オリ主と衛宮士郎との友情ルート   作:コガイ

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Normal end条件
・Hell endクリア後、分岐点においてジャンヌ・ダルクの好感度が一定以下。


Normal end 救われた現実の中で〜eqilogue

 セイバーとの一対一、士郎にとってこれ以上複雑な状況はないだろう。かつて信頼しあった仲であるのに、今は敵として本気で殺し合わなければならない。

 しかし、覚悟はできている。そして勝算もある。魔術回路と魔術陣を全てフル稼働させ、この身がギリギリまで壊れるぐらいならば、セイバーにも勝てる。

 

限界(リミット)突破(ブレイク)。」

 

 その瞬間、彼の魔術回路が暴れ出す。内にある魔力が体を駆け巡る。

 自身が剣になる感覚、一歩間違えればそれは諸刃のごとく体を貫く。けれども、やるしかない。そうでなければ救えない。我が身を犠牲にし、誰であろうと斬りふせる。

 もう二度とあんな事は起こらないように……

 

「待て!」

 

 しかし、突然誰かから止められる。

 その声は聞き覚えのある声だ。多少荒れてはいるが、間違えることのない声が後ろから聞こえる。

 

「まさか……!」

 

 そう思い、振り向く。考えが正しければそれはきっと、彼の親友。

 

「創……太……?」

 

 しかし、その姿に疑問を持ってしまう。顔はやつれており顔色が悪いが、創太には間違いない。だが、体はどうであろうか。

 人の形を保ってはいるが所々変形しており、更には無形物のように常に形を変え、地面に滴る部分もあった。

 まるで化け物と、例える他ない。

 

「悪いな、百年も待たせちまって。いや、二日というべきか。」

 

 士郎は彼から出てくる言葉を理解できない。しかし、それよりも心配せざるを得ない所があった。

 

「お前、その体……」

「それで、また謝らせてくれ。何か言っているのは分かるが、俺の感覚はほとんど無くなっている。五感は無いし、魔力を感じ取る程度しかない。悪い。」

 

 その事実は彼を驚愕させる。

 五感がないという事は、生活に支障をきたすというレベルではない。魔力を感じ取れるとはいえ、周りの状況を把握できないという事だ、正に真っ暗な世界が彼を包んでいるに等しい。

 

「なんで……そんな事に。」

「そんなに驚くな。最初は少し不便だったが、今じゃお前のその口の動きさえ正確に読み取れる。

 まあ、読唇術を覚えてないからあまり意味はない。」

 

 ヒトの感覚をほぼ全て失った状況であるはずだが、それは他人事であるかのように冷静に自身の状態を説明した後、創太は敵を見据える。

 

「さて、再会を喜ぶのは後だ。

 状況を読み込めないが……アイツは殺していいのか?」

 

 それは重く、冷酷で、一切の躊躇いもなく、覚悟は既に決したかのような言葉。

 一瞬、士郎は脳裏によぎる。果たして彼は本当に創太なのかと。あんなに死を恐れていたにも関わらず、今はその死を当たり前のように与えようとしている。

 その差異に、動揺を隠しきれるはずかない。

 

「いや、俺が——」

「手遅れになるぞ。」

 

 友人を信じきれなかった士郎は自身で戦う事を選択しようとしたが、止められてしまう。五感がないと言ったはずであるのに、士郎のその意図を読み取る。

 

「……分かった。後は頼む。」

 

 頷いたという動きを読み取り、創太は不恰好な体を器用に動かしながらも前に進む。

 

「セイバー、警告しておくぞ。

 そこを退け。さもなくば俺は喰らう。」

 

 殺意を飛ばすと共に、彼の体は変形を繰り返し肥大化していく。それは威嚇か、はたまたハッタリか。

 どちらにせよ、騎士王は微動だにしない。

 

「そうか、なら遠慮は要らないか。」

 

 突如、彼の体が()()()。形ではない、体そのものが別の何かに置き換わる。それまで隠れていた本質が表に剝きだす。それは死という名の魔法。

 ランクが落ちたものの、未だ高い性能を持つセイバーの直感が警告する。

 

 あれは、今までのどの化け物よりも恐ろしいと。

 

 影に呑まれてから感情を見せなかった騎士王の背筋が凍る。それほどまでに、彼の体は見た者に恐怖を植え付ける。

 

「神さえ喰らう神狼よ、眼前の敵を贄と化せ。」

 

 体はやがて影となり、一つの獣を生み出す。

 

 本気を出さねばならない。

 

 彼女はそう戦慄し、聖剣を構える。今までとは逆、斬り上げるような構えで、魔力を集める。

 

約束されし(エクス)……!」

 

 聖剣をも反転されたが故に、騎士王が持つは魔剣のような黒い輝き。大聖杯から直接魔力を補給されている為、それは極大になっていく。

 そして、それが洞窟全てを破壊できそうなほどになった時、

 

勝利の剣(カリバー)ーーー!!」

 

 反転された極光を、地面に這わせるように剣を抉らせる。

 凄まじい破壊力を持った黒い光は、人を一人殺すにはあまりにも過剰。食らってしまえば、それこそ跡形も無くなってしまうだろう。

 

「贄を持って我は進化する。崇めよ、神秘を強奪せし獣(フェンリル)の名を!」

 

 だが、それ以上に彼の影は巨大化する。狼のような牙を持ち、血のような赤い目で敵を捉える。

 いや、敵とは見なしてはいない。

 ただの獲物、食欲を満たす為に食われるだけの存在。

 獣は大きく口を開き、極光を噛み砕く。造作もなく、本当に喰らうだけ。闇の光がとめどなく溢れ出ようとも、ただ喰らう。

 やがて、聖剣から放たれる黒が打ち止めとなった時、獣は口に頬張った物を一気に飲み込む。と同時に、体がまたもや肥大化する。

 

「……次はお前だ。」

 

 その言葉だけでセイバーは退いてしまう。

 たった一歩であったが、それは戦意喪失とほとんど同じ。怯え、気圧され、勝てるわけがないと、勝負を投げ捨ててしまった。

 

「残念だ。お前が心底守りたいという物と実際に守っている物が一緒であれば、まだ勝てたかもしれないな。」

 

 落胆をしながらも、手を前に出し、腕を触手のように伸ばす。

 

 ——もうすでに、彼は人間ではないのだろうか。

 

 セイバーはそれを斬り落とそうとするが、空振りに終わる。

 狙いが外れたわけではない。むしろ、正確に斬った。しかし、彼の腕はそれを通り抜け、真の心臓を掴む。

 

妄想心音(ザバーニーヤ)、あのアサシンから奪った物だ。あいつみたいに偽物を作り出せないが、本物の心臓だけを掴むことはできる。どうせ逃げられないとは思うが、念の為だ。」

 

 ついには動けなくなった彼女は恐怖に呑まれる。

 目の前の化け物がゆっくりと、しかし確実に。

 一歩、また一歩と近づいてくる。

 

 何もできない。

 

 何をしようとも思わない。

 

 ただの餌としか認識していない。

 

 それを受け入れるしかない。

 

 獣は美味しそうだと言わんばかりに、口を大きく開け、そこに立つ獲物に顔を近づける。

 

 そこにいる者がなんであろうと、何を思うとも構わない。

 

 ただ食すだけ。

 

 そしてソレは、彼女を丸呑みにする。

 あっさりと、そこにはもう何も無かったかのように。

 次に、獣は創太の体へと戻っていく。

 そして、彼の体に変化があった。先程までは無かった鎧が、体の一部を纏っている。彼女を取り込んだためか。

 

「いく……ぞ。もう時間はない。」

 

 苦しげな声で、それでも前に進もうとする。

 時間がないのは聖杯の事を指しているのか、はたまた彼自身の事か。

 だが、士郎にとって問題はそこではない。果たして目の前の()は、本当に創太()であるのか。どうしても、その疑問が頭から離れなかった。

 けれども、彼らは進む。大聖杯が起動しようとしている奥地へと。嫌な魔力が漂い、どんどん濃くなっていく。

 二人は足並みを揃えてとは言えず、士郎は彼の五歩ほど遅れて歩いていた。

 そして、ついに見える。大空洞と呼ばれる大きな空間に、洞窟の柱ととも見れるほど縦に魔力を放出した聖杯の大元。

 確かにそれは目を惹かざるを得ない目立つ物。二日前に見た寺の物よりもよっぽど凶悪で、より強大だった。

 しかし、それよりも彼らを驚愕させた光景があった。

 

「遠坂!桜!!」

 

 すでに死に体である凛と桜、そして、それに手を掛けたジャンヌ・ダルクだった。

 

「あら、案外速く終わり……」

 

 彼女は士郎だけしか来ていないと思い、振り返って皮肉の一つでもかけてやろうと思えば、彼の存在に棒立ちになり目を開く。

 ある意味、彼女を今に至らしめた原因がここにいるという事は、殺戮という行動が全て無意味になった事になる。

 

「そう……」

「後にしてくれ。今はあれを壊すのが先だ。」

 

 感動の再会、そうなっても良かったはずなのに、獣は彼女を横切る。

 それよりも優先すべき事がある。死んだ仲間よりも、それこそ聖女の心を解放することよりも。

 

「あ……」

 

 何か、喉を振り絞り、ジャンヌは言葉を出そうとする。しかし、何を言えばいいのか。彼女が聖女であれば、マトモな言葉を掛けれたのだろう。しかし今、ジャンヌは復讐者(アヴェンジャー)だ。復讐の目的を先程の一瞬で失ったとしても本質は変わらない。

 

「やっとお前を壊せる。手間かけさせやがって。」

 

 だが、創太は聖杯と対面する。まるで悲願が叶うかのように。

 彼が纏う影と歪んだ聖杯が生み出す影。それらは互いに殺しあう物であるのに、全く同一だった。

 

「これで全部(しま)いだ。」

 

 右手に影を集め、狼とは別の物を創る。

 それは剣。先ほどのセイバーが持っていた反転の聖剣。士郎が投影するような偽物(フェイク)ではない。先ほども言った二つの影が同一であるように、それもまた真作の『エクスカリバー』以外何物でもない。

 

約束されし(エクス)

 

 闇と光、二つの存在が共合する。相反する性質を持った聖剣は凄まじい魔力を作り出す。

 目の前の人間が、自身を破壊しようとしている。その事実を否定したいと願っているのか、大聖杯は吠え、蠢き暴れ出す。

 だが、それ自身は自分の意思で動くことはできない。ただの無意味な抵抗でしかない。

 

勝利の剣(カリバー)。」

 

 そしてついに、剣から溢れ出る魔力が解放される。振り下ろすのではなく、振り上げるでもない。真横の斬撃、つまり水平斬りによる攻撃。

 それはレーザーのように突き進み、大聖杯を抉り、その中で爆破する。巨大な怪物が悲鳴をあげながら、四散する。その身を焦がされ、光と闇の間に潰される。

 例え破片が残ろうとも、それすらも焼かれる。彼の聖剣は今までのどの聖剣よりも恐ろしい物だった。

 

「っ……」

 

 やがて、大聖杯が完全に焼かれると、創太の足は体を支えきれなくなったのか、崩れ落ちてしまう。

 

「創太!」

 

 それにいち早く駆けつけたのはジャンヌ・ダルクだった。

 上半身を起こし、彼の安否を確認すべく何度も名前を呼ぶ。

 

「創太!大丈夫ですか!創太!」

「……う……あ、ああ、やっとだ。」

 

 意識はあるものの受け応えは危うく、生死をさまよっているようだった。

 

「何がやっとなんですか!

 貴方はいつも心配をかけて……!それで、私は……」

「やっとお前の顔をこの目で見る事ができた。」

 

 その言葉に彼女はハッとする。

 彼は願っていたのだ。ずっと()()()()()のに、会えなかった悲しみを胸に潜めて。

 

()()()()のせいで目が見えなかったけど、あれを全部出したおかげで光を取り戻せた。

 ……けど、俺はこの時代には生きられない。後にしてくれ、とか言ってたくせに、まともな話をすらできないな。」

「何を言って……!」

 

 支離滅裂な彼の話を、ジャンヌは全く理解できない。

 けれども、彼が死んでしまう。それだけを理解してしまう。

 

「死なないでください!また、そんな事になれば、私……私!」

「大丈夫だ。お前を支えるのは俺じゃないけど、あの中にはいる。」

 

 彼がフラフラとした手つきで指差す場所、聖杯があったそれは光に包まれていた。

 

「正直、今ならアーチャーの気持ちが分かる。あいつをぶっ殺したいってな。けど、もうそんな事もできない。」

「創太、お前……」

「衛宮、俺はお前の友人であれて良かった。最後の最後だけでも、お前を助けられて、誇りに思う。」

 

 そして、今度は彼女に向かって言葉をかける

 

「すまないな。お前には心配かけてばっかだったな。そんなになるまで待たせちまって……()()()()それ以上だったのかもな……」

「やめて下さい!もう……何も……言わないで……。」

 

 涙声で懇願し、目から溢れ出る熱いものは彼の胸に何滴も落ちていく。

 

「最後に言わせてくれ。」

 

 創太の体は光と成り、足から実体を消滅させられる。

 もう彼に残された時間はない。

 

「こんな俺と……家族でいてくれて、ありがとう。」

 

 感謝の言葉を言い切り、彼は霧散し消えていく。まるでサーヴァントのように。

 

 まだ、彼女の頰には輝く物が滴る。

 

 しかし、聖杯があった場所からは一人の影を映し出す。その人物は理解しがたい者だった。

 

 先ほど死んだはずの創太だからだ。

 

 しかし、体はしっかりと人型であり、欠けている部分はどこにもない。偽物なのか、さっきの人物がそうなのか。

 いずれにせよ、彼は弱っている。だから助けるべく、衛宮はそれに駆け寄り、体を支える。

 

「創太……なのか?そうだとしたら、さっきのやつは一体……いや、まずはこいつを運ばないと。

 ジャンヌ!手を貸してくれ!」

「あ……は、はい!」

 

 名を呼ばれた聖女は、今まで呆然とした意識から戻り、士郎を手伝う。

 だが、彼女には疑問が多く残されていた。創太と名乗った謎の人物、彼の言葉、そして、()()()()()()()()()()()()

 実を言うと、彼を助けようと思えば助けられた。方法はどうであれ、彼女にはそれをする手立てがあった。しかし、何故かその素振りすらしなかった。

 彼が創太だ、と言うことは一目見た時から彼女の中で確信があった。もちろん、今、肩を貸している彼も創太である事に間違いはない。

 なのに、救おうとはしなかった。

 彼が彼女よりも聖杯を優先したから?

 彼が死ぬ事を望んでいたから?

 彼が()()()()()()()()()から?

 彼が最後まで名を呼ばなかったから?

 理由を考えようとするが、そのどれもが答えではなかった。動機が何であったのか理解できない。自分自身を把握できない。

 それだけで、彼女は恐怖した。

 まだ、己の内に何かが眠っているのではないのかと、ジャンヌ・ダルクは危惧してしまう。

 

 

 

 

 ———epilogue.

 

 戦争が終わってから、二週間が経った。

 俺が目を覚ましたのは戦争終結の翌日らしく、衛宮の家で看護されていた。聖杯の泥に二日間漬けられていたが、特に体の変化はなかった。あの時は聖杯に体の感覚をほとんど奪われていたというのに、今はそれらが全て無かったかのように感覚が戻った。

 その二日ぐらいの戦況は衛宮から聞いた。ジアナの反転化、間桐桜の聖杯化、そして、その彼女と遠坂の死亡。大まかな内容として、そんな事が起こってしまったようだ。

 後はセイバーが敵になってしまった事だろうか。それは中々複雑な事だ。俺もそうだが、かなり信頼していた衛宮の方が心配だ。しかし、俺を名乗る人物がいたというのは少し気になる。だがすでにいないため、真実は闇に葬られてしまった。

 過去のことはこのぐらいかな。現状を整理すると、しばらく休校だった学校はもうすでに再開しており、生徒と教師共に死亡者はおらず、後遺症もないそうだ。ただ、魔術に関係した者を除いて。

 聖杯戦争の後始末は、言峰の代わりに新しく教会から派遣された人と、俺の叔父がやってくれた。色々と報告が必要な部分は俺たちが説明したけど、その後の作業は任せてくれと全て済ませてくれた。

 しかし、俺と衛宮は戦争に生き残ったとして、今後動きにくくなるかもしれない。片や固有結界持ちで、片や封印指定ギリギリの魔術師だから特にだ。

 そして一つ、大きく変わった点があった。ジアナが行方不明になった事だ。戦争終結から数日後にいなくなり、どこに行ったかも分からない状況だった。残したのは綺麗な字で書かれた置き手紙だけで、内容は以下の通りだ。

 

『突然の事ですが、私は貴方から距離を置こうと思います。嫌いだから、憎んでいるからではありません。

 こうなったのは、自分の気持ちが分からないからです。

 士郎君から聞いたとは思いますが、私は聖杯によって反転させられました。その時の気持ちはまだはっきりと理解していました。殺気と敵意を振り撒き、眼に映るもの全てを憎悪しました。

 しかし、貴方を名乗る人物に出会った時、私の感情は複雑な物になりました。ただの慈愛でもなく、憤怒でもない。全てが混ざりあっかのようでした。

 ですから、それが貴方への殺意となってしまった時のために、私はこの家を出て行きます。

 大変我が儘な事で謝罪の言葉もありません。

 けれども、私の事は決して探さないよう、お願いいたします。』

 

 ——正直訳が分からない。複雑な感情とか、聖杯に反転させられたとか。俺が戻ってからの数日間、直接は話をしなかったものの、性格や考え方が劇的に変わったとは思えなかった。どちらかと言えば、俺が戦意喪失した時にできた気まずさに似ていた。

 叔父にその事を話したところコネを使って探してみるという事で、俺は普段通りの生活をしてろという事だった。俺も探しに行きたいが、何の役に立つのかも分からないのに下手に動けなかった。けれども、本当は探しに行くべきだったのでは……

 

「おはよう、創太。」

 

 という事を朝の登校中に考えていたら、衛宮と出会った。

 

「……おはよう、衛宮。」

「なあ、前から言ってるけど、お前、暗くなってるぞ。」

「そんなことは」

「ある。だって、ずっと考え込んでるじゃないか。」

 

 その言葉に、俺は目を見開いてしまう。

 この二週間、俺はいつも通りを貫いていたつもりだった。しかし、他人からみれば、悩みまくっていた事がバレバレだったようだ。

 けれどもな、衛宮、

 

「お前もそうなんだろ。柳洞が言ってたぞ、生徒会での仕事があまりできてないってな。今も無理してるって事が見え見えだ。」

「っ……。」

 

 二人とも、周りから見れば丸わかりなのだろう。何が何でも引きずりすぎだ。

 

「……あの、三人の事か?」

「分からない。確かにセイバーは俺のサーヴァントとして戦ってくれた仲間だし、遠坂もそうだ。桜は俺の生活を手伝ってくれた。

 けれども、何かが違う。

 もっと根本的な物だ。誰かじゃなくて、行動自体に何かがあったんだと思う。」

「それは……」

 

 それは救えなかったからではないか。

 そう言おうとして、途中で切ってしまった。衛宮の何かの線に触れるのではないかと、恐れてしまったから。

 

「なあ、もしやり直せるなら……」

「それだけはやめろ。」

 

 過去に戻って、なんていう言葉を聞いた瞬間、俺は即答していた。

 

「……そう、だよな。何言ってんだろうな、俺。」

 

 話はここで途切れる。

 互いに心が不安定な状態だ。これ以上話し合っても悪循環に陥るだけだろう。ならば、黙っておく方がまだマシだ。

 

 だが、そんな甘い考えを後で後悔する事になった。

 

「藤村先生!」

 

 翌日の朝、ホームルームの直後、俺は衛宮の保護者である藤村先生を、職員室へと向かう前に呼び止めていた。

 

「どうしたの、古崖くん?」

「衛宮は……本当は衛宮は何処にいるんですか!」

「や、やだなあ、急に。衛宮くんは今日、風邪をひいて欠席だって……」

 

 藤村先生は必死に隠そうとしていたが、逆にそれが仇となり、嘘をついているようにしか見えなかった。

 先程のホームルームで、衛宮か欠席したという知らせがあった。しかもここ何日か休むという事らしいが、不審な点がありすぎる。そのいくつかを使って彼女を問い詰める。

 

「昨日、あいつと話しましたが風邪をひいている様子なんてありませんでした。何か思い悩んでいたし、それが原因じゃないんですか?」

「いやでも、急に熱が出たして……」

「襟元。」

「え……?」

「藤村さん、いつもそこに調味料の跡がついてるんですよ。あまり目立ってはいませんけど。でも今はついていない。つまり、朝食は食べなかった。そして、衛宮は熱を出そうとも無理して藤村さんが来る前に食事を作っている。

 ここから予測するに、衛宮に何かがあったという風にしか考えられない。」

 

 少し無茶を押しているかもしれないが、概ね筋は通っているはずだ。

 藤村先生は少し考えた後に観念したかのような顔で、

 

「ここじゃ他の子に聞かれるかもしれないから、ちょっと職員室まで移動しましょうか。」

 

 と言い俺を職員室まで誘導する。

 他の人には聞かせたくない事なのだろうか。そうしなければ話は聞けないと判断して、彼女の後についていく。

 

「そうね、どこから話そうかしら。」

 

 職員室の中に入り、藤村先生の席まで移動し、彼女は椅子に座り、俺は立ちながら話を聞いていた。

 

「そんなに複雑なんですか。」

「起こった事は単純よ。しろ……衛宮くんが家出した。」

 

 それはジアナが行方不明になった事と同じくらい衝撃的だった。

 

「え、ど……どういう……」

「私も分からない。朝、家に行ったら何も残さずに何処かへ行ってしまったの。一応、警察には連絡したわ。

 多分、色んな事が一度に起こったからだと思う。セイバーちゃんは帰っちゃったし、遠坂さんも留学しちゃったし、桜ちゃんも行方不明になった。」

 

 今は亡き三人は、周りの人にはそういう事になっていた。

 しかし、だからと言って急にいなくなるのは卑怯だ。

 

「学校の皆んなも倒れちゃったし、葛木先生も様子がおかしいし、また何か起こらないと言いけど……」

「……大丈夫ですよ。もう何も起こらないと思います。」

 

 それは確実だ。しかし、もうどうにもならないという意味も含んでしまったのではないか。

 

「そう?それなら良いわね……。

 さて、そんな暗い顔しないで!きっとすぐ戻ってくるわよ。士郎も、もちろんジアナさんも!」

 

 先生は暗い雰囲気から取り戻すかのように明るい声で、励ます。しかし、それでも俺の中にある重い感情はどうともならなかった。

 

「はい……すいません。」

「そんな謝ることしてないでしょ。ほら、次の時間は私の英語なんだから、行った行った!授業中にそんな顔してたら竹刀で叩いちゃうわよ!」

「分かりました。失礼します。」

 

 衛宮の失踪という事実から立ち直れる訳もなく、俺は俯きながらも教室へ戻ろうとする。

 

「……そういえば、先生。」

 

 だが、ある事にふっと気がつき、それを伝えようと振り返る。

 

「うん?まだ何かあるの?」

「その顔、教室来る前に何とかしておいた方が良いですよ。時間がかかるなら、俺が言っておきますんで。」

 

 先生は俺の言葉から豆鉄砲を食らったようにハッとする。自身でも気づいていなかったのか、頰を流れる物に気づいた時、観念してついには声を上げてしまう。

 それを俺は見ることすらできず、立ち去ってしまった。現実から目を背けるように。

 何もかもが分からない。ジアナも、衛宮も、俺を名乗る謎の人物も。そして、俺に何ができていたかも。

 全ては闇の中。どうあっても探す事は出来ない。その中に飛び込まない限りは。だから俺はイリヤスフィールに会いに行く事にした。

 彼女は未だアインツベルン城に住み続けているらしい。俺も今そこにいた。

 

「なあ、イリヤスフィール。真の聖杯というのは何でも願いを叶えるんだよな?」

「会って挨拶もなし?礼儀知らずね。」

 

 俺自身もそう思うが、こっちは切迫詰まってるんだ。

 

「いいから、答えてくれ。」

「……限界はあるわ。それこそ、無限の力なんていうのは無理よ。聖杯そのものに限界があるんだから。それに過程をはっきりとさせないといけないわ。」

「なら」

 

 何故そんな事を質問したのか。それが俺の最大の謎だった。しかし、これだけは分かる。

 

「人を生き返らせる事はできるのか?」

 

 それが、(泥沼)の中へ足を踏み入れた音なのだと。

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