朝田詩乃という少女の人生を語るならば劇的の一言に尽きる。
幼少期に交通事故で父親を亡くし、その事故が原因で母親は精神年齢が逆行してしまった。それを見た詩乃は自分が母親を守らなければならないという義務感を抱く様になる。
そして詩乃が11歳の時に、彼女は母親と共に強盗事件に巻き込まれた。薬物でも使用していたのか、強盗犯は明らかに正気を失っていて錯乱した様子だった。手にしていた銃が詩乃の母親に向けれたのを見て、彼女はその義務感により強盗犯に掴み掛かり、その拍子に落とした銃を手にとって強盗犯を射殺した。
無論、これは正当防衛だ。警察もそう認知して、詩乃を逮捕する事はしなかった。しかし周りの評価はそうはいかなかった。
朝田詩乃は人殺しだと伝えられた。初めの方はありのままの事を伝えていたのだろうが人を介していく内にドンドン膨れ上がり、快楽殺人者として仕立てられた。そんな噂が流れれば詩乃は受け入れられるはずが無く、いじめや恐喝などに合う様になった。
それだけならまだ耐えられたかもしれない。彼女が守りたいと思った母親が詩乃を受け入れてくれれば。しかし母親は怯えてしまった。自分を守るために強盗犯を殺した詩乃を見て来るなと怯えてしまったのだ。
これにより詩乃は精神崩壊を起こしかけた。完全に起こさなかったのは彼女の祖父母の助けが大きい。しかし自分たちでは詩乃を救う事が出来ないと、だけど助けたいと考えた祖父は古くからの知人に頼る事にした。
そうして彼女は救われた。漣不知火という人物に出会い、支えられながら心の傷を克服した。不知火がこれを聞けば支えただけだと言うに違いない。しかし詩乃にとっては不知火が救いのヒーローであったのだ。
紺野木綿季という少女の人生を語るならば悲劇の一言に尽きる。
出生時の医療ミスにより輸血用血液製剤から一家全員がHIVに感染。父親も母親も、双子の姉も自分もHIVキャリアとして生きていく事を余儀無くされた。
とは言えど所詮はキャリア、発症しなければ普通の人間となんら変わりない。薬を服用しながらだったが小学校へと通い、常にトップクラスの成績を双子の姉と維持していた。
しかし、どこからかHIVキャリアである事がリークされてしまった事で陰湿ないじめが始まり、ストレスからなのかAIDSを発症。小学4年生という幼さで闘病生活が始まった。
木綿季は怯えながら生きていた。薬の副作用に苦しみながら、いつ死ぬか分からない恐怖を味わう事を強制されていたのだ。精神が成熟した大人でも発狂しかねないそれに耐えられたのは、同じくAIDSを発症して入院していた家族が居たから。もしも彼らが居なければ彼女の精神は崩壊していただろう。
そして木綿季は両親の友人であった不知火の母親の思い付きにより骨髄バンクに登録していた不知火の骨髄が一致、前例があるという事で骨髄移植によるAIDSの治療を試み、幸運にも成功した。
未だにAIDSに苦しんでいる両親と姉も、木綿季の完治を心から喜んでいた。いつになるか分からないが自分たちも治してやると意気込んで、辛く苦しい闘病生活を送っている。リアルで不知火たちが暮らしている家は元は紺野家の家で、いつ彼らが戻ってきてもいい様にと不知火が管理しているのだ。
そうして彼女は救われた。不知火からしてみれば母親の勧めで骨髄バンクに登録していただけで、運が良かったと苦笑するに違いない。しかしそれでも木綿季にとって不知火が救いのヒーローであったのだ。
そんな彼が、自分たちが傷付いたことを悔やみ自責し闇に堕ちそうになっている。ならば、今度は自分たちが彼を救う番だ。自分たちを救ってくれたヒーローへの感謝と愛情を胸に、彼に届く力を得るために、彼女たちは心の傷を切開する。
朝田詩乃は強盗事件後に銃に対するトラウマを抱えた。モデルガンどころか手を銃の形にする子供の遊びの様な事でも事件の事を思い出して発作を起こす。これは自分が弱いからだと詩乃は思い込み、強くなりたいと不知火に懇願した。それを聞いた不知火は詩乃が求める強さは物理的な強さではないと感じとり、一先ず銃に対するトラウマを無くすために
心が壊れそうに、挫けそうになれば不知火が支えてくれた。そうして強さを求めて銃に触れていく内に詩乃はとある銃に出会った。
その銃の名は〝PGMヘカートII〟。ウルティマラティオシリーズの中でも最大口径のモデルのアンチマテリアルライフル。ヘカート……ギリシャ神話の女神ヘカテーの名を冠する銃は有りとあらゆる物を粉砕する、まさしく詩乃にとっては力の象徴であると言えた。
だが、いつからか詩乃は力を求める事を止めた。力が無くても、守ってくれる存在がいると分かって安心したから。
だから今一度、力を求めよう。救ってくれた彼を、今度は自分が救う為に。
紺野木綿季は幼い頃から死の恐怖に向き合う事を強制されていた。死にたくないと震え、生きたいと叫んでも死の恐怖は側から離れず、絶えず木綿季の後ろを付いてくる。幼い木綿季にとって、それは計り知れないほどの恐怖だった。
いつ発症するかと怯え、発症してからもいつ死ぬかと怯え、いつしか彼女は一つの答えを出していた。
死とは離れる事のできない隣人であり、恐れるものではない。
追いかけてくる死に怯えて生きるのでは無くて、精一杯生きて死を受け入れようという答え。良き死を迎える為に良き生を送ろうと、老人が考える様な死への価値観を幼い木綿季は本気で信じていた。
それは一種の現実逃避だったのかもしれない。しかしこれが木綿季への負担を減らした事は事実である。不知火に救われて、いつしかこう考える事は無くなったがその根幹は変わっていない。彼女がすべてに全力で取り組み、全力で生きている。
不知火に救われて、不知火に恋をして、木綿季は不知火と共に生きて不知火と共に死にたいと思っていた。
だから、今一度死を想おう。良き生を送る為に、彼と共に生きる為に。
開かれた2人の心の傷。しかし、そこにあるのは怒りや嘆きなどの負の感情では無い。
自分たちを救ってくれた優しきヒーローに対する感謝の念以外に存在しない。
それは闇に堕ちた
大切な
「「ーーー
ーーー奇跡という偶然では無い、愛という必然で、彼女たちは彼と同位階へと到達する。
開かれる心の傷。眼前に現れる変えられない過去。心が砕きかねないそれらを前にして、彼女たちは変わらない。愛する彼を救う為に、2人の少女は心の傷を受け入れ、彼と同じ領域にへと至る。