名古屋決戦――真琴side――   作:スライストマト

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第六話 愚者のシンコウ

「生存者は四十二名か……よし。我々月鬼の組は次の作戦へ移る!名古屋空港へ移動し、別部隊と合流する。空港の輸送ヘリを使い吸血鬼どもを罠のはられた新宿へと誘きだす!行くぞ!」

「はっ!」

返事をし、空港へと向けて走り出す。

六割もの犠牲を出した月鬼の組だったが、名古屋にいた一般吸血鬼の八割と貴族十体中五体の殲滅に成功した。

十分な戦果だろう。

だが、個人的には辛い戦いだった。

円藤弥生、岩咲秀作、井上利香、鍵山太郎。

長くチームを組んできた仲間を失い、自分だけが生き残ってしまった。

本心を言えば、最後に仲間の役に立って――クローリーの足止めをして――同じ戦場で死んでしまいたかった。

 

「おい、優。ほんとに大丈夫なのか?あんなに鬼呪使って……」

「君月は心配性だな。これくらい屁でもねーよ!」

「お前が楽観的過ぎんだよ」

「ああん!?」

「まあまあ。だけど、今回は優君危なかったと思うよ?無理して鬼化したら元も子もないんだからね?」

「そうだぞ優。今回のはたまたま運が良かっただけだ!」

「三葉に与一まで……」

 

後ろを走る新入り達の話し声が聞こえる。

甘えたガキどもだと思っていたが全員生還か。

ゆくゆくは月鬼の組を支える存在になっていくのだろう。それが喜ばしい反面、惨めだった。

 

「鳴海。ごめんな」

突然横から話掛けられる。楠木か。

「ん?」

「お前の部下が殺されたとき、俺たちはなんにもできなかった。ほんとにごめん」

 

「吸血鬼、それも貴族に奇襲されたんだ。仕方ないだろ」

そう仕方ない。戦場で死者がでるのは当然のことだ。

 

「なあ、鳴海。お前死ぬ気だろ?クローリーと一対一で戦おうなんて。勝てる訳がないのに」

「あの場では貴族達を足止めする必要があった。それだけだ」

「ならいいけど……。お前の部下の死の責任はお前にはない。彼らだってお前に生きてほしいと思ってるはずだ。だから、もう、自分を捨て駒にするような真似は……」

「わかってるよ。でも、ありがとな」

「おうよ!」

 

楠木はそう言うと自分の隊へと戻っていった。見抜かれていたか……流石だな。

 

「このまま逃げ切れるといいですね……」

紫髪の少女、柊シノアがそう口にする。

「そうだな」

「奴らは私たちの居場所がわからないはずだ。追い付かれる心配はないだろう」

百夜優一郎が肯定し、三宮三葉は判断材料を示す。

 

「でもさっきからヘリコプターが飛んでるよねー?あれ、吸血鬼のだよね?」

「俺もそれが気になってた。いつ見つかってもおかしくはないだろうな」

早乙女与一の言葉に君月士方が賛成を示す。

吸血鬼は新宿での戦闘の際にもヘリコプターを使っていた。

まだ見えてはいないが、後方からはプロペラが空気を叩く音が聞こえてきている。

 

「もし吸血鬼に襲われても、俺がなんとかしてやるよ!仲間は絶対に死なせねー」

「だから無茶するなっていってんだろ。バカ優」

百夜優一郎の言葉に君月が突っ込む。

 

「見えてきたぞ!空港だ!」

「おーー!」

一瀬中佐の言葉に歓声があがる。

 

「ここからは身を隠せない。吸血鬼に見つかっちまうだろうが、構わず駆け抜けるぞ!」

 

「おーー!」

全員戦闘続きではあったが、ラストスパートとばかりに足を早める。

だが、後ろのプロペラの音は大きさを増していく。

 

「まずい。追い付かれる……深夜ぁ!」

「はいよ。白虎丸!」

 

最後尾を走る深夜少将が銃をヘリコプターに向けて射出すると、ヘリコプターが爆発する。

 

次の瞬間、ヘリコプターが放ったミサイルが月鬼の組の右手十メートルほどの位置に着弾し、爆風が発生する。

 

「ぐぅ……!」

「深夜!無事か!?」

「大丈夫だ、問題ない……ヘリはやった。だが、中の吸血鬼どもは無事なはずだ!足を止めるな!」

 

無事か問う一瀬中佐に深夜少将は苦しげに答える。

 

「全員聞いたな!急げ!」

「はっ!」

 

そうして、百鬼の組の面々は名古屋空港へと到着した。

 

 

名古屋空港には確かに輸送ヘリがあった。しかし指令書はなく……

「指令書の代わりに暮人様が来てるたーな。嬉しくて涙が出てきそうだぜ」

「グレン様聞こえますよ」

 

そう(うそぶ)く一瀬中佐に雪見時雨が冷たい眼で注意をする。

「おーい暮人!いったいどういうつもりだー?吸血鬼を新宿に誘きだすんじゃあなかったのかよ?」

そう言いながら一瀬中佐は輸送ヘリに近づいていく。そして月鬼の組がそれに続く。

 

「ああグレンか。ご苦労だった。他の者もよくやってくれた!あとは我々が引き継ぐ。武装を解除し、楽にしたまえ」

そう言いつつ、黒髪の体格の良い青年が表れた。柊暮人だ。

「おい暮人!だからどういうつもりか説明して……」

「黙れグレン。その状態のお前に用はない。葵、始めろ」

「はっ」

いつの間にか後ろに控えていた金髪の麗人、三宮葵はそう言うと部下に指示を出す。

すると輸送ヘリからコンテナが運び出された。

「おいなんだそれは!?」

「お前も知っているだろうが。終わりのセラフだ。人間に下る天罰の力を制御する」

「ちっ……全員臨戦体勢!」

そう言うと一瀬中佐は刀を引き抜く。

 

訳がわからない。だが、他の者も皆一瀬中佐に倣った。

「武装解除と言ったのが聞こえなかったのか?グレン。安心しろ、お前は生かしてやる。優秀な仲間だからな」

そこまで言うと暮人中将は後ろに控える月鬼の組に眼を向ける。

「それから深夜、シノア。お前らもだ。一応柊家だからな」

 

「それで?あとの奴らはどうするつもりだ?」

「もちろん殺す。人類のために必要な犠牲だ。彼らも本望だろう」

 

「ふざけるな……!」

「だがな、グレン。この崩壊した世界で、人類が生き残るためにはどうしたらいい?」

一瀬中佐は僅かにたじろぐ。

 

「お前らの使う鬼呪装備は、何人の犠牲の上に成功した?なのにお前は今さらこの程度の犠牲に文句を付けるのか。妨害するのか?」

 

たしかに鬼呪装備の開発に多くの犠牲が出たことは事実だ。

 

「だがあの時とはちが……」

「何も違わないさ。もしここで吸血鬼を倒せなければ、人類が終わる。そして終わりのセラフなしに吸血鬼の貴族の群れは倒せない」

 

そう言うと暮人中将は月鬼の組の後方を見る。

 

「すぐに吸血鬼達がやってくるぞ? 今からじゃ逃げられない。取れる選択肢は一つのはずだ」

 

そう言うと、暮人中将は手を前に――一瀬中佐の方へと差し出す。

「手を貸せグレン」

「俺は……」

一瀬中佐は刀を取り落とし頭を抱える。

だが、次の瞬間、刀が宙を舞い月鬼の組へと襲い掛かる。

「それでいい。グレン」

「楠木!」

刀が楠木の腹部を通過する。

大量の血液が流れだし、加藤はその赤い水溜まりへと倒れる。

一瀬中佐は月鬼の組ではなく柊暮人をとったというのか……。

しかし刀は止まらない。すぐに他の者の腹へと飛んでいく。

「グレン!仲間になにしてんだ!」

そう言い、百夜優一郎が一瀬中佐へと突進する。

一歩前で跳躍し、交錯する瞬間に刀を横凪ぎにする――しかし攻撃は当たらない。

百夜優一郎には一瀬グレンを殺せない。

「嘘だよな……グレン……お前は家族を殺したり、裏切ったりしないよな!」

「ふっ。そいつはずっとお前達のことを利用してきたのさ」

暮人中将は百夜優一郎を見下ろし、続ける。

「我々日本帝鬼軍がお前達、そして吸血鬼を利用して終わりのセラフを制御する作戦は俺といまのグレン――鬼化したグレンによって立てられたものだ!」

お前達は捨てられたのだ。暮人中将はさらに続ける。

「葵。やれ」

「はっ」

暮人中将の言葉に短く返事をした三宮葵の指示でコンテナから無数の金属の棒が出ていく。

30メートルもの高さまで上がったところで一斉に月鬼の組へと降り注ぐ。

 

「くそっ!」

 

三叉槍を振り上げると小気味良い音を立て金属棒が弾かれる。

 

また降りてくる棒を弾く。弾く。弾く。

だが、なんのために?もう仲間は皆死んだ。自分の上司にも裏切られた。

俺たちは一瀬中佐の家族じゃなかった。

 

絶望が体を蝕み、体の動きを遅くする。

いつもなら防げた、いつもなら交わせた攻撃が、今の自分には速い。

やがて一本の金属棒が頭へと飛んでくる。

それを受け入れてしまった。これで仲間と同じ場所にいけるなら……。

 

「死ぬ気か!」

金属音と共に棒が弾かれる。百夜優一郎が刀を返す。

 

「いいじゃないか……俺にはもうなにもない。俺の仲間は皆死んだんだ!」

秀作も、鍵山も、利香も、弥生も。

皆殺された。目の前で。届かなかった。誰よりも、自分よりも生きていて欲しいと願う相手を皆失った。

 

「一瀬中佐にも裏切られた!」

 

もう、なにもない。

ここから生きていく気力は涌かない。

 

「そんなことはない!」

百夜優一郎は強く否定する。

 

「俺も、君月も、与一も、シノアも、三葉も!みんなお前と同じ家族だ!」

 

「そう言っていた中佐は!俺達を裏切っていた!利用されていただけだ!」

 

「それも違う!」

百夜優一郎は再び強く否定する。

 

「グレンは……鬼に操られただけだ!あそこにいるグレンはグレンじゃないんだ!ほんとのグレンは俺達のことを大切に思っている!家族だって思ってくれてるんだ!」

 

生意気なガキが……。だが、その言葉は不思議と胸に染みた。

それは百夜優一郎のその発言に意志がこもっていたからだ。

目の前の事実。

それを可能性の高いと思われる方へ解釈していくと、時にズレが生じる。

百夜優一郎はそうしたズレを仲間――家族への信頼で乗り越えた。

意志をもって事実を解釈した。

 

乗り越えた者の言葉だからこそ、他の者を乗り越えさせることができる!

 

だが、目の前の現実は直視できないほどに厳しさを増していた。

一瀬中佐によって次々と血溜まりに沈む月鬼の組。

迫る吸血鬼。終わりのセラフ。

 

「なんだあれは!?」

「人間が人間を襲っているぞ!」

「クルル様!どうなさいますか!」

「全軍進め!人間達を皆殺しにしろ!」

「はっ!」

 

見ると吸血鬼達が空港内へと入って来たようだった。

月鬼の組は日本帝鬼軍と吸血鬼に挟まれている。

 

「グレン。人間はもう大丈夫だ。吸血鬼と始祖どもを蹴散らしてこい!他の者も前進だ!」

暮人中将は血の海に沈む隊員を見下ろし、一瀬中佐と自らの配下に命令する。

 

「はっ!」

暮人の後ろに控える100名ほどの兵士が貴族へと向けて前進する。

 

「よこせ。真昼」

一瀬中佐の言葉によって、刀がグレンの手に戻った。

 

「人間と吸血鬼と、始祖の血を吸え」

一瀬中佐がそう唱えると鬼刀が赤く染まる。

そして風のように吸血鬼の群れへと向かうと、吸血鬼の群れの先陣が崩れ、そこへ金属の棒が降り注ぐ。

そこへ暮人中将の手勢が向かっていく。

 

 

「それで、百夜。そこまで言うからにはここから生きて逃げられる策があるんだろうな?」

「そ……それはだな……」

さっきまでの威勢はどこへやら。百夜優一郎は口ごもる。

 

「若い子君達は逃げていいよ」

五士典人はそう言うとキセルから煙を吸い込み、そして吐き出す。

幻術を展開したのだ。

 

「ここはお兄さん達に任せなさい」

「でも!お前たちも死んじゃうぞ!」

「例え死にそうになるとしても、グレン様をおいてはいけません」

茶髪だが髪をまとめているせいか清楚な印象を与える麗人、花依小百合はそう言った。

 

「わかった。死ぬなよ!」

「ありがとう」

 

五士らに送り出され、シノア小隊と戦場を横へ駆けていく。

左では戦友が血の海に沈み、右では吸血鬼が黒い煙を上げ地面へと臥せている。

その両方へと金属の棒が伸び、血を啜っている。

 

すると目の前には三体の吸血鬼を前に刀を向ける一瀬中佐の姿があった。

 

「グレン!……ってミカじゃねーか!なんでこんなところに!?」

百夜優一郎が慌てて叫ぶ。

 

「ミカ……こいつ……強いぞ」

青い髪の吸血鬼が肩から黒い煙を出しつつそう言う。

 

「ラクス無事か……」

黒髪の吸血鬼は不健康そうな眼を青い髪の吸血鬼、ラクスへと向けて問う。

だがそういう黒髪の吸血鬼もまた腹部を鬼刀に切られていた。

 

「二人とも下がって。こいつは優ちゃんを利用した。絶対に許さない。剣よ!血を吸え!……もっとだ!」

 

金髪の吸血鬼はそういうと目の前の人間……一瀬中佐へと向き直る。

 

「よぉ吸血鬼のホープ諸君。成仏のお時間だ」

 

一瀬中佐はそう言い放つと金髪の吸血鬼、ミカエラへと襲い掛かった。

 

 




お読みいただき、ありがとうございました。

次話が最終話です!翌日同時刻に投稿予定するので、よろしければご覧ください!
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