インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第十三話 クラス代表戦

五月。ゴールデンウィークも過ぎ、夏の足音が聞こえそうな今日この頃。俺は第二アリーナのピットに来ていた。

そう、今日はあのクラス対抗戦の試合当日。級友である織斑一夏の晴れ舞台である。初の男性操縦者が出場するとあってアリーナは全席満室、リアルタイムで放送もされてるらしい。

 

「一回戦からあの中国娘と試合とはなぁ」

 

運がいいのか悪いのか。聞いた話じゃ、喧嘩していたみたいだし。

中国娘こと凰鈴音の駆るISは見た感じ近接型みたいだ。名前は『甲龍(シェンロン)』。ガンダムからとったのかな?

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

アナウンスに促されて空中に浮かんだままにらみ合う二人。何か会話してるみたいだけど、ここからじゃわからんな。

 

『試合を開始してください』

 

ブザーが鳴り響き、戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

「始まったな」

「龍輝さんはこの試合どう見ますか?」

 

と訊いてきたのはいつの間にか俺の隣に立っているセシリアだ。すっかりこの立ち位置がデフォになってるような気がする。

 

「経験で言ったら向こうだろうな。でも一夏も特訓していたみたいだし、案外いい試合すんじゃないか」

 

実際アリーナでは二人の剣戟がぶつかり合っている。見てる感じとしてはいいんじゃないかと思うが。

二人はしばらく打ち合っていたが、一夏が距離を取ろうとした瞬間甲龍の方アーマーがパカッと開き、光ったと思うと一夏が吹っ飛ばされていた。

 

「何だ?何が起こった」

「『衝撃砲』……空間に圧力をかけて砲身を生成し、余剰で生じる衝撃自体を撃ち出す―――ブルーティアーズと同じ、第三世代型兵器ですわ」

 

成程。要するに、

 

「ドラえもんの空気砲と同じか」

「あれはもっと危険ですわ。砲身斜角はほぼ無制限なうえ、砲弾どころか砲身すら見えないんですもの」

 

そりゃやばいな。あ、また吹っ飛ばされた。見えないんじゃ対処のしようがないし、うまく動いて照準を絞らせないようにするしかないんじゃ。

 

「いや、まだ奥の手が残っている」

 

俺の様子を見てか、少し離れて試合を見ていた一夏の幼馴染の篠ノ之が呟くように言った。

 

「奥の手?」

「『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』で接近さえできれば、あとは――――――」

 

と言ってる間に一夏が凰に向かって加速、接近しようと体勢を――――――

 

 

ズドオオオオンッ!!!

 

 

「な、何ですの?!」

 

地震か?!この揺れだと震度5くらいか?

 

「そんな訳あるか!モニターを見ろ!」

 

篠ノ之に怒られた……。お前も心読めるのか。

言われた通りモニターを見ると、映っているISが一機増えてる。どっちかが影分身でもした?

 

「ふざけてるのか?あのISが乱入してきたんだっ!!」

 

ごめんなさい……。

よし、今から真面目モードだ。

 

「乱入してくるとは、とんでもない奴だ」

 

まあでも二対一だし、二人がAAのあのレイヴン達みたいに協力すれば何とかなるだろう。AAではやられてたけどな。

 

「織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧しに行きます!」

 

何やら山田先生が慌てた様子でアリーナの二人に呼び掛けてるけど。

 

「なにを慌ててんだ?」

「馬鹿かお前は!?この状況が分かってないのか!?」

「でも二対一だぞ?」

「あのISは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

ああそっか。アリーナの遮断シールドは結構強固に作られてるらしいから、それを破ってきたってことはかなり危険って事かそうかそうか……。

 

「……ってそれヤベえだろ!?」

「今更かっ!!」

 

今更だ。

ええいクソ、こうしちゃいられねえ!

 

「どこへ行く?」

「決まってますよ、助けに行くんスよッ!」

 

行こうと思った瞬間に織斑先生が声をかけるもんだから少しずっこけちゃったじゃないか。

 

「その気合は買うが、―――これを見ろ」

 

と言って叩かれた端末からなんかの情報が表示されるけど、なんなのかさっぱりわからん。

 

「これは……!あのISの仕業ですの!?」

「遮断シールドがレベル4に設定……?つまり、どういうことだ?」

「救援に向かえんということだ」

 

マジかよ。

 

「だ、だったら!緊急事態として政府に助成を―――」

「やっている。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる」

 

篠ノ之が出した案も、遮断シールドを何とかしない事には期待できそうにないか。

 

「見てるしかできないのかよ……!」

「何、どちらにしてもお前は突入隊に入れないから安心しろ」

「な、何でっすか!?」

「お前のIS、最適化(フィッティング)すら終わってないだろ」

「ぅぐっ?!」

「それに武装の類が一切なく、出来ることと言えばプロレスの真似事のみ。これでは話にもならんぞ」

 

クソ、反論できねぇ。遮断シールドさえなけりゃあ無視していけんのによぉ……。どうにかしてアリーナに入るには――――――

 

「ええいクソ!考えたってしゃーない!」ダッ

「龍輝さん!?」

 

ダッシュしてピットの出口に向かう。制止する声が聞こえるが、んなもん知らん。

―――到着はしたが、成程。織斑先生の言った通りシールドが張ってあるな。

 

「来い!フロスト!」

 

意識を集中してISを展開。訓練のおかげか、今では八秒で呼べるようになった。

 

『齊藤。貴様何をする気だ』

「いやいや、ちょっとお手伝いをね」

 

織斑先生が呼び掛けてくるが、生憎俺は頭が悪くてな。これ以外考えつかん。

拳を思いっきり振りかぶって―――

 

「どっっっせえええええいっ!!」

 

ズゴン

 

シールドを思いっきりぶん殴る!!

 

「チッ!やはり一発じゃ開かんか。なら何度でもぶん殴るまでだ!」

 

ガゴン ドゴン バゴン

 

全然開かねえな。だったらもっと殴れば―――

 

『無駄だ齊藤。貴様のISで遮断シールドは破れん』

 

……確かに、織斑先生の言う通りかもしれん。殴るたびに拳がぼろくなってる気がするし。

 

「……誰が決めたんすか」

『何?』

 

それでも、殴る手は止めねえ。止めてやらねえ。

 

「あのISに出来て、俺に出来ないって誰が決めたんすか!?」

『……』

 

ここで引いたら、ここで諦めたら、俺の路が無くなっちまう。友達も助けらんねえで、何がプロレスラーだ!

 

「覚えといてください織斑先生、プロレスラーは―――」

 

ボロボロになってきた右の拳に一層力を込め、弓を引くように引き絞って――――――

 

 

 

 

 

 

 

「強いんだよっっっ!!!」

 

バゴオオォォン!!

 

振り抜いた先には、でっかい穴が開いていた。

 

『『嘘……』』

『ほお……』

 

へ、へへへ。

 

「見たか!プロレスラーに不可能は無え!!」

 

代わりに拳がぶっ壊れたけどな。

何はともあれ障害は消えた。一夏、凰、今行くぜ!!

 

 

「一夏、大丈夫?」

「何とかな……」

 

決め手を与えられえないまま結構な時間が経った。当たると思った斬撃もするりと躱され、鈴の衝撃砲も効果が薄い。

やばいな。シールドエネルギーの残量が60を切っている。バリア―無効化攻撃を出せるのはあと一回ってとこか。

 

「……鈴、あとエネルギーはどれくらい残ってる?」

「180ってところね」

 

だいぶ削られてはいるが、俺よりはマシだ。というか、俺の《雪片弐型》の仕様がやはりきつすぎる。

 

「―――で、どうすんの?現在の火力でアイツのシールドを突破して機能停止(ダウン)させるのは厳しいわよ」

「逃げたけりゃ逃げてもいいぜ」

「なっ!?馬鹿にしないでくれる!?あたしはこれでも代表候補生よ。それが尻尾を巻いて退散なんて、笑い話にもならないわ」

 

変にプライド高いよなあ。

 

「そうか。じゃあ、お前の背中くらいは守って見せる」

「え?あ。う、うん……。ありが「うおおおおおおおお!!」―――え?」

「ん?」

 

今何か、聞き覚えのある声がしたような―――

 

「よくも俺のダチをやりやがったなキィィィィック!」ズガン

 

……ええ!?い、今あのISにミサイルキックをぶちかましたのはもしかして……いや、もしかしなくともアイツは、

 

「た、龍輝?!」

「待たせたな!二人とも」

「あんた何で!?遮断シールドはどうしたのよ!?」

「ぶん殴ったら壊れた」

 

ぶん殴ったって……は、ははは。やっぱスゲーな、アイツ。

龍輝は蹴った反動でそのまま飛び、ちょうど俺達の下あたりに着地した

 

「あ、アンタねえ―――」

「鈴、話すのはあとだ」

「チッ、やっぱアレだけじゃ倒れんか」

 

あのIS、龍輝に蹴っ飛ばされたのにもう復活してる。

ん?なんかおかしいな。

 

「なあ鈴、龍輝。あいつの動き機械染みてないか?」

「ISは機械よ」

「何言ってんだ、お前」

 

急に二人の目線が凄い冷ややかになった。いや違うんだよ。

 

「そう言うんじゃなくてだな。えーと……あれって本当に人が乗ってるのか?」

「は?人が乗らなきゃISは動かな―――」

 

とそこまで言って鈴の言葉が止まる。龍輝も俺の言いたいことを理解したのか、ジッとあのISを見据えている。

 

「……無人機ってことか」

「そんなのはあり得ない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものだもの」

 

龍輝が言った答えを、鈴がすぐさま否定する。確かにそれは俺も教科書で読んだけど、今の最先端技術で出来ないかどうかまでは分からない筈だ。

 

「仮に、仮にだ。無人機だとしたらどうだ?」

「なに?無人機なら勝てるっていうの?」

「ああ。人が乗っていないなら容赦なく「思いっきりぶん投げる」全力で……え?」

 

気付いた時には、龍輝はあいつに向かって走り出していた。

 

「AIだか何だか知らねえが、倒れるまでぶん殴ってぶん投げりゃいいんだろ!!」

 

……えぇ……。

 

「あいつ、アホね」

 

ちょっと同意してしまった。


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