慎二を捜し始めてから一時間が経ったが、
「いっこうに見つかりませんね。」
影も姿も見つけられなかった。
「ああ。創太の予想は外れだったって事かな。」
「まだ最初の捜索場所からそこまで離れていません。決めつけるのは早いと思います。
それに、彼も言っていたでしょう。多少の誤差もあると。」
「そうだな。」
「さあ、行きましょう。まだまだ捜す場所はありますよ。」
そう言ってセイバーは歩を進める。セイバーの言う通り、まだ捜す場所は残っている。こうして口を動かすよりは、体を動かした方が目的である慎二も見つかる。
けれども、俺は足を止める。
「どうしましたか、シロウ?」
「ちょっと待っててくれないか。」
俺が見ているのは新都で一番高いビル。それは今いる場所からはそれほど遠くは無い。たまたま目に映った。いや、偶然じゃない。ふと、俺は慎二が何処にいるのかを考えていた。そうしたらあのビルに……
「……っ!セイバー。」
「ええ、あそこに敵がいるのですね。」
セイバーはこちらの意思を即座に汲み取ってくれた。
あのビルの屋上、そこにあいつはいる。見えてはいない。けれども、感じる。恐らくはライダーが発している殺気だろう。
慎二の性格からして周りを見渡せる場所にいると思っていたが、それは予想通りだった。
「セイバーは先に行っててくれ。俺は他の三人を呼ぶためにこれを使う。」
これというのは創太から貰った物で、他の二組も持っている。見た目はただの青い石。
けれども、それは発信機の様な役割がある。魔力を込めると共鳴を起こし、他の二つがこちらの場所に所有者を導いてくれるという物だ。
「解りました。シロウは後から来てください。」
「ああ。分かっていると思うけど……」
「目的は討伐ではなく時間稼ぎ。それくらい忘れてなどいません。」
今のはセイバーを馬鹿にした様な言い方になってしまった。セイバーも少し顔を歪める。ただこれはそういう意味で言ったのではなく
「悪い、セイバー。さっきのはただの確認で言ったつもりなんだ。セイバーを侮辱したかったんじゃない。」
「そうでしたか。では、最初の作戦通りに。」
セイバーは敵へと一直線に走っていく。そして、俺もその後を追うように慎二がいるあのビルへと向かっていく。
=====
「着きましたね。」
新都で一番高いビル。俺たちの目の前にはそれが見える。共鳴発信装置こと青い石はここを指し示していた。
……いつも、思うがこのネーミングセンスはどうなんだろうと思う。これは、父さんが製作者であり名付けの親だ。前に使った魔力増幅回復装置もそうである。酷くはないが微妙だ。
「これはビルの上を指してる。つまり……」
「シンジ君はこの屋上にいると。」
「ああ。さっきからセイバーとライダーの戦っている姿も見えるし、それが見える場所となるとその可能性が高い。
さらに言うと衛宮もいるだろう。セイバーが戦ってるんだからな。」
「ええ、そうでしょうね。」
そうとなれば、このビルを登っていくしかない。
「ジアナ、俺を背負ってビルを登ってくれ。そうすれば速く……」
「それはなりません。」
「はあ!?なんでだよ!?」
「さっき言いましたよね?あくまでも手出しはしないと。」
「いや、そうだけどさあ……」
やはり、何もしないのはもどかしい。
「……はあ。ライダーのマスターであるシンジ君を捕えるだけなら、難しくはないかもしれませんね。彼は魔術を使えませんから。」
「え、ってことは?」
「早く行きますよ。ただしビルの中を通って、ですよ。気づかれてはいけませんからね。」
ジアナさん、あんた最高だぜ‼︎
「ふざけてないで、彼女達の戦闘を終わらせますよ。」
「だから、心の中読むなって‼︎」
=====
「あはははっ‼︎衛宮、お前のサーヴァントは一向に攻められないみたいだな‼︎
ライダー、そのままセイバーを倒せ‼︎」
ビルの屋上に慎二はいた。しかし、正確な場所は分からない。さっきから声だけが聞こえる状態だ。
だが、先ほどの発言から予想するに慎二はセイバーがあくまでも他の二組が来るまでの時間稼ぎしている事には気付いていないようだ。ライダーが気付いているのかは知らない。おそらくはバレているだろう。
「……だけど、セイバーが少しずつ押され始めてる。」
作戦として、下手に手を出せない事が逆にセイバーにとって不利に働いている。援軍が来てくれればすぐに形勢が逆転できると思うのだが。
「
考えた結果、俺はライダーへの牽制を行う事にした。投影するのはジアナさんがいた時に使っていた直剣ではなく、アーチャーがキャスターを撃ち落とす時に使っていた弓だ。
直剣だと射出の精度が低い。弓ならば正確にライダーに矢を当てる事ができると判断した。
あいつの真似をするようで癪だが、そんなことは言ってられない。
「……
そう言い終えたと同時に魔術は完成される。投影に掛かった時間は二分ほど。弓と一緒に矢も投影させた。しかし、アーチャーの弓と比較すれば差異が幾らでも見つかる。だが、今ここで気にしても仕方ないことだ。
矢筈を弦に添え、そのまま引く。サーヴァントに対しての殺傷力がないというのはジアナさんに散々言われた。
「……けれども、目くらましぐらいにはなる。」
狙うはライダーの目。正直言って、目隠しをしているのであまり意味はない。人の構造で最も弱い部分がそこだという理由で狙ったに過ぎない。
「おいおい、そんな物でどうする気だ?」
慎二の声は無視だ。今は集中するしかない。あの高速で動いているライダーを当てるにはそうまでしても難しいのだから。
かつて、弓道部に所属していた時のように、魔術を行使するように、工程を一つひとつ確認しながら踏んでいく。狙いをすまし、
矢を放つ。
一直線に、狙い通りに、頭で描いたように、ライダーの目へと向かっていく。
「っ……‼︎」
当たった。当たったが、目隠しを外しただけだった。
そして、それは悪手だと気付いた。
ライダーは怯み、セイバーはその隙を使って反撃をした。そこまでは良かった。
一旦ライダーが引き、セイバーの攻撃の間合いから離れた瞬間、俺と目が合った。いや、合わせたと言った方が正しいか。
その瞬間、身体が動かなくなる。キャスターの魔術に掛かったモノとはまた違った感覚。
そして、ライダーが迫ってくる…!
まずい。このままだと俺は確実に死ぬ‼︎学校でも喰らった蹴りが目前まで……‼︎
「マスター‼︎」
けれども、それは割って入ったセイバーによって止められた。
敵は即座に引き、体制を立て直す。
「セイ……バー……」
先ほど、ライダーと目を合わせた影響か、舌まで回らなくなっている。
「怪我はありませんか?」
「あ、ああ。」
「それならば心配ないですね。しかし、先の射撃の腕は素晴らしいモノでしたが、判断は褒められたモノではありません。目眩ましを狙ったつもりでしょうが、目隠しを貫通できないのであれば無意味です。」
まさか、戦闘中に説教をくらうとは。この場に不相応な力しか持たない俺が悪いと言われればそれまでだが。
「ふふふ……先ほどから時間稼ぎを狙っているようですね、セイバー。」
ライダーが不気味な微笑みと共に言う。やはりあいつはこちらの意図を見抜いていたようだ。
「ですが、この状況ならば避けることはありませんね?」
この状況というのはまさか……!
「まさか、それを狙ってシロウに……‼︎」
「さあ?どうでしょう。」
ライダー、セイバー、俺が一直線上に並ぶこの立ち位置。ここからライダーがデカい攻撃を放てば、セイバーは動けない俺を守る為に迎え撃つしかない。
そして次の瞬間、ライダーは自身の首を短剣で突き刺した!
これは学校の時と同じ……!
「なっ……!」
彼女にとっては初見で奇怪な行動だ。それゆえ、驚くのも仕方なすい。しかし、
「セイバー、宝具が来るぞ‼︎」
狼狽えている場合でも無い。
宝具、掘り下げて言えばその英雄が持つ固有の必殺技。あれをまともにくらえば、サーヴァントだろうと危険だ。
セイバーはこちらを横目で見た後、コクリと頷き剣を構える。自分に任せろ。そう言っているようだった。
「貴方がそうくるのなら私も手札を切るまでだ‼︎」
直感する。これから始まるのは宝具のぶつかり合い。セイバーが押し負ければ俺たちは終わる。
しかし、それは相手も同じ。ならば何故ライダーはその状況に持っていきたかったのか。
答えは単純、援軍が来る前にセイバーを潰したかったのだ。セイバーに時間を使ってしまえば戦う相手が増えるだけ。だから、宝具の撃ち合いに持ち込みたかった。
さらに言えば、ライダーは自分の宝具に絶対の自信を持っている。そうでなければ、こんなリスクのある戦いはしないからだ。
「はああああああっ‼︎」
そうこう考えている内に、両者がぶつかり合う用意はできていた。ライダーの宝具は馬……いや、あれはペガサスだった。翼が生えた馬。それは神々しく、ライダーの纏う雰囲気とは、正反対のものだった。
対して、セイバーの宝具は……
=====
「っ!……今のは‼︎」
大きな揺れが起きて数秒後、ジアナが叫ぶ。
揺れたのは物理的なモノだけではなく、魔力までもが震えていた。つまりこれは、
「セイバーかライダーか、あるいは両方が宝具を使ったって事だな。」
「ええ、そうなりますね。」
「となると決着が着いてる可能性が高い。時間稼ぎしろって言ったが筈なんだかな……。」
「経緯は後から聞きましょう。私達が出来ることは戦いの場へ早く着くことです。」
「それもそうだな。」
そうして俺たちはまた走り出す。
ビルの中の階段をひたすら走り、感覚的にはあともう少しで屋上という所。
体力はまだ余っているが、未だ目的の場所へ着かない事に少しイラつき始めている。さらには、あと一階分登ると屋上に出られるといったところで、階段が別の場所にあるという事が、イラつきに拍車をかけていた。
そして、階段を探している途中に、驚くべきモノを見てしまった。
「っ‼︎あれは⁉︎」
「バーサーカー⁉︎」
小声だが、二人ともその声には驚きが含まれている。
そうバーサーカー。他のサーヴァントと遭遇する可能性もあるとは思っていたが、まさかあいつの姿を再び見る事になるとは。
幸いこちらには気付いていない。狂化した事で察知能力低くなっているのか?
まあ、こちらの隠密能力が凄いっていうのがあるけど。なんだよ、周りの力に自分も合わせるって。そんなポンポン変えてんじゃねぇぞ。
「バーサーカーがいるという事はつまりだマスターが……隣にいやがった。」
マスター、つまりはイリヤスフィールの事だ。
隣のジアナは、別の場所に視点を合わせているようで、目に意識を集中させている。
「他に誰かいませんか?あれは……」
あれ?あれってまさか……
「っ!……ジアナ。」
「ええ、分かってます。」
阿吽の呼吸で意思疎通をする俺たち。バーサーカーは誰かを狙っているようだった。そして、その誰かに大斧を振り下ろそうとする。
「ひっ……!」
誰かは恐れる。しかし、
「ふっ!」
ジアナが斧剣を逸らす。俺がかつて行ったように、剣の腹に力を入れて。しかも、俺のようにがむしゃらではなく、技として成り立つような動きで。
「おい。」
「ふ……古崖?」
俺は殺されかけた誰か———間桐慎二に駆け寄り、声をかける。
「走るぐらいはできるな。」
「あ、ああ。」
確認をとった後、俺はこいつをどうするか考える。バーサーカーはジアナが抑えてくれている。
周りを見る。ライダーはもういないらしい。決着が着き、セイバーが勝ったのだろう。となればもう間桐は放置しても構わないだろう。ぶん殴りたいのは変わらないが。
「間桐、ジアナがあいつを抑えている間にここから逃げろ。」
「……!」
相手からすれば逃してくれる事に驚きだろう。俺だって正直言って逃したくない。こいつのこと嫌いだし。けれども、死なれるのも困る。
間桐は頷き、俺の言った事を行動に移してくれた。
「良いのですか、追わなくて。」
「別に構わないわ。あんな奴、すぐに見つけられるもの。それより貴方達をどうするかだけど……」
その言葉で俺達に戦慄が走る。
「……いいわ。どうやらこの戦争の参加者ではないみたいだし、お爺さまに言われてたのは参加者を殺す事だけだもの。」
ああ、良かった。戦闘にならずに済みそうだ。
「それは好都合ですね。しかし、このまま引き下がって彼を殺しに行くのですか?」
「言ったでしょ、すぐに見つけられるって。今ここで追う必要も無いわ。」
「……解りました。その言葉は信じましょう。」
ジアナがイリヤスフィールの言葉を信用したようだが、
「おい、いいのかジアナ。」
「私達が優先すべきはシロウ君とセイバーの安否確認です。確かにシンジ君の事も気になりますが、あまり重要な事でもありません。」
おい、それ本気で
「……後で使い魔に追跡させますから。」
うん、サンキュージアナ。
その小声で言った一言がなければ、ジアナを殴ってたところだ。
「じゃあ、私達はここで失礼するわ。けれど、もし次に邪魔する事をすれば———容赦しないわ。」
背筋に寒気を覚えた。ちっちゃいくせに威圧してきやがって。
その後、敵は俺達の前からは消えた。
「何事もならなかったな。それじゃあ、やっと衛宮達のところだな。」
「ええ、一刻も早く行きしょう。」
どうも、作者です。
前々回、予告で「ワカメ死す」とか言ったな……あれは嘘だ。
というかバーサーカー戦の後にUBWルートっぽくする為の処置として今回のような事をしました。さらに言うと予告をする前からワカメは生かす予定だったので、最初からあれは嘘なんです。
次回、衛宮誘拐事件‼︎犯人はまさかの