早朝、涼しい風が吹く。木々の間から木漏れ日が出ており、ここまでならば気持ちの良い気分になれるだろう。
しかし、そこには異常があった。明らかに静か過ぎる事だ。嵐の前の静けさ。まさにそれが今の状況を表している。いつ来るかは分からない。だが、それは確実に来る。
広場の真ん中に堂々と立っているのは、セイバーとそのマスターである衛宮士郎。今から戦いに赴くその姿は、不安要素が多くあるものの、できる準備は全て行ったものだ。あとは、当たってどうなるかだ。
「……シロウ。」
「ああ、来たな。」
突然、二人の口が開く。先ほどまでの、永遠とも思われる沈黙を打ち破る理由、それは目線の先にある一つの影にあった。
厳密に言えば、影は二つだ。だが片方の影は、もう片方のそれと比べて十倍もの大きさがある。つまり、前者が途轍もない巨漢であり、後者はそれに見合わないほど小さな体格を持っていた。
その影の正体は言わずもがな、イリヤスフィールとバーサーカーだ。既にバーサーカーの真名はセイバーと衛宮に知られている。
ヘラクレス、半神半人の英霊。以前に明かされた能力について今回は、説明を省こう。そのほかに、武術の全てを修めたとも言われるが、狂化の為にそれを発揮する事はまずないだろう。
「あら、残ったのは二人だけなのね。」
双方のサーヴァントが一瞬で間合いを詰められる位置にまで、影であった者は、足を止める。そして、白い妖精のような幼女、イリヤスフィールが話しかけてくる。
「ああ、他の奴はみんな逃げた。今から追っても間に合わないぞ。」
衛宮は自分のできる最大限の演技で、淡々と、そして表情をなるべく変えずに、応える。
「そうみたいね。ジアナがいるなら、結界をすり抜けられる。感知できなくても、おかしくはないわ。」
どうやら、敵は衛宮の事を信じたみたいだ。前から思っていたが、イリヤスフィールは衛宮に対して好感を持っている。あいつがお人好しな性格だからだけど、あの少女自身にも何かあるからではないだろうか。
「……イリヤ、もう一度だけ訊くぞ。
こんな戦い、辞めてくれないのか。」
似たような思考が頭にあったのか、衛宮は敵に説得を試みる。
「できないよ、お爺さまの言いつけだもの。
私は他のマスターを殺して、聖杯を持ち帰らなくちゃいけないんだから。
……それに、もう一度だけ訊くのはこっちだよ。
シロウが答え直すって言うんなら、ちゃんと聞いてあげなくもないんだよ……?」
説得は失敗。それどころか同じような質問を返される。この前の事だろうか。あの公園での話、それを今になり、持ち出しているのだろう。
「答えは変わらない。」
そして、同じ答えを出す。
同一の質問を出した二人の心境は似て非なる物だろう。好意である事には変わりないが、それには微妙な差がある。
「……そう。」
だが、今考えるべき事は別にある。イリヤスフィールが放った、ただの一言で、ここは戦場に変わる。
「なら本気で殺してあげる。
その思い上がりと一緒に、粉々に砕いてあげるわシロウ!」
宣戦布告をしたと同時に、イリヤスフィールの全身が怪しく光る。あれは令呪だ。なんで体中に、とかっていう疑問は無しだ。何故ならその現象の後に行われる事は一つしかないからだ。
令呪が光る。つまり、それはサーヴァントへの命令、戦闘開始の合図だ。
「行け。近寄るモノはみんな殺しちゃえ、バーサーカー!」
「■■■■■ーーー‼︎」
自身が暴走する前触れを意味する叫び。バーサーカーはそれを行う。そして、クレーターでもできよう脚力で、地を蹴り、一気に距離を詰める……‼︎
「……っ、セイバー!」
衛宮がサーヴァントの
そこからは、似たようなものだった。
力と力の応酬。
剣が打ち合う。
様子見は一切なし。
細かい技など無意味。
全力の攻撃と、攻撃に似た防御。
どちらが誰かは言わずとも理解できるだろう。
セイバーは今までより、本来の能力を取り戻している。けれども、それまで。『今までより』なので、全てではない。それゆえか、徐々に力負けしている。
ここまではまだ想定内だ。あくまでもセイバーの役目は、戦闘終了までバーサーカーと剣を交えて、足止めをして、チャンスを作るだけだ。
たがしかし、時間が経つと完全に押され負けてしまう事も確か。
「■■■■■ーー‼︎」
爆音の唸りが鳴り響いたと同時に、セイバーが吹き飛ばされる。
「セイバー……!」
そのマスターは反応して叫ぶ。だが、まだ戦闘不能にはなっていない。バーサーカーの剣が触れたのはセイバーの剣のみ。ダメージは負っていない。
そして、バーサーカーは空いた距離を詰めようと、最短距離を突っ走る。
これは教会からの帰りに起きたバーサーカーとの初戦と同じ状況だ。
奴は強いが、単純だ。そこを突ければ……!
すると、俺の気持ちを察したかのように、木の枝に待機していた遠坂が、奇襲をかける!
「
詠唱を終えたと同時に、複数の氷槍が完成し、敵へと放たれる。まともに当たれば、バーサーカーですら命を削られる程の高威力。
宝石を三つも使ったか。あれほど分の悪い勝負だと言ったのに、それに乗って、さらに賭け金を倍増するとは。
遠坂が何故この賭けに乗ったかというと、本人曰く俺たちが勝ちそうだからだと。そう思った理由がよく分からないが、とにかく、勝ちそうなのに、降りるなんて嫌なんだそうだ。
「だめ、避けなさいバーサーカー……!」
相手方のマスターも危険だと気づいたのだろうか、懇願に似た指示を叫ぶ。
だが、知っている。それぐらいでは、かの英雄には届かない事を。
「■■■■■ーー‼︎」
バーサーカーは体を回転させ、全ての氷柱を斧剣で薙ぎ払う!
氷柱は霧散し、光を反射する水に変化し、意味のない綺麗な物となり、散っていった。
「やっぱり……!」
やはり、攻撃は通らなかった。
至近距離でやれば、当たらなくもないが、それは捨て身と同義。この手段は最後まで取っておかなければならない。やるならば、自身が死ぬ直前か、バーサーカーの最後の命を落とす為かのどちらかだ。
ところで話は少し変わるが、俺は一体どこにいると思う?正解はだな……
「足元注意ってな‼︎」
土の中だ!
こちとら日が昇る前からずっと待機してたんだよ!お陰で、息苦しいったらありゃしねぇよ!
奇襲はまだ終わっていない。
俺は、バーサーカーから少し離れた地面から、トビウオのように飛び出て、接近する。真下から仕掛けたかったが、それは俺の技量では不可能だ。
奴の間合いからギリギリ届かない距離まで来たら、右腕を伸ばし人差し指だけを立てて相手に向ける。その先には、光の球がある。ここまでくれば大体の人が、この後どうなるか予想できるだろう。
「
光の球から熱線が発射され、敵の心臓目掛けて、飛んでいく!
「ちっ……!」
だが、現実は上手くいかないものだ。それに嫌気が差し、つい舌打ちをしてしまう。
バーサーカーは続け様に来た二度目の奇襲を、物ともせずに弾いた。先ほどの剣を素早く切り返してだ。
まさか二回目すらも防いでしまうとは、少し予想外だった。これでは、後々が厳しくなりそうだ。
しかし、バーサーカーの命を一つ取るのは確定している事だ。
「はあああっ!」
先の俺と同じように、だが俺よりも速く、バーサーカーの
俺と同様に、ジアナも地面の中にずっと待機していた。けれども、あいつの場合は、常にバーサーカーの下に待機できるように、魔術で土を掘り、そして、上に気づかれないように地表を固定していた。
ジアナは剣を構え、敵の心臓に狙いを定める!
タイミングはバーサーカーが斧剣を振ったと同時。それ故に、攻撃が弾かれる事はない。スピードは十分で、反応すらできてないだろう。威力も、敵の体を貫通するほどはある。これならば……!
「がはっ……⁉︎」
「なっ……!」
期待は砕かれる為にある。そんな言葉がでてしまうほど、あっさりと奇襲は終わってしまった。
バーサーカーは斧剣を持っていない腕で、ジアナを地面に叩きつけた。その衝撃で、地面が沈む。ジアナが土を掘っていたからか、周りとかなり高低差ができてしまっている。
「ジアナ‼︎」
俺は慌てて、あいつの生死を確認しようと、大声で呼びかけた。そんな余裕などないはずなのに。動揺しているのだろうか。
奇襲というのは一番楽にダメージを与えられる攻撃手段だ。相手がこちらに意識を全く向けていない状態からの攻撃というのは、確実で、傷をより深くつけさせることができる。
しかし、
セイバーがチャンスを作り、俺とジアナ、遠坂の三人が仕留めるという作戦だったが、奇襲が効かない以上、他もほぼ全て効かないだろう。
「■■■■■ーー‼︎」
「まっず……!」
バーサーカーは咆哮と共に、次の獲物に狙いを付けていた。俺は間合いの外で、消去法でいけば遠坂だ。
本来はバーサーカーを倒した時に一瞬だけ怯む筈なので、その瞬間に遠坂は距離を取るつもりだった。だが、奇襲は失敗に終わり、タイミングを逃した為に、間合いの内に入ってしまっている。
「アーチャー!」
「ふっ!」
遠坂は身を守る為に、サーヴァントに攻撃を受けさせる。それで隙は作った。
アーチャーは一撃を受けただけで大きく後退した。衝撃を逃した為だろうが、それほどバーサーカーの一撃が重いということだ。
そして、俺は考えなくてはならなかった。バーサーカーが狙う次の獲物が誰か。
セイバーと衛宮は、奇襲に参加していない為に除かれる。アーチャーと遠坂は既に距離を置いている。ジアナは、すぐに攻撃できない。
距離が近く、バーサーカーの命を削れる、という条件が当て嵌まる奴は俺だろう。
「■■■■■ーー!」
「っ……!」
バーサーカーは一気にこちらへ向かってくる。逃げるにはもう遅い。人の心配してる場合じゃなかった。
「創太!」
誰かが、俺の名を叫ぶ。多分衛宮だろう。あいつは名前を叫ばなきゃ気が済まないのか。
けど、どうでもいい。それよりも、剣という名の死が俺に触れようとしている。それを対処しなければならない。
キャスターの転移は無理だ。あれはタメがいる。避けるのは前にやって失敗した。ならば、受け流すしかない!
「
誰にも聞こえない詠唱の次に鳴り響いた音は、金属音だった。
とても人の身体が出せるような音ではなかった。しかし、俺の手は何も持っていない。ならば、音の正体は自ずと判明する。
それは俺の腕だ。俺は自分の腕を魔術によって硬化させ、盾代わりとして、バーサーカーの攻撃を受け流した。もちろん、基礎能力も底上げしてある。
アーチャーのように、衝撃を後ろに逃せれば良いのだが、逃しきれなかった分によって身体が保たなくなるのが関の山だ。
「くっ……。」
だが、受け流すにしても、完全に逸らしているわけではない。剣を叩きつけられる度に痺れが腕に纏わりつき、体の芯まで届いてくる。
持ってあと十秒。いや、あと数撃で俺は、満身創痍どころか、体の原型すら留まっていない状態になるだろう。
その間にできることは、誰かからの助けが来ることを祈りながら、死ぬ気でバーサーカーの攻撃を逸らすだけだ。
「■■■■■ーー!」
それは何撃目だっただろうか。俺の脳は記憶する事すら惜しいと、剣筋を読みとる為だけに、全ての機能を集約して、
意識が一瞬飛ぶ。
頭が働かなくなり、隙ができてしまった。
同時に、バーサーカーはチャンスと言わんばかりに、自身を鼓舞するような声を上げ、斧剣を振りかざす。
体より頭が先に根を上げるとは思わなかった。まあ、そうでなくとも差異はあまりないだろう。
「っ……!」
死がまた迫る。恐怖が俺を襲う。
俺はそれに耐えきれず、目を逸らしてしまう。
くそ、今度こそ終わりなのか。死ぬ……のか。
……嫌だ。こんなところで、終わりたくない。
こんなところで……
死にたくない。
しにたくない。
シにたくナイ。
死ぬのは、怖い……
「ソウタ‼︎」
誰かが俺の名前を呼ぶ。とても親しみのある声だ。目は瞑っていて、周りで何が起きているかなんて分かりはしない。
そういえば、いつまで経っても痛みを感じない。この状況どっかで覚えがあるのだが、まさか……
そう思い、目を開ける。すると、
「……!あ、あああ……!」
よく見知った顔が血に塗れていた。
「ソウ、タ……、けが……は、ありま……せん……か?」
俺なんかどうでもいい、ジアナの方が重態じゃないか!
それに似たような言葉を紡ごうとしたつもりだった。だが、俺の唇は震え、動かせなかった。
なんとか、返事をしようと思い、口にした事が
「あ、ああ……。」
先ほど出した言葉と似たようなものだった。
「それなら……良かった……」
本当なら、心配されるのは相手の筈だ。なのに、その素振りすら出来ない自分が情けない。
「■■■■■ーー!!」
まずい。バーサーカーがこちらに向かってくる!幸い、先ほどジアナが抱きかかえて距離を離してくれたから、猶予はほんの僅かにある。
しかしなんとかして、ジアナを抱えて逃げなければならない。
だが、どうやって?
俺の手はボロボロで、そもそも足の力が入るかどうかも分からない。ましてや、ジアナを背負っていかなくてはならない。
成す術なしか……。
「はああああっ!」
そう思った時、セイバーの大声と共に、強大な魔力を感じる。周りを見れば全員が、同じ場所を見ている。視線の先には、セイバーがいた。
空気が彼女を中心に渦巻き、その彼女は、文字通り光の剣を持っている。
確かにそれは強力な宝具だろう。しかし、しかしだ。同時に、セイバーの持つ魔力が急激に、剣へと吸い取られている。
果たして、その宝具が完成するまでに、セイバーの魔力が持つかどうか。
けれども、方法は全て出尽くしてしまったようなものだ。ならば、捨て身の手段に移る他はない。
それしか、方法は……
「使うな、セイバー‼︎」
だが、それは赤い光によって打ち消される。
どうも、作者です。
まず、最初に謝罪みたいな何かをさせてください。
実は、この作品では原作主人公を強化したかったのですが、その為の伏線を前回に入れ忘れました。すんませんでした。
この話が投稿された段階では、修正されています。ただ、ここで前回を見てねと単純に言ってしまうと、ただの閲覧数稼ぎみたいになってしまうので、見るかどうかは個人にお任せします。
見なくても、ストーリー自体には問題ありません。
バーサーカー戦がやっと終わりそうです。その次からはいよいよUBW風になります。主人公の悩み的な何かが強く出ます。