「誓いを破りて無明に堕ちた傲岸不遜な畜生狼。しかし愛する者の声が無明の闇に響き渡る。
奮い立て、穢れを払え。愛する者の想いを薪に、再び天上に舞い上がるのだ」
それは誓い。それは宣言。闇に沈んだこの身を救い出してくれた少女たちへの。
「勝利の光で世界を照らせ。我が天翔の暁に、一切の嘆きは払われる。
火の象徴とは希望なれば、荘厳たる輝きに恐れるものなど何も無い」
傲岸不遜とも言える絶対なる勝利宣言に共鳴する様に立ち昇る白い輝きが焔の様に一層激しく燃え盛りーーー現実の白焔と成る。
「絶滅せよ、破滅の巨人。この世に貴様の居場所は無い」
「誕生せよ、希望の光。遍く闇を照らすのだ」
そして聞こえてきたのはこの場にいない
ここにきてウェーブは
「是非もなしーーー共に征こう、愛しき両翼。太陽に焼かれ蝋翼は融けようとも、我が煌翼は不滅なり。
光輝を纏い両翼を携え、万象を征けよ求道者よ。果て無き旅路を征く為に」
素晴らしい、流石は自分の惚れた少女たちだ。ならば己も負けていられない。相応しい男であらねばと爆発的に覚醒しながら一蹴する。
カーディナルが何を目論んでいるのか知らないし、知るつもりもない。だがこの時間を邪魔はさせないと、カーディナルからの干渉をすべて
それは仮想現実世界での
「ーーー不敗神話はここにあり」
そう、これより始まるのは不敗神話。見ず知らずの不特定多数では無くて、愛しい少女たちとここまで共に戦ってきた同胞たちに捧げられる不滅不朽の英雄譚。
不敗を、常勝を、生還を誓ったのだ。ならば真にしてやろうと、ウェーブーーーいや、漣不知火は新生を果たす。
「
創生、
「ーーーあぁ」
そんな馬鹿げた新生を目の当たりにして、〝ホロウ・ウェーブ〟は気が付かないうちに涙を流していた。それは絶望から来るものではない。ウェーブの姿があまりにも
誓ったのだから真にしようと、愛されたのだから相応しくあろうと。そんな人として当たり前の事をしてやろうと、ウェーブは限界を超え、仮想現実世界においては神にも等しいカーディナルを捩じ伏せた。
〝ホロウ・ウェーブ〟はこの身がAIである事を呪った。自分も人ならば彼の様になれたのではないのかと……そう考えて否定する。あれはウェーブだから辿り着いたウェーブだけの領域だ。例え自分が人間で、同じ気持ちを抱いていたとしてもあそこには辿り着くことは出来ない。
「ーーー待たせたな」
静謐に、されど荘厳にウェーブは待たせた事を謝罪し〝宵闇の剣〟と〝煌翼の剣〟を構える。その眼に油断は欠片も無く、纏う空気に弛緩は微塵も無い。〝ホロウ・ウェーブ〟を敵として認めた、だからこそウェーブは全力で相手をする。
「カッコいいなぁ……」
〝ホロウ・ウェーブ〟の呟きがウェーブに届いたのかは分からない。だけどそれだけを呟き、〝ホロウ・ウェーブ〟も一体化した刀と片手剣を構える。ウェーブが全力で応じてくれるのだ。ならば自分もそうで無くてはいけないと気を引き締める。
合図はない、2人の間にあるのは静寂。
「「ーーーオォォォォォォォォ!!!」」
だが、まるで打ち合わせたかの様に互いに纏う正反対の心意を噴き出しながら同時に突貫した。
一手目は互いが互いの殺傷範囲に入り、〝ホロウ・ウェーブ〟が片手剣を、ウェーブは〝宵闇の剣〟を振るう。大気を引き千切り、空間を斬り裂きながら振るわれた剣は激突しーーー〝ホロウ・ウェーブ〟の片手剣だけが砕けた。無論〝宵闇の剣〟も無事では済まずにヒビ割れてなんとか形を保っている状態になる。
二手目は〝ホロウ・ウェーブ〟が刀を、ウェーブは〝煌翼の剣〟を振るう。そして結果は先と同じ、刀だけが砕け散り、〝煌翼の剣〟は破壊寸前まで追い込まれる。
そして三手目で決着が着く。何せ〝ホロウ・ウェーブ〟の武器は壊れた。対してウェーブの武器は破壊寸前の状態であるものの武器としての役割を果たすことが出来る。
斬首か、両断か。どちらにしてもウェーブの一振りで〝ホロウ・ウェーブ〟は絶命するーーー
「ーーー
ーーーその未来を〝ホロウ・ウェーブ〟は食い破る。負けてたまるか、自分はお前を超えてやるぞと、この窮地で進化、覚醒、限界突破。全身に纏っていた黒い心意を右手に集め、固めて剣にする。そして振るわれた〝宵闇の剣〟と〝煌翼の剣〟を迎撃し、打ち砕いた。
四手目にして形勢は逆転する。ウェーブが無手なのに対して、〝ホロウ・ウェーブ〟は心意を固めて作り出した剣を持っている。〝ホロウ・ウェーブ〟の未来が、ウェーブに押し付けられーーー
「ーーーあぁそうだ、
ーーーウェーブもまた、その未来を食い破る。〝ホロウ・ウェーブ〟の意志に呼応する様にウェーブもこの窮地で進化、覚醒、限界突破。お前が出来た事が自分が出来ない筈がないと〝ホロウ・ウェーブ〟と同様に全身から噴き出している白焔を右手に集め、固めて剣にする。
五手目、ぶつかり合うウェーブと〝ホロウ・ウェーブ〟の心意の剣。そしてこの瞬間に〝ホロウ・ウェーブ〟は勝利を確信する。
ウェーブの〝
「ーーー
それをウェーブは一蹴し、掟破りの二重覚醒を実行する。絶対的な相性差だと?そんな事は分かっている、自分が使っていた〝
爆発する心意の輝きにより、
その代償は大きい。意志力の暴走に耐えきれずに現在進行形で崩壊するウェーブの身体。それを更なる意志力にて繋ぎ止める。恐らくこの二重覚醒により現実世界の身体にも影響があるに違いない。その可能性にウェーブが気が付いていない筈が無く、
〝ホロウ・ウェーブ〟が本気で、そして覚醒を果たしたのだ。それならばこちらも覚醒を、それを上回る覚醒をしなければならないと警報を鳴らす本能の静止を捩じ伏せる。
そしてーーー結末は訪れる。
「ーーーさようなら。
雄々しく燃える白焔の心意の剣が、貶める特徴殺しの心意の剣を両断する。そして別れを惜しむ様な言葉を送り、〝ホロウ・ウェーブ〟の身体を断ち斬った。
「ああーーー」
白焔に焼かれる身体と心意を見ながら〝ホロウ・ウェーブ〟であったAIは脱力する。紛れもなくこの勝負はウェーブが勝者、そして自分は敗者である。〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が現れる前ならば〝泉〟による復活も出来たのだが今となっては叶わない。
『危険、危険、危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険ーーー』
そしてその時、AIの脳裏にノイズが走る。それはカーディナルからの通信。馬鹿の一つ覚えの様に繰り返される危険のワードを聞けば、カーディナルがウェーブを危険視しているのが分かる。
そして通信を通してカーディナルからAIに向けてデータが送り込まれる。〝
原則としてカーディナルは直接プレイヤーに対して危害を加える事が出来ない。モンスターや自分の様なAIを通しての間接的にならば出来なくは無い、しかし直接的な干渉をする事を茅場晶彦から禁止されているのだ。
故に今、この機会に殺すしか無いとカーディナルは判断した。
「ーーー
ーーー
考えられないAIからの叛逆にカーディナルは思考を停止させる。それを気配だけで悟り、ウェーブとの戦いを脳裏で反芻しながら満足そうにしてAIは目を閉じる。
もしもデータにも
その時こそ、今度こそ彼を超えてやるのだと誓いながら、そんな未来を夢見ながらAIは心意の焔に焼き尽くされた。