最近は物語を書くスピードがかなり速いです。シリアスの方が、私の性にあっているのでしょうか。
前話を少し修正しました。教会にいたのは、士郎とジアナだけでしたが、凛もいることになっています。そこを頭に入れて今後の話を読んでください。ややこしい事、誠に申し訳ありません。
英霊と人が戦う場合、どのような戦況になり得るのだろうか。そもそも、そんな例など今までにあったのだろうか。数えるのに片手すら要らない可能性もある。
まあ、あるかないかなんてのは、正直どちらでもいい。重要なのは、
「はあっ!」
「くっ……!」
せめて、互角に持っていければとは思っていたが、ここまで有利な形になるのは、俺としても予想外だ。
ランサーが反撃できていないわけではない。しかし、俺はそれを紙一重でかわし、時には魔術によって硬化した腕で弾く。そして、魔力をほぼ全て使った身体能力の強化魔術で、怒涛の攻撃を仕掛ける。
耐久力、防御力、体力などを、全て俊敏力と筋力に変え、一発も当たらないように、攻撃する。
攻撃の数だけで言えば、俺の方が圧倒的に多い。もちろん、相手は槍で、こちらは素手なのだから、得物によって攻撃の数は変わる。しかし、槍の弱点である懐に入ってしまえば、相手の反撃も必然的にほぼ脚を使ったものになり、結果、肉弾戦に近い形になる。
だからといって、ランサーにダメージを負わせられるとは限らない。
「おらっ!」
ランサーはついに槍から左手を放し、殴りに掛かる。それは予想外の攻撃であり、俺は食らってしまう。だが、そこまで痛くはない。何故ならば、それは距離を離すためのものであったから。
相手は十メートル離れたところで、止まる。互いに、傷はほとんどない。俺の攻撃は、全て避けられたのだ。
「はあっ、はあっ……」
更に、俺の方がスタミナの減りが大きい。肩で息をするほど、体が酸素を求める。当たり前だ。ここに来るまでも、休まずに走ってきたのだから。
だが、ここで止まれない。
「ふっ!」
相手との距離を一気に詰める。槍が俺を狙おうとするが、関係ない。その切っ先をギリギリで避ける。皮膚にかすり、血がうっすらと出ようが、前に出る。
避けた場所に蹴りを入れようとも、腕で受け止める。どんなに衝撃が強かろうと、耐えきる。その場に留まり続ける。
そして、
「っだああぁぁ!」
右手で渾身の一撃をぶちかます!
もちろん、それは避けられる。単調な一発で当てられるとはおもっていない。だから、次に体を回転させて、回し蹴りを行う。そして、またかわされる。
それでも、攻撃を次々と展開していく。何故、ここまでランサーと渡り合えているのか、よく分からない。しかし、今は死ぬギリギリを見極めて、相手が切り札を出す前に倒す。そして、そして!
……いや、そうか。心が吹っ切れたからか。俺は今まで、どこか諦めていたところがあった。死にたくないと思いながら、同時に助からないと。
けれど、今はそうじゃない。
それだけではなく、規格外な古崖の魔術のおかげでもある。しかし、スタミナも一気に使っているので、長期戦なってしまえばこちらの終わり。早いところケリをつけてしまいたいが……!
「うぐっ……!」
しかし、俺は蹴りの一発をを受け、またもや相手との距離が開かれる。すぐに走って近づこうとするが、体が言うことを聞かない。スタミナ切れだ。少し休めば、また動けるだろうが、短期決着という作戦は失敗に終わったようなものだ。
歴戦の強者相手に計画通りとはいかない。それは、予想していた。
「短時間だが、ここまで食いつくとはな。思ってもみなかったぜ。だが、そろそろ体力の限界みたいだな。」
図星の事を言ってくれる。しかし、このままではやられる前に倒す作戦は、無理だ。
「はあっ、はあっ……そんなこと言ってないで、お前からも仕掛ければどうだ。防戦一方なんて、英雄の名折れだ。」
俺は息を切らしながらも、あえて挑発をする。ランサーの性格を全て知っているわけではないが、予想から、自分を殺し得る相手に、慢心や出し惜しみはしないはずだ。
スタミナをフルに使い、押し切るという第一の作戦は失敗。だから、第二の作戦を実行する。だがこれをやるには、相手が奥の手を出さなければならない。だから、俺は煽った。
「何を企んでんのかは知らねえが、お望み通り使わせてもらうぜ。」
来た。こっちの思惑は透け透けだったけど、それに乗ってくれた。
ランサーは最初に構えた時と同じように、槍を構える。少し違うところは、左手がしっかりと槍を掴んでいる事だ。
「この槍が穿つ物は、全員俺が認めた戦士だけだった。そんでもって、お前もその中に入ることになる。」
つまり、ランサーは俺を認めたと、そういう訳か。
「ありがたいけど、同時に迷惑だ。どうせ聖杯戦争が終わったら消える
それにな、俺は絶対に生き残るんだ。じゃなきゃ、
死の恐怖を乗り越え、そして、先に進まなければならないんだ。
「けっ、そうかよ。」
ランサーの魔槍に異様な量の魔力が集まる。それは、宝具の発動を意味する。
あれは因果関係を逆転させ、発動した瞬間に心臓を穿つ結果を作り出す。つまり、もうすでに俺の死は決定されたという事になる。
怖い。
死ぬのは、こわい。
コワイ、コワイ。
「……だから、なんだ。」
人間はいつか死ぬ。そんなのをいつまでも怖がってられない。大切なのは、今を
「その心臓、貰い受ける——!」
ランサーは堂々と宣言をしてくる。お前の負けだと。
落ち着け。あの宝具に対抗できる手段はある。それを実行するだけだ。
俺はつま先だけが地面に着くように、全身をバネのようにして、ジャンプを絶え間なくし続ける。腕は八の字で、即座にガードもパンチもできる。まるで、ボクシングでもするかのような体制だ。
跳躍を十回ほど行った後、それをやめて、相手に対して半身になり、大きく足を広げ、右腕も大きく引き、拳を天に向ける。
「
その呪文と共に、俺はある道具を手元に呼び出す。自宅の地下室にあらかじめ仕込んであった物で、数少ない魔力を消費したがそれ以上の価値がある。以前にもジアナがこの魔術を使っていたが、その時は本来の使用法でなかった。しかし、これが本当の使い方だ。
それは黒い球で、見た目だけでは素材がなんなのか分からない物。
「っ!まさか、それは!」
相手はこの黒い球を見た瞬間に驚く。いや、この構えも含めてなのだろうか。どちらにしてもランサーは、見たことがあるようだ。
それもそのはず。これらは全て、ランサーの
「……いいぜ、だったら尚更全力でいかせてもらう!」
魔槍は更なる
黒い球はそれに呼応するかのように、俺の右手の上で魔力の剣を形取る。
本来であれば、俺にこんなできすぎた宝具は使えない。けれども、俺の魔力を
そして、互いに手札を切る準備はできた。
「
「
後は、真名解放のみ……!
「
相手の方が、発動が少し早かった。朱色の魔槍が、俺の心臓を穿とうと、狙ってくる。しかし、
「
鉛色の球を殴り、相手へと撃つ。真っ直ぐと、光弾に化して。まるで、相手が攻撃する前にこちらが攻撃したかのように。
だが、ランサーも黙ってやられる訳がない。光弾の軌道を読み、避ける。けれども、
「曲がれーーっ!」
その光弾はランサーの横を通過しようとした瞬間に、直角へと曲げられる。
そして、
「がはっ!」
ランサーの心臓を貫く。
これで本来ならば、相手が宝具を発動する前に、こちらが先に攻撃を当てたという事象が主張され、魔槍は動きを止める筈だ。
だがそれは、主の手から離れようとも呪いにより、まだ俺の心臓を狙い続ける。こうなる事は予測していた。心臓を穿つという結果と、先に攻撃したという結果の両方を実現するには、相打ちしか方法はない。
「
いや、まだ他に方法はある。この呪いから生き残る術はある。
心臓を穿つという結果を回避するのは、難しい。それこそ因果をさらに変化させなければならない。しかし、そのまま受ければ治癒阻害の呪いで、回復は不可能になる。
だから俺は、その槍を心臓に受けながら、即座に回復させる。
「
胸に手を当てて、詠唱する。
「っ……!」
突如として、痛みを感じる。血が流れだし、体の中に空気が入っていくのが、感じられる。
死が迫る。
自分から向かっていく。
死へと。
嫌だ。
いやだ。
イヤダ
けれど、そんな恐怖は振り払う。
直後、呪いの朱槍は俺の心臓を穿った。同時に、それが纏っていた魔力は霧散する。まるで、因果関係は成立されたのだと意味するかのように。
ここだ。早く槍を抜いてしまわなければならない。そうでないと、作戦が無意味になる。
胸に刺さった槍に手をとり、一気に引き抜く。
「うぐっ!」
痛みが胴体を蝕む。それでも、俺は堪えて続ける。
「ぐっ……がっ!……はあっ、はあっ。」
そして、槍は最後に、ひときわ大きな痛みを一瞬だけ置いて、体から離れる。
「これで……失敗してたとかは……笑えない冗談だな……。」
そんなかすかな不安を裏切り、胴体に空いた穴は光りだす。これは、成功した証だ。
傷はみるみる内に塞がり、槍に穿たれる前の状態に戻る。
「躱せないなら、受けた後の事を考えりゃいいってか。」
膝をついたランサーは、心臓を失いながらもまだ生きていた。この様子だと、俺が仕組んだカラクリを全て見抜いたようだ。
「最初から最後まで、全部賭けみたいな物だったけどな。」
「だが、どっちにしろ俺は死ぬしかない。
バゼットのアレを見せられた時は驚いたが、その後の魔術もとんだ規格外だな。確かこの国の化け物だろ?」
「ああ。」
ランサーの言う『カマイタチ』という魔術は、平たく言えば対象を絶対に傷つける代わりに、絶対に癒すというものだ。魔術の基本である等価交換を突き詰めてできた魔術で、その気になれば生と死を交換することもできる。ただし、その魔術で死んだ人が生き返るだけのことだ。
これを俺は、殺傷と回復の効果を時間差を大きくして発動させた。心臓に穴を空け、その後に槍を受ける。そうすれば槍が心臓を穿つ結果を生み出し、かつ傷つけてはいないので、回復阻害の呪いは受けない。後は、回復の邪魔にならないように、槍を撤去すればいい。
それはまるで、カマイタチのようだ。名付け親は母さんらしい。名前をフェニックスにしない辺り、センスの良さが感じられる。
「完敗だ。お前は、紛れもなく素晴らしい戦士だ。」
ランサーの体が光の泡になっていく。
……何故だろう。何故、納得がいかないと感じてしまうのだろう。
「そうか。なら、敗者は勝者の言うことを聞くっていうルールは知ってるか?」
そんな事を思ったからかランサーに話を持ちかける。
「なんだ、突然?」
「知らなくても、構わない。
ランサー……俺のサーヴァントになるか?」
「悪いが断る。主変えはもうこりごりなんでね。」
「じゃあ、しょうがない。無理強いはできないな。」
ランサーにもランサーなりの、ルールがあるのだろう。強制させるのは、性に合わない。
ランサーを包む光が強くなる。そろそろ、限界なんだろう。
「今までの戦いは散々だったが、最後の戦いは、まだマシだったぜ。」
そう言い残して、ケルトの大英雄は消えていく。
「……先に進もう。」
あいつ、良い奴だったのかもな、とか思っている暇はない。俺には、まだやるべきことがある。少なくとも、この戦争が終わるまで余計な事は考えてられない。
そう決心して、教会の中へと一歩踏み出す。