名古屋決戦――真琴side――   作:スライストマト

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第一話 集結するオニ

薄く広がる雲の下、晩秋の、それも肌寒い早朝にもかかわらず、月鬼の組(げっきのくみ)の精鋭百名は海老名サービスエリアの駐車場に集結していた。

「ヤバい……緊張してきたー……」

金髪の女性隊員、井上利香(いのうえりか)は作戦を前に弱音を口にする。

制服を着崩した姿は女性らしい体型も相まってギャルを想起させる。

だが彼女もまた精鋭の一員だった。

「しかしなめた餓鬼どもだったな。」

部下の一人である鍵山太郎(かぎやまたろう)は新入り達が気に入らないようだ。

短い黒髪にタオルを巻き頑健な体格をした鍵山の低い声は、慣れた仲間内でなければ怖がられるものかもしれない。

しかしここにいる五人は月鬼の組の精鋭の中の一部隊として長い付き合いがあった。

「遅刻した上にあの態度。作戦の難度も考えるとかなり危険だと思います。無事生還できるか心配ですね」

「実力がなければ死ぬ。それだけだ」

赤髪のショートヘアに黒縁眼鏡を掛た小柄な女性隊員、円藤弥生(えんどうやよい)の新入りを気遣う言葉に、鳴海真琴(なるみまこと)は短く返す。

やや長い茶髪を目元から払うと、鳴海はしょっぱなから遅刻してきた忌々しい新入りに思いを馳せた。

 

 

いまから二十分ほど前、隊長の鳴海真琴を先頭に、岩咲秀作(いわさきしゅうさく)、鍵山太郎、円藤弥生、井上利香の五名は、作戦を伝える一瀬(いちのせ)グレン中佐の話を聞いていた。

 

「今回の作戦の指揮をとる一瀬グレンだ。いまからお前たちに作戦の概要を説明する」

そう言うと一瀬中佐は整列した月鬼の組を見回す。

「とある筋から、京都の吸血鬼(きゅうけつき)達は先の第二都市新宿攻撃を足掛かりに、日本帝鬼軍(にほんていきぐん)に対して総攻撃を行うという情報が得られた。」

衝撃的な情報に月鬼の組に動揺が広がる。しかし、それもすぐにおさまり、一瀬中佐の話に集中する。

 

皆が静まるのを待ち、一瀬中佐は話を続ける。

「残念ながらこれを押し返す力は我々にはない。そこで日本帝鬼軍は、相手の攻撃に先んじて名古屋にいる吸血鬼の貴族十体を抹殺することに決めた」

「なるほどな」

涼しげな短い黒髪に切れ長の瞳が怜悧な印象を与える青年、岩咲秀作が小さく呟く。

 

一瀬中佐はなおも話を続ける。

「知っての通り吸血鬼の貴族は一般吸血鬼と比べ(はる)かに強い力と速さを持っている。非常に危険ではあるが、ここでその戦力を奪うことができれば吸血鬼側もすぐには攻め込んでこれなくなるはずだ」

一瀬中佐はそこまで言うと一度月鬼の組を見回し、さらに力強く続ける。

「今回の作戦は日本帝鬼軍、そして崩壊した世界の中に生きる我々人類全体の存亡に関わる重大な作戦だ。全員心して取り組め!」

「はっ!」

月鬼の組は皆強く返事をし、決意を固めた。

 

八年前、世界は十四才以上の大人のみに感染する致死性のウイルスによって崩壊した。

それに対して吸血鬼たちは、その原因を作った人間の呪術組織、百夜教(ひゃくやきょう)を壊滅させ、人間達を家畜化しようとする。

 

そんな中日本の呪術組織帝ノ鬼(みかどのおに)帝ノ月(みかどのつき)を前身とする組織、日本帝鬼軍は鬼呪(きじゅ)を発達させ、吸血鬼に対抗してきた。

月鬼の組はその中でも対吸血鬼の精強な部隊であり、ここに集められたのは、そんな部隊の中でも上位の実力を持つ者達だった。

 

「0700時にここを出発。名古屋入りは1300時とする。作戦の詳細は、この後配布する指令書をみて確認しろ……おーい、なんだお前ら。ずいぶん重役出勤じゃないか」

列の後ろをそろそろと動く少年少女達に対して一瀬中佐は顔をしかめつつ声をかけた。

 

するとその中の一人、紫色の髪をした少女がひきつった笑みを浮かべ、返事をする。

「いや~中佐。実はさーっき気付いたんですけど、私たち、重役の中でも社長クラスの……」

「黙れ餓鬼(がき)が!今回の任務は遊びじゃない!軍規(ぐんき)を守れないやつは帰れ!」

一瀬中佐は怒りを(あらわ)にし、返答を(さえぎ)った。

 

「すみませんでした中佐。今回の剣は自分の責任です。自分が独断でヨハネの四騎士と戦ってしまったせいで遅れてしまいました」

一人の黒髪の少年が中から前へと歩き、謝罪をする。

「じゃあお前が帰るか?」

「いえ! 行かせてください! 吸血鬼を倒す役に立ちたいです!」

「なら列に並べ。だが、お前にはあとで罰を与える」

 

一瀬中佐は不機嫌そうにそういい放つと全員に向き直り、話を続けた。

「他の奴らもよく聞け! この任務中、軍規を破るやつは許さない! ふざけた態度で任務にあたる奴も許さない。今回の任務には、おそらく過去最大の危険が伴うだろう。きっと何人も仲間が死ぬ」

一瀬中佐はそう言うと、一際真剣な表情を浮かべ、続ける。

「ここにいる仲間は全員家族だ! なら俺達は家族をたくさん失うことになる!」

その言葉に紫髪の少女は息を飲む。

 

一瀬中佐は大きく目を見開き、続けた。

「だが、今回の作戦にはそれだけの価値がある! 俺たちは生きて帰るんじゃない! 俺たちは勝って帰る! 分かったか!」

「おーーーっ!」

整列した月鬼の組から(とき)の声が上がり、拳を天へと振り上げる。

士気が高まったところで指令書が配布され、出発まで待機が命じられる。

その後黒髪の少年、百夜二等兵が呼び出され今に至る。

 

 

「実力自体はそれなりにあるのかもしれないがな。移動中にヨハネの四騎士(よんきし)と交戦したって話だったよな? 結界から遠く離れた場所で奴らと戦闘して無傷(むきず)ってんなら、使い物になるんじゃないか?」

「それで遅刻してたんじゃ世話ないけどね。そもそもヨハネの四騎士はゾウ並の大きさがあるとはいえ、並の吸血鬼と比べても弱い。ましてや今回の作戦の標的(ひょうてき)は貴族」

「俺も鍵山の言う通り、あのガキどもはそれなりの力を持っているとは思う。だが、今回の任務はそんな生半可(なまはんか)な奴らには務まらない」

精鋭のみであたったとしても全員死ぬ覚悟で臨むことになる。

「指令書見た感じウチらとは別の班なんでしょ~? なら別にどうでもよくない?」

「でも他の班が討伐に失敗したら、その貴族に別の班が奇襲されることになる。連鎖的に俺達の班がやられる可能性も考えないといけないね。」

「そうだぞ利香、秀作の言うとおりだ。今回の作戦は一人のミスで全員が危険に晒される。連れていくべきではないだろう」

「それもそっか~」

やはり今回の作戦に彼らを連れていくのは間違っている。

なぜ一瀬中佐はあんなひよっこどもをこんなシビアな作戦に参加させようとしているのだろうか……。

そう考えていると、突然前方のサービスエリアの壁が爆発した。

「なんだ!?」

待機していた皆は一様にそちらへ意識を向け、臨戦体勢を整える。

すると先ほどの少年が宙を舞い、停車してある赤いスポーツカーの上に着地する。

が、その直後には一瀬中佐の刀が少年めがけ振り下ろされる。

すんでのところで少年は再び宙へと逃れたが、スポーツカーは真っ二つになってしまった。

我々月鬼の組の装備は鬼呪装備といい、鬼の力によって身体と武器双方を強化している。

そのため常人とかけ離れた力と運動能力を使える。

ましてや一瀬中佐のもつ刀は真昼の夜(まひるのよ)という名前の黒鬼装備(くろおにそうび)であり、その他の鬼呪装備(きじゅそうび)とは一線を(かく)す強力さを持っている。

スポーツカーなど、一瀬中佐の前には大きな豆腐ぐらいのものでしかないのだろう。

「ひどいよグレン」

「ほざけ」

一瀬中佐は、スポーツカーの持ち主である柊深夜(ひいらぎしんや)少将の言葉を一蹴(いっしゅう)すると、そのまま少年を追撃する。

三合、四合と打ち合っている少年と一瀬中佐であったが、意外にも少年は押し負ける様子はなく、実力は拮抗しているようだった。

新入りのうちの他の四名もいたようで、少年を中心に陣形を建て直そうとしている。

しかし、指揮をしている紫髪の少女が不馴れなためか残りの四人は少年に援護をすることも後衛に控え銃を構え少年を狙う銀髪の青年、深夜少将を攻撃することもできないでいた。

四人とも身体強化魔法が強力な赤髪の女性十条美十一人に押さえ込まれてしまっている。

 

このまま戦闘が長引けば(わず)かな(すき)をついて前線をはる黒髪の少年が撃破され、全滅するのは明らかだった。

――三対五であっても、経験による実力差は歴然としていた。

 

そして一瀬中佐が仕掛けた。素早く起爆札(きばくふ)を少年の額につける。

「降参しろ優。頭吹っ飛ばすぞ」

「ならお前も道連れだ!」

優と呼ばれた少年が一瀬中佐へと肉薄する。

「おいマジかよ! ……なーんてね。それも予想通り」

おどけてそう言うと軽く首を傾けた一瀬中佐の後ろから深夜少将による狙撃が行われる。

「なに!?」

少年は素早く横に剣を振り深夜少将の狙撃を防ぐ。

うまく防いだ少年はたいしたものだが、すぐさま起爆札により煙幕が発生する。

そしてそれが少年達にとっての致命的な隙となった。

煙幕が晴れるとそこには地面に倒れる三人と斧を取り落とし呆然と立ち尽くす紫髪の少女、剣を構え直す黒髪の少年の姿があった。

「ったく……黒鬼装備が三人もいてこの様はなんだ。貴族どもは俺達よりも全然つえーぞ。お前ら一体どうやって勝つつもりだ」

吐き捨てるようにいう一瀬中佐の言葉に新入りたちはうなだれる。

一瀬中佐は月鬼の組に向き直り、

「見ての通り久々の新入りだ。お前ら、面倒見てやってくれ!」

と言った。

鳴海は彼ら新入りと組むことになっているチームの隊長二人、相原あい子と楠木英太郎(くすのきえいたろう)の方へと眼をやると、二人の意見は割れているようだった。

金髪の朗らかな青年、楠木英太郎(くすのきえいたろう)は一瀬中佐の言葉を聞くと笑顔を浮かべ口を開く

「へぇー黒鬼装備が三人もいるのか!とんだ新入りだなー」

「でも、連携がとれないんじゃ、戦力にはならない」

「だから俺達が面倒みてやるんだろ?」

相原は険しい顔をしたまま長い黒髪を払うと身を翻す。

仲間思いな彼女らしくない態度だが、それは新人を死地に連れていくことに対する反発からだろうか。

 

厳しくも優しい相原と、朗らかで安心感を与える楠木。

二人とも三チーム十五名を仕切れるほどの優秀な隊長だ。

一瀬中佐は今回の作戦を通じて新入り達を育てようという魂胆なのだろう。

 

しかし、今回の作戦は危険なものなのだ。

新人のお守りに優秀な人材を割ける余裕はないはずだ。

 

鳴海はそう考えると、一瀬中佐へ抗議をしようと歩いていった。

真琴(まこと)~どこ行くの~?」

「中佐に話がある。お前達はここにいろ」

「それって新入り達のことですよね?やめた方がいいんじゃないですか?隊長にも考えがあると思いますし」

「俺も弥生(やよい)と同意見だ。鳴海。中佐は今回の作戦を通じて新人を鍛えるつもりなんだろう。黒鬼装備が三人もいるなら、鍛えれば役に立つはずだ」

円藤弥生だけでなく、頭の切れる秀作もが新人を連れていくことに賛成のようだ。

「俺は今回の作戦に新人達を鍛えるような余裕はないと思う。隊長もきっと考え直してくれるはずだ」

しかし、銀髪の青年が行く手を阻む。先ほど少年を狙撃した柊深夜少将だった。

「待ちなよ鳴海。それを判断するのは君じゃないよ。グレンには勝算があるんだろう。それに彼らは初陣て訳でもない。前回の新宿決戦の時も主戦場にいたからね」

「深夜少将、しかし」

「君達には君達の、やるべきことがあるでしょ。それに抗議なんてしたら面白がったグレンに同じ班で面倒見させられるかもしれないよ?」

「真琴、その辺にしておいてくれ」

「……そうだな鍵山。深夜少将失礼しました」

「気にしないでいいよ。お互い頑張ろう」

「ありがとうございます」

「おーい、深夜。なにやってんだ?」

「なんでもないよ。柊隊について聞かれただけ」

「ほぉー、興味があるのか?なんなら部隊を編成し直して……」

「僕も聞いたけど断られちゃったよ。僕は柊隊に入ればいいのかな?」

「ああ、そうしてくれ。一人狙撃用の黒鬼装備がいてな。早乙女与一(さおとめよいち)って名前なんだが。そいつにいろいろ教えてやってくれ」

「わかった、任せてくれていいよ」

「さてと……よーしお前ら、出発すんぞー」

一瀬中佐の掛け声で、鳴海ら月鬼の組百名は海老名サービスエリアを後にしたのだった。

そして西へと走り出した。名古屋へ向けて。

 

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