「ーーーハァッ!!」
威勢のいい掛け声と共にストレアの両手剣が振り下ろされる。両手剣の質量と重力を活かして振るわれた一撃は兎に角重い。例え防がれたとしても、その防御ごと叩き潰す気概で放たれた一撃を、〝ホロウ・ストレア〟は身体を半身に引く事で避ける。
もしもストレアの武器が片手剣の様に片手で扱える武器だったら軌道を修正して追い掛ける事も出来ただろうが今使っているのは両手剣、しかも両手で無ければ扱えない程の質量。躱されて、反撃の為に〝ホロウ・ストレア〟が一歩踏み込み、
「甘いわッ!!」
ストレアがそれを阻止すべく、地面で刀身を弾いて無理矢理に振り払う。現実世界ならば身体を痛めてしまいそうなほどに無茶な軌道であったが仮想現実なので問題無い。そして目的であった〝ホロウ・ストレア〟の接近を妨害し、飛び退いて距離を取る。
「さっきからずっと離れてばっかりだけど良いのかしら?」
「私の目的はウェーブが来るまでの時間稼ぎだから大丈夫よ」
マトモに戦おうとしない事を焦れた様に〝ホロウ・ストレア〟が話しかけるがストレアはブレない。
そう、初めからストレアに〝ホロウ・ストレア〟と戦うつもりなんてない。自分はウェーブが〝ホロウ・ウェーブ〟を倒してこちらに来るまでの時間稼ぎ。隙あらば倒してやろうとも考えたが、始めの数合打ち合わせた時点で自分よりも〝ホロウ・ストレア〟の方が技術は優っていると理解して時間稼ぎに徹する事にした。
〝ホロウ・ストレア〟に集中しているのでウェーブの方を気にする余裕は無い。しかし彼なら必ず勝つと信じているから。
「……良いわね、そんなに信用出来る程に彼と一緒に居られて。姉さんに嫉妬するわ」
「気になってたんだけど、どうして私の事を姉さんって呼ぶの?」
そしてストレアが〝ホロウ・ストレア〟の相手を引き受けた理由がそれだ。どうしてか分からないが〝ホロウ・ストレア〟は自分の事を姉と呼ぶ。記憶が無いので定かでは無いのだが、AIである〝ホロウ・ストレア〟がそう呼ぶ事に違和感を覚えるのだ。
「あぁ、そういえばカーディナルが……バラしても良いわね」
「……」
悩む様な素振りを見せる〝ホロウ・ストレア〟に警戒を緩めない。
「ストレア」
しかし、どうしてなのか。嫌な予感が止まらない。
「貴女はーーー」
聞いてはいけない、ダメだと脳が警告している。
「ーーー人間じゃない、
そしてその一言を聞いて視界が歪んだ。
「う……そ……嘘、嘘よそんな事」
「否定したいのはわかるけど本当の事よ。MHCP……メンタルヘルスカウンセリングプログラムの試作二号、カーディナルが観測対象として指定したプレイヤーと接触する為にログインされていなかった未使用のアカウントを上書きしてプレイヤーとして送り出された。それが貴女の正体。記憶が無いのは観測対象に不審に思われない様にとカーディナルによってロックされたからよ」
「あ……あぁ……!!」
聞きたくない聞きたくない、嘘だと叫び否定したかった。しかし〝ホロウ・ストレア〟の説明は残酷なまでに辻褄が合っていた。そしてストレアはウェーブと合ったその時、初めて会った筈なのに惹かれた事を思い出す。
それはまるで、ウェーブに着いて行く様に仕向けられた様でーーー
「……ごめんなさい。でも伝えなくちゃいけないと思ったのよ。何もかもがカーディナルの思惑通りに進むのが嫌で、ただ何も知らずにカーディナルのいい様に使われる貴女が憐れだったから」
「あぁ……」
手に、身体に力が入らない。両手剣は手から零れ落ちて、膝から崩れ落ちる。
プレイヤーだと、人間だと当たり前の様に信じていた。それなのに自分の正体がカーディナルによって送り込まれたAIと知ってしまった。〝ホロウ・ストレア〟の口八丁かもしれないが否定する材料が無い。
自分の正体がモンスターと同じAIだったと知ってしまった今のストレアは、混乱の極みにある。戦わないと、剣を取らないと。でもAIの、モンスターと同じ自分が、仲間たちを騙していた自分が戦ってどうするのだと答えの出ない問答に押し潰されていた。
「もしかしたらこれは憐れみなんかじゃなくて嫉妬や八つ当たりなのかも知れない……でも、そうだとしても、私はこの選択を間違ったとは思わないわ」
振り上げられる両手剣が怪しく煌めき、振り下ろされた。それはストレアの命を刈り取る断頭台。この時ストレアにこれを避けるという選択肢は浮かばなかった。自分が本当にAIであるのなら、ここで死んだ方が良いのではと考えていた。
よってここでストレアの思考を埋め尽くしたのは過去の出来事。SAO にやって来た記憶が走馬灯となって呼び起こされる。
ウェーブに拾われて、ユウキとシノンに出会った。
攻略組に誘われて、共にフロアボスに挑んだ。
馬鹿な事をして、ウェーブに叱られた。
エギルに雇われて、売り子をした。
死なせたく無いと悩むウェーブに、死なせなければ良いと提案した。
キリトとアスナの発展が焦ったくて、ちょっかいをかけた。
ウェーブに誘われて、攻略したフロアを散歩した。
色んなことがあったが、その大半がウェーブとの思い出に埋め尽くされている。これがカーディナルからの命令によるものだと信じたくなかった。
でも〝ホロウ・ストレア〟の説明を否定出来なくって、
ウェーブに惹かれた感情が誰かからの指示によるものだと信じたくなくって、
この感情が誰かに弄られた物だったなんて思いたくなくって、
「ーーーいやぁ……」
だから最後に出たのはそんな情けない声。誰かに助けを求める物ではなく、誰かに勝利を託す物でもなく、否定したくて認めなくって出た声だった。いつものストレアからは想像出来ない嗚咽の混じった声。
その声を聞き届ける者は誰もおらず、ストレアは〝ホロウ・ストレア〟によって殺される、
「ーーーえ」
筈だった。振り下ろされた断頭台を防いだのは一本の刀。2メートルを超える長物で、燃える焔の様な刃紋が施されている。
「ーーー間に合った……大丈夫か?」
そして掛けられた声は今の状況で会いたくなくて、それなのに会いたいと思っていた人物の物。
「ウェーブ……」
〝ホロウ・ストレア〟の一撃を片手で防ぎながら、ウェーブはストレアを守る様に乱入した。
「おい、うちの貴重な純粋系巨乳枠に何吹き込みやがった」
そしてウェーブの一言で空気が死んだ。
今明かされる衝撃の真実ぅ!!なんとストレアはAIだったんだ!!(今更
そしてキチガイからトンチキへと華麗なるレボリューションを果たしたウェーブ参上。颯爽と空気を壊しにかかる。
※以下は前回入れようかと迷った挙句に思い止まった台詞。
「ーーーあぁそうだとも!!
〝ホロウ・ウェーブ〟の覚醒に呼応してウェーブ怒涛の三重覚醒。あまりにも酷過ぎたので却下しました。