12月23日午後11時30分。雪化粧がされた三十五層のフィールドダンジョン〝迷いの森〟で俺は厚手の防寒具を着て酒を愛でながらキリトを待っていた。このダンジョンはよくRPGであるようなランダムテレポートが組み込まれていて、そしてその一角にはモミの木が生えている。モミの木はクリスマスツリーで使われる木で、現在解放されている階層で確認できたモミの木がここだけだったので〝背教者ニコラス〟はここで出現するだろうと予想されているのだ。
そして、俺がいる背後にはそのモミの木のエリアへのワープポイントがある。
「もう無くなったか」
空になった酒瓶を投げ捨ててアイテムボックスから新しい酒を取り出す。一番乗りはキリトだろうと思って三時間前からここを陣取っているのだがまだ誰も来ない。集団行動故にどうしても足が遅くなるギルドは兎も角、ソロで活動しているキリトはもう来ても良い頃だと思うのだが……
「ウェーブ……」
「やっと来たか」
瓶の中身を半分ほど開けたところでキリトがやって来て、そしてその後ろから数人が追ってきている。恐らくは〝風林火山〟だろう。クラインはキリトのことを気にしていたから。
「レベルは幾つになった?」
「80になった」
「装備は?」
「メンテ済みだ」
「アイテム」
「結晶もポーションも揃えてある」
「覚悟は?」
「……出来てる」
キリトの目と、背中に
「最後に一つだけ。死にたがるのは良いが、お前の事を思ってくれている奴らがいる事を忘れるなよ」
「……」
「ついでにもう一つ、お前が死んだら〝キリトちゃん写真集〜私、こんなの初めて……〜〟をアインクラッド中にばら撒いてからリアルでお前の墓前に供えてやるからな」
「じゃあ俺が生きて帰ってきたらその写真集捨てろよ」
「生きて帰ってきたら、な」
俺が親指を下に突き立て、キリトが中指を立てる。そしてキリトはワープポイントに踏み込み、モミの木があるエリアに移動した。
それから数十秒遅れて10人程の集団がやって来た。やって来たのは予想していた通りに〝風林火山〟。全力でキリトを追いかけて来たのか誰も息を切らせている。
「ウェーブ、キリトは!?」
「モミの木のエリアに行ったぞ」
「クソ……ッ!!」
追いつけなかった事に苛立たしげに舌打ちをして、クラインがワープポイントに向かって歩き出した。キリトを追いかけて説得でもするつもりだろう。クラインはSAO開始時からキリトと知り合いらしく、キリトの事を気にかけている節があった。だからキリトがやろうとしている事を止めさせようとしているのだろう。
「……何のつもりだ?」
「見ての通りだけど?」
それをクラインの足元に短剣を投擲する事で止める。クラインの気持ちは分からないでもない、だがキリトがやろうとしている事にクラインは邪魔なのだ。ならキリトの力になる事を決めている俺がクラインを止めるのは当然の事だ。
「手前、キリトを殺したいのか!?」
「死んでほしくないとは思っているさ。だけど、キリトの力になるって決めてるから止めるだけだ」
それにキリトはああ見えて結構追い詰められている。誰かがプレッシャーを掛けた訳ではなくて自分が自分に掛けたプレッシャーで精神的に一杯一杯なのだ。
それこそ、邪魔をするならクラインでも殺す事を躊躇わない程に。
「……ああクソッ!!ウェーブ、キリトに勝機はあるのか?」
「レベルは80って言ってた。それに加えてキリトの反応速度があれば倒せない敵じゃない。でも楽勝って言える程に弱い敵でも無いから辛勝ってところかな」
「80……そうか、キリトの奴そんなになるまで追い詰めてたんだな……」
「気が付かなくてもしょうがない。俺も理由を知ったのは昨日だったし。あの手の問題をアルゴは商品として扱わないからな」
〝鼠〟と呼ばれて情報を売り買いしているアルゴだがそれでも超えてはいけない線という物を引いている。キリトの件はそれに当たっていたらしく、俺が聞いても口を閉ざして語ろうとしなかったからな。
無論、アルゴが知っているのはキリトの件だけでは無い。他にも様々な
「帰ってきたら心配かけた罰だと熱烈なキスでもしてやれ。勿論マウストゥーマウスでな」
「キリクラ……いやクラキリか!?」
「その発想は無かった」
「波キリだけでは無かったと言うことか……!!」
「貴腐人ギルドに伝えろ!!良いネタが入ったとな!!」
「クライン、一言どうぞ」
「手前ら全員正座な」
クラインとキリトの掛け算で過剰に反応する〝風林火山〟のメンバーをクラインが刀を抜いて追いかけ回す。それを見て当然のように逃げ出すのだが捕まり、1人1人頭突きをされる。HPが減ってないのとクラインのカーソルがグリーンのままの辺り手加減はしているらしい。
そして11時45分、クリスマスイベントまで残り15分のところで招かれざる客がやって来た。
「おい、来たぞ」
大人数が来ている気配を感じとり、最近カンストした〝索敵〟でどこのギルドが来ているのかを調べる。マップにはプレイヤーを表すアイコンが数多く点滅しており、中層プレイヤーのギルドタグが複数表示されていた。
昨日キリトが帰ってからヒースクリフとディアベルにコンタクトを取り、キリトが後悔から蘇生アイテムを狙っているとだけ伝えた。そこから何をどう連想したかは知らないが、2人の口から〝血盟騎士団〟と〝ナイトオブナイツ〟はクリスマスイベントには参加しないと言質を貰えた。攻略組繋がりでキリトの様子がおかしい事を知っていたから2人はクリスマスイベントの参加を止めてくれたのだろう。その代償に幾らか面倒を押し付けられることになったが。
マップに映るギルドタグはバラバラで統一性が無いように見える。その中で俺が知っているギルドタグは三つ。一つはレアアイテムの為なら犯罪行為も辞さないという〝聖竜連合〟、一つは攻略組から除籍されたキバオウたち〝アインクラッド解放隊〟が複数の中層ギルドを取り込んで作った〝アインクラッド解放軍〟、そして一つはタナカが率いている〝
人数は凡そ300人くらいか。よくここまで集められたなと感心する反面、ドロップした蘇生アイテムはどこのギルドが取るのか考えているのかと呆れてしまう。そもそもイベントボスが四十九層のフロアボス並みの強さだと知っているはずなのに中層ギルドで倒せると考えているのだろうか?もしそうだとしたら呆れるを通り越して心配になってしまう。
「〝聖竜連合〟に〝アインクラッド解放軍〟、〝
「全部中層ギルドじゃねえか……下手すりゃあ蘇生アイテム手に入れる前に死人出るぞ」
クラインの言葉を無視しながら残っていた瓶の中身をすべて飲み干す。そしてそのタイミングで丁度奴らがやって来る。武器は抜いているが警戒している様子は見られない。数が多いからと慢心しているのだろう。
「イベントボスに挑むつもりがないのならそこを退け。邪魔をすると言うなら……」
〝聖竜連合〟のリーダーと思われるプレイヤーが一歩前に出て、高圧的な態度でそう言って剣を構えた。俺は兎も角〝風林火山〟の顔は知られているはずなのにこの態度が取れるという事は俺たちを相手にしても勝てると思っているのだろう。まぁその気持ちは分からないでも無い。俺たちよりも向こうの方が数が多い。十倍以上の戦力差があれば威張り散らしたくなるだろう。
「ーーーハッ」
可笑しくて鼻で笑ってしまう。数で質を凌駕出来ると考えているのが可笑しくてたまらない。
それに、俺はそもそも邪魔をするためにここにいるのだ。
さらに言わせて貰えば、見えている者だけしかいないと思っているところか。
「おう、出番だぞ」
着ていた防寒具を脱ぎ捨てるーーー俺に抱き付いているミニスカサンタコスのユウキとシノン、ストレアの姿が露わになった。
「うにゅ〜?」
「寒っ……」
「ん〜出番なの〜?」
寝ていたのか目をこすりながら2人は武器を抜いて立ち上がる。2人の顔は真っ赤で、目が据わっているのを見てクラインが憐れみのこもった目で俺を見ている。これが終わったら目潰ししておこう。
「おいでませサンタ仮面……!!」
「ーーー愛と勇気のサンタ仮面一号!!」
「ーーー力と技のサンタ仮面二号!!」
「ーーー金と酒と女のサンタ仮面三号!!」
フィンガースナップとともに現れたのは顔の上半分を隠す仮面を付けたヒースクリフとディアベルとPoHの3人。俺だけでは中層プレイヤーを止めるのは難しいと考えて3人に頼んだのだ。了承して貰えたのだが溜め込んでいた酒がほとんど持って行かれたのは痛かったな。
「ここから先に行きたかったら俺たちを倒してみろよ」
そう言いながら〝聖竜連合〟のリーダーに空になった瓶を投げつけ、砕ける音をゴングがわりにして中層プレイヤーたちの集団に突進した。
キリトの邪魔をさせないためにミニスカサンタコスして酔っ払ってるユウキチとシノノンとストレア、それにサンタ仮面とかいう雑な変装のヒスクリとディアベルはんとPoHニキ参戦。
なんだろう、凄い色物集団なのに凄い安心する。