「グレン!ミカ!やめろ!」
優一郎は一瀬中佐とミカエラに割って入ろうとする。
だが、なぜ止めに入る?一瀬中佐に加勢するか逃げるべきなのに……。
「あの吸血鬼はなんだ?」
「あれは百夜ミカエラ。人間だった頃は、優さんの家族でした。多分、今も」
紫髪の少女、柊シノアはそう言うと鎌を構えて優一郎に続く。
だが、前方の一瀬中佐はミカエラの剣を捌くやいなや、回し蹴りを中段に決め、ミカエラを弾き飛ばした。
さらに一瀬中佐は振り替えると優一郎に向けて刀を上段に構える。
「優、諦めろ。お前らはここで死ぬ」
一瀬中佐はそう言い放つと、刀を振り下ろす。
走り込む優一郎には回避も防御も難しい必殺のカウンターだった。
だが、僅かに横へ進路を変えた優一郎は身一つのところでその攻撃を掻い潜る。
しかし攻撃を放つ余裕はなく、そのまま一瀬中佐の後方へと駆け抜ける。
「行け!月光韻!」
「点字竜!」
背後から早乙女与一と三宮三葉の遠距離攻撃が一瀬中佐の背中目掛け飛んでいく。
しかし一瀬中佐は振り向き様に袈裟斬りにするだけでそれらを防ぐ。
「おいおいマジかよ……」
隣で君月が呟く。
「百夜!中佐は完全に鬼に乗っ取られている!離れろ!」
優一郎に向かって叫ぶ。
「いいや離れない!中佐を鬼から解放してやる!」
「そんなことできるはずがないだろう!一度鬼化した人間はもう殺すしかない!」
「いや!グレンは与一を救ってくれた!今度は俺たちの番だ!」
「それは本当か!?」
隣の君月へと問う。
「ああ、本当だ。たしかに中佐を助けられるかもしれない」
「よしわかった!一瀬中佐を鬼から解放するぞ!全員かかれ!」
「おーー!」
一瀬中佐へと走り寄り三叉槍を突き出す。
が、一瀬中佐は難なくそれを受ける。
「なぜ俺なんかにそこまで執着する?」
「中佐が我々の家族だからだ!」
三叉槍を握る手に力が入る。
しかし刀で受けている一瀬中佐はびくともしない。
「そうだ!おとなしく戻って来いグレン!」
背後から一瀬中佐の足を狙った優一郎の刀が迫る。
が、一瀬中佐は僅かに早く飛ぶと空中で宙返りをして、優一郎の背後へと立つ。
そして刀を浴びせる。
「させない!」
一際大きな金属音が鳴る。
ミカエラが剣を振り抜くと、一瀬中佐後ろへと離れる。
「ミカ!無事か!」
「ああ。優ちゃんの方こそ平気?」
「平気、平気」
回りを見回すと先程の二体の吸血鬼は退却し、他の吸血鬼や人間も近寄ってくる気配はない。
「おい百夜。そいつは本当に信用できるのか?」
「当然だ!」
得意気に答える百夜優一郎にミカエラは二人で逃げようと言う。
本当に信用できるのだろうか?
「ミカさんのことなら心配ないですよ。私が保証します」
柊シノアはそう言うと一瀬中佐へと向き直る。
「七対一です。中佐。投降して下さい」
「ぬかせ」
一瀬中佐は素早く優一郎とミカエラへと切りかかるとミカエラを蹴り飛ばし、優一郎を受ける刀ごと弾き飛ばす。
「月光韻!」
「点字竜!」
光のように飛ぶ鳥と鎌を持つ鬼。
鬼呪により具現化したその両方の攻撃をまたも切って捨てる。
生じた煙の中を進み三叉槍を突き出す。
刀を下ろし、つき出される三叉槍を交わしながら一瀬中佐は問う。
「お前はさっき俺に裏切られたと言ってたろ。実際その通りだ」
援護に駆けつけた君月は右手に握る剣を横凪ぎに振る。
だがたった一回受けられただけで大きく体勢を崩してしまう。
「お前らは俺を信用できるのか?これから家族だと、胸を張って言えるのか?そんなことできるわけがないだろ」
一瀬中佐は突き出された三叉槍を交わし、刀を振りかざす。
「俺はお前らを裏切った。だからもうお前らも俺の事は見捨てろ。俺はもうお前らの」
家族じゃない。
心臓を冷やすようなその言葉に四肢が絡めとられ、一瞬体が硬直する。
だが、それをそのまま受け取ることは愚かなことだと既に知っていた。
総身に力を込め、一際重く振り下ろされた刀を真正面から弾く。
「それならなぜ俺達を殺さない!なぜわざわざ逃げるように仕向ける!」
そう、これはきっと鬼に
「俺も、こいつらも!中佐のことをもう疑ったりはしない!俺達は家族だ!」
「いーや違うね。お前らは俺の家族なんかじゃ……」
「俺はもう惑わない!普段の中佐を見ていればわかる。中佐が誰よりも仲間を!家族を思って行動していることは!」
一瀬中佐の刀に力が入り、じりじりと押され、踏ん張った足元が滑っていく。
だが、負けない。
力が入りすぎた腕の震えが伝わりゆらゆらと揺れる三叉槍で、一瀬中佐の刀を押し止める。
「一つの行動、客観的な推測。そんなものには騙されない。中佐は……家族を思っている。そうでしょう?」
静かにそう告げ、一瀬中佐の顔を見上げる。
一瀬中佐は獰猛な表情を浮かべ――涙を流していた。
突然剣の力が弱まり、赤く染まった刀身が黒く戻る。
限界まで力を引き上げていた反動か膝を折り崩れ落ちる中佐を抱き止めようとする。
しかし、中佐は倒れることなく刀を地面に付くと、杖代わりにして立ち上がる。
「これって……!」
「ああグレン戻ってきたのか!」
「ああ。まさかお前らに助けられることになるとはな」
一瀬中佐はぶっきらぼうに、しかし頬を弛ませてそう言うと、コンテナの方を向き、表情を固くして続ける。
「終わりのセラフ――吸血鬼と人間の血は十分に吸っているはずだ。早く逃げないとまずい……」
「グレン!さっきから言ってた終わりのセラフってなんなんだよ!」
「人間を裁く天使だ……元はな。日本帝鬼軍はそれをコントロールして大量破壊兵器にしようとしている」
優一郎の言葉に一瀬中佐は答える。
「あのコンテナの中には……おおっと始まっちまったか」
爆発音とともに光が弾ける。コンテナのなかから直径十メートルほどもある光の玉が浮上するとなかから白い羽を持つ少女が現れる。
「あれは……君月の!?」
「未来!」
優一郎が動揺し、君月が妹の名を叫ぶ。
「お前ら俺の妹になにしてんだーー!」
君月が二本の剣を構え走りよろうとするが、一瀬中佐に止められる。
「やめろ。あれが終わりのセラフだ。近寄るな!死ぬぞ!」
「醜い人間どもよ……滅亡の時だ……」
天使はそう言うとラッパを吹き鳴らす。
重低音が響き、次に高音が鳴る。
二つの音が重なり合い、周囲へと降り注ぐ。
すると吸血鬼のいる方から一際大きな声が響く。
「諸君!ここでクルル・ツェペシによる重大な裏切り行為が発覚した。よってこの場は第七位始祖、フェリド・バートリーが引き継ぐ!人間どもを殺せ」
「おーーっ!」
吸血鬼は再び人間へと突撃する。
しかしその声が聞こえる間にも周囲の地面が割れ、巨大な角のようなものが生えていく。
そして暮人が叫ぶ
「天使を拘束しろ!」
無数の呪符が付いた紐が君月未来に伸び、足に巻き付く。
すると、少女の背中からどす黒い何かが広がっていく。
「なんなんだ……あれは……」
思わず声が漏れる。
その黒いなにかが、一つの巨大な形をとりはじめる。
鋭く伸びた爪、大きな羽。
全身が黒く、所々に赤い模様が残る。
逆三角形の顔からは長く細い耳が伸び、ギザキザの歯が突きだした口から覗く。
巨大な黒いエイリアンのような姿のそれはどす黒いオーラを撒き散らし、大きく咆哮する。まるで……
「悪魔だ……」
百夜優一郎はそう呟くと刀を構える。
「来たぞ!第五ラッパが呼び出した、滅びの悪魔。アバドンだ!」
暮人はそう叫ぶとこちらに背を向ける。
……あんなの、どうやって倒すと言うのだろうか?
「よし、残りも食わせろ!」
暮人の命令に三宮葵がなにかを悪魔に向けて投げると、悪魔から黒い肉片のような塊が地面へと降っていく。
それらは弾むと小型のバケモノになる。
黒い羽に黒い鎌のような腕。足は何本もあり、蜘蛛のようだ。
だが大きさは人間よりも大きい。
胴体部にあいた大きな口からは人間の手ほどもある大きな歯が覗き、食虫植物のように不気味に
「吸血鬼諸君!撤退だ!勝ち目はない!」
フェリド・バートリーが叫び、吸血鬼は逃げていく。
が、一人また一人と小型のバケモノに捕食されていく。
さらにアバドンの放つ黒い光線が吸血鬼を襲い、一瞬で十を越える吸血鬼が消されてしまう。
……こちらに飛んできたらひと溜まりもない!
「俺達も逃げないと!」
「でも優!俺の家族が……!」
「君月。今は諦めろ。アバドンには敵わない」
「でも中佐!」
「優の言う通りだ。お前らは逃げろ」
「中佐はどうされるのですか?」
「俺にはまだやることがある。日本帝鬼軍でしかやれないことだ」
一瀬中佐はシノアにそう言うと、全員に向け続ける。
「安心しろ。俺は殺されない。それに美十や、小百合、時雨、五士、深夜。あいつらを残しては行けない」
だからお前らはとっとと行け、と中佐が邪魔者に対するかのように手を振る。だが、優一郎は走り出せないでいた。
「大丈夫だ百夜、中佐は家族だ。これから先、いつか必ずまた会える」
そうですよね?と中佐に問う。
中佐はさてなと
「中佐!またいつか……!」
そう言って三叉槍を地面に突き立て鬼呪を流し込み、
地面から土壁を出現させる。気休めだが、ないよりはましだろう。
「いくぞガキども!」
「あの優ちゃん……」
「お前はミカエラだな?百夜の家族ってことなら、お前も一緒に来い」
そう言うとアバドンを背にして走り出す。
「絶対に生き残るぞ!」
「おーー!」
こうしてより崩壊した世界で絆を守ろうとした者達の、名古屋決戦は幕を閉じた。 (了)
なんとかエタらずに書き終わりました(笑)
最後まで読んでくださってありがとうございました!楽しんでいただけたなら幸いです!
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