「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ウボァァァァァァァァ!!」
「イィヤッフゥイィィィィィィ!!」
「お嬢さんお暇?良かったら僕とお茶しない?」
「ユナ……」
「エーくん……」
「まったく持っていい空気吸ってやがるなこいつら」
五十層にやって来てから3日目の夜。今日も今日で防衛戦を終えた俺たちは転移門広場で酒盛りをしていた。モンスターの襲撃は一日中行われるので朝と夜で交代して対処する様に攻略組では決めていた。こうして酒盛りに集まったのは朝の番の者たち。酒飲んでガンギマリしてるのか訳のわからない奇声を叫ぶ者が大半、静かに飲んでいるのは一部だけ。シュピーゲルは〝血盟騎士団〟の女性プレイヤーをナンパしているし、ノーチラスとユナは酒を飲んで酔っ払ったのか顔を赤く染めながら互いを見つめ合っている。
「よぉ、ナミっち」
「おう、アルゴか」
青春してるなぁと2人を眺めて他を出来るだけ気にしない様にしていたらフードを外したアルゴがやって来た。本来ならアルゴは安全マージンしか取っていないので最前線には来れないのだが、アルゴの情報収集能力を買われて特別に来る事を許されている。それでも基本的には安全圏内にいて、今回は四十九層にいるのだが。
「何か分かったのか?」
「あぁ、NPCから情報集めてみたら興味深い話を聞いてナ」
そう言って渡されるのは情報を纏めた羊皮紙。空になった酒瓶をシュピーゲルに向かって投げつけてからそれを受け取る。
羊皮紙に纏められていたのはお伽話の様な物だった。リアルでも聞いた事があるようなどこの国にでもある創世神話。一柱の神が世界を作り生命を産み出し、産み出した生命が知恵を得た事でその神がいては生態系が乱れる事を危惧して打ち倒された辺りで終わっている。
その中でも目を引いたのは神が作り出した五体の現し身の話。産み出した生命の中でも最も強く成長した者5人を真似て作られたと書かれている。間違いなくホロウと名のついたモンスターたちの事だろう。そして真似て作られた五体の現し身の強さは元となった5人と同じ強さだが、〝要〟と呼ばれる存在により元となった5人よりも強くなっているとある。
「成る程、この〝要〟って奴があいつらの強さの秘密ね」
「それをどうにかすればホロウたちのレベルは今のナミっちたちと同じになるはずダ。そうなればもう少し楽に戦えるだロ?」
「まぁそうだけどな……」
ホロウたちの中で戦ったのは俺とPoHとストレアのホロウだけでキリトとヒースクリフのホロウに関しては予想するしかない。だがどう考えても〝ホロウ・ストレア〟を除いたホロウたちは俺たちの中で元になった奴が対処すれば問題無く勝てる存在だとしか思えないのだ。
いくら向こうの方がレベルが高いとは言え使って来るのは俺たちが使っていた戦法。そんな物をさも自慢げに振り回されたところで俺たちが負ける訳がないのだ。しかも向こうはそれに気がついていない様子だった。自分は負けないと思い込んで見て見ぬふりをしているのか、カーディナルから気がつかない様に処理されているのかは分からないが、それに気がついて改善しようと思わない限りは俺たちは負けない。
まぁ負けないのが俺たち4人だけであって他の攻略組のメンバーだと普通に負けるので最大限の警戒はしているが、初日で姿を見せて以降ホロウたちの動きはまったく掴めていない。モンスターに紛れて戦っている姿を確認されていないし、遠くから観戦しているわけでもない。何もして来ないのが不気味で仕方がない。
「んじゃ、それをヒースクリフに渡しておいてくレ。フロアボスの事とか〝要〟の事とか調べることは山ほどあるからナ」
「あいあい、働き過ぎで倒れない様にな〜」
羊皮紙をアイテムボックスに放り込み、いそいそと去っていくアルゴを見届ける。ふと奇声を上げていた奴らがどうなったのか気になって見て見たが、何故が全裸になって盆踊りを踊り出し、それを見た女性プレイヤーが迷わずに黒鉄宮に叩き込むがものの数秒で帰って来てさらに黒鉄宮に叩き込まれるという謎の無限ループが発生していた。倫理コードがかかっていれば恥部にはモザイクでも入るのだろうが俺は解除しているので丸見えだ。何故かビンビンにいきり立っているそれを見てしまい吐き気がする。
止めてくれ、ユウキとシノンの教育に悪いから。もう手遅れかもしれないけど希望を持つことくらいは自由にさせてくれ。
「ん?そういやユウキとシノンの姿が見えないな?」
さっきまで攻略組の男共を洗脳して肉壁に仕立て上げてやると野望を抱いていた2人の姿が見えなくなっていた事に今更気がつく。まだ洗脳の最中かと思ったが転移門広場内で2人の気配は感じられない。どうやらどこかに出て行ったらしい。
「はぁ……一言くらい言って欲しかったなぁ。まぁ、こっちもこっちで似た様なもんか」
街の中から感じられる、明らかに誘っている視線を感じながら酒を煽る。粘着質でそれでいて熱っぽい視線は真っ直ぐに俺だけに向けられていて他の攻略組のメンバーは気がついている様に見えない。こんなものを向けて来る相手は1人だけ……いや、一体だけ心当たりがあり、相手をすることを考えると頭が痛くなるのだが相手出来るのは俺くらいしかいないので腹を括って視線の元に向かう事にした。
視線を追いかけて辿り着いた先は2日前に〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・PoH〟と会った娼館。ドラゴンの着地で崩壊してしまって、いつ残りが崩れるか分からないから立ち入りを禁止してある場所。
そこで建物の残骸の上に座りながら俺に向かって微笑みかけて来るのはストレア……いや、外だけで中身が違う。あれはストレアに偽装している〝ホロウ・ストレア〟だ。斬り落としたはずの腕は治療したのか元に戻っている。
「モンスターでも〝隠蔽〟が使えるんだな?」
「カーディナルから与えられたスキルだけどね」
そう言って〝隠蔽〟を解除したのか、ネームがストレアから〝ホロウ・ストレア〟へ変わった。
それにしても、ワザとかどうかは分からないが厄介な物を目にしてしまった。〝ホロウ・ストレア〟が〝隠蔽〟を使ってストレアに偽装出来たということは他のホロウたちも〝隠蔽〟を使って元になった者に偽装出来るという事になる。ホロウたちのことはすでに攻略組に公表しているがそれはあくまでもモンスターとしてしか認識されていない。プレイヤーに偽装出来ることを誰にも知られていない。
つまり、ホロウたちはその気になれば攻略組を中から壊すことが出来るのだ。
「何?それして闇討ちでもするの?小賢しいことしてくれるな」
「それは無いよ。他のホロウたちはオリジナルへと執着しかないからウェーブが考えてるであろう闇討ちなんてしないだろうし、私がこうしてやって来たのは貴方に会うためなんだから」
「……俺にねぇ」
何だろう、もう嫌な予感しかしない。というよりも〝ホロウ・ストレア〟が俺に向ける視線を俺は見たことがある。あれはユウキやシノンが時折俺に向けて来る物……
「ウェーブ……私は貴方の事が大好き、愛しているわ。貴方から与えられる言葉が、敵意が、殺意が痛みが全て愛おしいの。だから、私と一緒に来ないかしら?」
酷く甘ったるい声で熱にうなされた様に、〝ホロウ・ストレア〟は初な少女の様に顔を羞恥に赤らめながら、俺に愛の告白をして来た。
五十層におけるホロウたちの役割と高レベルな理由を公開。〝要〟と呼ばれる物をどうにか出来れば弱らせる事が出来るらしいぞ!!なお、ウェーブの体感で現状でもどうにかなりそうな模様。
ホロウたち、なんと〝隠蔽〟を使えばプレイヤーに化けて街に潜り込める。でもウェーブはそれを初見で看破する。流石はキチガイ!!
〝ホロウ・ストレア〟からの告白。まさかユウキチとシノノン以外で始めに告白したのがモンスター兼AI兼敵役とは……たまげたなぁ。