「ただいま〜」
シノンからの連絡で〝トールバーナ〟の圏内ギリギリのところにある農家で部屋を借りたと聞いてそこまでマップを頼りに徘徊して辿り着いた。二階がその部屋らしく、一階には農夫らしきNPCが居たが部屋を借りた者の連れだと言うとすんなりと通してくれた。
部屋の広さは二十畳近くあり、清潔感もある。宿屋で泊まるのが当たり前の様に思われるが、探してみれば宿屋よりも良い条件で泊まれる部屋というのは見つかるものだ。
「おかえり〜」
「おかえりなさい」
部屋では風呂上がりなのか身体から湯気を出している二人がキャミソールに短パンという凄くラフな格好をしていた。普通に迷宮区に行っていた格好でも寝れないことは無いのだが寝る時には楽な格好が良いのだ。
「へぇ、案外広いんだナ」
そして俺の後ろからひょっこりと顔を覗かせるのはアルゴ。シノンからの連絡で借りている部屋が気になったのかついて来たのだ。まぁアルゴの事だからこの部屋も情報として売りそうな気がするのだが。
「あら、貴女も来てたのね」
「シーちゃんとユーちゃんが借りてる部屋が気になってネ」
「アルゴも牛乳いる?飲み放題だってさ」
「飲み放題でこの広さなのカ!?凄いナ……」
「んじゃ、俺風呂に入ってくるから」
バスルームと書かれた部屋に入り装備している武装と服を全てアイテムボックスの中に詰め込み、シャワーを浴びて湯船に浸かる。どうも情報処理の関係で視覚的には濡れている様には見えないのだが湯の温もりでジンワリと身体が温まるだけで嬉しかった。
やはり風呂は素晴らしい、夜の川で水浴びよりも。
五分ほど湯の温もりを堪能したところで湯船から出て木綿の布で出来た服に着替える。そして風呂場から出ると、アルゴもローブを脱いでシャツと短パンというラフな格好になっていた。
「アルゴも入るか?」
「お?もしかしてオネーサンのサービスシーン狙ってるのカ?」
「あ〜……」
アルゴのサービスシーンとなると……風呂場でばったりと言うことか?アルゴの風貌、そして服から見える身体つきからその光景を予想してみる。
……うん、悪くない。
「見せてくれるなら喜んで見るけど?」
「オット?予想外の反応が来たナ?オレっちみたいなので欲情するのカ?」
「しなくは無い。てか好みとか度外視したら年齢醜美関係無く行けそうな気がする……?」
「マジで!?」
「……嘘じゃ無いわよね?」
なんかアルゴよりもユウキとシノンの方が過剰に反応してきたな。リアルじゃ好みの話とかした事ないし……良い機会だ。腹割って話してみよう。
となると素面だと話し辛いこともある。アイテムボックスから迷宮区で拾った課金用と思われる酒を引っ張り出して一口煽る。
「ん、悪くないな……好みで言えば包容力のある人が良いけど俺の本性考えると高望みだって分かってるからな。俺が好いて、俺を好いてくれるのならそれだけでゴーするぞ」
「なるほど……」
「つまり私たちにも……」
正直なところ、木綿季と詩乃から向けられている好意には気付いている。だが木綿季は13歳で詩乃は14歳、俺は25歳だ。手を出してしまえばロリコンとして社会的に抹殺されてしまう。常識を投げ捨てている爺さんと母さん辺りなら手を出しても拍手喝采で喜びそうだが、残念な事に俺は常識を投げ捨てていない。年齢を理由に二人の好意に応えることが出来ないでいた。
だが、もし時間がだって二人が成人してからも俺の事を想い続けてくれるのなら、その時には迷わず手を出すが。
「頑張れヨ、シーちゃんユーちゃん……その酒、オレっちにもくれヨ」
「ホイホイ」
アイテムボックスから同じ酒とコップを出してアルゴに手渡す。アルゴの見た目だけなら未成年に見えるのだがこの世界では特に酒やタバコなどの年齢制限は無い。飲みたいと言う意思があればあとは自己責任だ。
「ボクも飲んでみたい!!」
「少し気になるわね……」
「ったく……少しだけだぞ?飲み過ぎると二日酔いになるからな」
なんとSAOにはバッドステータスとして二日酔いが存在している。確か年齢やらステータスやらからアルコールの許容量を設定して、それを超えたら二日酔いになるはずだ。二人の年齢から許容量が低く設定されてもおかしく無いと思っての忠告だった。
だが、その忠告は意味の無いものとなる……
「どうしてこうなった……」
ユウキとシノンに酒の許可を出して30分、俺は眼前の光景に頭を抱えていた。拾った酒はアルコールの度数はさほど高く無く、精々10%そこらだったはずだ。それなのに……
「アヒャヒャヒャ!!」
ユウキ、アルゴが持ってきていた酒をガンガン飲んで狂った様に笑っている。しかも笑っている側から新しい酒を水の様にガンガン飲んでる。
「ねぇ聞いているの?まったく……私が居ないと本当にダメなんだから……」
シノン、テーブルを俺だと思っているのか説教した挙句、テーブルの脚に寄り掛かっている。いつもは真面目なのでこんなシノンの姿は新鮮だ。
「オヨ〜?ナミっち、いつの間に分身なんてスキル取ったんダ〜?オネーサンに教えてくれヨ〜?」
アルゴ、絡み酒なのか俺に寄り掛かってきている。泥酔して判断があやふやなのか戯れつく様に俺の膝の上に寝転がっている。SAO内では女性ユーザーの身を守るために異性プレイヤーと接触した際に発動する〝ハラスメントコード〟なるものが存在するのだが、アルゴは邪魔なのか出てきたウインドウを叩き割っていた。
結論、こいつら酒癖悪過ぎだ。これならヒースクリフの方が……いや、あいつ黙々と酒飲んで話にならないからダメだ。
「はぁ……寝かすか」
このまま放置しても埒が明かないと考えて強引に寝かしつける事を決意する。幸い、シノンは酔い潰れて寝ているし、アルゴは絡み酒で俺の胴体に抱きついているが大人しいので、あとは両手に持った酒瓶を交互に口をつけて飲んでいるユウキだけだ。
「うにゅ〜?ひらふい〜にょんでりゅ〜?ボクもにょんでりゅにょ〜!!」
「うっせぇ!!何言ってるのか聞き取れねぇんだよバーカ!!」
酔い過ぎて何を言ってるのかまったく聞き取れないユウキに
ユウキとシノンをベッドに運び、あとはアルゴだけだが残念な事にベッドは二つしか用意されていなかった。幸いな事にソファーはあるのでそこに寝かせることにする。
「おらアルゴ、そろそろ離してそこで寝てくれ。情報屋が弱味作ったらいろんな意味で洒落にならんぞ」
「……ねぇ、ウェーブ。
引き剥がそうとして、いつもの様な話し方では無く弱々しい声でアルゴが話し掛けてきた。アルコールで感覚が鈍っているが、注意すればアルゴの身体が震えているのが分かる。恐らく泥酔した事で〝情報屋〟のアルゴでは無く〝リアル〟のアルゴが出てきたのだろう。だから、この震えも意味も分からないでもない。
アルゴから聞いた話だと、アルゴの事を知っているβテスターの何人かがSAOの情報をアルゴに求めてきたことがあったらしい。対価を貰い、アルゴはその情報を教えた。だが今のSAOはβ版のSAOと相違点がある。それはそうだ。β版は所詮試作品に過ぎないのだから、製品版と異なる点が出てもおかしくない。
その情報で、もしかしたらプレイヤーが死ぬかもしれないと考えた事がアルゴにはあるはずだ。相違点のことを予め説明したとしても、死の可能性はゼロにはならない。もしかしたら死んでしまうかもしれないと、アルゴの精神を削る。
俺から言わせて貰えばそれは自己責任だが、アルゴはそう思わないらしい。自分のせいで死なせてしまうかも、殺してしまうかもと内に溜めて、それが今日噴き出してしまった様だ。
その弱音を聞いているのは俺だけ。だったら、俺が出来る事はたった一つしか無い。
「……少なくとも、俺たちはお前の情報に助けられてる。それにお前から情報を買って、それで助かっているプレイヤーもいる。だから、お前がやっている事は間違っちゃいないよ、アルゴ」
慰める。古今東西、弱っている女に男が出来る事などそれしか無い。アルゴの身体の震えを抑える様に、そっとギュッと抱きしめてやる。
「ッ!!……うぅ……ッ」
アルゴから嗚咽が聞こえる。だがそれは指摘しない。そんな追い討ちをかけたところで、アルゴは救われないから。今の俺に出来る事はアルゴに胸を貸す事だけだ。
5分か10分か、正確にはどの位時間が経ったのか分からないがアルゴから嗚咽が聞こえなくなり、代わりに小さな寝息が聞こえてきた。どうやら泣き疲れて寝た様だ。
だが、ここで困った事が一つ。
「……離れねぇ」
アルゴが服を離してくれない。無理矢理引き剥がすことも出来なくは無いのだが、それをするのは憚られる。
「しゃあねぇなぁ……」
アルコールと襲ってきた眠気で面倒臭くなって、アルゴが張り付いたままソファーに横になる事にした。
そうしてふと、眠る直前で見えたアルゴの顔は少し和らいだ様な顔をしていた。
酒盛り回。お酒は飲んでも飲まれるな!!醜態を晒す事になるぞ!!(実体験)
意外と肉食系主人公。年齢や醜美は気にしないが常識を持っているので社会的に抹殺されない様に注意している。
SAOで誰が一番辛いかって言われたらアルゴな気がする。自分の情報で誰かを死なせてしまうかもしれないと考えない訳がない。というわけでアルゴのフォロー。これでまた戦えるね(ニッコリ)!!
なお、朝アルゴが起きて最初に目にしたものはドアップの主人公の寝顔でした。