響くのは鋼と鋼がぶつかり合う音。刀と片手剣という風変わりな二刀流に対抗するのは片手剣の二刀流。その勝負は側から見れば互角に見える。
「ーーーありえねぇ」
声を震わせながら目の前の現象を信じられないと言うのは〝ホロウ・ウェーブ〟。
「ーーーなんだ、俺が心意を使った事が信じられないのか?」
「違う!!そうじゃねぇ!!」
その疑問を聞いていたのかウェーブは振るわれる片手剣と刀を弾きながら問いかける。
そんな筈が無い、元々〝ホロウ・ウェーブ〟が使う心意はウェーブが使っていた物の発展系である。当時のウェーブの精神状態をインストールし、〝ホロウ・ウェーブ〟の精神状態を参照して発現させたのがこれなのだから。再びウェーブが心意を使っていたとしても驚く事はない。
「なんでーーー
そう、〝ホロウ・ウェーブ〟の驚愕はそこから来ている。当時のウェーブは〝ホロウ・ウェーブ〟が使っているのと同じ負の心意を使っていた。なので再び使えたとしても負の心意である筈だ。言うまでもなく正と負は対極に存在している。マイナスまで行った数値をプラスにする事が困難極める様に、負の心意を発現させたのならば対極の正の心意を発現させる事はほぼ不可能になる。
だと言うのにウェーブがごく当たり前の様に正の心意を使っている。〝ホロウ・ウェーブ〟の驚愕も当然だった。
「知るかよ。お前に敬意を払い、立ち止まってはいられないと思ったらこうなったんだ」
巫山戯た解答だとしか思えないがそれが現実、罵詈雑言を吐こうとする口を押さえて〝ホロウ・ウェーブ〟は手を動かす。
確かにウェーブが正の心意を使った事には驚いたが今はまだ〝
しかし油断する事は出来ない。ウェーブはAIである〝ホロウ・ウェーブ〟から見ても異常の部類に入る人間だ。敬意を払い、立ち止まってはいられないと感じただけで本来ならば対極にある筈の正の心意を使えるようになるなど冗談にも程がある。憧憬を抱き、彼に成りたいと願っているがその評価だけは何があっても覆らない。
ならば、すぐにでも〝
だというのにーーー
「振りが甘い。腕で振るな、身体で振るえ」
必殺を確信した一閃を容易く防がれ、
「簡単に受けようとするなよ。肉を切らせて骨を断つ?アホか、骨ごと切断されればそれまでだろうが」
回避を確信した行動を容易く追い付き、
「避けようとするのならば相手を見ろ。目を、腕を、剣を、足を。その全てを見て未来を予想しろ。そうすれば……このくらいは容易い」
闇雲に振り回される必殺の剣舞を、卓越した観察眼で読み切りながらウェーブの姿が霞の様に何度も搔き消える。まるで空を舞う羽毛に手を伸ばし、風圧で押されているから届かないかの様。鋭さを、速さを増しているというのにユラユラと、木の葉の様に右へ左へ、変幻自在に。
「何がしたい!?」
ウェーブの行動が〝ホロウ・ウェーブ〟には全く理解出来ない。ウェーブが行なっているのはまるで教育だった。覚えの悪い悪童に痛みと共に教えようとしている様に、ウェーブは〝ホロウ・ウェーブ〟へ己の武芸を教授していた。
「俺は出来るぞ?俺に成ろうとしているのならば出来るだろうが」
「チィーーーッ!!」
ウェーブの思考が読めない。そして何よりウェーブの顔が腹立たしい。自分は出来た、お前は出来ないのか?自分に成ろうとしているお前がという顔が。
その顔があまりにも腹立たしく……そしてどこか愉快に感じるものだったから。
「……こうか?」
その程度、自分も出来ると真似をして。
「読みが甘い、動作が鈍い。真似るだけじゃなくて取り入れてみせろよ」
嘲る様な笑いと共に馬鹿にされて……それが頭にきたからこそ、より繊細に、より流暢に。インストールされたウェーブの行動に取り入れて。
「なら、こうかーーー」
インストールされた技術ではない、〝ホロウ・ウェーブ〟が模倣し、体得し、己の業にした縮地にてウェーブの剣舞を潜り抜け、接近を成功させる。
「ハッーーー」
カーディナルによってインストールされていない、間違いなく〝ホロウ・ウェーブ〟が自身の力で会得した技法。どうだと問いかける様にウェーブへと視線を向ければ、
「まだまだ、脇が甘い」
及第点をくれてやると言いたげな表情と共に顔面に頭突きが叩き込まれた。砕けた鼻っ面を治しながらたたらを踏む。これは会得をして油断をしていた自分が悪いと素直に飲み込み、〝ホロウ・ウェーブ〟は再びウェーブにへと挑み掛かる。
そしてウェーブと剣を重ね、教育がされていくにつれて気がつく。怒りと殺意によって狭まっていた視界が開けていると。感情そのものに変わりはない、しかし頭の中を掻き回していた不快な何かはいつの間にか消えていた。
許せないという怒りは治らない、殺せと叫ぶ殺意は止めどない。それでいて、感情と思考が別居している。
だが、
振るわれる一閃、躱す体捌きに足捌き、はたまた視線による誘導まで、インストールされたからこそ分かる驚愕するしかない熟練度で完成されていた。それらをこれだけの完成度にするのにどれだけの研鑽を積み重ねてきたのか分からない。成る程、これではウェーブが怒るはずだ。これを見てしまえば自分の物などただの真似事に過ぎないと〝ホロウ・ウェーブ〟は感嘆する。
そして出来るかという無言の問いかけを受け取り、応ともと無言の肯定を会得し取り入れた動作として見せつけせる。
それを見せつけられならばこれはと、次はこれはと投げかけられる技術。それらを見て、噛み砕き、会得して取り入れる。技術だけで熟練度が足りていないと評された〝ホロウ・ウェーブ〟の練度は他ならぬそう評したウェーブの手によって急速に積み重ねられていた。
馬鹿にされている。そう考えが浮かぶものの悪くない。こうして教えられている時間が心地が良い。いつ廃棄されるか分からないという恐怖も、訳のわからない胸の疼きも、今この瞬間には消え去っていた。
「なぁウェーブ……これは憐れみか?」
「……かもしれんな。技術だけ与えられて満足していたのが許せなくてな」
「カッ!!上等だぁ!!俺を育てた事、後悔させてやるよぉッ!!」
回避と同時に振るわせる二刀。それを回避され、同じ様に、それでいて巧みに振るわれる一閃二閃で返され、それを躱す。
ここにきて〝ホロウ・ウェーブ〟の熟練度はウェーブに迫る。そしてそれをウェーブは負けていられるかと磨きをかけ、さらに〝ホロウ・ウェーブ〟が追い掛けるというイタチごっこが発生していた。
届きそうになった瞬間に放されるのがもどかしい。だがそれは不快では無くて、なんとも言えない愉快な感情で、こんな時間が永遠に続いて欲しいと願いながら、〝ホロウ・ウェーブ〟はこの時間を終わらせる事にした。
「使えよ、もう〝
「……流石にバレるか」
「当たり前だ、仮にも俺はお前に成ろうとしているんだぞ?そのくらい把握して当然だろうが」
いつからなのか、ウェーブは〝
確かにこの時間が続いて欲しいとは〝ホロウ・ウェーブ〟も願っている。だが、それではダメだと分かっていた。ウェーブがその気ならばいつまでもこの時間を続けるつもりだっただろうが、今は〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の攻略の最中。名残惜しいが、この時間を終わらさなければならない。
だって、それが自分が成りたかったウェーブという人間なのだから。
「全力で来いよ。それを上回ってやるからよ」
構える刀と片手剣。身体より立ち昇るのは負の心意の輝き。この瞬間、〝ホロウ・ウェーブ〟はウェーブに成りたいという渇望を捨て、ウェーブを超えたいと思った。
「ーーーあぁ、分かった」
それをウェーブは静謐に受け止め、〝宵闇の剣〟と〝煌翼の剣〟を構える。身体から立ち昇る正の心意の輝きは爆発的に増え、それはまるで焔の如く燃え盛っている様に見えた。
「俺は誓ったーーー」
不敗を、常勝を、生還を。愛しい少女たちと、ここまで共に戦ってきた仲間たちに。
「だからーーー」
その誓いを果たすために、闇に堕ちたこの身を再び滾らせる。
「
前回と同じ様に踏み込んではならない領域へ、しかし負の感情では無くて正の感情で踏み入れた。
唐突に始まるウェーブの実戦でレクチャー。問題だった〝ホロウ・ウェーブ〟の熟練度は解決、だけどそれに負けてたまるかとウェーブも磨きをかけ、それを〝ホロウ・ウェーブ〟が追い掛けるという……これだからトンチキどもは……