「遅い!いつまであたし一人に相手させる気よ!?」
「悪い、待たせた!」
合流しての開口一番、凰が厳しい言葉を浴びせてきた。まあ、消耗した状態であんなのを一人で相手にしてたんだから、仕方ないっちゃ仕方ないか。
「すまん。心配かけた」
「アンタ無事なの?!直撃だったのに!?」
「
「今!?てことは初期状態でアイツに向かってったの!?」
何か「信じらんない」と言った様子で捲し立ててくるが、今はそんな状況ではないと思う。
「落ち着け鈴。とりあえず龍輝が無事だったんだ、このままさっきの打ち合わせ通り行くぞ!」
「むぅ~、何か釈然としない……」
世の中理不尽なことばかりだぞ凰。敵さんだって、そんな待ってくれないんだから迅速に行動した方がいいだろ?
「分かったわよ……もう、仕方ないわね」
「じゃあ予定通り、先に突っ込ませてもらうぜ」
「頼んだぞ、龍輝」
ちょっと損な役割だけど、別に構わんさ。凰はさっきまで一人で押さえてて疲れてるだろうし、一夏はエネルギーギリギリだし。その点俺の機体はダメージが直ってピッカピカの状態だからエネルギーにも装甲にも余裕ある。うん、合理的だ。
「凰はもう少し休んでな。じゃあ、行ってくるぜ!」
言い終わると同時にダッシュ。やっぱあんまり速度出ないな。ある程度近づいたら立ち止まり、相手の様子を見る。お、どうやらアイツも俺を認識したらしい。
「悪いな、待たせちまって」
当然返事はない。人形なんだから当然と言っちゃ当然か。
接近を再開。一歩、一歩とゆっくり近づく。向こうは様子をうかがってるのか、身動き一つしない。
そして数歩進むと、お互いの射程圏内に入った。
「フンッ!!」ガシィ
奴が不用意に出してきた手を腕四つで掴む。おっし。
「このまま力比べと行こうかあッ!!」ググッ
こっちが力を入れたら、向こうも全力で握りつぶそうとしてきた。やっぱ力あんなお前。
だけどよ……
「全然足んねえんだよ!」ググ
均衡を破って俺の手がめり込み、そのまま敵ISは膝をついた。
「んな見せかけだけの腕で俺に勝てるわけねえだろうが!」
正直フィンガーロックで組んだ力は俺の師匠や他のジムメンバーの方が上だ。
手を掴んだまま、大きく頭を振りかぶり。
「オラァ!!」ゴッ
思いっきり相手の頭目掛けて振り下ろす!いい音したなぁ。
間髪入れずにフロントキックで――――――
「あ?」
何か掌が熱いような。って!?
「やば―――」パッ
バシュウ
あっぶな!?この野郎掴んだまま撃ちやがった!
「この野郎!」ガン
撃った直後にフロントキックを叩き込む。蹴った勢いで相手が吹っ飛び距離が開いたが、これでいい。
「凰!」
「ハァッ!」
ドゴォ
距離が開くと同時に俺の後ろから飛び出した凰が衝撃砲を放つ。おっし!タイミングばっちしだ!
「まだまだ行くぜえ!」ガッ
衝撃砲のダメージから立ち直ろうとしたタイミングでシャイニングウィザード。そのまま横に抜けると、今度は凰が青龍刀っぽいので切りつけた。
「今よ!」
「おっしゃあ!」ガシィ
凰の合図で隙だらけの敵ISの腰にクロスボディで組み付く。
これが作戦の第一段階。俺がアイツの視界を塞ぎ、タイミングを見計らって凰がデカい一撃を叩き込む。そうしてできた隙に組み付く。自分でも少し疑問に思うが、即興としてはいい連携だよな。
「オラァ!」グイッ
地面に足がめり込むほど踏ん張り、敵ISを肩に担ぐ。
カナディアンバックブリーカー。背骨折りの一種で、力自慢のレスラーがよく使う技だ。もちろんこれで決まるなんて思っていない。だが、これでいい。
「一夏!!」
「うおおおお!!」
これで作戦は完了だ。俺と凰が翻弄し、隙をついてコイツを拘束する。動けなくなったコイツを一夏が斬る。実にいい作戦だ。
そう、
「ッ!?」
「何!?」
「一夏!避けて!!」
この野郎、担がれながら一夏に向かってビームを撃とうとしてやがる!
「チィ!」
間に合うか分かんねえが、やるしかない!ビームを撃つ前にコイツを前方に叩き付けて射線をずらす!
「オラァ!」ブン
ドォン バシュウ
……ふぅ、どうやら間に合ったようだ。
「助かったぜ、龍輝」
「気にすんな。さっき助けられたからな、お互い様だ」
叩き付けた敵ISからある程度距離を取ったところで一夏達と合流した。
サンダーファイヤーパワーボム。間に合ってほんとよかった。
「一夏!大丈夫なの!?」
「ああ、平気だ。それより龍輝、もう一回行けそうか?」
一夏が作戦が続行可能か訊いてきた。残念だが無理だな。
「悪いけど、腕を何とかしなきゃまたビームを撃ってくるぞ」
「そうか……じゃあ腕を抑えれば」
「そんな担ぎ方はない」
俺がアイツを拘束するのにカナディアンを選択したのには理由がある。一夏が作戦を話した時に、なるべくあのISだけを斬れるように拘束して欲しいと言われたからだ。確かにカナディアンは斬りやすいが、相手の腕が自由になる。他の担ぎ方も同じだ。
「作戦は失敗か……クソ」
まあ、そう悪態をつくな。
「まだ方法はあるさ」
「方法って、どうすんのよ?巻き込まれないように担ぐのは無理なんでしょ?」
ああ、確かに無理だ。
「まあ見てなって!」ダッ
「お、おい龍輝」
起き上がった敵ISに向かってダッシュ。カウンターで拳を振るってきたが、狙い通りだ。
ダックアンダーで腕をくぐり、そのままバックに回る。
「フンッ!」ガシィ
そしてフルネルソンで捕らえ、肩と頸椎を締め上げる。これで動きは止まった。
「一夏!今だ、斬れ!」
「ア、アンタ……」
「ダメだ龍輝!このまま斬ったらお前まで……」
心配してくれるのはありがたいが、気にしなくていいぞ。確かに斬ったらもろ巻き込まれるが、んなこと気にして何がレスラーだバカヤロー!
「俺を嘗めるな!伊達に体鍛えてねえ!剣如き通さねえよ!!」
「だ、だけど……」
「うお!?動くな、この!」
くっ、暴れやがって!このままじゃ抑えきれんぞ!?
「いいからやれええーーー!!!一夏ああーーー!!!」
「う……うおおおおおーーーーー!!!」ダッ
やっと決心したか。まったく。
雄叫びを上げながら踏み込んだ一夏が敵ISを
「ぐううぉぉおお!!?」バチバチ
ゲージがグングン減ってく。すげえ痛いし、正直このまま倒れたい。だが、まだやることがある!
「ぅおらあああああああああ!!!!!!」ダン
稼働限界を迎える前に終わらせる!
踏み込んで腰を落とし、思いっきり跳ね上げて後方に―――
「せいやああああああああ!!!!!!」
ぶん投げる!!
ドゴォン
―――
――
―
「はっ!」バッ
起きてすぐ周りを見ると、目の前には何度か見た天井と壁、頭から落ちたと思しき濡れタオル、そしてベッドに寄りかかりながら寝息を立てているセシリアがいた。
「……倒れすぎだろ、俺」
この学校来てからどんだけ保健室に運ばれてんだろう……。
外を見ると日が落ちかけており、青色だった空は夕焼けに染まっていた。
「しっかし、よく寝てんな」
ふと視線をセシリアに戻し、なんとなく寝顔を観察してみる。よく見ると涙の跡があり、安らかとは言いづらい寝顔をしていた。
おそらく必死で看護してくれたのだろう。あたりを見れば、タオル以外にもそれっぽいのがあるし。その疲れが出て、つい眠ってしまったというところか。
「ありがとな……」ナデナデ
労いの意を込めて、頭をなでる。ついキャラじゃないことをしてしまったが、見てる奴いないからいいだろ。
「んぅ……」モゾ
「ッ!?」サッ
「?今、何か……?」
ヤベ、撫で過ぎたか。
「悪い、起こしちまったか」
「た、龍輝さん!?目が覚めたのですね……よかったぁ」
セシリアは起きてすぐ俺の姿を確認すると、心底ほっとしたように胸を撫で下ろした。俺の想像以上に心配かけてたみたいだ。
「少しお待ちください、今他の皆さんも呼んできますわ!」タッタッタッ
と言うと足早に退出してった。なんとなく、さっきセシリアの頭を撫でてた手のひらに視線を移す。手のひらには未だ撫でてた感触が残っていた。……めっちゃサラサラだった……。
んなことを考えてると、廊下の方から足音が聞こえてきた。
「龍輝!!」ガラッ
「おーなんだー」
扉を開けていの一番に一夏が駆け込んできた。一つながりだな。その後からセシリア、凰、篠ノ之の順に入ってきた。
「体は大丈夫なのか?」
「全然平気」
「バリアー無効化攻撃をまともに受けたのよ!平気なはずないでしょ!?」
「ほら、この通り」グルングルン
腕を回してアピールする。それを見ても一夏達は心配そうな顔のままだ。
「心配したんだぜ?お前ブリッジで固めたまま動かなかったから」
ふむ、どうやらダメ押しのドラゴンスープレックスでぶん投げて、そのまま気を失ったのか。
「言ったろ?伊達に鍛えてないって」
「そんなのが通用すると―――まあ、アンタならあり得るわね」
まあ、鍛えてなかったら危なかったけどな。
「さ、齊藤……その……」
「あ、あの、龍輝さん……」
今度はセシリアと篠ノ之の二人がちょっと前に出てきた。何だろ?
「……すまなかった。私達の軽率な行動のせいで……」
「本当に、なんとお詫びしたら……」
何が?……ああ、もしかして俺が庇ったあれか?あんなん気にすねくていいずよ。
「いーよぉ別に。結果無事だったんだし」
「し、しかし!それでは私の気が……!」
んー、このままじゃ引き下がりそうにないな。
「じゃあ笑え。それでチャラだ」
「……馬鹿にしてるのか」
してねーよ。いたって大まじめだ。
「師匠の教えでな、笑えば暗い気持ちも悩みも全部吹き飛んじまう。今回のは善意でやったことだし、俺も自分がやりたいようにやっただけだ。だから笑い飛ばしてチャラにしよう。いいな?」
「……お前がそれでいいのなら」
「フフ、龍輝さんらしいですわね」
どうやら納得してもらえたようだな。謝られても困るだけだし、変な感じになる。
「折角だ、一夏と凰も一緒に笑おうぜ」
「あたしも?!何でそーなr」
「おう、いいぜ!」
「しょーがないわね!付き合ってあげるわよ」
なんか間があった気がするが、まあいいや。
「じゃあ行くぞ!せーの―――」
グゥ~
……そういや腹減ったな。
「……ぷっ!アッハッハッハ!」
「あ、あんた、このタイミングで鳴らす?!アハハハ!」
「くっ、ふふふ……!」
「た、龍輝さんったら……ふふっ」
ま、結果オーライってことで!