これで何度目だろう。
また夢を見る。それは昔の記憶。
ちょうど一年前、自宅でジアナと晩飯を食べていた時の事だ。
「なあ、ジアナ。」
「どうしました、ソウタ?」
俺は箸を止め、ジアナに話しかける。
「……九年前の
アレ、と口にした瞬間にジアナの眉間に皺が寄る。こいつもあの事は良く思っていないからだ。
だが、俺は訊かなくてはならない。そう思っていると、ジアナからも質問を出される。
「似た物とは、どこまでの範囲ですか?」
本来なら、質問を質問で返すなと言いたいところだが、そこは明確にしなければならない所なので、今回は言わない。
どこまで、か。結構難しい質問だ。その範囲ってのがどの部類を意味しているのかも、分からない。
「範囲じゃないが、魔術に関係した一般人の死という点でだ。」
だから、共通点を示す。
ジアナは少し考え込み、それならば、という言葉の後に説明を連ねる。
「聖杯戦争には多くの種類があります。その全てが、一般市民を巻き込む訳でもありません。
しかし、貴方の言う共通点の事を考えると、この世界には、一般市民を実験材料にする魔術師もいます。そうでなくても、実験が失敗したり、力に溺れたりして、被害を及ぼす場合があります。」
「それ、おおやけになったりしないのか?」
「抑止力がいるので心配はありません。ですが、被害がある事には変わりません。
以上の事を考えて、貴方の質問の答えを出すならば、大なり小なり、毎日起こっている事になります。」
「そう……なのか。」
毎日というのはかなりの頻度だ。平均して、という意味も含まれているのだろうが、一日一人以上というのはかなり多い。
「では、私からも質問を。」
ジアナから?
いや、驚く事でもないか。こんな質問を突発的にすれば、ほぼ確実に相手はある事を疑問に持つ。
「何故そのような質問をしたのですか?」
やはり、としか言いようが無い。
「あー、今日の放課後の時にな。衛宮と一緒に帰ってる時に、昔の話になってさ。
あいつが書いた作文で、将来の夢は正義の味方って事をいじってたんだけど、その後に、今はどうなんだって訊いてみたんだよ。
そしたら、あいつなんて言ったと思う?」
「昔と変わらないままだと思います。」
「おいこら、先に答えを言うなよ。」
こういう時は、問題を出した人に言わせるモンだぞ。
「はあ、ったく。」
無意識に溜め息が漏れる。だが、このまま文句を言っても、話が進まなくなるので、ここはグッと我慢しよう。
「あいつは、正義の味方っていう単語を使いはしなかったけど、それに似た事が自分の夢だって言ったんだ。
俺、そん時思ったんだよ。こんなに真っ直ぐ、自分のなりたい事を言えるなんて、凄いなって。
なんというか……心に響いたんだ。」
衛宮は、あの大災害の被害者だ。誰かを救いたいという気持ちは人一倍強い。
俺もそうだが、今一歩踏み出せないでいた。
「ですが、それは歪んだ物です。貴方も判っている事でしょう。」
「それでもだ。俺には曲がっているように、とても見えなかった。
だからさ、
俺もそんな奴になってみたいとも、思ったんだ。」
ーー2月9日ーー
目を開き、和風の天井が見える。見慣れてきた風景だ。
それよりも、気になる事がある。夢の事だ。
あの日は、魔術を教わる最初の日でもあった。
何故夢に出てきたのかは分からない。けれども、それによって、考えさせられる事があった。
あれから一年、俺は何が変わったのだろうか。
強くなった?確かにそうかもしれない。けれども、足りない、俺の目指す物には到底だ。
更に、今この地で起こっている物は、下手をすれば十年前のような事になる。強くなる時間なんて物はもう無い。
昨日のバーサーカーとの戦いで、俺は何ができたのだろうか。何回か攻撃を入れたかもしれないが、ほとんど捨て身だ。アーチャーがいなければ、死んでいた。
俺ができる事は一体……。
「ソウタ、起きていますか?」
声がする方を見てみると、ジアナが襖を開ける姿があった。
その後、正座をして、俺の顔をマジマジと見てくる。まるで何か異変でもあったかのように。
「……ジアナ?」
「何か悪い事でもありましたか?」
まるで、では無かった。こいつは気づいたんだ、俺の心境に。
「ねぇよ、そんなモン。」
そして、反射的に嘘をつく。ただこの戦いから外される事を恐れた一心から。
ジアナは怪しみながらも、仕方無しという顔を浮かべる。
「そうですか。なら、構いません。
今から朝食の用意をします。昨日は何も食べなかったので、今日は、多めに作ります。シロウ君には、あまり負担を掛けられませんので私が料理します。貴方も手伝ってください。」
「俺も頑張ったぞ。なのに、負担を掛けるのか?」
「シロウ君の方が功績は上です。」
「ひでえ。」
これが実力主義ってやつか。(違う)
「飯か、そういえば食って無いな。」
昨日は、帰ってきた時間が午後で、その後ほぼ全員が寝てしまった。疲労が溜まっていたのだろう。だから、飯を食う暇なんて物はなかった。
なんて事を考え出すと、腹の虫がうるさくなり始めてきた。さっさと飯の用意をして、腹ごしらえをしよう。
と思っていたら、材料が足りませんでしたよチクショーめ。
衛宮も同じ時間に起きていて、冷蔵庫の中身を見たら買ってこようかと聞いていた。だが俺が断り、代わりに行ってくると言っておいた。
そして現在、商店街で買い物を終えたところだ。後は、荷物を家に届けるだけ。
「……あれ、間桐?」
「古崖先輩?」
と思っていたら、意外な人物に出会った。
「こんな所で、会うなんて奇遇だな。大丈夫なのか、お前。学校ではあんな事があったのに。」
「兄さんに学校へは行くなと散々言われたので。そうしたら、皆さんが倒れたという事を聞きました。」
ワカメが?
いやまあ、許されざる事をしたとは言え、流石に身内を見捨てるほど堕ちた訳ではなかったのか。
「古崖先輩は、どうして無事だったんですか?」
「あー、俺はあれだよ。その時は早退してたんだよ。体調が悪くてよ。」
咄嗟に嘘をつく。間桐は、学校に居なかったみたいだし、何を言っても突き通せるだろう。
「……そういえば、お前の兄貴は?」
ふと思った。あいつの行方がどうなったのかを。
バーサーカーから救いはしたものの、その後のワカメは判らない。
「休校の日から、家に帰らなくなりました。音沙汰も全くです。」
「そうか。」
という事は、教会に行ったのか?あそこは一応、脱落者保護施設だ。あいつもそれを知ってる筈だし、逃げ込むとしたらそこだろう。
「心配だな。ここの所、本当に物騒だし。」
「はい、古崖先輩も気をつけ……て……」
「っ!おい、間桐!」
それは急な出来事だった。目の前で喋っていた間桐が倒れる。
「大丈夫か⁉︎」
驚いた俺は安否の確認すべく、呼びかける。
「は、はい。最近よく目眩がするだけです……」
「それは大丈夫じゃねえだろ!」
無意識に魔術を使い、間桐の身体を調べる。すると、心臓のあたりに、別の生命体がいる事が分かった。以前、遠坂に言っていた物だ。それはまるで、寄生虫のように間桐の体に巣食っている。
しかし、様子がおかしい。間桐が倒れた原因はその生命体で間違いなのだが、生命体は間桐を蝕んでいる訳でもなく、むしろ、苦しんでいるように見えた。
更には見覚えがある物まであったような。
「ここで考えても仕方ないか。間桐、ちょっと我慢しろよ。」
「えっ……?」
そんな間の抜けた返事を無視しながらも、間桐を背負う。
俺一人では答えが出てこないと判断し、こいつを連れて帰ることにした。
「ちょ、ちょっと待ってくだ……」
「揺れるから、出来るだけ掴まっててくれよ。」
反論も聞かずに走り出す。
背中に柔らかい物があるが気にしない。俺はこれ以上の物を毎日見せられたりしてるから、動揺してたまるか。動揺して……いや、考えないでおこう。
とにかく、衛宮の家だ。さっさと帰ろう。
「おい、誰か!」
衛宮邸に着いたいなや、玄関の扉を勢いよく開け増援を呼ぶ。
すると、その声に反応した人物が走ってくる。その人物とは……
「どうしましたか!」
ジアナだった。掛かった時間は一秒も無いだろう。
「実は、こいつが急に倒れたんだ。」
「……桜?」
「ああ、だから先ずは」
寝かせないと。
そう言おうとした時、複数の足音が聞こえ始め、徐々に大きくなっていく。
多分、残りの三人だろう。
「どうしたんだ、創太!」
「問題でもありましたか!」
「何が……!」
衛宮とセイバーが叫んだあと、遠坂は目を見開きながら俺が背負っている人物を凝視する。前にも思ったが、こいつは間桐に何か言いたい事でもあるのだろうか。
「話は後でする。今はこいつの寝場所を確保させてくれ。」
俺が言った通り、今は行動が先だ。遠坂の意見は後で聞こう。
衛宮に空き部屋がどこにあるかを聞き、間桐をそこへ運ぶ。ジアナにもついてきてもらっている。間桐の症状を調べる為だ。
「ソウタ、一体何があったのか説明くらい……」
「まずは、こいつの身体を調べてくれ。頼む。 」
間桐をベッドに寝かせたながら、ジアナにこいつを検査する事を催促する。
俺ができれば良かったのだが、あいにくこういうのは俺よりもジアナが優れている。例え、本人が身体強化系の魔術だけが、得意だと自負していても。
「……分かりました。桜の状態を調べれば良いのですね。」
「悪い。けどジアナしか頼めないんだ。」
「良いんですよ。誰かを助けるのは嫌いではありません。」
本当に助かる。
何も言わずでは無いが、なんだかんだ言って一番頼れる存在だ。
と心の中でジアナを褒めていたら、その本人はもう準備をし始めたようだ。
「
そして、俺自身が唱え慣れた呪文を口にする。ジアナは相当集中しているのか、それ以降一切喋らなくなった。
待つ事数分。ようやく
「これは……。」
どうやらあれを見つけたようだ。と言ってもあれは二つあるので、どちらを見つけたのかは判らないが、聞いてみる他ないだろう。
「見たか?」
「ええ。彼女の心臓に取りつく寄生虫と、それに書かれてある魔術式を。」
答えはどちらもだったか。まあ、俺が発見できたのだから、ジアナに発見できない訳がない。
「それで、一番の問題は寄生虫なんだが……個人的に気になるのは魔術式の方だ。なんか見覚えがある気がしてならない。
ジアナ、なにかは判るか?」
「これは古崖家の魔術本に記載されている物と似ていますね。貴方の既視感は、そこからくるものでしょう。」
そうか、あれは古崖家の物だったか。通りで見た事ある筈だ。
「なんで、それが寄生虫に?」
「分かりません。ただ、術式の効果ならなんとか。」
「聞かせてもらえるか?」
「ええ。これは何かしらを強制的に発動させる効果と一時的に遅らせる効果です。」
「その何かしらってのはなんだ。」
「私にも、そこまでは……」
ジアナは首を横に振る。解析は無理だという意だろう。
「なら仕方ない。
でもよ。それは古崖家のモンなんだろ?だったら、身内の誰かが施したっていうことになるが。」
「真似たという可能性も無くはありません。ですが、あのお二方が一番に容疑者として考えられます。」
あのお二方、それは俺の両親のことであろう。身内でこの冬木市に来たのは両親と叔父ぐらいだし、滞在期間に関しては両親のほうが長い。だとしたら、何故そんな事をしたのだろうか。
「しかし、最も重要視すべき問題は、寄生虫の方ではないかと。」
「あー……まあそうだな。」
俺の疑問は解決しないまま、次へと話が進む。
確かにジアナの言う事は、間違いない。しかし、何かが俺の中で引っかかる。何か……
いや、考えても仕方ないか。俺一人が思いつくことなんてたかが知れてる。
「寄生虫の方、だったな。それは、多分あれだろうな。」
「ええ、間桐の魔術でしょうね。」
間桐の魔術、それは虫による支配だ。これだけだと、少し語弊がある言い方だが、平たくすれば大体そんな感じだ。
「まさかあいつの言っていた事が全部嘘だったとはな。」
「あいつとは、慎二のことですね。」
ジアナの言葉に、ああという相槌を打つ。
「とにかく原因は判明しました。正直なところ、今は手を尽くせません。幸いにもまだ事が悪化する事はありませんので、対策すると共に一度彼らに報告しましょう。
それに、何も説明しなかった謝罪をしないといけません。」
最後の言葉を口にすると同時に、半目で睨んでくる。
「うっ……」
いやまあ、悪かったよ、ほんとに。何の連絡も相談も無しに問題を持ち込んだ事は。
「すんませんでした。」
「その謝罪は彼らにしてください。」
はい。全くのその通りです。
どうも、作者です。
またつまらん嘘をついてしまった。
どちらかと言えば無計画なだけですけど。セイバーが誘拐されるとかなんだよ。それどころか、出番ほとんどなかったよ。
今回は後にHF風の何かにする為の伏線回でした。予定としてはUBWの最後のシーンから繋げるつもりです。
しかしこの小説の目的は、あくまでもオリ主とアーチャーを戦わせる事です。なので、その後はほとんど蛇足みたいな物ですが、流石に桜ちゃんをあのクソ虫ジジイに放っておく事は忍びないなと思い、そんな予定にしました。
あと夢の部分についてですが、今考えると、一年前より走り高跳びの時に魔術師になる決意させた方が良かったかなと思いました。しかし、もう既に一年前と言わせてしまったので、しっくりこない理由になってしまいました。
催促する感じになってしまうので、あんまり言いたくありませんでしたが、欲求には逆らえないので言います。
感想をよこしやがれください。お願いします。
次回は知らん。もう嘘吐きたくない。