名古屋決戦――真琴side――   作:スライストマト

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第二話 急襲するカチク

 名古屋に入る頃には雲が晴れ、暖かな日差しが降り注いでいた。

 そのお陰かやや暖かい公園前の屋内で、鳴海隊は加藤隊と共に襲撃前の作戦を確認していた。

「今回二チームからなる部隊の指揮をとることになった鳴海真琴だ。よろしく頼む」

 軽く会釈をすると、皆が返す。部下の一人、岩咲秀作に説明するよう促す。

 

「秀作、説明を頼む」

「1400時、吸血鬼殲滅部隊(きゅうけつきせんめつぶたい)、月鬼の組は名古屋に点在する吸血鬼の貴族十体のうち八体に対して一斉攻撃をしかける。我々の任務は第十九位始祖(だいじゅうきゅういしそ)、メル・ステファノの抹殺だ」

 貴族吸血鬼には(くらい)というものがある。一般的に位が高いほど、力が強い。

 日本にいる吸血鬼で最も高位な吸血鬼は第三位始祖のクルル・ツェペシ。だが彼女は吸血鬼の本拠地京都の地下都市――サングィネムにいて、ここ名古屋にはいないはずだ。

 

 メル・ステファノの持つ十九位という(くらい)はあまり高くない方ではある。

 しかしそれでも甘く見ていい相手ではない。

 

「襲撃予定地は旧名古屋駅地下。仮に討ち漏らした場合メル・ステファノの退路を断ち、他の貴族との合流を阻止する。そして、標的を抹殺した相原、楠木、柊の三部隊が加勢してくれるのを待つ」

 しかし救援が来るかはわからない。

 逆にこちらが救援に向かう必要もあるかもしれない。

 

「討伐時間は十五分。貴族一体に対し、我々月鬼の組は三チーム十五人であたる」

 単体の貴族吸血鬼も十分厄介ではあるが、決して敵わない相手ではない。

 だが、連携し、死角を補い合われた場合、手の打ちようがない。

「だが……各襲撃予定地はそれほど離れていない。もし討伐に失敗し、貴族達に合流されたら終わりだ」

「おまけに我々は二チーム十名で当たらなければならない。それだけ期待されているということだ。肝に命じるように」

 秀作の説明に補足し、全員の表情をみる。

 やや強張っているが、皆一様に真剣な表情だ。

 

 過度な緊張は命取りだがほどよい緊張は我々に最高のパフォーマンスをもたらす。

 

「作戦が開始したら、我々鳴海隊が貴族と交戦し、加藤隊にはその間に周囲の一般吸血鬼を排除してもらう。貴族と交戦中の我々に近づけることなく、処理してもらいたい」

 

 この十人の中で最も接近戦に長けているのは自分だと自負している。

 だからこそ貴族と正面から渡り合うのは自分がやるべきだろう。

 

 そして吸血鬼の貴族が一対一で敵う相手でないこともまた十分に理解している。

 適度に援護をもらいつつ、一般吸血鬼を全滅させるまで時間を稼ぐことが、最も確率の高い討伐方法だろう。

 

「一般吸血鬼の排除中に私が殺された場合は、貴族を秀作の指揮のもとに足止めし、全体の指揮は加藤がとってくれ。誰かが欠けても最低十五分は足止めするように。これはそういう任務だ」

 改めて任務の厳しさを伝える言葉に全員の表情が強張りを増す。

「だが、我々が最善を尽くせば犠牲なしで任務を完了することも可能だ。これは勝てる任務だ。落ちついて、犠牲を出さずに任務を遂行しよう」

「はいっ!」

 

 全員に気合いが満ちるのがわかる。襲撃予定時刻まではあと五分。

 ここにいられるのはあと三分だ。

 

 と、そこに楠木が現れた。

「鳴海、終わったか?」

「ああ、ちょうど終わったところだ。それでなんだ?」

「万が一十分を過ぎてもルカル・ウェスカーを排除できなかった場合、俺達の隊がそっちに行くことになってるからさ。指揮系統の確認をしておこうと思ってな」

「こちらの隊は俺が隊長、加藤が副隊長、次点で岩咲秀作だ」

 名前を呼ばれた面々が楠木に対して会釈をする。

 

「俺は楠木英太郎だ。すぐ救援に向かうから、頑張って持ちこたえてくれよ」

「そちらの隊の様子はどうだ?」

「百夜優一郎……隊長とやりあってた黒髪の少年いただろ?」

「ああ」

「彼がみんなを落ち着かせてたよ。思ったよりちゃんとやれそうだ。ま、俺達に任せてくれ」

「ああ。死ぬなよ」

 楠木は軽く手を降ると、自分達の班の元へと帰っていった。

 

「それでは作戦行動に移る。全員鬼呪促進薬を飲む用意をしろ。行くぞ!目標は第十九位始祖メル・ステファノだ!」

 

 気合いを入れ直し、走ること一分。

 鳴海隊と加藤隊は名古屋駅の地下へ向かう階段の入り口に立っていた。

 外の明るさが地下の暗さを際立たせ、死の香りが染みだしてくるようだった。

 地下は薄暗い上に狭いため連携が難しく、少数精鋭で当たる他ない。

 しかしメル・ステファノを自由にさせてしまうと、地下通路を使って出た場所によっては他の班が奇襲されるかもしれない。

 難しい上に、失敗が許されない厳しい任務だった。

 

「鳴海隊長、いま鬼呪促進薬を飲みますか?」

「ああ。全員鬼呪促進薬を飲め。進むぞ」

 鬼呪促進薬は飲むことで鬼呪の効きを強め、身体能力を引き上げることができる薬だ。

 

 しかし十五分しか持たない上、効果が切れた後は普段より動きが鈍くなる扱いにくい薬でもある。

 加えて、効くまでに十秒のタイムラグがあるため、貴族と会敵してから飲んでも効果が出るまでに殺されてしまう可能性が高い。

 

 また一日に二錠以上飲むと命に関わる重篤な副作用がある危険な薬でもあるので、奇襲直前のこのタイミングで飲むのが最適だろう。

 

 地下道を進むとやや明るい場所が前方にあるのがわかった。

 貴族の居住地のようだ。全員に緊張が走る。

 

「前方に見えるのが貴族の本拠地だろう。私の他、鍵山、円藤、加藤の四名で先陣を切る。他の者達は一般吸血鬼を回り込ませないように攻撃してくれ。先陣が貴族と会敵したところで陣形を展開する。いくぞ!」

「はいっ!」

 

 走る勢いそのままに向かうと浮き足だった一般吸血鬼が引いていく。

 やはり敵はこちらの動きを掴んでいなかったようだ。そのことに安堵を覚えつつ、前進を続ける。

 

「畳み掛けろ!」

「押し出せ!!」

「何でこんなところに人間が!?」

「怯むな押し返せ!」

「死になさい!」

「死ね!」

 

 先陣によって一挙に一般吸血鬼が殺されていく。

 並の帝鬼軍の兵士ではこうはいかないだろうがここにいるのは吸血鬼殲滅部隊の精鋭だ。

 

「ニ……人間か……なぜこんなところに……」

「隊長!貴族です!」

「殺しに来たぞ!吸血鬼!」

 前方に黒いシルクハットをつけ、貴族の服を着た巨体の吸血鬼が現れる。

 メル・ステファノで間違いないだろう。

 相撲取りのような迫力に気圧されそうになる。

 だが、よく見るとまだ剣を抜いていない。

 怯む気持ちを押さえ、チャンスと見て三叉槍を横薙ぎに振るが素手で押さえ込まれる。

 と、どうやら鉤爪のようなものを装備しているようだった。

 

「剣よ……血を吸え」

 続けて三叉槍を振り下ろすと今度は片手で弾かれてしまう。力が強くなったかのようだ。

 さらにもう片方の爪が横薙ぎに迫る。交わすために後退すると、入れ替わりで鍵山が前に出る。

「死ね!」

 鍵山は気迫を込めて剣を振るうが、メル・ステファノが先ほど横薙ぎにした右手を巻き戻すように払うと、鍵山が体ごと吹き飛ばされる。

 

「鍵山!」

 利香が叫び、鍵山に駆け寄りそうになる。

「利香!目の前の敵に集中しろ!死ぬぞ!!」

 警告を聞いた井上利香が後ろに飛び退くと、先ほどまで利香がいた位置を爪が掠める。

 

「この野郎!くたばりやがれ!」

 気合いとともに三叉槍を振るう。

 しかし再び片手で防がれ、その間にもう一方の爪の攻撃が飛んで来る。

「家畜メ……死ぬがよい!」

 それを戻した三叉槍で受けるが、次の攻撃を受ける余裕はない。再び退くしかない。

「弥生!」

「はいっ!」

 入れ違いでステファノの横から飛び出した円藤弥生が剣を振るが、惜しいところで弾かれる。

 そしてもう片方の爪が円藤を襲う。

 しかし円藤は体勢を崩してしまい、うまく退くことができない。

「させるか!」

 円藤を襲う爪をすんでのところで三叉槍で受ける。

 体勢を戻した弥生がもう一度攻撃を加えると、今度はステファノが下がる。

 着地時を狙った三叉槍が片手で弾かれてしまい、もう片方の爪が出てくるが、今度は円藤がそれに対応し、三叉槍がステファノの体を貫こうとする。が、刺さる前にステファノが後退し、表面を傷付けるにしか至らない。

 

「ぐうっ……家畜の分際で、ワシを襲撃するとは……」

「お前はここで殺す。人間を家畜扱いしたことを後悔しながら死ぬがいい!」

「タダでは済まさぬぞ!全員まとめて皆殺しにしてくれる」

 

 ステファノが前にでると同時に両方の爪を同時に前に出す。

 今までより一段速い攻撃に円藤がはね飛ばされ、三叉槍が悲鳴をあげる。

「ぐっ……」

 体勢を崩してしまいすぐには後退できない。

 かといってフリーになったステファノの右爪を受ける手段もない。

 

 必死に逃げ方を考えると目の前のステファノの胸から剣が飛び出した。

「ぐはっ……」

 

 先ほど飛ばされた鍵山が戻り、井上と一緒にメル・ステファノを背後から突き刺したようだ。

「秀作!さっさと出せ!!」

「赤蛇。吸血鬼を拘束しろ」

 鍵山の言葉に岩咲が呪術による鎖を使ってステファノの右手を拘束する。

 

 その間に体勢を立て直し三叉槍を振るう。三合打ち合ったところで後ろからの攻撃と復帰した円藤の攻撃を受け続けたステファノは地面に膝をつく。

 

「貴様ら……よくも……」

「死ね!」

 三叉槍の横薙ぎがステファノの首を捉え、頭が飛んで行く。

 首から黒い粒子へと変わっていき、地面に落ちる前に消えてなくなった。

 

 周囲を見回すと、多くいた一般吸血鬼は、最後の一体が加藤に止めを刺されるところであった。完全勝利だ。

 

「真琴!」

「ああ、任務完了だ。全員無事か?」

 喜ぶ利香に答えつつ、全員の無事を確認する。

 

「加藤隊、鳴海隊共に全員無事なようだ。予定通り、地下を出て、楠木隊達と合流、ルカルウェスカーの抹殺を確認後、1420時まで待機する。」

「はいっ!」

 

 全員が生還したことの喜びを噛み締めつつ、両隊は地下を後にした。




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