インフィニット・レスリング   作:D-ケンタ

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第十四話 やらせるか!

「うぐぅっ!?」

 

やべえ、思いっきりカウンターをもらっちまった。

 

「大丈夫か?」

「ふん!こんなの屁でもねえ!」

 

一夏が心配してきたが、そんなのは無用だ。レスラーがあの程度でやられるか。

 

「今度はこっちの番だオラァ!!」

 

とりあえず、接近しなけりゃ話にならん。

再度突っ込んで袈裟斬りチョップを放つが、これは相手に当たることなく空を切る。だが―――

 

「織り込み済みだ馬鹿野郎っ!!」ガッ

 

手応えあり!

チョップを振り抜いた勢いそのままに胴廻し回転蹴りだ!さすがにこれは躱せなかったみたいだな。

まあ、大して効いてねえみたいだけどな。あのタイミングで喰らったら普通はダウンするのに。この無人機野郎、ダウンどころか反撃しようとしてやがる。

 

「おもしれえ!オラ来い!!」

 

このタイミングだ!

 

「オラァ!!」パン ドゴオ

 

左のパンチを打ってきたのを捌き、そのままカウンターでサイドキックを叩き込む。もちろん衝撃がそのまま相手に伝わるように、捌いた時に腕をつかんでいる。

 

「どっせえええええい!!!」ドゴオ

 

そのままの流れで右腕をがら空きの左脇に差してアンダーフックの体勢を取り、思いっきり膝をぶちかます。

 

「オラ!オラ!オラ!」ゴッ ゴッ ゴッ

 

二発、三発、四発と次々に膝を突き刺す。右手が壊れてるため首相撲はできないが、アンダーフックでも相手を拘束するには十分。実際師匠はMMAの試合でこの戦法をよく使ってたし、俺もユースの試合で使わせてもらってた。

 

「フン!」ガシッ

 

膝蹴りで下がった相手の頭を振り右脇で抱える。

 

「おっしゃ行くぞっ!!」

 

左手を上げアピールするが、歓声は聞こえない。状況が状況だから当然だが、さみしい。

右腕を掴み上げ、自分の頭を空いた脇に嵌め、左手で腰を掴み―――

 

「ドリャア!!」ドォン

 

踏み込んだ勢いで跳ね上げそのまま後ろにぶん投げる!

フッ、決まったぜ。

 

 

「ブ、ブレーンバスター……」

「ホントにプロレスやってる……」

 

鈴が唖然としてる。無理もないか、一度見てる俺でさえ吃驚してるんだから。

いやだってまさかブレーンバスターをやるなんて思わないだろ。

 

「ねえ一夏」

「何だ、鈴?」

「あいつって、何者?」

 

何者って、見たまんまだぞ?

 

「プロレスラーだよ。強いぞ、アイツは」

「で、でもさっきから結構攻撃受けてるし「いや、あれはわざとだ」……えぇ……」

 

もう開いた口がふさがらんと言った様子だ。まあシールドエネルギーが無くなったら終わりのISでわざと攻撃を受けるなんて、少しでもISを知ってる人間から見たら正気とは思えないだろうし。

 

「でも、ダメージが無いわけじゃないからな。いつでも助けに行けるようにしておかないと―――あっ!?」

「ちょっと!あれやばいんじゃない?!―――」

 

ああ、鈴の言う通りだ。龍輝の戦闘スタイルはプロレス、接近してこそその真価を発揮する。

だが、それは逆を言えば――――――

 

「離されちゃったわよアイツ!!」

 

――――――接近しなければ、手も足も出ないと言う事だ

 

 

クソ!距離を取られちまった。只の人形と思ってたが、学習能力はあるみたいだな。

 

「―――!?ぐうおおおお!?」

 

なんて威力だあのビーム!一発でゲージがガクンと減っちまった。こりゃ連続して喰らうと厄介だな。

 

「チィッ!」

 

二発目のビームを躱しつつ再度接近を試みるが、接近した分距離を取られる。と思えば向こうから殴りにきたり、まるでボクサーと戦ってる気分だ。

おまけに一発が重い!さっきみたいに捌こうとしてもタイミングが合わんし、踏ん張ろうとしても吹っ飛ばされる。

 

「―――!?やばっ!」

 

あの野郎、着地に合わせてビームを!?クソッ!硬直が抜けねえ!

 

(チクショウ!―――)

 

 

 

 

 

 

「―――ぅぉぉおおおお!!」

「ぐふっ!?」

 

聞きなれた声と共に横から衝撃が?!

 

「間に合った……大丈夫か龍輝?」

「な、なんとかな。助かったぜ一夏」

 

できればもう少し優しく助けてほしかったな。オエ……

 

「あんた無茶し過ぎよ!ISでプロレスするなんて非効率にもほどがあるでしょ!」

「これしか能がねーんだ。しゃーねーだろ」

 

一夏から地面に降ろされた時、凰がそんなことを言ってきた。

他の戦い方知らねーし。武器使うなんざ主義じゃねーし。

 

「だからって一人で戦うことはないだろ?」

「ぅ?」

「そうよ。こっちは三人なんだから」

 

……ああ、そうだったな。

 

「悪い、つい熱くなっちまって」

「気にすんな。それより、アイツをどうするかだけど……」

 

あのISか。動きが変わってから一方的にやられてるし、何か策を考えないと。

 

「俺に一つ、策がある」

 

マジかよ。俺が戦ってる間に考えたのかな。

 

「龍輝、鈴。乗ってくれるか?」

「OKだ」

「正直不安だけど、いいわ。乗ってあげる」

 

アイツに一泡吹かせるんだったらなんでもいい。正直藁をも掴みたい思いだ。

 

「それで、何をすればいいの?」

「ああ。――――――」ゴニョゴニョ

「「―――!?」」

 

……成程。

 

「面白れぇ!」

「本気?……と言いたいところだけど、現状ではそれが最善ね」

「アハハ……」

 

凰の手厳しい言葉に一夏が乾いた笑いを上げてるが、俺はいい案だと思うぞ。

 

「おっし!じゃあ早速―――」

 

気合を入れようと拳を打ち合わせようとした時、アリーナに大声が響いた

 

『一夏ぁっ!』

『龍輝さん!』

 

片方はよく聞きなれたセシリアの声。もう片方は聞きなれてない篠ノ之の声だ。

 

「あ、アイツら……」

「な、なにしてるんだ……」

 

どうやらいつの間にか放送席の方に移動したらしい。ホント吃驚したぞ。

 

『男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』

『龍輝さんの力ならぜっっったい勝てますわ!』

 

おお、エールとは気が利いてるな。やる気がモリモリ沸いてくるわ。

 

「―――まずい!二人とも、逃げ―――」

 

!?あのIS、セシリア達を狙って……クソ!?

今から向かって間に合うか?飛ぶこともできないのに?そもそも耐えられるのか?ゲージ残量は?装甲は?

考えてる間にアイツは腕の方向をセシリア達に向け、射撃体勢をとっている。迷ってる時間は無え。

 

「どおりゃあああああ!!!」ダンッ

「龍輝?!」

 

間に合え……!間に合え!間に合えええええええ!!!

 

 

バシュウ ドオン!

 

 

……ゴフッ

 

『た、龍輝…さん……?』

『齊藤、お前……』

「よかった……間に合ったか……」

 

振り向くと、二人の無事な姿が目に入った。よかった……本当によかった……。

ホッとして力が抜けてしまったか、重力に逆らわず真っ逆さまに落下していく。

 

「た、龍輝いいいいいいっ!!?」

 

ああ、やべえな。このまま地面に衝突したら痛いんだろうな。機体は装甲がボロボロで各所からスパークが散ってうまく作動しないし、正直俺自身受け身を取る力もないわ。

 

(ここまでかよ……)

 

 

ドオォーーーン

 

 

 

「龍輝さああーーーんっ!?」

「さ、齊藤……くっ!?」

 

落ちた龍輝を見て、二人は後悔の念に駆られた。自分たちがここ(中継室)に来なければ、龍輝が自分たちを庇い、やられることはなかっただろう……と。

龍輝のISは敵ISの攻撃によりボロボロになり、そのままアリーナの地面目掛けて落ちていった。落下した先は土煙が上がり視認はできないが、その姿は容易に想像できる。

 

「ごめんなさい、龍輝さん……ごめんなさい……」グスッグスッ

「すまない齊藤……私たちのせいで……」ウゥ

 

時間とともに土煙が晴れ、落下地点が明らかになる。まだ多少の煙は残っているものの、障害となるほどではない。

龍輝の安否を確認するため覗き込んだ二人は、その光景に思わず声を上げた。

 

「「―――え?」」

 

しかしその声は悲鳴というよりも、驚きの声だった。

落下した地点には、先程までとは違った姿の龍輝が、自身の足でしっかりとアリーナに立っていたのだから。

 

 

地面に衝突する少し前、頭の中に直接メッセージみたいなのが送られてきた。

 

 

 

―――初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)が終了しました。非常事態の為、一次移行(ファースト・シフト)を開始します。

 

 

 

……なんか変なのが頭の中に浮かんでくるけど、これが走馬灯?あ、地面が目の前に――――――

 

 

ドオォーーーン

 

 

……あれ?そこまで痛くない?でも何か感覚が変だな。

 

「これは……?」

 

自分の身体を見回すと、俺の身体を包んでいたISの姿が変わっていた。なんでだ?

 

(もしかしてさっきのメッセージって……)

 

ああ、つまりそういう事か。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

機体を見てみると、最初は何がモチーフだかよく分からなかったが、今ならすぐ分かる。

脚部はリアル系のデザインだったが、これはAT、それもスコープドッグを基にしている。違う点と言えばターンピックがなく、腰部に良く分からないものが付いてることぐらいか。

そして上半身だが、正直驚いたぜ。スーパーロボットは数あれど、まさかコイツを基にするとはな。赤と黒の胸部装甲。太く力強い前腕。いかにもスーパーロボットってデザインのコイツの名は――――――

 

「ダイ・ガードか!いいセンスだ」

 

他にも参考になるロボットアニメを提示したのに、マジンガーとかじゃなくコイツを選ぶとは……選んだ奴グッジョブ。

 

「龍輝、無事か!?」

 

スペックを確認しようとした時に、一夏が俺の安否を確認する為か急いだ様子で飛んできた。

 

「悪い、心配かけたな」

「ホントか!?よかった……」

 

俺がそう返すと心底ほっとした様子で胸を撫で下ろした。

 

「龍輝、その機体は……」

「さっき一次移行(ファースト・シフト)が終わってな。それよりアイツは?」

「今鈴が抑えてるけど、あんまり長くは……」

 

マジか。女子に任せっきりにはできん、急いで戻らないと。

 

「作戦は変わってないな?」

「ああ。鈴と合流次第仕掛ける」

「OK。……行くぞ、一夏」

「ああ!」

 

ガチンと拳を打ち合わせ、全速力で走り出す。

 

「お楽しみは、これからだ!」


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