「ーーーさて、それでは緊急会議を始める」
ユウキとシノンに服を着せると〝アルゲート〟に侵入したモンスターの駆逐が終わった報告と緊急会議を行う事がメッセージで知らされ、比較的破壊されていない区画に攻略組の全員を集めてヒースクリフ進行の元で会議が行われる。
集まったプレイヤーはモンスターの返り血こそ浴びているがダメージを受けている様子は無い。それだけで奇襲に対して完璧に反応し、何もさせる事なく嵌め殺したということがわかる。
「フロアボスと思わしき巨大なモンスターが出現すると同時に〝アルゲート〟を攻めていたモンスターが撤退、そして地下からの襲撃があったというのが現状だ。プレイヤーでは犠牲者は出ていないがNPC側には相当な犠牲者が出たらしい」
「まぁ兵士しか戦えないからそれ以外の奴は逃げるしか無いわな」
「しかもフロアボス出現と同時に〝アルゲート〟の転移門が使えなくなった。偶々他の階層に居た〝血盟騎士団〟の団員に確認してもらったところ他の階層への行き帰りは自由だが、〝アルゲート〟からは移動することが出来ない一方通行になっているらしい」
「物資の方は大丈夫なのか?」
「前日にエギルから渡されているから問題無い。因みに運び屋も昨日の内に五十層から出ているので心配要らない」
それを聞いて安心する。ひとまず攻略組以外の被害は心配しなくても良さそうだ。
「まずは人数の把握を。〝血盟騎士団〟は私を含めて46人だ」
「〝風林火山〟は15人全員揃ってるぜ」
「〝ナイトオブナイツ〟は生産職を除いた150人だ」
「〝風魔忍軍〟は30人全員いますけど直接戦えるのは僕ぐらいです」
「〝
「なぁウェーブ、俺良い加減キレても良いと思うんだ」
「手ェ出すのは構わないけどそうした場合この2人が牙を剥くぞ?」
「キシャァァッ!!」
「フシュゥゥッ!!」
「完全に動物化して無いか?」
「ユウキちゃん…シノンちゃん……」
「HAHAHA!!」
額に青筋を浮かべて背中に下げた片手剣を抜こうとするが、俺の膝の上で威嚇しているユウキとシノンを見てドン引きするキリト。そんな2人を見て手で顔を覆うアスナ。そしてそれを見て大爆笑しているPoH。
でも何が一番ヤバいってシノンを見て目から光を無くしているシュピーゲルなんだよな。焦点を合わせようとしない視線とかが闇堕ち一歩手前に見えて仕方がない。
「あ〜……ゴメンね?これ終わってから土下座でも何でもするから」
「……いえ、良いんです。シノンがウェーブさんのことが好きだって前から知ってましたから……でもゴールインするとか普通言うかなぁ……」
「おいシノン、なんでそんな事教えた」
「ユウキに先越されてイライラしたから」
「ドヤッ」
「そんな事でシュピーゲルの心抉らなよぉ!!あとユウキィ!!ドヤッって言いながらドヤ顔すんな!!」
どうしよう、割と今絶体絶命なのに2人のせいで緊張感がまるで無い。いや、緊張感が無いって事は余裕があるって事なんだけど仮にもハーフポイントの最終決戦前がそれで良いのか?
「さて、良い具合に緊張感が解れたところで本題だ。恐らくだが一旦引いたモンスターたちはフロアボスと同時にやって来ると思われる。モンスターの相手はNPCと協力して相手をし、フロアボスは少数精鋭で当たることにしたいと思うが異存はあるか?」
ヒースクリフの提案に異論を挟む者は誰もいない。フロアボス相手に少数精鋭で当たると言うのは自殺行為にしか聞こえないと思えるが攻略組のだれもがそうは考えていない。それはフロアボスがデカ過ぎるからだ。
デカイという事は当然の事ながら体積と質量が大きいという事になる。分かりやすく言えば、フロアボスの攻撃は範囲が広くとても重たいという事。それなのに集団で挑んでも身動ぎ1つで圧殺されかねない。タンク職などあの巨体の前では意味が無い。必要なのは攻撃を回避できる機動力と火力だけだ。
「フロアボスの相手はウェーブ、PoH、ユウキ君、キリト君、アスナ君、コタロー君に任せる。残りは〝アルゲート〟で防衛だ。シノン君は高台から狙撃を頼みたいがフロアボスに届かせる事は出来るか?」
「そうね……連射が効か無くても良ければ1キロ半、連射して欲しいのなら1キロは近づいてもらわないと無理ね」
「弓で1キロとか頭がおかしいと思うのは俺だけなの?」
「安心しろクライン、俺もそう思ってる」
「キリトぉ……!!」
「お、キリクラか?それともクラキリか?」
「来たぁぁぁぁぁぁ!!」
「おっと、私の愚息が粗相を……」
「イイゾイイゾ!!」
「腐りすぎィ!!」
「キリト君!!私はそんな非生産的な事なんて認めないからね!!」
「バッ!!俺だって付き合うなら女の子の方が良い!!」
おかしい、なんでシノンの話題から一気にキリクラネタに急下降したのだろうか。あとアスナ、頑張れ。俺はキリアスを応援している。
「因みに、Hollowsの相手はどうするんだ?」
「それに関してはコピーされているプレイヤーがそれぞれ当たり、〝ホロウ・ストレア〟は複数で当たりたいと思うのだが……」
「あ、それなんだけど〝ホロウ・ストレア〟の相手は俺に任せてくれない?一対一で倒して来るから」
俺が闇堕ちした時、〝ホロウ・ストレア〟は助けなくても良いはずの俺の事をわざわざ助けてくれた。それに別れ際に俺と戦いたいと言われたのだ。礼を返すつもりで彼女の願いを叶えたいと思っている。
「勝てるか?」
「勝つよ。当たり前のように」
「なら任せるが……そうなるとウェーブ1人で〝ホロウ・ストレア〟と〝ホロウ・ウェーブ〟を任せる事になってしまうな」
「あ、だったら私がウェーブが来るまでの間〝ホロウ・ストレア〟の相手するよ?」
俺の負担が大きくなる事を嫌っているヒースクリフに意見したのは意外な事にストレアだった。確かに〝ホロウ・ストレア〟は外見はストレアのコピーなので相手をするのが筋なのだが戦えるのか心配になってくる。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。倒そうとしないで守勢に回るから〜……それに、私に姉さんって言ったのも気になるし……」
初対面の時に〝ホロウ・ストレア〟が姉さんと言った言葉。あれはどう考えてもストレアに向けられた言葉だった。プレイヤーであるストレアが、AIである〝ホロウ・ストレア〟から姉などと呼ばれる道理は無い。一応ある仮説は立てたのだがあまりにも現実味がなさ過ぎる。しかし、それが一番信憑性が高いのだ。
ストレアにとって、あまりにも残酷な仮説が。
「……危なくなったら逃げろよ?いざとなったら俺1人で相手するから」
「あれ、私の事心配してくれるんだ?」
「そりゃあ心配するさ。拾った時から面倒見るって決めてるし、それに仲間だからな」
ストレアと初めて出会ってから今日までずっと一緒にいたのだ。それだけの間一緒に過ごしていれば少なからず情は湧く。心配はするし、死んでほしく無いとだって思う。
「ふむ……ではストレア君に頼むか。今は引いているがいつまた襲ってくるか分からない。各自いつでも戦えるように準備は怠らないように」
無尽蔵に湧くモンスターに超が付くほどに巨大なフロアボス。二十五層から今日まで攻略組では犠牲者が出ていないが、五十層の攻略では間違いなく死人は出るだろう。寧ろこれだけの兵力差があるから出ない方がおかしい。ヒースクリフはその事を口にしていないが可能性がある事は重々承知しているはず。ここにいるプレイヤーの誰もが誰かが、もしかしたら自分が死ぬ事になるかもしれないと理解しているはずだ。
怖いと思って当たり前、逃げたいと思って当然。目を向ければ何人か手や足が震えている者がいる。それは武者震いではなくて恐怖に怯えての震えだと分かった。
「「「「応ッ!!!」」」」
だというのに誰もがその恐怖を微塵も出さずに威勢の良い返事を聞かせてくれた。死ぬのが怖いと恐怖に怯えながらも、勝ってやると言う闘気を漲らせている。
その姿がとても眩しくて、格好良く見えた。
転移門封鎖。これで五十層には入れるけど出れないっていう状況に。カーディナルから絶対に逃がさないという鋼の意思を感じる。
ネタバレ。ここで犠牲者が出ます。