闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ホロウプレイヤー・2

 

 

「ごめんなさい」

 

 

予想も予感もしていた〝ホロウ・ストレア〟からの告白を反射の領域で返す。丁寧に頭を下げて腰を九十度に曲げてだ。どういう訳か分からないが〝ホロウ・ストレア〟は俺が五十層に来る以前から俺の事を知っていて、俺の事を想ってくれていた。その想いは間違いなく本物だと感じたから例え〝ホロウ・ストレア〟がモンスターだろうと1と0で出来たAIだろうと真剣に返すのが筋というものだ。

 

 

「……どうしてか聞いても良いかしら?」

 

「一つ、俺はお前の事を知らない。好きだ愛していると言われても俺がお前の事を知らなきゃ話にならん。自分が相手を愛しているのならそれで良い?アホか、()()()()()()()()()

 

 

愛して愛されて、与えて与えられるというのが愛だと俺は考えている。それなのに〝ホロウ・ストレア〟の愛は一方通行で自己完結してしまっている。愛している愛していると叫んでいるのにこちらの返事を聞こうとしない。そんな自己完結が感じられたのだ。

 

 

「一つ、お前よりも長く俺の事を慕ってくれている奴らがいる。好きだ愛していると叫んでアピールして、好いて愛してと求めてる彼女たちを放置してポッと出の女の尻を追いかける?アホか、()()()()()()()()()()()()

 

 

2人とは言うまでもなくユウキとシノンの事。リアルから俺に対して好意を抱き、好きだ好きだと叫んで愛して欲しいとアピールしている彼女たちを無下にして〝ホロウ・ストレア〟の想いに応えるなんて有り得ない。俺の都合で応えられないと応えていないのにそれでも良いと、応えてくれる時まで待つと言ってくれた2人を無視するなんて俺には出来ない。俺の勘では2人の想いに応える時はそう遠くないと思う。願わくば、それが薬とか使わないでやって来て欲しい。房中術ならギリギリで勘弁してやる。

 

 

「そして最後に、与えられた役割(ロール)だか知らないがストレアの外見で言われても萎えるんだよ。本当の自分も曝け出さずに男ウケしそうなストレアの見た目で告白?アホか、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

〝ホロウ・ストレア〟の中身は間違いなくストレアとは別物、〝ホロウ・ウェーブ〟の様に元となったストレアを真似ていない。この感情は間違いなく〝ホロウ・ストレア〟が抱いた正真正銘の本物の感情なのだろうがストレアの見た目で告白している時点で論外だ。告白相手である俺に、そして()()()()()()()()()()。醜かろうが胸を張れよ、万人受けされない容姿だろうが自分を偽ったら終いだろうが。まぁカーディナルから与えられた役割(ロール)でストレアの見た目になっているかもしれないが。

 

 

「以上から言わせてもらいたいのは三つだ。一つ、俺がお前の事を知ってから。一つ、2人の想いに応えてから。一つ、本当の自分を曝け出してから。これがちゃんと守れてなお俺の事が好きだって言うんだったらその時にもう一度告白して来い」

 

「……思ったよりも真剣に返されてビックリしてる」

 

「ぶん殴るぞ」

 

 

折角人が真剣に考えてやったと言うのに間抜け顔晒して出たのはそれかよ。今すぐ助走をつけてドロップキックでも顔面に叩き込んでやりたいが、そうする事で〝ホロウ・ストレア〟に暴れられるのも困る。攻略組のメンバーのほとんどが泥酔しているから使い物にならないのだ。出来る限り穏便に、戦いになったとしても被害を抑えて殺す必要がある。

 

 

「ゴメンゴメン……そっか、確かに言われてみればそうよね……うん、分かった」

 

 

〝ホロウ・ストレア〟は悩み、答えを出したのか納得した様な表情になって瓦礫から飛び降りて俺と同じ目線に立った。ストレアと同じ紅い目が、ストレアとは違う感情を含んで真っ直ぐに向けられる。

 

 

「貴方の言う事は厳しいけど確かに共感出来る。この場は振られてあげるわ。だから、この五十層で私の事を知って。ちゃんと彼女たちの想いに応えてあげて。それでいつか本当の自分を見せるから、その時には応えてね」

 

 

顔を包む様に手を添えて、俺の顔が動かない様に固定された状態で〝ホロウ・ストレア〟はそう告げた。それを聞いて、少しだけ可笑しくなってしまう。

 

 

あぁ、どうしてストレアのホロウはこんなにも健気で強くて綺麗だというのに、俺のホロウはあんなにも脆く弱く醜いのだろうか。まるで俺という人間が醜悪だと言われているようなものじゃないか。

 

 

「……何が可笑しいのかしら?」

 

「若干の自己嫌悪があってな」

 

 

このままでは自己嫌悪の無限ループから自己否定に入りそうだったので〝ホロウ・ストレア〟の不機嫌な声を聞いてそれを止める。

 

 

そして丁度その時、遠く離れた場所から爆ぜる音が聞こえて来た。あの音は何度も聞いた事があるーーーシノンが愛用している炸裂矢の爆発音だ。

 

 

「シノン……!?」

 

「あ〜……そう言えば私と一緒に〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・キリト〟が来てたの忘れてた。足止め頼まれてたけど丁度良かったから告白しようって考えてたから……ごめんね?」

 

「つまり、シノンがホロウの俺に襲われていると……」

 

 

俺の偽者が、シノンに害をなしていると聞いて全身から熱が消えた。

 

 

怒りには二種類ある。一つは頭に血を登らせて、感情のままに暴れる激情。一つは逆に冷静になって無感情になる冷徹。俺は後者の方、怒れば怒るほどに感情は削ぎ落とされて淡々と報復するだけの装置になる。過去に家を燃やした時には無表情で灯油を撒いて放火していたと爺さんが言っていた。

 

 

今回の怒りはそれよりも酷い。全身から熱が無くなる。心が冷めて、脳が〝ホロウ・ウェーブ〟の殺害方法を次々に提示してる。

 

 

昔に一度だけユウキとシノンに見せて、怖いと怯えられた俺が戻ってくる。

 

 

「どこにいる?」

 

「それも中々……ここから東に直線で800メートル辺りね。交戦中なのか南の方に移動しているわ」

 

「そうか」

 

 

教えてくれた事に対する礼も無しに建物の出っ張りを掴んで屋上に上がり、アイテムポーチから非常時用に入れておいた敏捷値上昇のポーションを取り出して一気に飲み干す。

 

 

そして、〝ホロウ・ウェーブ〟を殺すために〝アルゲート〟を駆け抜けた。

 

 






〝ホロウ・ストレア〟ちゃんの告白を断るキチガイ。キチガイはキチガイだけどちゃんとした価値観を持つグレートキチガイだから恋愛に関してもマトモに考えてるっていう。でもユウキチとシノノンに愛されている時点でギルティ。それがロリって言うだけでギルティ倍プッシュ。

そしてマーダーウェーブ出撃。今ここに、〝ホロウ・ウェーブ〟の未来は決定した。

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