名古屋決戦――真琴side――   作:スライストマト

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第四話 忍び寄るカゲ

 今後の作戦行動のため、各隊の隊長及び深夜少将による軍議が開かれることになった。

 進行は階級の最も高い深夜少将が務めることになる。

「まずは僕から現状の説明をする。意見がある人はその後に頼む」

「はっ」

「電波塔からの狙撃及び集合した隊長から名古屋市役所以外の襲撃対象の貴族五体の排除が確認された。だが、市役所はここから内部が確認できない」

 

 交戦中なのか、撤退済みなのか、あるいは……。

 

「よって付近の内部の状況を確認できる位置まで移動し、市役所チームの戦況に応じて救援、もしくは撤退をすることにする。また、グレンが無事合流するまでの間、全体の指揮は僕がとる。ここまでで異存はないかな?」

「はっ」

 皆一様に返事をする。

「それでは、まずは建物まで移動する。可能ならそこから狙撃してみよう。また、作戦にあたっては貴族襲撃時のチーム単位で行動してもらう。人数はまばらになってしまうが、作戦を通じてお互いの特徴を理解している方が動きやすいだろう。自分のチームに伝えてくれ。1435時にここを出発する!」

「はっ!」

 気合いの入った掛け声を最後に、隊長たちは散っていった。

 

 

 

 

「おかしい……グレンたちも貴族もいない。どこに消えたんだ?」

 

 狙撃能力を応用し付近の建物から名古屋市役所を見回す深夜少将だったが、そこには月鬼の組の死体と吸血鬼の消えた痕跡だけが残っていた。

 グレン達の姿はなく、貴族の姿もない。

 親友の一瀬中佐の不在による焦りのせいか困惑する深夜だったが、この状況はいたってシンプルだ。

 状況を分析し、結論を出す。

 

「考えられる状況は二つでしょう。中佐が貴族達に敵わないと見て我々から貴族を引き離すために遠くへと逃げていったか、すでに月鬼の組は全滅。貴族は場所を変えたか」

「グレンが死ぬわけないだろ!」

「だまれガキが。俺は可能性の話をしているんだ」

 

 突っかかってきた百夜優一郎に短く返すと、深夜少将に今後の方策を尋ねる。

「つまりここにいた貴族は、隊長含む七チームでも手に負えなかったことになる。どうしますか?」

 

「どちらにせよ、貴族はもう市役所にいないはずだ。だからこれからルカル討伐隊をここに残し、残るチームで市役所を捜索してもらう。誰が死んだか、判断しなくてはいけないからね。あと、もし血痕やら足跡やら戦闘の痕跡やらで貴族どもがどこに向かっているか追えたらそれも報告してほしい」

「はっ」

「あと、捜索班の全体の指揮は鳴海。君にお願いする。撤退、交戦の判断を任せるがどんな状況でも複数の貴族を相手にしたときは……」

「わかっています。そのときは撤退の支援をお願いします」

「ああ。頑張ってね」

「お任せを」

 こうして捜索班の指揮を取り、市役所へと向かった。

 

 

 

「隊長、私の担当分は終わりました。」

 円藤弥生が眼鏡を取り、目元を拭うのが見える。同期の死体でもあったのだろうか。

「いまは冥福を祈ろう。報告を終えたら、仇討ちだ」

「はい」

 

 鳴海らメル・ステファノ討伐隊は三階部分の捜索を担当していた。

階を分担することで効率よく点検し、迅速に次の作戦に繋げるためだ。

 

「真琴、こっちはもう終わりだ」

「こっちも終わったわよ~」

 鍵山、井上の言葉が聞こえる。

 鳴海隊の捜索は終了したようだ。

 

「よし、行くぞ弥生、秀作。全員で三階の階段前に移動する。」

 すでに捜索を終えた二人に声を掛け、三階部分担当の者の集合場所である階段前に移動する。

 それぞれの階の捜索が終わるまで、担当の者は全員で残ることになっている。

 潜んでいる吸血鬼が奇襲を掛けてくることに対応するためだ。

 そして階全体の捜索がすんだら一階へと向かう手筈になっている。

 足音が二度聞こえたことを考えると、四階以上には誰もいないのだろう。

 

「なんだお前ら!?」

「敵襲!敵襲!」

 と、その時、下の楷から悲鳴が上がる。

 吸血鬼の奇襲のようだ。

 

「まずい!全員すぐに向かうぞ!」

「はいっ」

 もし奇襲を受けた場合は一端全員で吸血鬼へと向かい、その後建物の外へ待避。

 十分に引きずり出したところで狙撃班と連携し攻撃する手筈だった。

 二階を回り一階に向かおうとすると、すでに大量の犠牲を出した月鬼の組は階段へと押されていた。

 

「にしても本当に人間達が来るなんて、クローリー様は何でもお見通しなのね!さすがだわ!」

「チェス、黙ってさっさと仕事をなさい」

「もぅ!わかってるわよ!」

 敵は二体の吸血鬼、しかし服装から両方とも貴族だとわかる。

チェスと呼ばれた方の吸血鬼は青髪のショートヘアで子供っぽい印象であり、もう一方の吸血鬼は金髪でチェスとは対象的に大人びた印象であった。

 

「ホーン!新手がきたみたいよ!」

「足音からして大人数かもしれないとは思っていたけど、随分な数ね。私たちだけで倒せるかしら?」

 

「余裕余裕!人間なんかに負けないんだから!」

 金髪の吸血鬼はホーンというらしい。

 二人は退路を塞ぐ形になっている。

上から聞こえてくる足音は三階を担当する他の隊だろう。

だがそれを合わせても貴族二体を倒せるとは思えない。

「ひとまず三階へ後退する!全員ついてこい!」

「足を止めます!」

 遠距離攻撃が次々と二体の吸血鬼に放たれる。

 しかしホーンは鞭、チェスは剣を振り回し、風圧で攻撃を散らしてしまう。

 それでも足を止めることには成功し、階段をかけ上がる。

 

「鳴海隊長!これは!?」

「ああ、加藤!吸血鬼の貴族が二体現れた!全員で一旦三階まで後退する!」

「了解!」

「被害は!?」

「一階を捜索していた者は全滅です! 他に八名が犠牲になりました!」

「やってくれたな……吸血鬼!」

 今回の作戦参加者は総勢四十八名。

 そのうち二十一名の命が失われた。

 怒りでおかしくなりそうだった。

 なんとしてでも奴らを殺したい。仇を討ちたい。

 

 しかし既に鬼呪促進薬を使ってしまった以上、複数の貴族を相手取るのはキツい。

 

 相手がこのわずかな時間で多くの命を奪ったこと、一瀬中佐らを退()けたことを考えても戦闘を避けるべきだ。

 冷静さを失えば、まだ残っている仲間の命まで失いかねないし、作戦全体の成否にも関わる。

 

「だがいまは退()く!ルカル討伐隊の射線が通る位置まで後退するか、救援が到着するまでこちらからは攻撃するな!」

「はいっ!」

 逃げながらも遠距離攻撃が使えるものが次々と吸血鬼へ放つ。

 しかし同時攻撃でもなければ簡単に除けられるらしく、足を止めることはない。

 徐々に距離を詰められていく。

 三階まで到着すると階段を離れバルコニーへと向かう。

 既に異変が生じたことは屋外で待機している者達にも伝わっているはずだ。

 

「遠距離攻撃ができるものは側面の壁をこわせ!」

「はっ!」

 左手の壁に次次と攻撃が炸裂し壁が弾けとぶ。

 直後、吸血鬼が階段を登り終え、襲い掛かかろうとする。

「殺してやるわ!」

「待ちなさい!チェス!」

 ホーンは鞭を振るうと、剣を構え直進するチェスに巻き付け、後ろ向きに引っ張る。

 

 紙一重のタイミングで着弾した早乙女与一の月光韻と、深夜少将の白虎丸による遠距離攻撃が月鬼の組と吸血鬼の前に穴を作る。

 

「うわっ!危なっ!」

「慎重に戦えとクローリー様もおっしゃっていたでしょう?壁を壊した以上遠距離攻撃を仕掛けてくるのは必然です。気を付けなさい」

「ちぇー」

 

 壁を壊したことで遠距離攻撃を読まれてしまったようだ。狙撃は失敗してしまった。

 が、お陰で貴族と距離をとることに成功した。

 

「次は逃げる算段をつけなくてはな」

「隊長。ここは飛び降りる他ないでしょう。三階なら皆大丈夫なはずです」

「そうだな。全員で集合地点まで走るぞ!」

「はっ」

 

 秀作の言葉に決意し、三階から地上へと飛び降りる。

 しかしこんなことで怪我をする者は月鬼の組にはいなかった。

「隊長!吸血鬼は追ってきません!」

「了解だ!射線は切れるが最短距離で合流地点へ向かう」

 こうして月鬼の組は名古屋市役所を後にした。

 

 

 だが今回の作戦で出た二十一人の死者は、あまりに大きすぎる犠牲だった。




お読みいただき、ありがとうございました。
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