インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第十話 ある日の風景

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んでみせろ」

 

四月も下旬に差し掛かり、あと少しでゴールデンウィークというある日の訓練。今日も今日とて俺達は織斑先生の授業を受けていた。

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開に一秒とかからないぞ」

 

織斑先生にせかされて一夏とセシリアの二人がISを展開する。大変だな、あの二人。

ちなみに何故俺が呼ばれなかったかというと、届いた専用機を好みじゃないからと返却したためだ。訓練機実習はまだのため、試合で使った打鉄は使えない。専用機は改修してまた届くらしいので、武骨にしてくれと注文を付けておいた。具体的にはヴァンツァーとかATとかダイ・ガードとか。スーパーロボット混じってるぞだって?いいんだよ好きなんだから。

 

「よし、飛べ」

 

織斑先生の号令で二人が飛行を開始する。セシリアは流石と言ったところか、ぐんぐん上昇していくが、対して一夏はノロノロといった感じだ。

気持ちは分からんでもない。正直、今まで地面に足をつけて生きてきたのに、IS(あんなもの)を着けてるとはいえ空を飛ぶ感覚などわかんねーよな。ルチャとかは跳んだり跳ねたりするけど、それと全く違うし。せめてジェットスクランダーとか、何かわかりやすいものが付いていればよかったのに、イメージだけで何とかしろと言われても……。

 

「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地上から十センチだ」

 

そんなこんなを考えてると織斑先生が二人に新たな指令を出した。真っ先にセシリアが下りてきて、指令通りキレーに止まった。少し遅れて一夏も降りて……いや降ってきた。当然止まれるわけもなく、加速したまま地面に激突したため、地面にはでっかいクレーターができた。やっちゃたな、アイツ。

 

「馬鹿者。誰が地面に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

「……すみません」

 

謝りつつも姿勢制御して起き上がる一夏。クレーターの規模に反して平気そうだな、バリアのおかげか。

 

「何か考えことですか?」

 

む。セシリアお前、いつの間に近くに来たんだ?

 

「大したことじゃない。気にすんな」

「そう言わずに教えてくださいな」

 

やけに食い下がるな。本当に大したことないんだけど。

 

「いやなに、ISって頑丈だなって思っただけだ」

「それはそうですわ。元々宇宙開発用に造られたんですもの」

 

そういえば、授業でそんなこと言ってた気がする。確かに宇宙で活動すんなら頑丈じゃないといけないよな。デブリでシャトルやステーションが穴だらけになった、なんて話聞くし。

 

「いつまで話している。次は武装の展開だ、さっさと準備をしろ」

「は、はい!では龍輝さん、また後で」

「頑張れよー」

 

ハートマn……織斑先生に呼ばれて戻っていくセシリアに軽いエールを送る。なんか浮かれてるっぽいけど、大丈夫か?

次は武装の展開か。生憎俺は武装(凶器)を使わないから、見ても意味がないか。

最初に一夏、次にセシリアの順でやってたが、案の定二人ともダメ出しをされていた。特にセシリアは先日の試合の事もあり、念入りにダメだしされていた。合掌。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

一夏の奴、ほんと災難だな。俺まで巻き込まれたらメンドイし、さっさと教室に戻るか。

 

 

「というわけでっ!織斑くんクラス代表おめでとう!」

「おめでと~!」

 

ぱん、ぱんぱーん。クラッカーが乱射され、中心にいた一夏の頭に紙テープが降り注いだ。

なぜこんな状況になっているか。誰かが夕食後の自由時間にクラス代表就任パーティーをやろうと言いだしたからだ。

一組の他のメンバーは楽しいだろうが、祝われてる本人はちっとも楽しくないという顔をしている。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

「ほんとほんと」

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

「ほんとほんと」

 

ちなみに参加メンバーの中には他の組の女子も混じっている。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生にインタビューをしに来ました~!」

 

来訪者にオーと盛り上がる一同。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

簡単な挨拶と共に、薫子と名乗った新聞部の女子は名刺を一夏に渡した。一夏は未だ軽く困惑しているが。

 

「ではではズバリ織斑くん!クラス代表になった感想をどうぞ!」

「えーと……なんというか、がんばります」

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~俺に触るとヤケドするぜ、とか!」

 

戸惑いつつも捻り出した一夏のコメントにダメ出しする薫子。

 

「まあ、適当にねつ造しておくわ。ああそうだ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」

 

今度はセシリアに振る薫子。急に振られたセシリアは「仕方ないですわね」と不満げなことを口にしながらも、満更ではない顔をしていた。

 

「コホン。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかというと―――」

「あやっぱ長そうだからいいや」

 

新聞部の勘か、長いうえに面倒そうだなと感じたのかセシリアのコメントは序盤で切り上げられた。切り上げられたセシリアは怒り心頭といった様子。

 

「さ、最後まで聞きなさい!」

「いーよ別に織斑くんに惚れたってことにしとくから」

「は?」

 

薫子のマスゴミ的な発言に思わずセシリアの顔に青筋が浮かぶ。巻き込まれた形の一夏が「それはセシリアに失礼だろ」とフォローに入ると、

 

「ほんと、検討違いも甚だしいですわ」

 

と真顔で肯定した。その声は普段のセシリアからは想像できないほど低く、威圧感を覚えるくらいだ。

 

「わ、分かったわよ……。ところで斎藤くんは?齊藤くんにもコメントもらいたいんだけど」

「龍輝ですか?アイツなら……」

 

一夏が指さした方向を見ると、

 

「あっちでずっと飯食ってますよ」

 

我関せずとばかりに黙々と食事をしている龍輝の姿が。

 

 

「あん?ひゅはい(取材)?」モゴモゴ

「あ、はい、そうです。織斑くんのクラス代表就任について一言お願いします」

 

人が気持ちよく食ってる時に無粋な奴だ。でも師匠から取材を受けたら断るなって言われてるしな。

 

「ムグムグ……ゴクン。頑張れ、以上。……モキュモキュ」

「いやあの、もう少し何か……」

「たっつんのおいしそー。一口ちょーだい」アーン

 

飯の匂いを嗅ぎつけてのほほんがやってきた。ついネコかなんかみたいに言ってしまったが、実際そんなイメージだしな。

ちなみに今俺が食ってるのは照り焼きチキンだ。

 

「いいぞー、ほれ」ヒョイ

「モキュモキュ……んー♪おいしー♪」

 

それは僥倖。ここの照り焼きチキンは本当に美味いからな。

 

「あ、あーん……だと……!?」

「あんな自然に……のほほんさん、恐ろしい子……!?」

「わたくしだってまだですのに……!」

「しまった!?シャッターチャンスだったのに!」

 

他のおすすめとしてはエビフライとかさばの味噌煮とかだな。

 

「お返しにこれあげるー。はい、あーん」

「サンキュ」パ「パシャ」ク

 

お返しにポッキー的な菓子をもらった。飯の最中に食う菓子も乙なものだな。

 

「なん……だと……!?」

「そのままの流れでお返しあーん……!?」

「おっしゃ!今度は撮れた!」

 

?何をみんな騒いでんだ。おっと、早く食わないと冷めちまうな。

 

「龍輝さん!」

 

ビックリした。いや、いつの間にかセシリアが隣に来ていたのもそうだが、この近距離であんな大きな声出されれば誰だってビックリする。

 

「こちらの料理もおいしいですわよ。はい、あーんですわ」

 

と言いながらフォークに刺した料理を差し出してきた。圧力が凄い、コワイ。

 

「あ、あーん……モキュモキュ……確かに美味いな」

 

と答えると、何やら小さい声で呟きながらガッツポーズの様なものをしていた。いやお前が作ったわけではないだろう。

 

「ほらお返し」

「ふぇっ!?」

 

さっきのほほんに食わせた時にはお返しされたんだから、俺も食わせてもらったらお返ししないとな。

 

「よ、よろしいのですか?」

「いいぞ。ほら、け」

 

早く食わないと汁垂れんぞ。つい方言で言っちゃったけど、伝わってるかな?

 

「で、では頂きますわ……!」

 

よかった、伝わってたか。つーか妙に気合入ってんな。

 

「ハム……モキュモキュ……!」

 

こうしてみると、ほんとキレイな顔してんよな。飯食ってても絵になるような……何考えてんだ、俺。

 

「美味いか?」

「ゴクン……はい!とっても美味しいですわ!」

「そうか、よかった」ニッ

 

自分の好物を美味しいと言ってもらえるのはやっぱ嬉しいな。……セシリアの顔が赤いような気がするが、気のせいか。

 

「セシリアだいた~ん」

「のほほんさんに触発されたか」

「またいい絵が撮れたよー」

「龍輝の奴、隅に置けないな」ウンウン

 

また周囲がざわめきだしたな。おっと、もう食い終わってしまった。さっきレンジに放り込んでおいたカレーがもうすぐ温まるから、ちょうどいいっちゃちょうどいいか。

 

「すみません、さっきの写真は当然いただけますわよね?」

「も、もちろん。だからそんな怖い顔しないで……」

 

向こうではセシリアが新聞部の先輩と何やら交渉してるが、特段気にする必要ないか。「チーン」お、温まった。

 

「じゃあ次は三人で並んでくれる?スリーショット撮るから」

 

モグモグ……前師匠の家で食ったカレーは牛筋だっけな。また食いてぇなあ。

 

「注目の専用機持ちと話題のプロレスラーだからねー。ほら齊藤くんもこっち来て……ってカレー食べてる!?」

 

……え?俺も?

 

「今食ってるんすけど」

「いいから来て!これ撮ったらあとは食べてていいから!」グイグイ

 

新聞部の先輩は俺の腕を強引に引っ張り無理矢理一夏の横に並ばせる。カレー持ったままなんだけど。

 

「モグモグ……?なんだ?」

「べ、別に、何でもありませんわ」

 

こっち見てくるからカレーでも食いたいのかと思ったが、違ったか。ちなみに立ち位置としては一夏をはさんで正面から右に俺、左にセシリアとなっている。

 

「はい撮るよー。27の2乗の2乗は?齊藤くん少しの辛抱だからカレー食べる手止めて」

「え?えっと……え?」

 

一夏がものすごい戸惑ってる。一夏じゃなくても分かるかんなもん。……カレー美味い。

 

「正解は531,441でしたー」

「のわ!?」

 

何だ!?いきなり背中に何か!?

 

「何で全員入ってるんだ?」

 

シャッターが切られた後、首だけを動かし後ろを見ると、のほほんがくっついていた。さっきの背中への衝撃はのほほんが飛びついたせいか。おまけに周りを見ると他の女子達が周りに集まっていた。どうやらシャッターが切られた瞬間入ってきたらしい。すげえ行動力だな。

 

「まーまーまー」

「クラスの思い出になっていいじゃん」

「ねー」

 

口々に丸め込むようなことを言う女子達。

そんな事より……。

 

「いきなり飛びつくなよ。こぼしたらどうする」

「ごめーん」テヘ

 

なんかほんとにでっかい猫に見えてきた。

 

 

「フン……!フン……!」

 

ガシャン

 

「フゥ……」

 

バーベルをフックにかけ、上体を起こして汗を拭く。やっぱベンチはきついな。

 

「さて……と」

 

小休止の後、再度ベンチに横になり、バーベルを上げる。

あの後、カレーを食い終わった俺は周りの女子達の様子を見て、このままだと遅くまで続くなと思い、それまでに食べた皿を全部片し、一人先に部屋に戻ってトレーニングを開始した。

正直騒がしいのは好きじゃないし、この方が落ち着く。

 

「オ……ラァ……!!」ガシャン

 

セットを重ねるごとにきつくなってくるな。胸筋が張ってるぜ。

 

ガチャ

 

横になったまま息をついていると部屋のドアが開いた。

 

「やっぱり先に戻ってましたのね」

「……ああ」

 

入り口に立っていたのはこの部屋のもう一人の住人のセシリアだ。セシリアは部屋の中を通り、自分のベッドに腰かけた。

 

「もうパーティーは終わったのか?」

「いえ、先に抜けてきたのですわ」

 

何でだ?別に抜けてくる理由もないだろうに。

 

「まあいいか。俺はもう少しトレーニングするから少しうるさいと思うけど、勘弁してくれ」

 

そう告げてトレーニングを再開する。ベンチプレスをしてる俺を、セシリアはじっと見ていた。何かやりずらいな。

 

「何か用か?」

 

セットが終わったと同時に尋ねる。こう見られては集中できん。

 

「い、いえその……」

「?」

 

何故か言いよどんで顔をそらした。言いにくい事なのか?

暫くして少し言いづらそうにしながらも、セシリアは答えた。

 

「わたくしも、一緒にトレーニングしてもよろしいでしょうか……?」

「……」

 

……いや、正直びっくりした。まさかそんな言葉が出てくるとは。当の本人はお肉がどーとか体力がどーとか言ってるけど、なんか言い訳っぽい。

 

「えっと、ダメ……ですか……?」

 

いやちょっと待ってそんな顔で見ないで申し訳なさげな顔で上目遣いは反則だろおい。

 

「い、いや別に構わないけど……キツイぞ?」

「覚悟の上ですわ!」

 

まいったな、これで断ったら俺が悪いみたいじゃねえか。

 

「……分かった。じゃあ俺外出てるから動きやすい服に着替えな」

「はい!ありがとうございますわ!」

 

「礼はいいよー」と答えつつ部屋を出て着替え終わるのを待つ。まあ俺もトレーニングパートナー欲しかったけど、まさかセシリアがねえ。

 

「着替えましたわー」

 

どうやら終わったらしい。ちゃんと聞き終えてから部屋に入る、スケベハプニングはごめんだからな。…………おお。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

いやいや言葉を失った。セシリアが来ていたのは何時も授業で着るようなISスーツではなく、陸上選手が着てるみたいなトレーニング着だったのだから。

 

「龍輝さん?」

「――――――あ、ああ。よく似合ってる、と思う」

 

不安そうな目で見てきたから咄嗟に答えたが、胸を撫で下ろしていたので問題ないだろう。

正直目を奪われた。でもしょうがないだろう。スポブラの様なトレーニングシャツは、セシリアの主張の激しい山を強調し、トレーニングパンツからはスラッとした脚が太ももの付け根から露にされていた。見慣れたISスーツではこうはいかなかっただろう。下手したらISスーツより露出が多いかもしれない。

 

(まさかここまで破壊力が高いとは……!恐るべし……!)

 

何が恐ろしいのかは言わないでおこう。

頭を軽く振って煩悩を振り払い、頭を切り替える。

 

「じゃ、じゃあまずはコンディショントレーニングから始めよう」

「はい!」

 

まさかこんな展開になるとはな。まあでも……。

 

「よろしくお願いしますわ、龍輝さん♪」

「……おう!」

 

悪い気はしないかな?

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