闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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すれ違い・7

 

 

事態は最悪としか言えない。対人戦で言えばトップクラスに入るPoHが一方的にやられ、シュピーゲルは二つ名が付くほどの敏捷を生かす事なく瞬殺され、ストレアはほぼ片手間で倒された。3人ともHPは残っているものの、気絶したのか動く気配が見られない。アルゴは戦闘職では無いので数には入れられず、私とユウキだけでウェーブの相手をしなければならないという状況になった。

 

 

それだけならまだ希望はあったかもしれない。だが、ホロウたち4人を引き連れた〝ホロウ・ストレア〟が登場してしまった。

 

 

三つ巴の状況で、最弱なのは間違いなく私たち。それを理解しているのか〝ホロウ・PoH〟がPoHと同じ〝メイト・チョッパー〟を構えてこちらに飛び出そうとして、それを隙と見たウェーブに斬られていた。

 

 

宙に舞う〝ホロウ・PoH〟の腕。すかさず3人のホロウたちがウェーブに向かって動き出す。

 

 

「大丈夫だった?」

 

 

〝ホロウ・ストレア〟がストレアと同じ顔で心配するように話しかけてくるが応える代わりに武器を向ける事で返事にする。ホロウの強さは身をもって知っている。しかもウェーブが〝ホロウ・ストレア〟が一番厄介だと評価していたのだ。警戒して然るべきだ。

 

 

「すっごい警戒されてるわね〜……大丈夫よ、少なくとも私は彼を止める為に来たんだから」

 

「……それを信じろと?少しばかりムシがいいんじゃ無いかしら?」

 

「信じられないならそれでも良いわよ。でも、早くしないと手遅れになるわ」

 

「もしかしてあの黒いモヤの事言ってるの?」

 

 

えぇ、と返事をして〝ホロウ・ストレア〟が視線をウェーブに向ける。そこには防御のことを一切考えずに殺意と怒気を燃やして〝ホロウ・ウェーブ〟に向かって一心不乱に攻撃している彼の姿があった。ウェーブがこうなった一因でもあるのでこの光景は自然だろう。私たちもこの状況で無ければ〝ホロウ・ウェーブ〟を殺したいと思っているから。

 

 

防御を考えていないので〝ホロウ・ウェーブ〟に反撃されたり、他のホロウたちに背後から攻撃されているが、その全てがウェーブが纏う黒いモヤに阻まれてダメージにならない。初めは〝暗黒剣〟のスキルかと思ったのだが〝ホロウ・ストレア〟の言葉を信じるならそうではなく、危険性を孕んだ別物らしい。

 

 

「あれは正常なゲームシステムなんかじゃない。あれは〝心意(インカーネイト)システム〟って言って、設定されている事象を感情や精神力、イメージなんかで上書きするシステム。茅場晶彦がカーディナルに人を理解させる為に組み込んだシステムよ」

 

「つまり、心の力で世界を書き換えると」

 

「チートじゃない」

 

「確かにそうね。心意には心意以外で対抗出来ないし。でも、当然の事ながらデメリットはある。感情っていうのは正と負と二種類あるでしょ?心意にも同じことが言えて、正と負の心意があるの。彼が使ってるのは負の心意。あれを使えるほどに強く思ってるって事は、心の傷を掻き毟って広げているのと同じなのよ」

 

「もっと分かりやすく」

 

「最悪、負の感情に飲み込まれて彼はプレイヤーの皮を被ったモンスターに成りかねない」

 

「それだけ分かれば十分よ」

 

 

つまり、あのまま彼を放置すれば取り返しがつかないということ。それだけ分かれば十分だし、私たちがする事は変わらない。

 

 

「でも言うのは簡単だけど上手くいかないわよ。心意モドキなら私も使えない事はない。今の〝過剰光(オーバーレイ)〟の段階なら、私が相手になれるけど……」

 

ーーー叫べよ畜生狼、(Crying )尊き者への祈りを込めて(crazy werewolf)

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟を殺せない現状に苛立ったのか、ウェーブが聞き慣れない名前を口にした。その瞬間、全身に掛かっていた黒いモヤが右腕に集中して〝冥犬の牙〟と一体化した。遠くから見ても分かる。あの形態はさっきまでとは次元が違う。

 

 

「やっぱり〝発現(ライド)〟まで行っちゃってるか……あれは〝発現(ライド)〟って言って、〝過剰光(オーバーレイ)〟の一つ上の段階。〝過剰光(オーバーレイ)〟で決まってなかった方向性が決定されて、何かしらの能力が発現するの。あぁなったら〝過剰光(オーバーレイ)〟じゃ対抗は出来ても拮抗は出来ない。どれだけ食らいついたとしても絶対に勝てないわ」

 

「って事はそんな状態になるまで思い悩んだって事だね……」

 

「全くあの馬鹿は……」

 

 

悩んで悩んで、自分だけが悪いと自分を責めたに違いない。その果てに彼は堕ちてしまった。彼の祖父が言っていた〝ブッ飛んでいる〟領域まで。見た所堕ちきったわけでは無さそうだが、それでも後指一本分くらいだろう。どうにかしなければ間に合わなくなる。

 

 

しかし、私たちに出来ることは何もない。〝ホロウ・ストレア〟の言葉を信じるのなら今の彼と戦うには心意を〝発現(ライド)〟の段階まで使えなければならない。私たちは心意が使えず、〝ホロウ・ストレア〟は恐らく〝過剰光(オーバーレイ)〟の段階までしか使えない。

 

 

結果、今の私たちに彼を止める手段は無い。ホロウたちが何とか食らいつこうと必死になっているが、彼は歯牙にもかけずに〝ホロウ・ウェーブ〟を蹂躙する事に専念している。その光景はまるで彼が自分自身を殺しているようで目を逸らしたくなった。

 

 

「で、()()はどうするの?」

 

「愚問ね()綿()()、そんなの決まっているわ」

 

 

何も出来ないから見ているだけ?そんな殊勝な性格なんてしていないことはとうの昔から知っている。そもそも私たちは彼を止める為に、連れ戻す為にここに来たのだ。

 

 

心意が使えない?なら使()()()()()()()()()()()

 

 

過剰光(オーバーレイ)〟では勝てない?なら()()()()()()()()()()()

 

 

ブン殴ってでも彼を連れ戻すと決めたのだ。例え頭の先までどっぷり堕ちていようが引きずり上げてやると決めたのだ。私たちの愛する彼を、1人にしないと決めたのだ。

 

 

心意(インカーネイト)システム〟がどういう物なのかは〝ホロウ・ストレア〟の説明で把握し、実際にどういう物なのかをこの目で見ている。前例がある以上、原理を理解して実物を見たのなら()()()()()()()()()

 

 

「一つだけ教えてくれるかしら?なんで、私たちに手を貸すようなことをしたの?」

 

「……私も、彼のことが好きだからよ」

 

 

私の疑問に〝ホロウ・ストレア〟は、目を細めながら痛ましそうに彼を見ていた。

 

 

「一年くらい彼のことを見続けて、彼のことが好きになって、告白してフラれたけど、それでも彼のことが好きなのよ。大好きな人が堕ちるところなんて見たく無い。カーディナルにとってマイナスになるかもしれないけど、私は彼を助けたいの……AIなのにそんな事を考えるって、私壊れたのかな?」

 

 

〝ホロウ・ストレア〟の考えはAIの考えではなかった。カーディナルによって作られた以上、彼女はカーディナルの利益になる様に尽くさなければならない立場にある。彼女の思考はどう考えてもカーディナルの利益にはならないだろう。

 

 

でも、だけど、

 

 

「AIとしては間違ってるかもしれないけど、1人の女としては間違って無いわよ」

 

「うんうん、やっぱり好きな人が闇堕ちするところなんて見たく無いよね」

 

 

私たちはその思考を肯定する。AIとしては間違ってるかもしれないが、恋する乙女としては間違っていない。大好きな人が堕ちるところなんて見たく無い、救えるのなら救いたいと考えて当たり前だ。

 

 

「それじゃ〝ホロウ・ストレア〟、私たちが動ける様になるまで彼の事を頼んだわよ」

 

「頑張って。恋する乙女として応援するから」

 

「えぇ分かったわ。だから……お願い、彼を止めて」

 

 

最後まで立っていた〝ホロウ・ヒースクリフ〟が切り捨てられるのを見て〝ホロウ・ストレア〟は全身から鮮やかな赤いモヤを出してウェーブに向かって突進していった。

 

 

「やるわよ、木綿季」

 

「詩乃こそヘマしないでね」

 

 

それを見届けて、私たちの意思はブラックアウトした。

 

 

 






ユウキチとシノノン、そこにホロウ・ストレアが加わってまさかの恋する乙女同盟結成。闇堕ちしたウェーブを救うんだ!!……あれ?ヒロインの立場逆転してる?

同位階じゃ無いとまともに戦えないというお約束。一応〝過剰光(オーバーレイ)〟段階でも〝発現(ライド)〟段階と戦えるけど、どう頑張っても絶対に負ける。〝過剰光(オーバーレイ)〟段階と〝発現(ライド)〟はオリジナルなので悪しからず。

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