インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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今回は短めです。


第九話 天丼

あの代表決定戦の翌日のSHR(ショートホームルーム)にて、俺こと齊藤龍輝は空腹で倒れそうな状態にあった。理由は決まっている。前日の試合のダメージが原因で保健室に一泊したせいで、大した食事をとれなかったからだ。おまけにトレーニングもできなかったから、ストレスもたまっている。

そんな俺の不安をよそに担任の織斑千冬先生、そして巨乳眼鏡の山田真耶先生によってSHRは進められる。

 

「では、一年一組代表は織斑一夏君に決定です。あ、一つながりで縁起いいですね!」

 

山田先生の発言に、クラスの女子達が盛り上がる。すきっ腹に響くからやめてくれ。

 

「先生質問です」

「はい、織斑くん」

 

黄色い声援に包まれる中、先程名前が挙がったばかりの一夏が挙手をした。……腹減ったなぁ。

 

「俺は昨日の試合に負けたんですが、何でクラス代表になってるんでしょう?」

 

ふむ、確かに。昨日の戦績で言えば、俺ら二人に勝ってるアイツがなるべきだろう。ちなみに俺は二戦二敗(一夏戦は不戦敗)のため、ハナから話題には上がんないらしい。

 

「それは---」

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 

山田先生が説明しようとしたが、その声は横から割り込んで来た高い声にかき消された。その声の主は、先の話題のクラス代表決定戦にて、俺ら二人に勝利したイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットだ。昨日までとは打って変わって、朝からいい笑顔をしている。

 

「確かに試合自体はわたくしの勝ちでしたが、正直胸を張って誇れる勝利ではありませんでしたし……。特に龍輝さんとの試合は」

 

いやいやそれは気にし過ぎだと思うぞ。セシリアは自分のスタイルで(プロレス)を迎え撃っただけでそこに別段恥じることはないんだが。

 

「それで今一度自分を見つめなおすという意味で、クラス代表を辞退いたしましたの」

 

成程。クラス代表になる一夏にとっては不幸だが、そういう理由なら仕方ない。

 

「いやあ、セシリアわかってるね!」

「そうだよねー。せっかく男子がいるんだから、持ち上げないとねー」

 

女子達がああ言ってるが、正直俺には関係ないな。おなかすいた。

 

「そ、それでですわね」

 

なんか視線を感じるけど、気のせいだろ。

 

「龍輝さんさえよければその、一緒に訓練いたしませんか?……もちろん二人っきりで」ボソ

 

?最後らへん聞こえなかったな。でも俺と訓練してもスタイルが違うんだから勉強にならんと思うけど。

まあ断る理由もないし、たまにはスパーもやんないとな。

 

「別にいーけど」

「本当ですか⁉で、では今日の放課後早速」

「その話はあとにしろ。今はSHR中だ」

 

流石にこれ以上時間がとれないのか、織斑先生が注意した。そういえばSHRの途中だっけな。ちなみにセシリアは不満そうな顔をしながら席に着いた。

腹へったぜ。

 

――――――

 

「あ~腹へった~」

 

SHRが終わり、先生達が退出するやいなや、俺は空腹のあまり机に突っ伏した。

もう何もやる気がしない。このままチーズ蒸しパンになりたい。

 

「龍輝さん、さっきの話ですけど……大丈夫ですの?」

 

首だけを動かし声をかけられた方を向くと、チョココロネ、あいや違った。セシリアが立っていた。いかんいかん。空腹のあまり幻覚が見えてしまっている。

 

「腹減ってるだけだ、心配するな」グゥゥゥ

「そうでしたか……で、でしたら!」タタタ

 

そう言うとセシリアは、足早に自分の席に戻り、何かを取りだして俺の席の前まで戻ってきた。手に持っているものをよく見ると、どうやらバスケットのようだ。

 

「実はたまたまいつもより早く目が覚めまして……作ったのはよろしいのですが少々作りすぎてしまって」

 

中を覗いてみると、綺麗に整えられたサンドイッチがこれまた綺麗に並んでいた。個数を数えてみると、確かに女子の昼飯にしては量が少々多いか。

 

「それで、龍輝さんに召し上がっていただこうかと」

 

マジか!い、いやがっつくのは良くない。まずはもう一度確認してから。

 

「もらっていいのか?」

「もちろんですわ!」

 

天の助けとはこの事だな。これで昼までは持ちそうだ。

 

「ありがとう、頂くよ」

「お礼なんてそんな……!」

 

周りの目線が気になるが気にせず食すとしよう。端の方のサンドイッチを手に取り口に運ぶ。するとどうだろう、口にいれた瞬間、見た目通りの味が……味が……。

 

「!!?!?」

 

何だこれは⁉凄く不味い!なんとか精神力と他の筋肉を総動員して平静を保っているが、少しでも気を抜いたら戻しそうだ!

ちらと視線のみを動かし、セシリアの方を見ると、

 

「ど、どうですか?お口に合いますでしょうか……?」

 

と、不安そうに聞いてくる様子を見ると、わざとではないのだろう。決死の思いで飲み込み、無理矢理笑顔を作る。

 

「う、うまかったよ」

「本当ですか!よかったぁ……」

 

あんな顔されて不味いって言えるか!!しかし、飲み込んでしまえばあとは礼を言って席に戻ってもr

 

「まだまだたくさんありますから、いっぱい食べてくださいまし!」

 

直後、追加のバスケットが俺の机の上に積まれた。もちろん中にはあの殺人的なサンドイッチが入っている。というかいつの間に持ってきた。いくら何でも作りすぎって量じゃねえだろ!!

 

「ねえねえたっつん、流石にこの量はやばいんじゃないのー?」ボソ

 

いつの間にか俺の後ろにやってきたのほほんこと布仏本音が忠告してきた。お前ホント神出鬼没だな。

 

「気遣いはありがたい。だがなのほほん」ボソ

 

遠慮してるふりして断れば命は助かるだろう。けどそれはできない、何故なら。

 

「女子が作ったものを残すような野暮な真似はできんよ」ボソ

「……本当は?」ボソ

「逃げれるもんなら逃げてえよ!」ボソ

 

でもそんな事してみろ。中学時代の友人に殺される、嫉妬やら何やらで。

 

「どうなさいましたの?」

「い、いやなんでもない」

 

セシリアが訝しんで来た。そろそろ限界だな。

 

「骨は拾うよー」ボソ

「……頼んだ」ボソ

 

さて、いっちょ男見せますか!!

 

―――

――

 

「それでは授業を始めまーす!あれ?齊藤くんは?」

「せんせー、齊藤くんは膝の古傷が痛むとかで医務室に行きました」

(たっつん、かっこよかったよ)グッ

(龍輝さん、大丈夫かしら?後でお見舞いに行かないと!)

 

 


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