「はぁ……」
「また溜息ですか?」
「いやだって、ねぇ?僕の気持ち分かるでしょ?」
「分からないでも無いですけど、そんなことをしてる余裕があるんですか?」
「あるからしてるんだよ。無いならしてないっての。それにそれを言ったらノーチラスもだろ?」
「まぁ確かにそうですけど……」
五十層〝アルゲート〟。攻略組内では魔獣戦線とも呼ばれる様になった防衛戦で僕はノーチラスと一緒にフィールドに出てモンスターの群れの中にいた。四方八方から殺してやると殺意を漲らせて襲い掛かってくるモンスター。それを両手に持った短剣二本で斬って突いて弾いて流す。両手持ちにすることのメリットは単純に手数が増えること。ソードスキルはキリトの様に〝スキルコネクト〟でも使わない限りは片手でしか発動できないが、そもそもこんな状況下で硬直するソードスキルを使うこと自体が自殺行為なので問題無い。
ステータスのほとんどを敏捷に振っている僕は当然のように筋力は低い。急所を狙って即死かクリティカルでも発生させなければ一撃で倒す事なんて出来やしない。だがそれで良い。それを承知の上でこんなビルド構成にしたんだから。
左手と右手を別々に動かしながら前と左右から来るモンスターを連撃に連撃を重ねて迎撃する。一撃では少量しかゲージは減らないが、それを死ぬまでやれば問題無い。背後にいるノーチラスは過去にウェーブさんにモンスターの群れに放り込まれた事があるらしく、遠い目をしながら片手剣と盾を使って戦っていた。
と、その時モンスターの群れの動きが鈍る。
「指揮官が倒されたみたいだね」
「それじゃあもう一踏ん張りしましょうか。僕、帰ったらユナに膝枕してもらう約束してるんで」
「なぁノーチラス、知ってるか?一発だけなら誤射じゃないらしいぞ」
「彼女のいないシュピーゲルさんが悪い」
「ハハッ、こやつ言いおる」
本当にフレンドリーファイアーして祖国ってやろうかと考えたがその後の処理が面倒そうだと考えて真面目に戦う事にした。
五十層の攻略開始から一週間後、〝ホロウ・キリト〟と〝ホロウ・ウェーブ〟の襲撃から四日後、そして……ウェーブさんが失踪してしまってから四日後の今日の防衛戦だった。
四日前の夜、〝ホロウ・キリト〟と〝ホロウ・ウェーブ〟が〝隠蔽〟を使ってキリトとウェーブさんを装って〝アルゲート〟に侵入した。〝ホロウ・キリト〟の方は真っ先にキリトの方に向かい、〝部位欠損耐性〟と〝即死耐性〟に手こずったが倒したとキリトは言っていた。
問題は〝ホロウ・ウェーブ〟の方だ。〝ホロウ・ウェーブ〟は〝ホロウ・キリト〟の様に直接ウェーブさんを狙わずに、ユウキとシノンを狙っていたのだ。2人は敢えて誘いに乗って〝ホロウ・ウェーブ〟を嵌めようとしていたがそれに失敗し、シノンはレイプされる直前まで追い込まれたそうだ。幸運な事に行為の直前にウェーブさんが駆け付け、〝ホロウ・ウェーブ〟をボコボコにしたらしいのだが〝ホロウ・ストレア〟と〝ホロウ・ヒースクリフ〟に〝ホロウ・キリト〟の死体と一緒に回収されてしまったらしい。
そしてウェーブさんはその夜の内に姿を消した。ギルドは脱退していないし、フレンドリストにも名前は残っている。翌朝に〝追跡〟を使ってウェーブさんの足取りを確認したところ、足跡はフィールドまで伸びていた。これから考えられるのはウェーブさんは1人でモンスターの殺意が天元突破しているフィールドに出たという事になる。
普通に考えたら自殺行為にしか見えないがウェーブさんの事だから大丈夫だろう。現にフレンドリストで生存は確認出来ているし、念のために確認した始まりの街の石碑にも名前がちゃんと残っている。問題があるとするならどうしてウェーブさんは1人でフィールドに出たのかという事だろうか。
「まぁそんなこと分かりきってるんだけどね」
防衛戦を終えて、店で買ったホットサンドを咀嚼しながらウェーブさんの行動の理由を推測する。
あの人はキチガイだが割と常識的なキチガイだ。リアルでは面白半分で事態を引っ掻き回してそれを他の奴に丸投げしたりなんて良くやっていた。だが、それは裏を返せば処理出来る奴を見つけるというフォローはちゃんとしていたという事。あぁ見えてあの人は責任感があるのだ。
だから、今回の事も責任感から来ているのだろう。遠く離れた場所にいたのに2人が
正直に言えせて貰えば、ウェーブさんのやってることは見当違いだとしか思えない。今回の件で誰が悪いのかと言われたら間違いなく〝ホロウ・ウェーブ〟だ。例え〝ホロウ・ウェーブ〟がウェーブさんに執着していて、その関係でユウキとシノンは襲われたかもしれないがそれでも〝ホロウ・ウェーブ〟だけが悪い。
だけどウェーブさんはそうは考えずに自分も悪いと考えたんだろう。でなければ失踪なんてしないはずだ。
「面倒臭い人だなぁ……」
面倒臭い、今のウェーブさんを言い表すのならその一言で終わる。あの人は何かと自己完結しているタイプの人間だから勝手に1人で悩んで勝手に1人で結論出して勝手に1人で実行したに違いない。誰かに相談するなりなんなりすればもっと良い結論が出たかもしれないのにそれをしなかった。
自己完結。それがウェーブさんの長所であり、同時に短所であると言えた。
攻略組ではウェーブさんの事を探すかどうかを議論している。ディアベルさんやクラインさんは探しに行くべきだと唱えていて、ヒースクリフさんやキリトは放っておくべきだと言っている。前者はウェーブさんの強さを知っているが身を案じているからの発言であり、後者は本人の悩みは本人に解決させるしかないとウェーブさんの事を理解しているから出た発言だった。
〝
「せめてどっちかが立ち直ってくれたらなぁ……」
「ーーー何辛気臭い顔してるのよ。ズドンするわよ」
「ーーーしちゃって良いんじゃないかな?ほら、股の辺りをズドンと……」
「気がついたら僕の息子が危なくなってる件に関して異議を申し立てたい」
「ノリよ」
「ノリだね」
「ノリかぁ……ノリなら仕方ないなぁ」
股間の辺りに寒気が走るがノリでと言うのなら本気でするわけじゃないなと思い振り返ればそこには引きこもっていたはずのユウキとシノンの姿があった。何故かシノンは弓を番えて鏃を僕の股間の辺りに向けている。
「シノン、矢を下げて。このままじゃ集中出来ない」
「ちぇ……」
「なんでそんなに残念そうなの?」
渋々といった様子で弓を下げたシノンを見てこいつ大丈夫かと思ったが考えてみればシノンの本性はこんな感じだったのでいつも通りだった。どうやら見た限りでは〝ホロウ・ウェーブ〟の件は乗り越えたらしい。
「シュピーゲル、ウェーブ探しに行くから付いて来なさい」
「メンバーは?」
「えっと、ボクとシノンとストレア、アルゴに暇そうにお酒を飲んでたPoHだよ」
「ノーチラスとユナは悪いけど〝アルゲート〟で待ってもらうわ。ユナは歌ってバフかけてもらわないといけないし、ノーチラスはその付き添いね。ユナから離すと発狂するから」
「まぁそんな所だろうね」
メンバーを聞いても意外とは思わずに妥当だなと感じた。ギルド内で起きたことはギルド内で解決するのが基本だ。ウェーブさんの失踪もそれに当たる。ディアベルさんかクラインさん辺りに声をかけたら付いて来てくれそうだがそれだと防衛戦に回す人員が少なくなるし、大人数でフィールドを歩いてもモンスターの目を引くだけで旨味がない。
「どうせあの人の事だから見当違いな事を考えて勝手にやらかしたんでしょうね」
「だろうね。本当に面倒臭い」
「だけどその面倒臭さが慣れると癖になるんだよね」
「ホントそれよね」
イェーイとハイタッチをするユウキとシノンを見て、本当にウェーブさんは2人から愛されているなと思う。それはウェーブさんにも言える事で、彼も2人の事を大切に思っているのだろう。だから失踪なんて事になったかもしれない。
それでも、面倒臭い事は変わらないのだが。
取り敢えず見つけたら一発殴る事を決めた。
ウェーブ失踪事件。〝ホロウ・ウェーブ〟がやらかした夜に姿を消したそうです。
恋する乙女たちがウェーブを探しに出るらしい。これはウェーブが食われるフラグか……?