インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第十一話 乱入者!その名は……

一睡もできなかった。

状況がよく分からないだろうから説明しよう。実は昨日の夜、同室のセシリアとトレーニングしたのだが(俺はほぼ終わりだったので実質セシリアへの指導だけ)、その光景がやばかった。

想像してみてくれ、スタイルのいいパツキン美少女がトレーニングしてる姿を。揺れる胸、漏れる吐息、玉の肌を汗が伝い、顔は熱気をもち上気している姿を。

よろけて抱きついてきたときは終わったと思ったが、幸いバレずにすんだ。しかし同室ということで処理することもできず、セシリアの姿が目に焼き付いたせいで一睡もできず朝を迎えることになった。

 

「ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

そんなひどい状態の俺をよそに、クラス内では女子達がトークに花を咲かせている。何で女子ってこんな元気なんだろうな。

 

「転校生?今の時期に?」

 

と疑問を口にしたのは織斑一夏。お前も女子と相部屋なのに何でそんな元気なんだよ……。

でも確かに時期が変だよな。ま、どうでもいいか。それより眠い。

 

「何でも中国の代表候補生なんだってさ」

「ふーん」

 

へー。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

 

イギリス代表候補生且つ俺のルームメイトで、寝不足の原因でもあるセシリアが開口一番、いつものポーズをしながらそんなことを言って来た。なんかポーズがぎこちないけど、筋肉痛だろうか?そこまできつい内容じゃなかったはずだが。

 

「龍輝さんはどう思われますか?」

 

こっちに振らないでくれ。眠いんだから。

 

「何が……?」

「中国の代表候補生についてですわ」

「ああ……どうでもいいわ……」

 

そんな事より今は一秒でも寝ていたい。

 

「どうでもいいって……気になりませんの?」

「ん~……代表候補ってことは、そいつも専用機とか持ってんの?」

 

とりあえず適当な疑問を上げて、さっさと会話を切り上げよう。このままじゃ授業中に寝てしまう。

 

「当然持っていますわ。どのような機体かはわかりませんが」

 

へーそうなのかー。じゃあこの話は終わり、ハイ寝よう。

 

「そういえば、二組の代表がその転校生になったって話だよー」

 

まさかの増援、のほほんこと布仏本音。いやほんと勘弁して、お願いだからそういった話はそこの一夏君と周りの女子達とやって百円あげるから!

 

「みんなは専用機持ちは一組と四組だけだから楽勝って言ってるけど、わからなくなったねー」

 

確かに周りの話し声に耳を傾けてると、みんなのほほんが言ってた通り楽観的な会話してんな。

 

「―――その情報、古いよ」

 

教室の入り口からなんかカッコつけてるような声が聞こえた。そっちの方をちらと見るとツインテのちっさい女子が立っていた。もうこれ以上面倒ごとは勘弁してくれ。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

その女子の言葉により、さっきののほほんの予想が肯定された。やはりそう簡単にはいかないよな。

 

「鈴……?お前、鈴か?」

 

え、何知り合い?

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

あっそ。もう用は終わっただろ、早く自分のクラスに帰ってくれ。そして俺を寝かせてくれ。

 

「何格好付けてるんだ?すげえ似合わないぞ」

「んなっ……!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

頼むからもうこれ以上話を掘り下げないでくれあんパン奢るから!

 

「おい」

「なによ!?」

 

バシンッ!

 

……ああ。俺の安息の時間が全く安息することなく終わった。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「す、すみません」

 

ダメだ、瞼を開けられない。このままじゃ出席簿の餌食に。

 

「またあとで来るからね!逃げないでよ、一夏」

 

捨て台詞を吐いて自分の教室、二組に戻っていくツインテ。それを見計らって女子達が一夏に群がるが、ことごとくが出席簿の餌食となった。無論俺も……。

 

(不幸だ……)

 

 

時は流れて昼休み。ついにこの時間がやって来た。正直授業中眠くてしょうがなかったが、この時間になれば寝ようが何しようが自由だ。

 

「たっつんお昼ごはん行こー」

 

……まあ、飯は食わんとな。入学してから1kgしか増えてないし。

 

「わたくしもご一緒しますわ!」

 

……賑やかなのは嫌いじゃないけどな。

 

―――

――

 

「ご飯特盛で」

「あいよっ!」

 

いつもの事ながら活気があっていいなIS学園(ここ)の学食は。腹が減ってくるな。さっき注文を受け取ったおばちゃんも気風のいい人で、俺が注文をすると少し多めに盛ってくれる、いい人だ。

なんでも利用する生徒がほぼほぼ女子生徒なこともあって、俺みたいに大量に食べてくれるのは嬉しいんだとか。

 

「はい、照り焼きチキン定食ご飯特盛お待ちっ!」

「ありがとうございます」

 

今回の昼食一発目はこれだ。う~んいい匂いだ、冷めないうちに食うとしよう。先に席を確保しといたから、楽でいいや。

 

「たっつんそれ好きだよねー」

「まあ、鶏肉は筋肉になりやすいからな」

 

のほほんが俺のお盆を覗き込んできた。つーかのほほん、お前のそれ昼飯か?量が少なすぎる気がするが、おやつと間違えてないか?

 

「たっつん基準で考えられても困るよー」

 

心を読むな。

 

「お待たせしましたわ」パタパタ

 

お、来たか。なんかいつもより決めるのに時間かかってたけど。

 

「ん。セシリアいつもより多めじゃないか?」

 

心なしか、のほほんのに比べて多いような。比べる基準がおかしいか。

 

「今日は何故かいつもよりおなかが空いてしまって、はしたないとは思ったのですが」

「そうか?俺は好きだけどな。いっぱい食べるのはいい事だし」

 

昨日のトレーニングが効いてんだろうな。それに朝もいつもと同じ量しか食ってなかったんだし、腹減んのは当然だからはしたないもくそもないだろう。

 

「す、好きだなんてそんな……!」

「たっつんもう少し考えて発言しようよー」

 

?何故だ。変なこと言ったわけでもないのに。

 

「おーい龍輝ー!」

 

呼ばれた方を見ると、一夏がポニテとツインテを連れた状態でこっちに歩み寄ってきた。気付いてるかお前。後ろの二人、凄い顔してるぞ。

 

「どうした?」

「悪いんだけどさ、席一緒させてもらってもいいか?空いてたらでいいんだけど」

 

ふうむ、確かにテーブル席だから何人分か空いてるが、後ろの二人が怖い。

まあ友人の頼みだ、聞いてやらねば男が廃る。金銭関係は除くがな。

 

「いいぞ。二人もいいよな?」

「龍輝さんがよろしいなら、わたくしは構いませんわ」

「わたしもいいよー。賑やかな方が楽しいしー」

 

じゃあ決まりだな。あと後ろ二人、あんまり睨むな。怖いから。

 

「向こうのテーブルをとってあるから、冷めないうちにいこうぜ」

「悪いな」

「いいってことよ」

 

ゾロゾロ

 

……何か他の女子たちもついてきてるけど、流石に座りきれないからな。

 

 

―――

――

 

「へー、幼馴染みだったのか」モキュモキュ

「そ。小四の終わりに箒が引っ越して、それと入れ違いで鈴が転校してきたんだ」

 

なるへそ。だからあんな仲良かったのか。幼馴染みか……嫌な思い出しかないな。

 

「んで中二の終わりに国へ帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」

 

なら積もる話もあるだろうに、俺達と相席してていいのか?

 

「ねえ一夏、もしかしてコイツが……?」

 

まだ挨拶してないが、向こうは知ってるみたいだな。まあ学園に二人しかいない男子、知らない方がおかしいか。モキュモキュ。一応こちらから挨拶しとこ。

 

「ゴクン……俺は齊藤龍輝。まあ、見ての通りの人間だ」

「あたしは凰鈴音。噂は聞いてるわよ、一組にプロレスラーがいるって」

「まだプロじゃないけどな」

 

この訂正何回目だ?めんどくさくて数えてねーや。

 

「たっつん人気者ー」

 

茶化すなのほほん。お前はいつの間にかとってきたパフェでも食べてなさい。

 

「すでに転校生の耳に届いてるなんて、流石龍輝さんですわ!」

「……あんた誰?」

 

……うわぁ。

 

「なっ!!わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存じないの?」

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

 

……セシリア、お前何と言うか、色々残念だな。今度何か奢ってやるかな。

なんかめんどくさくなりそうだから先に定食のおかわりを取ってこよう。

喧騒を背景にお盆を片して、券売機の前まで行く。さて次は何にしようか。さっきは鳥だったから、うん、生姜焼きにしよう。

 

「ご飯特盛で」

「あいよっ!少し待っててね」

 

しかし凰とかいう奴、何か気の強そうな感じだったな。ああいうタイプは嫌いじゃないが、少々騒がしいかな。

 

「はいお待ちっ!生姜焼き定食ご飯特盛」

「ありがとうございます」

 

さて席に戻ろう。……まだ喧嘩してるよ。相手はセシリアじゃなくてポニテだけど。

 

「ただいま」

「おかえり龍輝」

 

よっしゃ食うぞー。……のほほんお前パフェ食ってるだろ?だからあんまし覗き込むな食いづらい。

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

 

やっぱ生姜焼きはご飯進むなー。……分かったのほほん一口やるから裾引っ張らんでくれ食いづらい。

 

「ほら、口開けろ」ヒョイ

「あーん♪」パク

 

パフェ食ってる時に食って味とか大丈夫なのか?

 

「あの、龍輝さん。わたくしにも一口頂けないでしょうか?」

「おういいぞ。ほい」ヒョイ

「あ、あーん」パク///

 

二人とも美味そうに食うなー。モキュモキュ……おかわり取ってくるか。

 

「じゃあ次の取ってくるわ」

「おう。分かった」

 

流石に三食目となると食券機の周りもすいてきてるな。さて、次は何にしようか。とんかつ定食もいいが、ここは唐揚げ定食にしよう。

 

「お願いしまーす」

「はい、唐揚げ定食特盛一丁!」

 

威勢のいい掛け声をBGMにしばし待つ。こういう掛け声は聞いてて気持ちいいよな。

 

「唐揚げ定食特盛お待ちっ!サービスしといたよ」

「ありがとうございます!」

 

ホントいい人だ。今度お礼しないとな。

少しルンルン気分で席に戻ったはいいが、まだキャンキャン騒いでるよあの二人。いい加減落ち着け。

 

「ただいま」

「おかえりなさい龍輝さん。あの、少々よろしいでしょうか?」

「んぅ、何だ?」

「今日の放課後なのですが、よければ一緒にISの訓練をしませんか?」

 

ん~。放課後は技術の復習をやりたかったが……まあ、折角の誘いを断るのもあれだな。でも問題がなあ……。

 

「俺打鉄の使用許可取ってないぞ」モキュモキュ

「それなら大丈夫ですわ。今朝のうちにわたくしが取っておきましたから」

 

そんな簡単に許可っておりるもんなの?まあ気にしたら負けか。

 

「じゃあいいぞ。よろしくな」モキュモキュ

「はい!こちらこそよろしくお願いしますわ!」

 

まあこの先授業やらなんやらで必要となるし、一人で技術練習してもできるのなんてたかが知れてるしな。ちょうどいいっちゃちょうどいいのかな。

 

「てかあんた!どんだけ食うのよ!なんでみんなスルーなの?!」

「「「「もう慣れ(た)(ましたわ)(たよー)」」」」

 

モグモグ……いやー、ご飯が美味いって幸せだなー。


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