闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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すれ違い・10

 

 

漣不知火(ウェーブ)への想いから〝発現(ライド)〟へと至ったユウキとシノン。ユウキは外見上には変化が見られない。ただ、片手剣に紫色の光が集まっただけにしか見えない。一番変化したのはシノン、正確には手にした武器だった。

 

 

シノンの武器は弓だったはず。それなのに今手にしているのはSAO内で存在しないはずの銃、それもアンチマテリアルライフルと呼ばれる狙撃銃〝PGMヘカートII〟だった。〝PGMヘカートII〟の銃口をウェーブに向け、迷う事なく引き金を引く。爆ぜる轟音、音を置き去りにしながら飛ぶ弾丸。

 

 

それをウェーブは反射で両断した。

 

 

無論見てから反応した訳ではない。ユウキ並みの反応速度を持ってしても、そもそも銃弾の視認が出来ない。ウェーブが見たのは銃口とシノンの指の動き。銃口からどこを狙っているのかを把握し、指の動きからいつ発射するのかを見る。どのタイミングでどの位置を狙っているのなら、後は反射的に斬り捨てるだけで事足りる。

 

 

銃弾を斬り捨てて、ウェーブへと飛び掛ったのはユウキ。紫色の光を纏った剣を振り翳す。外見上、変化は見られない。しかし、ウェーブの本能が恐れているのはユウキだった。

 

 

本能が恐れている以上、マトモに相手をするのは得策では無い。幸いにユウキの剣速も剣筋も変化は見られない。SAO開始時からずっと見続けてきたユウキの剣なんて見ずとも回避出来る。一歩後退り、足を狙う様に振るわれた剣を飛んで躱し、背後の木を足場にしてその場から離れる。

 

 

そして、ユウキに斬られた木が()()()()()()()()

 

 

まるで一瞬で寿命を終えたかのように枯れ果て、自重を支えられずに木は倒れる。本能が正しかったと知る。ユウキの剣は死の剣だ。斬られるどころか触れただけでも死を押し付けられる。死を想い続けた少女の能力が死の具現化などとはなんとも笑えない冗談だ。

 

 

危険度はユウキが一番だと判断し、空中で体勢を整え、着地と同時に斬り捨てると決意しーーー〝冥犬の牙〟に衝撃が走り、吹き飛ばされた。

 

 

「ッーーー!?」

 

 

理解不能な現象が起きた。ユウキを危険だと判断しながらもシノンからは目を離していない。銃口の向きも、指の動きも視認出来ていた。あのタイミングで撃たれたとしても当たらないタイミングで引き金を引かれたというのに、弾丸は〝冥犬の牙〟に命中したのだ。

 

 

「ーーー笑えねぇなぁ(〝求道獣:原因把握〟)

 

 

吹き飛ばされながら体勢を立て直し、着地。当たらないはずのタイミングで命中した銃弾。その答えは一つだけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

発射された銃弾は真っ直ぐにしか飛ばない。それが当たり前で、ウェーブもそうだと考えていた。しかしシノンの銃弾はその当たり前を容易く覆した。避けた、躱したと思っても曲がって標的に目掛けて高速で飛翔する弾丸は最早魔弾の領域にある。

 

 

ユウキの死の具現とシノンの必中の魔弾。それが、彼女たちがウェーブを救うために発現させた心意だった。

 

 

「……ねぇ不知火、覚えてるかしら」

 

 

引き金が引かれて発射される鋼の弾丸。銃口と指からタイミングと位置を読み取り〝冥犬の牙〟で防ごうとするが軌道が曲がり、ウェーブの足を穿つ。通常アンチマテリアルライフルで撃たれたのなら引き千切れてもおかしく無いのだが、どういうわけかウェーブの足は引っ付いたまま。しかしその衝撃もそのままで、ウェーブの身体をボールの様に吹き飛ばす。

 

 

「私が強くなりたいって言った時に、貴方はずっと私のそばに居てくれたわよね?銃を見て発作を起こした時も、吐いてしまった時も、あの時の事を思い出して1人で泣いている時も」

 

「ーーー」

 

 

鋼の弾丸がウェーブの身体を穿ち、言葉の弾丸がウェーブの心を穿つ。

 

 

「ボクと会った時の事を覚えてる?AIDSに発症してるボクに握手しようって不知火は手を伸ばしてくれたよね?ボク、あの時本当に嬉しかったんだ。直接触れ合えたのは家族だけで、医者の人たちはゴム手袋越しで、久し振りに他人の手を握ることが出来た」

 

「ァーーー」

 

 

崩された体勢を好機と見たのかユウキが飛び込む。死の心意を纏う剣に迷いは無く、ウェーブを斬ろうとする。一太刀でも浴びればどうなるか分かりきっているのでウェーブはそれをシノンの銃弾に撃たれながらも自分の心意を纏わせた〝冥犬の牙〟で防ぐ。しかし、ユウキの言葉の剣はウェーブの心を刻む。

 

 

ウェーブは動かない。防戦に回り、ひたすらユウキの剣を防ぎ、シノンの銃弾を受けるだけ。

 

 

「私が自分の弱さを否定したがっていて、貴方はそれを肯定してくれた。弱いのは嫌だ、強くなりたいって我儘を聞いてくれて、それに真剣に付き合ってくれた」

 

「ボク1人だけが退院して、寂しくて泣いていたら不知火は起きて隣に居てくれた。偶々起きただけだった文句を言いながら、寝付くまでボクの手を握ってくれた」

 

「貴方が居てくれたから、私はトラウマを克服することが出来た。守ってくれる貴方(だれか)が居てくれるから、力を求めなくても大丈夫だって思える様になった」

 

「不知火のお陰で、ボクは前を向いて生きれる様になった。自分だけ助かってしまったと思っていたボクに、家族を想っているのなら胸を張って生きろと叱ってくれたから」

 

「ーーーそう思うのならばッ、放っておいてくれよォッ!!」

 

 

ユウキとシノンの言葉により、ウェーブの本音が溢れた。泣き叫ぶ様な悲嘆な声と共に、無表情を保っていた顔は今にも泣き出しそうになる。弱り、閉ざされていたウェーブの感情を、2人の言葉がこじ開けたのだ。

 

 

「お前たちを傷付けたくない、汚したくないって思ってる!!だけど、あの時に2人を泣かせてしまった!!悲しませてしまった!!2人を守るって誓ったのに……!!」

 

 

吐露される不知火(ウェーブ)の本音。彼は心の底から2人の事を大切だと思っている。初めは祖父と母親に押し付けられる様な出会いだったかも知れない。だけど彼女たちと接して、彼自身が2人の事を大切だと、守りたいと思う様になった。

 

 

「自分で決めた誓いも守れない様な俺に意味なんて無い!!大切な2人を守れなかった俺に価値なんて無い!!」

 

 

だけど守れなかった。〝ホロウ・ウェーブ〟のせいで、2人を悲しませてしまった。故にこの身は無意味にして無価値。誓いも守れず、2人を守れなかった自身に意味も価値も無し。

 

 

「だから来るなよ……近づくなよ……」

 

 

だって、自分の近くにいれば傷付けてしまうから、汚してしまうから、悲しませてしまうから。2人を大切だと思う気持ちに変わりはない。

 

 

大切だからこそ、近くに置けない。

 

愛しいからこそ、抱き締められない。

 

 

それがウェーブが失踪した全て。過剰なまでの自己否定。

 

 

「「ーーー巫山戯るな!!」」

 

 

それをユウキとシノンは一蹴する。2人の顔にあるのは純粋な怒りだった。

 

 

「拗らせてるとは思ったけど本当に拗らせてるわね……!!」

 

「なんかムカムカして来た。一発殴って終わらせようかなって思ってたけど止めにしよう」

 

 

確かにウェーブの視点からすればこれは最適解なのかも知れない。大切だからこそ離れるという、傷付くのは自分だけという前提条件なら。

 

 

ウェーブの最適解にはウェーブの視点しか存在しない。離れられた2人の視点が存在しない。だから理解出来ない。

 

 

これで良いはずなのに、何故2人が怒り狂ってるのかを。

 

 

「「ーーー泣くまで殴って、立ち直らせてやる!!」」

 

 

 






攻撃で物理的に攻めながら、言葉で精神的に攻める。そうやって追い詰めて、本音を引き出してからが本番。

ウェーブの拗らせっぷりがヤバイな〜って、ユウキチとシノノンがイケメンだな〜って思う様になってしまった。

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