落ちてくる大剣の軌道は俺を捉えている。これでは真っ二つになるのは目に見えているのだが気がつくのが遅れてしまいこのままでは回避出来ない。大剣が俺に触れるまで1秒もかからないだろう。
だから、
「
加速した思考で身体を動かし、真っ二つにされるはずだった大剣の一撃を躱す。だが目的は俺だけではなかったらしく、俺を通り過ぎて地面に縫い止められていた〝ホロウ・ウェーブ〟の首を両断した。そこで初めて下手人の姿を確認する事ができる。
全身に紫を主体とした色合いの鎧を着込んだ人物。鼻まで覆うタイプの兜を被っているので顔は確認出来ないが、体型と胸の膨らみから女性だと推察出来る。一見すればプレイヤーにしか見えないが彼女も〝ホロウ・ウェーブ〟と同じ様にモンスターで、カーソルの濃淡から〝ホロウ・ウェーブ〟と同じ様にレベル差は20以上ある様だった。
そして、そのモンスターのネームは〝ホロウ・ストレア〟となっていた。
「俺とPoHと続いて次はストレアかよ……」
「貴方が、オリジナルのウェーブね?初めまして、私は〝ホロウ・ストレア〟よ」
「こいつはご丁寧にどーも。んで、目的はこいつらか?」
「えぇ、色々と考えてたのに勝手に先走っちゃうんだもの。〝ホロウ・キリト〟と〝ホロウ・ヒースクリフ〟はまだ自制が効いてくれたんだけどね」
「キリトとヒースクリフのもいるのかよ。もうお腹いっぱいだっての」
俺にバレたからなのか、それとも名乗ったからなのか〝ホロウ・ストレア〟は兜を外して〝ホロウ・ウェーブ〟や〝ホロウ・PoH〟と同じストレアと同じ顔を晒し出した。
そして外した兜をPoHに向けて投擲し、PoHがそれを弾いたと同時に大剣を盾のように構え、俺たちよりも高い筋力値と敏捷値で爆発するように突進。距離があった為にPoHはそれを回避することは出来たのだが、〝ホロウ・PoH〟は首を踏み潰されて殺されてしまう。
これで俺たちが生け捕りにした〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・PoH〟は殺されてしまった。情報の漏洩を防ぐ為に殺したと判断出来るが自分と同じ顔の奴をストレアと同じ顔の奴に殺されるのは複雑な気持ちになる。
「これで良しっと。分かっていたけどダメダメね。
〝ホロウ・ストレア〟は呆れたようにそう言いながら〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・PoH〟の首を拾い上げる。何のために首を持ち帰るのかは分からない、だが持ち帰らせれば良くないことが起こる気がするので今の内に殺してしまう事にする。
「
「
〝冥犬の牙〟を回収して即座に〝ホロウ・ストレア〟の顔面目掛けて投擲、それを〝ホロウ・ストレア〟は大剣で弾く同時にPoHが〝ホロウ・ストレア〟の警戒を潜り抜けて接近し、首目掛けて短剣を振るう。大剣のリーチでは防御も回避も出来ない至近距離。それを〝ホロウ・ストレア〟は腰を落とし、肩口でタックルする事でPoHを迎撃した。鎧というのは硬度があり、そして重量もある。拳を固めて殴るだけで、体当たりするだけでその気になれば人を殺すことも出来る鈍器だ。いくら天然で殺人の才があるとはいえ、鎧をそう使う人間と対峙した経験が無いのかPoHはそれをモロに食らってしまい、壁に叩きつけられる。
「
〝ホロウ・ストレア〟の目がPoHに向けられた一瞬の隙に間合いに踏み込み、弾かれた〝冥犬の牙〟を回収して鎧ごと叩き斬ってやろうと斬鉄を唐竹割りで放つ。タックルした姿勢で無防備な〝ホロウ・ストレア〟、だが俺の動きを予想していたのか半身になることで躱されて大剣を持っていた腕を肘から斬り落とす事しか出来なかった。
「凄いわね、この鎧は一応九十層ボスのLAボーナスクラスなのだけど」
「斬れるから斬った、それだけだ」
褒め言葉と共に放たれた蹴りを後ろに飛び退いて躱して距離を取る。正直な話、非常にやり難い。
ホロウと名前に付いていることから〝ホロウ・ウェーブ〟のようなストレアの動きだけを真似した偽者だと考えていたがそれ以上だった。ストレアは軽装を好んでいるので鎧のような重たい防具を使わない。だというのに〝ホロウ・ストレア〟は鎧ありきの戦い方を当たり前のようにしてくる。鎧の硬度と重量を使い、防具でありながら鈍器として使う戦い方を納めている。
その時点で〝ホロウ・ストレア〟は別格であると言えた。
「フフッ……」
「何だよ、腕を斬られてショックか?」
俺に斬られた腕の傷口を見ながら笑う〝ホロウ・ストレア〟を見て警戒心を強める。もう嫌な予感がしてならない。PoH置いてこの場から逃げ出したい。
「いいえ……
傷口を口元に寄せて滴る血を舌で掬い上げる。ストレアと同じ顔でするその姿は男を誘う妖艶さを秘めていて、同時に寒気も感じさせた。
あ、これやばい奴だと感じ取ってさらにその場から飛び退いて〝ホロウ・ストレア〟から距離を取る。
「……どうして私から距離を取るのよ?」
「リョナはノーサンキュー、SMはソフトならギリギリセーフ」
出血ありきの恋愛とか認められない、恋愛に出血は求めてないんだよ。好きなジャンルは純愛なんだ。
そう告げると〝ホロウ・ストレア〟は子供のように頬を膨らませて不機嫌だとアピールしてくるが、口元から溢れる血の跡で台無しになっている。
「むぅ……まぁ今日のところはこいつらの始末だけだからこのまま帰らせてもらうわ」
〝ホロウ・ストレア〟がその場で身を屈めて、筋力値に任せた跳躍で20メートル近く飛び上がる。そして移動に使ったであろう小型の竜に自分を回収させる。俺も後を追おうと思えば追えるのだが流石に逃げられるだろう。こちらに飛行手段が無い以上、〝ホロウ・ストレア〟を見逃すしか無いわけだ。
「じゃあね、
ストレアと同じ顔でウィンクをしながら、〝ホロウ・ストレア〟は竜に乗って去って行った。
最後に気になる言葉を残しながら。
凄いぞぉ〝ホロウ・ストレア〟!!PoHニキに迎撃を食らわせるなんて!!キチ波に腕落とされたけどそれを差し引いても大金星だ!!なお、本人は腕を斬り落とされて嬉しそうにしていたらしい。これには流石のキチ波もドン引き。