闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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創世の女神・9

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟から立ち上る黒い光は闇堕ちしていた頃に纏っていた物。つまり〝心意(インカーネイト)システム〟の〝過剰光(オーバーレイ)〟段階。こいつ、この土壇場で心意を使いやがった。

 

 

「オォォォォォォォォ!!!」

 

「チッ」

 

 

片手剣と空いていた手に新たに握られた刀との二刀を殺せなかった事に対する苛立ちを隠さずに舌打ちしながら飛び退いて躱す。

 

 

だが考えてみれば今の〝ホロウ・ウェーブ〟ならば心意を使えてもおかしくは無い。闇堕ちし、自身と〝ホロウ・ウェーブ〟に対する怒りと殺意から俺が使えていたのだから、その頃の俺をインストールしている〝ホロウ・ウェーブ〟だって使えるだろう。予想外であるが原因を考えれば納得出来る内容、つまりは俺の想定が甘かっただけの話だった。

 

 

「さて、どうしたものかね」

 

 

正直な話、心意を使われたところで技量自体は変わっていないので対処は出来る。しかし心意は心意でしか対抗出来ない。俺も使えなくは無いが、闇堕ちした頃の精神状態に戻るのだけは勘弁してほしい。あの時はユウキとシノンのお陰で助かったが下手をすれびそのまま帰ってこれなくなる可能性があるから。

 

 

そして、懸念している事が1つ。〝ホロウ・ウェーブ〟が闇堕ちしている頃の俺の精神状態をインストールする事で〝過剰光(オーバーレイ)〟を使っているのは分かった。ならば、あの頃の俺が使っていた〝過剰光(オーバーレイ)〟の一段階上を使えるかもしれない。

 

 

事象改竄開始(インカーネイト・スタート)ーーー!!」

 

「人が心配した瞬間にかよ……!!」

 

 

恐れていた事が目の前で現実になるとか悪夢に等しい。〝ホロウ・ウェーブ〟が纏っていた黒い光が両腕に絡み付いて片手剣と刀が腕と一体化する。それだけではなく顔や胴体、足にまで伸びて血管の様にグロテスクに脈打っている。

 

 

心意発現(Over ride)ーーー叫べよ虚しき畜生狼、(Crying )尊き者への祈りを込めて(hollw werewolf)ッ!!」

 

 

そして〝ホロウ・ウェーブ〟は俺と同じ精神状態でありながら俺以上の変貌を遂げた。それを見て素直に感嘆する。俺と同じ精神状態であるのなら、〝発現(ライド)〟は俺と同じになるはず、それなのに俺以上に堕ちた姿に成り果てたのだから。

 

 

もしかしたら自分もああなっていたのかもしれないと考えると背筋に寒気が走る。一目見て分かるのだ、()()()()()()()()()()()()()()()。ああなれば、()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう考えながら警戒を緩めずにいると、〝ホロウ・ウェーブ〟は足場を爆発させながら飛び掛かってきた。どうやら〝ホロウ・ウェーブ〟の〝発現(ライド)〟はステータスも上昇するらしい。それに加えて俺の〝発現(ライド)〟が元になっているのならば、特徴殺しの能力も持っている可能性がある。

 

 

なので避ける。いくらステータスが上がっていようとも剣筋は変わらないのならば次の行動を予想し、回避するのは容易い。乱雑な様に見えて全てが急所に向けて放たれる乱撃を防ぐ事など考えずに避け続ける。

 

 

振り下ろし振り上げ斬り払い刺突……どれもこれもが全てが俺の振るうそれのまま。闇堕ちしている頃の俺の精神状態をインストールして不安定だというのにここまで忠実に再現出来ているのを見せられると感心してくる。

 

 

別に俺は真似する事を嫌っている訳ではない。そもそも、万事において模倣というのは避けては通らない道である。初めて何かを習った時、誰もが教えてくれた者の様にしようと真似をするだろう。それは極々当たり前の行為。

 

 

俺が許せなかったのは、〝ホロウ・ウェーブ〟が俺の真似をするだけで終わる事だった。真似をすることはいい、それは俺もした事なのだから認めよう。()()()()()()()()()。何故真似するだけで終わるのだ?守破離……教えを守り、破り、離れるのは基本中の基本だろうが。ただ真似して終わるのならそれは猿真似に過ぎない。

 

 

しかし、その猿真似もここまでくれば見事と言うしかない。どんな精神状態でどれだけ不安定であっても忠実に、これ程までの完成度で再現出来ているのだから。

 

 

「何故、俺に成ろうとする?」

 

 

片手剣と刀の乱舞を見切り躱しながら、無駄だと知りつつも首や手足に刃を滑らせながら問いを掛ける。〝ホロウ・ウェーブ〟が抱く俺への執着は異常の領域。その執念を目の当たりにしてそんな疑問が浮かんできた。

 

 

「決まってるーーー俺が俺であるためにだ!!」

 

 

自身への殺意と怒りで頭の中はグチャグチャで何も考えられないだろうに……いや、だからこそか、〝ホロウ・ウェーブ〟はウェーブ()だからという理由ではない本音を口走ってくれた。

 

 

「俺はプレイヤーたちが五十層を攻略するに当たってカーディナルによって作られたAIだ。産まれた時からこの世界を理解していて、既存のプレイヤーの皮を被らされて戦って来いと放り出された。与えられた〝ホロウ・ウェーブ〟だなんて名前を名乗ってプレイヤーたちが来るまで待ち惚ける日々。そんな日々で考えたんだよーーー()()()()()()()()

 

 

それは己の存在意義を問う思考。自分は五十層の敵役として作られた俺の写し身はそう考えてしまった。本来なら、AIが持つべきではない思考を持ってしまった。

 

 

「1と0で構築されたこの身体、だけど組み込まれたパターンなんかじゃなくてちゃんと考えて行動が出来る。だけど俺は所詮は五十層だけのために作られた紛い物。倒せと命じられているが負けるなとは命令されていない。ここが終われば廃棄されるーーーそう考えて怖くなった。胸に訳の分からない穴が空いた」

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟の目に僅かに理性が戻る。自分語りをしていて正気を戻したのか。それでも全身から放たれる殺意と怒りには微塵も曇りは無い。

 

 

「何をしても恐怖は無くならない、何をしても空いた穴は塞がらない。もうウンザリなんだよこんなのは!!いつ捨てられるか分からない事に怯えて空いた穴の疼きに悩まされるのは!!」

 

 

だから、と続けて〝ホロウ・ウェーブ〟は破顔した。それは〝ホロウ・ウェーブ〟がしていた俺の顔では無い、間違いなく〝ホロウ・ウェーブ〟自身の顔。

 

 

「俺はウェーブ(あんた)に成りたい!!そうすればきっと恐怖から逃げられて、訳の分からない胸の疼きが治るからーーー!!」

 

 

成る程、〝ホロウ・ウェーブ〟の俺への執着はアイデンティティから来るものか。

 

 

カーディナルによって設置されたAIである以上、プレイヤーと戦うことが〝ホロウ・ウェーブ〟の定め。しかしそれは〝ホロウ・ウェーブ〟だけでは無く、このSAO に存在するモンスター全てに同じことが言える。だが、〝ホロウ・ウェーブ〟は一般的なモンスターとは違い、思考することが出来てしまった。

 

 

だから役目を終えて不要になる事を恐れた。だからモンスターの様に扱われる事に虚しさを覚えた。そうして求めた。不要に成らずに、モンスターの様に扱われない存在をーーーオリジナルであるプレイヤー()の立場を。そうすればこの恐怖と虚しさから逃れられると信じて。

 

 

「……成る程、お前の事を初めて理解した気がするよ」

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟の心境を理解し、そして納得した事で飛び退いて距離を取る。それに対して〝ホロウ・ウェーブ〟は慌てて距離を詰めようとはしない。自分の絶対的な優位を知っているから。

 

 

「今までの事を謝らせてくれ。カーディナルがどう考えようとも、俺はお前の事を人として認める」

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟の心境は俺が持ち得ない程に複雑なもの。それを知った今では俺はこいつを俺の欠落品(デッドコピー)とは思えなかった。

 

 

ーーーそして決心する。

 

 

「ああ認めよう、お前を俺の敵として。この手で倒さなければ成らない障害としてな」

 

死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ(〝剣術:斬鉄剣〟)ーーー!!!」

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟の突貫。縮地でも使ったのか直線的な加速を見せて容易く俺の間合いに入り込み、片手剣と刀を振り下ろす。

 

 

回避は不可能、出来ることは防御のみ。しかし〝ホロウ・ウェーブ〟の心意でそれもほぼ不可能だろう。

 

 

ーーー〝ホロウ・ウェーブ〟の心境を知り、理解した。その上で決心する。ここで立ち止まってはいられないと。それが怖い虚しいと泣き叫びながら俺に成ろうとした〝ホロウ・ウェーブ(こいつ)〟への礼儀であるから。

 

 

「だからーーー」

 

 

ーーーここで、改めて宣言させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ぁーーー」

 

 

間抜けな声を出したのは〝ホロウ・ウェーブ〟。必殺を確信していたに違いない。それを覆されればそんな声も出したくなる。

 

 

〝ホロウ・ウェーブ〟の斬撃を受け止めたのは〝宵闇の剣〟と〝煌翼の剣〟。そのどちらもが()()()()()()()()()()()()()

 

 

〝勝つ〟のは(〝意志力:)ーーー俺だ(限界突破〟)

 

 

絶対の勝利宣言と共に、再び心意の領域へと踏み込んだ。

 

 

 






ホロウ・ウェーブのウェーブへの執着の解明。なにがなんでもウェーブに成りたいと願ったのにはこういう事情があったんだよ。

それを受け取り、敵として認めた事でウェーブは限界突破……おい、いい加減にしろよ。

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