オリ主と衛宮士郎との友情ルート   作:コガイ

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・True end条件
Hell endクリア後、分岐点でジャンヌ・ダルクの好感度が一定以上かつ、ある選択肢を選ぶ。


True end 前編 真・VSセイバー

 この暗い泥の中、俺は息もできず、死ぬ事もできず、ただ埋めつくされているだけだった。まるであの恐怖に溺れた夢のよう。

 けれども、今度は誰が助けてくれる訳もない。むしろ、俺をそうしてくれるたった一人を外に出してしまった。だから、俺を助けられる奴なんていない。こんな泥沼の中に足を踏み入れる事はできない。俺だって指一本動かす事さえ無理だ。神経という神経が死んで、僅かに心臓が動く程度だ。それでも酸素は無く、肺に入るのは泥のみ。

 だが、俺は生きている。死という恐怖が包み込む中で、死すらも許されない。生き地獄もいいとこだ。

 けれど、抵抗する。何時間か、何日か、何年か。終わる事なき無意味な抵抗を。諦めてしまえば、俺が俺でなくなるから、ただそれだけの理由で。

 そんな中、ある変化が起こる。俺の後ろから声が聞こえる。耳なんていう機能は完全に死んでいるにも関わらず。

 

——また会えました。

 

 残念だが、お前は俺の姿を見えているんだろうが、こっちから見えはないんだ。だから、お前が誰かすらも分からない。

 

——それでも良いのです。

 

 何だよそれ、ただの自己満足か。そんな理由で(こんなもの)に飛び込むなんて、まるで衛宮みたいだな。

 けれども、そいつが自己満足だけの為にここへ来た訳でもなさそうだった。だって()()に似ていたような気がしていたから。

 やがて、その誰かは俺の背中に手を乗せて何かを呟く。呪文なのか、ただの小言なのか。

 しかし、その中で確かに聞こえたものがあった。

 

——貴方を救えて良かった。だから、今度は(彼女)を助けてください。

 

 おい、待て。どういう意味だ。

 そう訊こうとしたが、彼女はすで俺の背中を押し、この地獄から脱出させようとしていた。と同時に、俺の脳内にある記憶が流れ込んでくる。それはおそらく彼女のものだ。

 けど、救われたって……そんな風には見えない。だってお前は死んでしまう。辛い人生を生きていた筈だ。なのに何故……やっと再開できたと思っていたら、相手はお前のことを認識すらできなくて、それでやっと互いに理解したっていうのに!

 何でお前は俺を救おうとするんだ!何故お前は、そこからやり直せた筈なのに……!

 ……いや、違うのか。もうすでにお前は救われていたのか。

 だったら、とやかく言うのは野暮だよな。だけど、

 

 お前()助けたかった。

 

 =====

 

 大聖杯が目覚めようとしている大洞窟の最深部、そこでは三つ巴の戦いが起きていた。

 凛と桜、そしてジャンヌの三人は他の二人を均等に注意を割きながら、戦っている。どちらか一方に集中してしまえば、もう片方にやられる。だから、相手を倒すというよりは自身が生き残る戦いになってしまい、通常の戦闘より長引いてしまう。

 しかしそれは、あまりにも長引いていた。

 

「憤怒の炎よ!」

 

 周り全体を炎の海に染め上げてしまうジャンヌ。二人への同時攻撃と移動の制限、更には目眩しの効果も兼ねていた。

 二人はそれを防ぐものの、押し切る事は出来ていなかった。その間に、彼女は走る。行先は聖杯の力を持った桜、後に残してしまえば聖杯による無限の魔力が厄介となる。ジャンヌとてその魔力量は多いものの、無限ではない。

 

「そろそろ、最初の脱落者を決めましょうか!」

 

 剣による一撃。ただの力押しではなく、疾く鋭く、相手を殺す事に特化した剣。それを防ごうと、桜は触手による防御を行おうとするが、

 

「甘い!」

 

 瞬く間に、黒い炎で焼き尽くされる。しかも、桜自身にも遅い掛かろうとするが、

 

Eins(接続),zwei(解放),Verschwinden(斬撃)――――!」

 

 魔力の刃が横槍を入れる事によって、炎もジャンヌの攻撃も桜には届かなかった。

 

「悪いけど、その子は殺させないわ。」

 

 凛が持つ宝石剣、平行世界から魔力を運用する事に特化した魔法を扱うそれは、幾度となくこの戦いを長引かせていた。

 何故ならば、それもほぼ無限であるからだ。無数の世界から無数の魔力を運ぶ。まさに、魔法だ。

 

「流石にこう何度も邪魔されると、鬱陶しくなりますね。

 隠していたその剣といい、()()()()()()だったり。」

「ええ、同感です。」

 

 二人の殺意が凛に集まる。

 

「これはちょっと、嫌な予感がするわね……。」

「少しばかり協力しませんか?彼女を残しておけば、現状を打破できません。」

「私もそう思ってました。ただ、貴女も一緒に殺してしまっても恨まない事ですね。」

「その言葉、そのままお返しします。」

 

 ジャンヌと桜は凛を殺すために、同時攻撃を行う。

 どちらも人外のスピードで、さらにはかすっただけでも致命傷になりかねない。

 

「まっず……!」

 

 苦し紛れながらも、彼女は剣から二つの衝撃波を生み出す。それぞれに一つずつ、高密度の魔力であり、まともに当たれば致命傷。だが、二人は難なくそれを弾く。

 

「もう一度!」

「遅い!」

 

 凛の目の前には、すでに影の触手と黒の斬撃が迫っていた。しかし、彼女にとってそんなものは関係ない。どういうものであっても、一瞬でも反応できれば回避は可能だ。だが、その方法は敵にとって謎であった方が時間を稼げる。

 だから、凛はその宝石剣を地面に突き刺し、爆破させる。こうする事により地面を巻き上げ、相手の目を眩し、さらには衝撃波も発生させ、触手の群を吹き飛ばす。

 

「っ……こんなもの!」

 

 しかし、ジャンヌの剣は、衝撃に耐えて完全に凛を捉えていた。スピードは彼女を殺すに充分。身体能力から考えても、至近距離であるにも関わらず、回避行動を取らなかった時点で避け切る事はないと確信していた。

 だが、それを振り切った時、ジャンヌは全く手応えを感じなかった。いや、すでに凛はそこにいなかった。

 剣の風圧により土煙は晴れ、視界は良好だが、どこにも彼女の姿は存在しない。

 

「……後ろ!」

 

 突然、彼女は後ろへ振り向き、剣を横にして防御の構えを取る。そして、火花が一瞬飛び散る。それは二つの剣が交差した証。

 つまりは、瞬間的に回り込んだ凛とジャンヌが鍔迫り合いを行なっていた。

 

「ちっ!直感もないのによく反応できるわね!」

「戦闘中であろうと精密な索敵魔術が可能ですから。

 貴女こそ、私たちの目を掻い潜って認識の外へと移動する方法をやってのけているではありませんか。その方法、是非教えてもらいたいものですね。」

「そ、れは……っ!Es last frei(解放)!」

 

 彼女の詠唱とともに宝石剣から爆破が起き、その風圧によって二人は吹っ飛ばされる。

 その次の瞬間、下から二人を捕食するかのように触手が爆発を喰らっていた。その触手はもちろん桜のもので、あわよくばどちらとも倒してしようと考えていたようだ。

 

「あらあら、もう少しだったのに。」

 

 残念そうな顔は微塵にも見えぬ表情で、黒の少女はあざ笑う。

 

「協力なんて言葉、微塵も感じられないわね……。」

「当然です。姉さんを優先して殺すだけで、機会があればそこの聖女もまとめて殺るだけなので。」

「否定はしないけど、私はサーヴァントじゃないからセイバーのようにはいかないわよ。」

 

 凛以外の二人は互いに挑発し合うが、依然として目標は凛のまま。どうにかしなければ、いくら()()を使おうと彼女が落ちるのは時間の問題だ。

 

「さて、貴女のそのマジックのネタ、明かさなければ面倒ですね。」

「そんなつもりはさらさら無いわ。」

「そうですか。けれども姉さん、後ろには気をつけた方が良いですよ。」

 

 その言葉を聞いた時、凛は背後からの殺気に気づく。振り向けば五体の巨人。バーサーカー程の影の巨体が、彼女に襲おうとしていた。

 

「いくらだって相手して……!」

 

 だが、それは囮。しかし、彼女がその正解に至った時にはもう遅かった。

 

「取った!」

「っ!」

 

 すでに、後ろからジャンヌの剣が襲おうとしている。今から動こうとも無意味。だから、この手を出すしかなかった。

 

「詠唱代替、術式始動、転移(transition)!」

 

 発動した瞬間、凛の体が消え、結果として斬撃は素振りに変わる。桜もジャンヌでさえも、彼女がどこへ行ったのかは視認できなかった。あの状態から二人の目が追えないほどのスピードまで加速したとも思えない。魔術程度のもので彼女の体を動かせるわけもない。

 ならば、今起こった現象は何か。その答えにジャンヌはある仮定を立てる。

 

「……魔法、しかも行使する時間はほぼゼロ。どういう理屈であるかは不明ですが、そう考えるのが妥当ですね。」

「痛っ……!」

 

 ジャンヌが自身の考えを口で纏めていると、十数メートルほどの右後方で凛が尻餅をつく。

 どうやら、空中から落ちたようだった。

 

「どうやら転移先は無作為にしているようですね。」

「流石に……いたたっ……あれだけ目の前でやればバレるわね。」

 

 凛は強く打った尻をさすりながら立ち上がる。

 

「おそらく、その魔術石が魔法を使える正体でしょう。寺で使ったアレでしょうね。」

「どれだけ観察力が良いのよ。おかげで余計に狙われるわね。」

 

 困ったように言っているが、彼女としては二人の対象が自身になることは構わなかった。

 どちらかと言えば、今まで死の淵から生き残らせた切り札の正体を見破られてしまった事が痛かった。

 創太から貰ったもしもの為の魔術石。本来ならば一度きりであるはずのそれは、無限の魔力を運用できる宝石剣からの補給で再使用できるようになっていた。しかも、中身はキャスターが使っていた転移。おかげで連続は無理であるが、緊急回避には使えるようになっている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ジャンヌさん。ならば、あの石を狙うのはどうでしょう?貴女が発動を誘導して、私は全体を影で埋め尽くし、転移先がどこであろうと潰します。」

「良い考えですね。では、その通りに。そうそう、言っておきますけど先のように私を狙おうとしても無駄ですよ。サーヴァントと同じように一瞬で融ける事はありませんから。」

「それは、それは。既に持っている情報をわざわざ言ってくださるなんて。」

「お褒めを頂きどうも。それだけ口を動かしてらっしゃるのなら、タイミングはいつでも良いという事で……さっさと、終わらせますよ!」

 

 ジャンヌが一歩踏み込む。それだけで、凛が目で追えないほどの加速をつけて前へと進み、桜はその進路上をカーペットへも変貌させるようにそれ以外を宝具級の攻撃力を持つ影の巨人で覆う。

 これで、凛がどこへ逃げようとも死は免れない状況になる。しかし、彼女の目は諦めてはいない。まだ突破口はある、いや作る。

 

()()()()が来るまでに、なんとかしなきゃならない。」

 

 確固とした意思で、凛は自ら前へと進む。

 勝つためではない。

 自身のためでもない。

 強いて言うならば目の前の二人の為。

 活路がなければ、この手で開く。そうでなければ、()()()()()()()()()()に申し訳が立たない。自身を二人相手に善戦できるほどの力をくれた彼に。

 だから、凛は死ぬ気で戦う。ただの時間稼ぎのために。

 

 =====

 

 俺の周りはおぼろげな世界に変わってしまった。

 視界はぼやけ、至近距離で物を見てもはっきりとは見えない。

 聴覚もほぼ全ての音が同じように聞こえ、多分だが人の声すらもそうなのだろう。

 けれども、一つだけ明細に認識できる。

 俺が今進んでいる方向、そこには友人と仲間と敵と、そして愛すべき人がいる。

 ()()に助けてもらい、柳洞寺で影から産み落とされるように吐き出された時から、それだけはずっと理解していた。

 何故かは知らない。けれども、確信している。

 進むべき場所はそこなのだと。

 俺の中で何かが蝕む。

 

 ——殺す、殺す!殺す!!

 

 俺の中で何かが叫ぶ。

 

 ——殺せ、殺せ!殺せ!!

 

 心にも思っていない衝動を抑える為、必死でそれを押し殺す。体中を喰い散らかし、更には支配権まで奪おうとするこの世全ての悪(これ)を制御する。

 怪我も傷すらもないけれど、内側は影に抵抗しようと全てを酷使している。死に体寸前ではあるが、まだ活きなければならない。そうでもしなければ、あそこには辿り着けない。助けてくれた彼女に報いる事が出来ない。

 だから前へと、俺は前へと進む。

 この先、龍洞の入り口から真っ直ぐ進んだ最深部。そこで全てが解決する。

 だが、門番を倒さなくてはならないらしい。

 

「ふっ……!」

 

 真後ろ、そこから少し上方からのナイフの奇襲に、俺は所有者へと左手で弾き返す。しかし、的はそれを簡単に避ける。始めから当たるとは思ってもない。

 

「感覚が鈍くなっておるかと思えば、その逆。さらにはそれを的確に反射させる技量まで持っておるとは。」

「生憎と、殺す対象だけははっきりと認識できるんでな。」

 

 敵の正体はアサシン、しかも小次郎ではなく本来のアサシンであるハサン・サッバーハ。ただ対面するだけなら他のサーヴァントより脅威ではない。

 しかし、相手は木の上、身を隠そうと思えばいつでもできる。そうなれば戦いが長引く可能性があるし、こちらの敗北というのも十分あり得る。あまり無駄な戦いはできないが、倒さなければ道を通る事は不可能だろう。

 

「貴様には恨みも何もないが、ここで死んでもらう。」

 

 アサシンの体が横にズレる。

 まずい!この木々を使って姿を眩ますつもりか!

 ここで時間は食ってられねえのに!

 

「ライダー!」

 

 だが、俺の意思が伝わったかのように、飛翔した鎖のついた杭がアサシンを阻害する。残念ながら当たりはしなかったものの、敵の行動は失敗に終わった。

 

「何故貴様がここに!」

 

 それは俺とて同じだ。()()がいる事は本来あり得ない。セイバーが宝具を以ってして倒したはずだからだ。

 

「僕だってそう思ったさ。けど、あのバカでお節介な桜が寄越してきたんだよ!」

 

 そして、聞き覚えのある嫌味な言い方をする奴もう一人。

 

「まさか……間桐?」

 

 聖杯の器となり、体を酷使されて動けない筈の間桐慎二だった。

 まさか、助けに来たのか?

 

「酷い有様だな、古崖。いつもの態度はどうしたんだ。」

 

 前言撤回、こいつは腐ってるからそんな事しない。

 

「はあっ……はあっ……うるせえ。お前も似たようなことになってただろ。柳洞寺の時とか、衛宮に負けた時とか。」

 

 苦し紛れながらも反論するが、肩で息をしているせいか、間桐はどこ吹く風といったように聞き流す。

 

「……お前、どうしてここに。」

「だから、桜だよ。あいつ、ライダーに伝言を頼んで、逃げてとか言い出して。ムカつくから文句の一つでも言いに行って、尻拭いしてやろうって訳さ。」

 

 心底気に食わなさそうに、理由を説明する。

 

「素直ではありませんが、彼は純粋にサクラや貴方達を助けようと……」

「ら、ライダー!余計な事を言うな!」

 

 ……再び前言撤回、ツンデレキモッ。

 助けてくれるのはいいが、その属性は要らないと思います。

 

「とにかくここは僕に任せて、お前はさっさと奥へ行って全員を連れて帰ってこい!

 いいか?一人でも欠けたら、その顔に前の殴られたお返しをしてやるからな!」

「あれは当然の事をしたまでだ。」

「うるさい!さっさと行ってこい!」

 

 けども、ありがたいことだ。改心……と言うのは微妙だけど、以前と比べても幾分かマシにはなっている。

 しかも助けてくれると来た。ならば、信用してここを任せる他は無い。

 

「負けるんじゃねえぞ。」

「お前こそ、ただで返ってくるなよ。」

 

 互いに目を合わせないまま俺は奥へ、間桐はアサシンと対峙する。

 力の差が云々はこの際無しだ。間桐は割と頭が良いから、これまでのように暴走しなければ、まず負ける事はない。上手くライダーを扱えるだろう。

 そう信じて、俺は暗い洞窟の中を進む。光はないが、先も言った通り方向ぐらいは分かる。そして、その先に何があるかもはっきりと感知できる。

 

「ッ……ゴハッ……!」

 

 しかし、俺の中にある影は依然として暴れまわり、防衛反応からかそれを吐き出す。体を削りに削っているはずだが、そこに血は一切ない。すでに、血液までも侵食しているのだろうか。

 なら、ある意味好都合だ。俺の一部になっているのであれば、利用しやすい事この上ない。呪いの影響で体の寿命が縮んでいる事がなければな。

 だから、急がなくてはならない。

 そう思いながらも、吐き出した影すらも貴重な力とみなし、再びそれを吸収する。

 

「……二つか。」

 

 やがてある程度進んだ時、この先で近づいてきた魔力の数を数える。

 一つは衛宮だ。俺の施した魔術陣も感じ取れるし、おそらくはそうだろう。

 そしてもう一つ、魔力の質や量が変わり過ぎているが、これはセイバーだ。英霊であるからか、俺以上に聖杯の泥に侵食されているけれど、本質の部分はそのままのようだから間違いない。

 マスターとサーヴァントという信頼し合える相方の関係であった二人だが、今は完全に敵同士の態勢を取っている。どちらが勝つかなどという推測は今はしない。結果が如何になろうとも、最低一人は死ぬ。そんな物は納得できない。

 考えながら走る事、十数秒。俺は少し開けた場所に到着する。大聖杯はもう少し先だが、ここはここで為すべき事がある。

 

限界(リミット)突破(ブレイク)。」

 

 ある一人が詠唱する。諸刃の刃をその身に宿すそれは使えば最後、剣狂いとなるまで止まる事を知らない。そう意味するかのような覚悟があった。

 いや、するかのようなではない。あいつはそうなってしまう。誰かが止めなければ、突き進んでしまう。

 だから、

 

「止まれ!」

 

 俺が踏みとどまらせる。

 

 ボロボロの体が出したとは思えないほどの、空間全てを震わせる大声は二人の注意を引き寄せる。

 大聖杯に続く道を塞いでいる黒の騎士王は全く表情を変えず、ただ冷たい顔で俺に殺意を向けるだけだが、手前にいるあいつは違う。目を見開かせ、疑うかのようにまじまじと俺の顔を見る。

 

「お前、創太……?」

 

 耳にはっきりと衛宮の声が聞こえる。目は未だ霞んたままだが、耳はそうではないらしい。

 

「ゲホッ……ああ、正真正銘のな。

 ちょっと顔色が悪いかもしれないけど、そこは我慢してくれ。戦うぐらいはできる。」

「どうやってここに……?」

「まあ、色々とな。」

 

 衛宮の問いに含んだような答えを出す。今は急いでいるからな、許してくれ。

 

「それよりもだ。」

 

 改めて、今立ち塞がっている脅威を再確認する。聖杯によって反転させられた騎士王。俺たち二人がかりでも難しいかもしれない。しかし、問題はそこではない。

 

「……どうする?」

「やるしかない。覚悟はもう決めた。」

「そうじゃないって。()()()()()はどうなのかって聞いてんだよ。」

「は……?」

 

 俺の問いに対して唖然とした表情で応える衛宮。

 

「どうするべきか、じゃない。どうしたいか、だ。

 あいつを倒す事がお前の望みなのか?」

 

 数秒、考えているのか驚いているのか微妙な顔で間を置いた後、衛宮はある一言を俺に伝える。

 それは安心と、そして当然という言葉を俺の中で生み出した。俺もそうしたいと願っていたからな。

 

「そうでなきゃな。ならば手始めにその双剣を俺に預けてくれ。」

 

 先程から衛宮が手に持っている干将・莫耶、それを使えばセイバーを倒せると踏み、俺に譲る事を促す。

 

「できるんだな?」

「できないなら、言わない。けど、()()()()()()()()()()()。」

「ああ、分かった。」

 

 信頼したという証か、衛宮は双剣を回し柄を俺に向け、渡す。

 こんな俺に託してくれるんだ。期待には応えねえとな。

 

「さて、問題は……」

 

 敵に視線を送り、先程までと一切変わらぬ立ち位置で道を塞いでいる事を確認する。今まで攻撃してこなかったというのは、どうやら俺たちを倒すというよりは侵入を許さないだけのようだ。

 どちらにせよ打ち負かすべきなのは変わらない。

 だが、踏み込む以外に反応しないのであれば、充分な下準備をさせてもらおう。

 

性質(フォース)変化(チェンジ)。」

 

 この一年間、最も多く唱えてきた詠唱。

 親から引き継いだ遺産の詠唱。

 そして、俺という者が戦う為に基盤となる詠唱でもある。

 ここから全てが始まり、今存在する一を別の一に変えてしまう。魔術の基礎であり極み。

 衛宮から譲り受けた夫婦剣、その雌雄一対である互いに引き合う性質に少し手を加える。あくまでも、かつて使っていた『ナイト・オブ・オーダー』のように所有権を強引に奪うのではなく、衛宮の物でありながらも俺の魔力によって変化させる。

 それとともに、刃の部分が植物のように伸び、すでに元よりも倍になる。

 

「ぐっ……ゲホッ、ゲホッ!」

 

 だが、荒れ狂う泥により邪魔が入る。

 普段なら当然のようにできるが、やはり今は違うか。

 身体そのものを支配しようとする泥が、魔術回路までも侵食しようとしている。息は荒く、体の感覚が飲み込まれ、悪感が身にまとう。お陰で今にも誰かを殺したい気分だ。少しでも気を緩めれば隣にいる衛宮を殺しかねない。

 

 ——シネ。

 

 けども自身に言い聞かせろ。影だろうと抑えてみせると。

 

 ——シネ、シネ!

 

 信頼しろ。俺はそんな物に負けるほど弱くないと。

 

 ——シネ、シネ、シネ!シネ!!シネシネシネシネシネシネシネ!!!

 

 

 ……驕ってみせろ。聖杯の泥すらも利用できる者であると。

 

 

「すーー……ふうー……」

 

 剣の変質が終わった後、一つ深呼吸を置く。

 完成した、あいつを倒しうる道を作る剣が。刃は俺の身長と変わらぬものとなり、双剣としては扱いづらくほとんど太刀のような物になっている。しかし、手順自体はもう一つを踏まなければならない。

 その為に夫婦剣のうち一つ、莫耶を構える。斬撃ではなく投擲を行うものだ。

 これを投げれば、あいつに勝つまで絶え間無く動き、集中を途切らせる事なく、一瞬の隙も与えてはならない連撃を続けなければならない。

 以前に一度だけ行った模擬戦ではない。生死を賭けた紙一重すらも結果を左右させる闘い。一つ一つが意味を持ち、失敗が死に直結する。

 そして、今までは相手が出す必殺技を逆手に取りカウンターを決めてきたが、今回はできない。セイバーの宝具のような真っ正面から全てを潰すような物に、搦め手は効かないし、そもそもこんな体では無理だ。

 避けようはあるものの、衛宮がそれを対処できない。

 不安要素は他にも多くある。万全であったとしても勝てないのではないか。そもそも、この泥を暴走させずに戦えるのか。挙げればキリがない。

 大丈夫だ。俺には信じてくれる友がいる。それに応える。

 立ち止まる理由なんかない。今は前に進むだけだ。

 

「……行くぞ。」

 

 それと同時に戦闘は開始され、莫耶を矢のように一直線に飛翔させ、セイバーを狙う。

 しかし、そんな単調な一発ではセイバーの一撃により弾かれる。しかし、それが狙いだ。

 

「二撃目!」

 

 俺は莫耶の後ろを追い、彼女が剣を振りきった瞬間を狙って、本来片手で持つ干将を両手で持ち、セイバーの隙を突く。いや、そんなものは彼女にとって隙ですらない。その証拠に、すぐさま切り返しが行われる。

 それは予想の範囲内。むしろ、こんな事で驚いてはならない。俺はこれまで何度も英霊と戦ってきた。これで終わるとは思っていない。

 だから冷静に、莫耶が弾かれた方向とは反対方向に飛ばされた。

 結果、干将・莫耶はセイバーを挟むように展開される。

 そして、この変質した夫婦剣の本領を発揮すべく、体制を立て直し手に持った刀を構える。

 本来であれば互いに引き合うそれは、未だにセイバーへ再度の攻撃は行っておらず、その場に留まっている。

 

「二刀は一対、同一であり個体。違いであり同じ。」

 

 詠唱と共に体を再加速させ、セイバーに攻撃する。一歩遅れて対になるように、反対側の莫耶も同じ動きをする。

 しかし、彼女は俺の攻撃を弾き、さらには一瞬にして背後のそれも弾き返す。手に持たれている干将は飛ばされなかったものの、莫耶は再び宙を舞う。

 

「刀は共鳴し、互いに高め合う。その極地である剣技、今ここに。」

 

 それでも、俺は何度も斬撃を繋げてセイバーの手を休ませない。彼女にとって、この程度ならばなんて事ないのだろう。その証拠に俺の攻撃の合間を縫い、反撃を行っている。もちろん俺はそれを受け流したり、防御する。

 そして、攻撃を五度程防いだ時、突然振り返り()()()()()()()()()()()を叩き落とし、それは地面に深く突き刺さる。

 やはり、読まれていたか。いや直感によるものか。どちらにせよ、反撃を行わなかったのは莫耶を警戒していたからだろう。

 

「担い手は一人、斬撃は常に二つ。三連を超えた重き連撃を求めん。」

 

 しかし、今度は即座に莫耶はセイバーを襲う。しかもただ飛んできたわけではない。的確に、彼女の隙を作り出すかのように。

 それでも幾度となく防がれるが、莫耶が繰り出す攻撃の感覚は短く、そして速く、更には鋭くなる。

 俺の斬撃と合わさり、真似し、同調していく。

 鏡合わせではなく、セイバーを中心として対照になるような連撃。

 

「双つの剣は重なり、鍛え上げられし力を倍加する!」

 

 最後まで詠唱が紡がれた時、この双剣が本領を表す。

 ただ俺が干将を一度振れば、それと全く同じ事を莫耶も行う。彼女を挟み、弾かれようとも次には二の撃が襲う。

 単純に攻撃の数が倍になっただけではない。それぞれ逆の方向なので、佐々木小次郎のような同じ方向からの攻撃ではなく、別々からなので、より対処しにくい。

 けれども、今は互角。俺自身の身体能力は英霊ほどの力には届かない。事前の強化ができれば良かったのだが、泥のせいで体の感覚が曖昧なためにできなかった。

 その分、泥が俺に殺すという感覚を覚えさせ、目の前の敵をどうすれば殺せるかを教え、力を授ける。

 

 ——コロセ。

 

 ああ、相手の攻撃を相殺するさ。

 

 ——テキヲコロセ!

 

 ああ、お前の元になる聖杯を殺すさ。

 

 ——メノマエノテキヲ……!

 

 ……ああ、うるせえな。

 少しは黙りやがれ!

 

「だあああっ!」

 

 拮抗していた戦いを進める為、俺は体にまとまわりついた影を刀に集め、重い一撃を放つ。

 フェイクも何もない単純な攻撃であるはずのそれは、影により大きくそしてさらには疾き斬撃。当たれば影の触手が対象を搦めとるという性質まである。

 それを直感で感じ取ったのか、セイバーは今まで全て聖剣で防御していたのに、それは身を翻し、避けようとする。

 しかし、まだ後ろからの攻撃が残っている。垂直か水平の斬撃でない限り二つの攻撃は交差する。つまり、俺が持つ干将を避けたからといって反対の莫耶は未だ敵を捉えたままという事だ。

 だが、その莫耶は今までと同じ、聖剣で防ぐという方法で対処される。

 干将に影を纏わせても、莫耶にはそうしていないから当然だ。

 そして、戦いは次の攻防へと移行されるのだが、それは改めてセイバーがどれだけの戦士かを思い知ることになる。

 続く俺の攻撃、未だ影を纏い、防御を無意味にするそれをセイバーは()()()()()()()()避けた。

 

「っ……!」

 

 その事実に驚愕しながらも、冷静に攻撃を連続させる。

 何故セイバーがそれをできたのか。莫耶と俺が持つ干将は全く同じ動きをしているからだ。

 違う動きをさせれば良かったのだが、そうせざるを得なかった。けれども、たらればなんていう言葉は戦いにおいて邪魔でしかない。今ある手札で戦うしかないのだから。

 幸いにも全ての攻撃を避けているわけではなく、莫耶の方は聖剣で受けている。

 しかし、現状どちらも傷は負っていない。いや、そうでなければならない。相手は聖杯からの補給で多少の傷は即座に回復するため、一撃で勝負をつけなければならない。一方、俺はセイバーの一撃を食らえば、一たまりもない。

 お互い別々の理由で一撃で勝負が決まるそれは、変化が出てくる。

 

「っ……!」

「はあっ!」

 

 俺の干将を避けるセイバーの動きが、徐々に余裕を失くしているからだ。

 同時の防御で互角であるのだから、どちらかでも避ければ動きが大きくなり、押され始めるのは当然か。しかし、ここで押し切っていいのだろうか?何か誘われているような……

 

「……いや、ここで決める!」

 

 迷いを断ち切り、一歩踏み込む。

 リスクなんて冒して上等。相手が何かをしてくる上で勝ち取らなければ、負けるまでだ。

 上段からの一撃。それを繰り出す。セイバーは莫耶からそれを読み取り、体をずらし、そして莫耶による一撃を防ごうとする。それまでと同じ、そう

 

 それがフェイクでなければ。

 

 夫婦剣は互いに軌道を直角に変え、俺の持つ干将はセイバーを狙い、莫耶は空を斬ることになる。

 防御封じの攻撃を再度避けることになるセイバーは、莫耶の動きを頼りに紙一重で避けようとする、全て思惑通りに。

 未だ背中を向けたままの彼女に、俺は莫耶だけでは読みきれないある一撃を出す。

 単純なただ真っ直ぐに突き出される拳。

 これまで無闇にそれを出さず、今出した理由としては何度も出してしまえば読まれやすいからだ。さらには、そもそも剣をフェイクとして使わなければ、殴る力が入りにくい。つまり、斬撃での攻撃は捨てることになり、避けてくれなければ簡単に止められだけだ。

 

 ——取った。

 

 同格の相手ならば、誰しもがこう思うだろう。しかし、セイバーという敵は一流の英雄。ここで終わるはずがない。

 

「ふっ……!」

 

 直感なのか読みきっていたのか、()()俺の攻撃に脇腹への斬撃を入れてくる。反射では間に合わない充分な間合いに入ってしまい、カウンターを仕掛けられてしまった。

 そもそもセイバーの動きにはおかしな所が多くあった。反撃をほぼしてこなかったり、格下であろうとも敵である俺に背中を向けたり。全ては俺を最大限までに引き込んで、反応不能のカウンターを入れるためにあったのではないだろうか。

 

「バレバレだ。」

 

 だからこそ、俺はそれを予測していた。

 突き出した腕を戻し、膝と肘で剣を挟み込む。いわば、特殊な白刃取り。しかも、体から生み出される触手により聖剣は絡め取られる。それでも表情を変えないセイバーだったが、最大の得物を封じられてしまったのは相当な痛手のはず。

 

「これで……!」

 

 先はフェイクとして使った干将・莫耶、今度は相手を仕留めるためだけに振り下ろす。

 聖剣が使えないセイバーは攻撃という手段はなく、防御か回避のみ。しかし、ここまで至近距離で前後からの同時であれば、どちらも不可能だ。これで、決まる……!

 

「っ……!」

 

 はずはなかった。

 動かぬ聖剣へと集まる魔力に、俺は身の危険を感じる。何が行われるかは分からない。けれども、その場に留まるのは確実にまずい。

 かと言って、馬鹿正直に引いては駄目だ。彼女に余裕を与えてしまえば振り出しに戻る、どころか俺が単に消耗しただけになる。相手は聖杯から一定ではあるが、無限の魔力を補給されている。さらには考える間を与えさせることにもなる。ここでは止まれない。

 

盾よ(シールド)!」

 

 俺はすぐさま触手を、身長ほどの大きさになる盾に変形させ、攻撃に備える。

 その次の瞬間、盾越しに体全てへと衝撃が伝わる。セイバーの能力の一つ、魔力放出による攻撃。技術など一切無くただの力押しではあるが、先のように剣が動かない状態でも行使でき、まともに受ければ死は免れない。

 しかし、防ぎきった。相手は僅かな隙を見せ、攻撃のチャンスとなる。

 

「はあっ!」

 

 今まで両手で振るってきた干将を、次は肩腕だけで斬りあげる。もう片方の腕に影を集中させているので、防御無視なんてものはなく威力は多少落ちるが、スピードは何ら変わらずセイバーを倒すには充分

 

 だと思っていた。

 

 隙を見せたと思っていたのにも関わらず、彼女はそれを()()()()()()()()()聖剣で弾く。

 的確で最速の判断をしたと思っていた。しかし、敵にとっては平然と反応できるものでしかなかった。

 何をしても、この騎士王には勝てないのか……。

 

 いや、

 

「まだ……!」

 

 俺の動きに合わせて動く莫耶を斬ろうと、セイバーは振り返り聖剣を切り返そうとするが、

 

「捕らえよ。」

 

 足に絡みつく影が、そうはさせなかった。俺の腕から触手が伸び、地中を伝い、セイバーの足を捕捉していた。

 これで避けるのはほぼ不可能。

 セイバーの力であれば無理やり引き抜くことも可能だが、これまで以上に大きな隙を生むことになる。

 しかし、それだけでは無理だ。あと一歩、彼女を超える何かがあれば!

 

「なっ……!」

 

 突如、顔色を変えなかったセイバーがここで驚きの表情を見せる。

 俺が()()()使()()()。たったそれだけのことで。

 今まで影に覆われてから、戦闘中に魔術は使っておらず、最初に剣を変質させた一回のみだ。しかも、その時はかなり苦しげにしていたので、激しい動きの中で魔術を使うなんて事は不可能だと思っていたのだろう。

 ()()()()()()()()()()()。しかし願い、そして叶ってしまった。

 地面から突き出す二本の土柱。それぞれが狙うのはセイバーの霊核。俺自身も予想外の攻撃ではあったが、彼女は体をありえないぐらいの角度で体を反らすことにより、土柱を避ける。足が影により固定されているのを利用したからだ。

 だが、これでは莫耶の攻撃を防御も回避も不能。しかし、まだ何かが足りない。これであの騎士王を倒せるとは思わない。先程の事もあるし、実際に彼女はそれを弾こうとしている。

 足を止める触手を引きちぎり、莫耶を弾く斬撃を出そうとする。

 

 ——掛かった!

 

 それが俺の心境だ。その莫耶は斬撃ではなく、刺突による攻撃をしていた。だから、今のセイバーが繰り出そうとする斬撃では、それに触れる事はない。

 俺がそうした。けれども、それもセイバーは反応し、叩き落とそうとする。まだ足りない。俺一人では無理だ。これ以上の連続した攻撃はできない。だから、莫耶を基点とした転移を行う。しかし、俺がではなく

 

「衛宮!」

 

 今まで待たせていた友人だ。

 まさかとは思い、前に衛宮に施した陣を対象に転移をさせてみれば、他人一人分ならできるようだ。元々衛宮と協力するつもりではいたが、この結果は予想外だ。

 

「っ……!」

 

 衛宮はセイバーの斬撃を紙一重で躱し、突きの一手を出そうとする。

 

「はあっ!」

「くっ!」

 

 しかし、セイバーの再びの魔力放出により作り出された高密度で形成された魔力の霧により防がれる。

 それを破るにはもっと力が……!

 

「……性質よ………昇華せよ!」

 

 その一言で夫婦剣はより強く引き合う。俺の持つ干将、衛宮の持つ莫耶。互いが共鳴しあい、霧を突き破り、

 

「「だああああっ!!」」

 

 セイバーを打ち破る!

 

 干将・莫耶は深く突き刺さり、霊核を完全に捉える。

 

 いや、少しズレた。受ける瞬間に彼女は体をずらしたんだ。敵として本気を出されれば末恐ろしいものだ。

 

「速く、トドメを!」

 

 仕留めきれなかったからか、焦り出す衛宮。

 

「待て。お前は言ったんだろ。()()()()()()()()()って。なら、俺の詠唱を復唱しろ。」

「え……?」

 

 セイバーの体を起こし、衛宮に向ける。

 そしてすぐさま、あの言葉を紡ぐ。

 

「——告げる。」

「そうか……告げる!」

 

 再契約の詠唱。未だ令呪を持つ衛宮はマスターである。ならば、それを使ってセイバーを救う。

 

「汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に。」

「汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に!」

 

 だが、それはセイバーの契約が切れていることが前提だ。俺はその両方をやるために、彼女の影を吸収する。

 

「グッ……はあっはあっ……聖杯のよるべに従い……この意……この理に従うのなら……」

 

 徐々にまた大きくなる殺意。影の支配。

 それを押し切り、逆に制御下へと置く。

 

「聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら——」

 

 ——オイオイ、そんな頑張らなくても良いんじゃねえのか?

 

 ……うるせえって……言ってんだろ!

 俺はやることやらなきゃならねえんだ!

 

「——我に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう。」

「——我に従え!ならばこの命運、汝が剣に預けよう!!」

「セイバーの名に懸け誓いを受ける……。

 貴方を我が主として認めよう、シロウ——!」

 

 その時、真の姿を取り戻した騎士王が復活する。覇気はなく、威厳あるものではないが、青のドレスを纏ったセイバーは凛として、カリスマのある王そのものだった。

 

「……ああ、感謝します。私を敵ではなく、貴方達の味方として、この現世の最後を迎えられるようにしてくれた事を。」

「いや、俺は何もしてない。感謝は創太だけにしてくれ。」

「後味が悪くなるからな。俺としては殺したくなかっただけだ。」

 

 友人の頼みを聞いたからもあるが、そうでなくてもただセイバーを倒す、なんてのはしたくなかった。例え心が擦り切れようとも、そんな判断をしては、ここまできた意味がない。

 

「うっ……ゲホッゲホッ……!」

「……創太、さっきも思ったが大丈夫か?さっきの戦いで無茶したし、万全じゃないんだ。お前はここで休んで……」

「いや……ゲホッ……最低でもあいつに直接会うまでは休めない。セイバー、立てるか?」

「はい、なんとか。しかし、貴方は……」

「俺も……立てる。無理したとはいえ、まだ倒れるわけにはいかないんだ。

 

 再び立ち上がり、俺は奥へと進む。

 セイバーはもうすでに自身の力で立ち上がれるようだから、大丈夫だろう。

 泥が体を蝕む部分が先程までよりも一段と大きくなる、意識が朦朧としてきて、何がなんだかもわからなくなる。

 しかし、ふらふらと朧げで、風が吹けば倒れそうな足取りだという事は分かる。

 それでも、進まなければならない。

 あいつに……会うために……。

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