているからなのか、あの日の夢を見ていた。
半年前、俺は武器の素材となるアイテムを集める為に最前線から離れたフロアの迷宮区に潜っていた。アスナにも告げずに1人で来ていたが、ベータテスターとしての知識を活かしたスタートダッシュと強引なレベリングで最前線でもソロで活動できる俺にとっては危険は全くなかった。この時点ではウェーブの方がレベルが上だったはずだがあいつはキチガイだから除外する。なんだよ、ネームドボスハンティングって。
2時間程かけて必要数集めたので帰ろうと出口に向かっていると、モンスターの群れに追われているパーティーに遭遇した。基本的にソロで活動している俺だがバランスの悪いパーティーだと思った。5人編成の内、前衛役は盾とメイスを装備した男1人だけ。あとは短剣持ちのシーフ型が1人に棍使いが1人、長槍が2人でメイス使いのHPが減ってもスイッチしてカバーが出来るプレイヤーがいなかった。最前線なら攻撃を回避し続けることで盾が無くてもカバーが出来る避けタンクなどもいるが、プレイヤースキルを見る限りはそれだけの技量があるとは思えなかった。
残りのHPから逃げ切れるだけの余裕はありそうだったが他のモンスターの群れを引っ掛けるなどのイレギュラーがあれば簡単に全滅するだろうと予想が出来た。なので、俺は迷わず助けに行った。数は多いとはいえ、さっきまで作業で狩り続けていたモンスターだ。パーティーに手を貸すことを告げて、ソードスキルでモンスターを一掃する。
助けたパーティーからは大層感謝された。そしてリーダーと思われるプレイヤーがお礼でも言おうとしたのか近づいて来て、俺の顔を見て驚愕していた。攻略組で名前と顔を知られているので俺のことが分かって驚いたのだろう。咄嗟にカーソルの色が変わらぬ程度の腹パンをして黙らせ、他のパーティーにも静かにするように指示して街まで引き返した。
街に戻って改めてお礼を言われ、彼らは自己紹介をして来た。なんでも彼らはリアルで同じ高校のパソコン研究会のメンバーらしく、〝月夜の黒猫団〟というギルドを立ち上げたと、礼と言われて連れていかれた酒場で言っていた。いつかは自分たちも攻略組に参加するんだと、ワインを飲みながら顔を赤らめた〝月夜の黒猫団〟のリーダーのケイタは言っていた。
俺は、それに対して無理だと言った。
〝月夜の黒猫団〟が良いギルドなのはわかる。リアルで同じ高校だったからか連携は取れているし、出会った時には追われていたものの自分たちのレベルに合ったレベリングをしている。
だが、決定的とも言えるほどに覚悟が足りていなかった。
彼らは優しすぎる。攻略組に参加するなら、最低でも死んでも殺してやるという覚悟と仲間が死んでも攻略を続けてやるという覚悟が必要だ。優しすぎる彼らはそのどちらも持っていない。彼らの誰かが死ねば、それで彼らは足を止めてしまうだろう。
それが悪い事ではないと分かっているが、少なくとも攻略組に参加する条件を満たしていないことは確かだった。それに本気で攻略組を目指しているのならば攻略組に参加しているギルドに入れば良い。このメンバーで活動することは少なくなるかもしれないが、そうすれば最低限の心構えとプレイヤースキルが身につけられる。
それを指摘するとケイタは苦笑していた。それは分かっている、どうしても攻略組に参加して、みんなで現実に帰りたいんだと酔いながらもしっかりと言っていた。他のメンバーの顔を見ても同調するように頷いていて、唯一紅一点のサチだけが躊躇い気味だったがそれでも頷いていた。
それを見て彼らの意思が堅いことを知り、それならば好きなだけやらせてみようと判断して俺は〝月夜の黒猫団〟のサポーター的なポジションにつく事にした。
パーティー構成には口を出さずに効率的な狩場を案内したり、プレイヤースキルを上げるために戦闘での立ち回り方を教えたりするだけ。戦闘には基本的には手を出さずに、誰かのHPがレッドゾーンに入った時に盾役に入って、回復したらすぐに引っ込む。大したことをやっていると思わなかったが、それでも彼らは俺の存在を感謝してくれた。
〝月夜の黒猫団〟が俺からの指導を受けた事で破竹の勢いで強くなっている中で、長槍を使っていたがタンクの関係上で盾持ち片手剣に転向したサチは伸び悩んでいた。VRMMOというジャンルである以上、戦闘する際に重要なのはステータスよりも恐怖に耐えて踏みとどまる胆力になる。大人しく怖がりな性格のサチではとても前衛に向いているように思えなかったが、スキルの低さを理由に片手剣士に転向する事になったのだ。〝月夜の黒猫団〟のパーティー構成を考えれば盾持ちが増えることは歓迎する事だが、明らかに人選を間違えているように思えた。
俺を含めた誰もがこればかりは慣れるしかないと考えていたがサチはそう思わなったらしい。足を引っ張っていると思い込み、しかし誰にも打ち明ける事が出来ずに溜め込み続け、ある日姿を消したのだ。
メンバーリストで位置を確認が出来ないので迷宮区にいるのではないかとケイタたちは思い込み、大騒ぎとなった。そんなケイタたちを腹パンして落ち着かせ、日中のレベリングを理由にして彼らを宿に止まらせて〝追跡〟のスキルでサチの足取りを辿る事にした。仮にサチが迷宮区にいるにしても、全員で行くよりもステータスが高い俺1人で向かった方が早く着くと考えたから。
しかしそんな予想に反して、サチの足取りは主街区の外れにある水路の中に消えていた。そしてサチは暗闇の中で、手に入れたばかりの隠蔽能力付きのマントを羽織って蹲っていた。リアルではコミュ障でボッチだった俺だが、俺の足音に反応して上げたサチの顔が精神的に追い詰められているのは目に見えて分かった。
そんなサチにどう言えば良いのか分からずに戸惑っていると、サチは胸の内を明かしてくれた。
死ぬのが怖いと、なんでこんな事になったのかと、なんでゲームから出られないのかと、なんでゲームなのに本当に死ななければならないのかと、こんなことをして茅場晶彦に何の得があるのかと、こんな事に何の意味があるのかと。
その質問に俺は何と答えたのか思い出せない。サチの質問は今でも鮮明に思い出せるというのに、自分が何と言ったのか少しも思い出せないのだ。しかし、サチはその答えを聞いて涙を流しながら俺の手を取って立ち上がってくれた。
そこから〝月夜の黒猫団〟の勢いは少し落ち着いたものになった。宿屋に戻ってサチが胸の内をケイタたちに打ち明け、それを聞いたケイタたちが済まなかったと土下座したからだ。ギルドのことを考えればケイタたちの判断は間違っていない、だがそれはメンバーのことを考えていない判断だったと、サチの気持ちを考えていなかったと床を割らんばかりの勢いでケイタは頭を下げて謝罪していた。
サチはその謝罪を受け入れた。その上で片手剣士を目指すと宣言し、ゆっくりとだが着実に片手剣士として成長していった。
そして地下水路の夜から一ヶ月足らずで、〝月夜の黒猫団〟は壊滅した。
事の発端はギルドハウス向けの小さな一軒家を買うための資金があと僅かで貯まるという段階になった事だった。いつも狩場にしている階層では一度では届かず、少し無茶をして階層を上げれば一度で貯まるという様な金額で彼らは階層を上げる事に決めた。
向かった先の迷宮区は稼ぎこそは良いがトラップ多発地帯であり、それを先に伝えていたのでシーフ役のメンバーが忙しそうにしていたが順調に狩りを行う事が出来た。
そして半日ほどで目標金額を稼ぎ、帰ろうとしたところで宝箱を見つけた。トラップの事を予め伝えていたのでシーフ役のメンバーが〝看破〟でトラップの有無を確認し、判明したトラップを解除した時だった。
アラームトラップがけたたましく鳴り響き、三つあった部屋の入り口からモンスターが雪崩れ込んできたのだ。
ダブルトラップーーートラップを解除する事でトラップが発動するという二重仕掛けのトラップだと気が付き、〝転移結晶〟を使えと叫んだ。誰もがそれに従ってアイテムポーチから〝転移結晶〟を取り出して使おうとしたが、〝転移結晶〟は発動しなかった。この辺り一帯は〝結晶無効空間〟に設定されていたのだ。
レベル差があるとはいえモンスターの量が多すぎて捌けない。鳴り響いてモンスターを集めている宝箱を壊さないとモンスターは際限無く集まってくると判断してそうするように指示を出した。しかし〝月夜の黒猫団〟は怒涛の勢いで攻め寄せてくるモンスターを前にして完全に恐慌状態に陥っていた。いくら叫んでも指示を聞かず、怯えて武器を振り回すだけ。戦えるような状態ではなかった。
そんな中で、まず先にシーフ役のメンバーが死んだ。四方八方からモンスターに襲われて、なすすべも無く。
次にメイサーと槍使いが死んだ。シーフが死んだ事で出来た動揺を突かれて腕を斬り落とされて、嬲り殺された。
残っているのはケイタとサチだけ。その理由は2人とも盾を装備していたからだがそう長く持たないことは目に見えていた。せめて2人だけでも助けようと、強引にソードスキルを発動させながら2人の元に向かう。後一歩、後少しで2人を助けられるとソードスキルの硬直を片手剣を殴る事で無理やり解除してーーー横合いから、モンスターに突進されて吹き飛ばされた。
突進の衝撃に唖然としながら、手を2人に伸ばす。だがその手は2人に届くことは無く、そのままケイタとサチのHPはゼロになった。
そこから先のことは覚えていない。気が付いたらHPは赤くなっていて、足元には大量のモンスターの死体と砕けた宝箱があった。
客観的に見たら、誰が悪いというわけじゃないだろう。ダブルトラップなんて攻略組でも対処出来る者は少なく、〝結晶無効空間〟なんて完全に予想外だ。強いて言うなら運が悪かったと言うしかない。
だが、俺は自分が悪いと考えた。俺がもっと強ければ、あのモンスターの群れを簡単に薙ぎ払えるくらいに強ければ、誰もが死ななかったかもしれない、誰か生き残らせる事が出来たかもしれない。
そこから俺は無茶苦茶なレベリングを始めた。ウェーブに頼んで、何度も何度も〝
ニコラスの大袋の中には、命尽きた者の魂を呼び戻す神器さえも隠されていると。
魂を呼び戻すというワードからそれは蘇生アイテムでは無いかと考えられた。そしてニコラスと言えばセイントニコラス……つまりサンタクロースでは無いかとと考えられて、クリスマスに蘇生アイテムをドロップするイベントボスが現れるのでは無いかと考えられた。
それを聞いた時、俺はケイタとサチの最後を思い出した。届かなくても伸ばした手の先で、2人の口元が動いている光景を。
それはきっと罵声罵倒だろう。攻略組に参加しておきながら、偉そうな事を言っておきながら、誰も守れなかった俺に対する呪詛に違いない。俺はそれを聞かなくてはならない。2人が最後の瞬間に、何と言ったのか知らなくてはならない。
だから俺は蘇生アイテムを求めるーーー例え、誰かを殺したとしても。
「おーーー」
「ん……」
声が聞こえたような気がして目を覚ます。どうやら無茶苦茶なレベリングをした後にウェーブに〝
そうして数秒かけてなんとか目の霞みを治して目に映ったのは、
「ーーーあ、起きました?」
こちらを覗き込んでいるせいでドアップになっている〝
反射的に目潰しをした俺は悪くない。
キリト視点からの黒猫壊滅。原作と違って攻略組だってバレてるから原作よりも黒猫は強化されてたり。だけど数の暴力に負けて壊滅。
原作じゃあケイタは生き残って自殺したけどここじゃあ一緒に死にました。一人ぼっちは寂しいもんな……
なんかキリトがバージル鬼兄ちゃんみたいになってる……だけどあの頃のキリトならもっと力を……!!的な事を言っても違和感無いんだよな。