闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ハーフポイント・2

 

 

「おー凄い凄い」

 

「ふむ……控え目に言って地獄絵図だな」

 

「まじかぁ……こう来るかぁ……」

 

 

目の前の光景に俺は素直な感想を口にし、ヒースクリフは淡々と事実を告げ、キリトはウンザリしたような顔になる。

 

 

シノンの見た光景を確かめるために全員が〝隠蔽〟による隠密で主街区に向かったところ、そこでは戦争……いや、戦争と呼べるような立派なものでは無いただの殺し合いが行われていた。多種多様なモンスターたちが徒党を組んで群れを成し、目測で50メートルはあるだろう高さの壁を乗り越えようとしている。それを壁の上からNPCたちが岩や弓矢を使って阻止しようと奮闘し、稀に登ってきたモンスターは接近戦で対処している。

 

 

そして何より異質なのはここのモンスターの様子だ。普通ならばモンスターはそれぞれの種族の生存欲求に従って活動しているので他の種族のモンスターが近くにいれば争いになるし、死にそうだと理解したら尻尾を巻いて逃げる事だってある。しかしここのモンスターは他の種族が近くにいるのに争うことをしないで、NPC目掛けて襲っていた。しかも致命傷と思われる傷を負ったとしても怯みもせずにNPCを殺そうとしている。

 

 

生きる為では無くて殺す為に戦っていると、第一印象ではそう感じた。

 

 

「主街区に入ろうとしているところを見ると、ここでは圏内設定は解除されているようだな」

 

「二十五層よりは良心的だ。初めから圏内が無いって分かっているからな」

 

「それで、どうするんだ?」

 

 

キリトからの質問は俺たちのこれからの行動について。襲われている主街区を見捨てるか、それとも助けるか。まともな感性の人間なら助けなければと正義感を働かせてモンスターに挑むか、殺す事に全神経を集中させているモンスターに恐れを成して逃げ出すかのどちらかだろう。それが普通の感性の持ち主の思考だ。

 

 

だが、俺たちは感性では動かない。助けることで生じるリスクとリターンを考えて、打算ありきで動く。そうでもしないと最前線では戦えない。微々たるリターンの為に死にかねないリスクを背負うという英雄願望の持ち主は生き残れないのが常だから。

 

 

これからの行動について決めるのはリーダーであるヒースクリフだ。このメンバーの中で誰よりも客観的に、冷静な判断を下せると攻略組の多数決で満場一致だったから。ヒースクリフが助けに行くと言えば助けに行くし、見殺しにすると言えば見殺しにする。俺とヒースクリフは兎も角、キリトたち未成年は頭では理解しても感情では納得出来ないかもしれないが、それでもヒースクリフの指示には従う。

 

 

そしてヒースクリフの判断は、

 

 

「ーーー行こうか」

 

 

助けに向かう事だった。俺も同意見だったので反論は無い。この場合のリスクはモンスターの群れに飛び込む事で生じる死の危険。リターンは主街区の維持とNPCからの協力を得られるかもしれないというもの。リスクとリターンを天秤にかけてもリターンの方が魅力的に見える。

 

 

「群れには私とウェーブとキリト君で向かう。シノン君は援護射撃を、アスナ君たちはシノン君の護衛を頼む」

 

 

ヒースクリフの指示に誰も異論は挟まない。一対多という数の暴力を相手にして有利に戦えるのは俺とキリトくらいだし、戦場から数百メートルは離れているとはいえシノンが攻撃する事でモンスターから狙われないという保証は無い。全員が頷きでヒースクリフに賛同し、武器を抜く。

 

 

そして俺とキリトがほぼ同時に突進した。キリトはステータスに振った敏捷値任せに、俺はリアルで爺さんから教えられた縮地の歩法を使って最短距離で戦場に飛び込み、最後尾にいたモンスターの急所を突く。

 

 

「ハッハッハ!!来いよ、かかって来い!!ただ殺されるのはただのモンスターだ!!逃げずに立ち向かって殺されるのはよく訓練されたモンスターだ!!」

 

「アイテムと経験値をドロップしろよ……!!」

 

 

完全に隙を突いた奇襲でモンスターの視線が前に向いているとはいえ、二、三十匹も殺せば流石に気づかれる。それまでNPCに向けられていた殺意全てが俺たちに向けられ、モンスターは殺すという明確な意思を持って俺たちに襲い掛かってきた。

 

 

足を止めて対処したところで怒涛の勢いで迫り来るモンスターの群れに飲まれて物量で押し潰されるのは目に見えている。だから、()()()()()()()。モンスターの群れに自分から飛び込み、〝気配察知〟で周囲のモンスターの行動を知覚し、攻撃を誘導して同士討ちを誘う。足を止めずに同士討ちの誘発を繰り返せばモンスターたちは徐々に弱っていき、後は弱った順から首を跳ね飛ばすだけの簡単な作業になる。

 

 

対してキリトは()()()()()()()()()()モンスターの群れに飛び込んでいた。右手で突進系のソードスキルを発動し、技後の硬直が発生する前に左手で範囲系のソードスキルを発動させ、その硬直が発生する前にさらに右手でソードスキルを発動させる。

 

 

それはキリトが〝スキルコネクト〟と名付けたシステム外スキル。キリトが言うには攻撃の最中に右手から意識を切り離し、脳から〝ナーヴギア〟に出力される命令を一瞬だけ全カットするイメージをして、次の命令を左手のみで伝える事でソードスキルを連続して放つらしい。頭のおかしいシステム外スキルだと思う。攻略組でも一応広まっているがそれが出来たのはキリト並みの反応速度を持っているユウキだけで、それでも二、三回出来れば良いというもの。

 

 

だがキリトは、〝スキルコネクト〟を最大十五回まで繋げる事が出来る。

 

 

キリトが荒れている時期に開発して、俺を実験台に使っていたが初見殺しもいい所だと思う。あの時は片足を犠牲にしていなかったら負けていたと今でも思う。

 

 

キリトが十二回目の〝スキルコネクト〟を繋げた辺りでキリトの周囲からはモンスターがいなくなる。そしてキリトの上からモンスターが襲い掛かってきた。それをキリトは切り上げのソードスキルで真っ二つにするが、ジャンプした事で出来たのは隙を狙ってモンスターが迫ってくる。

 

 

「〝威嚇(済まない、遅れてしまった)〟」

 

 

それを追い付いてきたヒースクリフが剣と盾を使って防ぐ。キリトの戦闘スタイルは攻めて攻めて攻めて、反撃されるよりも早くに倒すという超攻撃的なもので、防御に関しては疎かになりがちである。だが、そこに防御特化のユニークスキル〝神聖剣〟を持つヒースクリフがフォローに入ればその欠点も無くなる。

 

 

つまり、この場を2人で任せる事が出来る。

 

 

「ちょっと指揮官的なやつ殺してくるわ」

 

「あいよっと!!」

 

「任せたぞ!!」

 

 

2人から威勢の良い返事を貰い、〝色合わせ〟による〝気配同化〟でモンスターの気配に紛れ込むことでモンスターの知覚から逃れ、遠目から見た時から指揮官的な存在だったモンスターのの元に向かう。このモンスターはプレイヤーとNPCに対する殺意こそ並外れているが、それでもある程度の統率の取れた行動をしている。ならば統率を取っている指揮官的なモンスターを倒せば乱すことが出来る。

 

 

モンスターの隙間を擦り抜けながら目指す先は主街区を囲う壁、この戦場の最前線。そこには大型の馬のようなモンスターに跨り、鎧を着込んで兜を被っただメートル程のゴリラがモンスターに向かって叫んでいた。こちらに気がついている様子は無い。腰に下げていた短剣を抜き、近くにいたモンスターを踏み台にしてジャンプする。

 

 

いつもなら背後から首を跳ね飛ばすのだが、鎧と兜を装備しているので背後からでは首を跳ね飛ばす事ができない。なので、()()()()()()()。重力に引っ張られて自然落下をしながら鎧の構造を把握し、どうすれば良いのかを理解し、鎧の隙間に短剣を滑り込ませて鎧を一息で解体する。

 

 

そうして鎧を剥がす事は成功するがその代償としてゴリラに俺の存在を気が付かれる。しかしゴリラの身を守るものは無い。威嚇行為なのかドラミングをしようとしている隙にゴリラに接近し、手早く首を跳ね飛ばす。

 

 

指揮官的な存在であったゴリラが死んだ事でモンスターたちの動きは鈍くなる。だがそれでも行動は変わらない。多少鈍ったとはいえ攻め手を緩める事はないし、俺たちに向ける殺意には陰りが無い。現に俺に気が付いたモンスターたちが四方八方から襲い掛かってくる。

 

 

まぁ現状に焦るような事は無いのだが。

 

 

我先にと群がってくるモンスターに黒い影が飛び、頭が水風船のように弾け飛ぶ。

 

 

「シノンの奴、また腕上げたな」

 

 

その正体は黒塗りで1メートル近いサイズの矢。シノンがいる場所からここまでは大体1キロは離れているだろう。その距離で、動き回っているモンスターの頭部目掛けて、シノンは一発足りとも外す事なく正確に頭部を撃ち抜いてみせた。それはリアルで培ったものではなくてSAOに来てから開花したシノンの天賦の才能。銃にトラウマを抱えていた彼女が狙撃の才能があるとはなんと皮肉な事か。

 

 

降り注ぐ黒塗りの矢が雨の様に降り注ぎ、モンスターの頭部を破壊する音をBGMに、俺はアイテムポーチからタバコを取り出して一服することにした。

 

 

 






モンスターが生きる為に殺すのではなくて殺す為に殺すとかいう純粋無垢な殺意を向けて、多種多様なモンスターが一丸になって殺しにくる素敵世界。

ブラッキーがもう二刀流持ってると思った?残念!!スキルコネクトでした!!やり方は公表されてるけど何言ってんだこいつ的な認識。なお、ユウキチはある程度なら真似出来る模様。

あと、少しアンケートがしたいのでよければ活動報告を確認してください。

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